はじめに
日常の業務の中で、みなさんは患者さんのバイタルサインをチェックしていることでしょう。その際にパルスオキシメータを見て、SpO
2が低いといった異常が見られたら、主治医に報告をして指示を仰いでいると思います。またSpO
2が85%などの低値を示した時には、マスクや鼻カニューレを通した酸素投与を行うといった処置を、特に意識することなく、日常の臨床の中で行っていると思います。しかし、「なぜSpO
2が90%未満になったら酸素投与の指示が出るのか?」ということを、深く考える機会はこれまであまりなかったのではないでしょうか。
本書では「SpO
2とは何か」という原点に立ち返って、みなさんがルーチンワークとして観察しているパルスオキシメータのチェックポイントを解説しています。SpO
2が下がれば危険、ということは誰でもわかりますが、同じ値であってもそのまま観察を続けていい状況と、差し迫った危機の前触れとしてのSpO
2低下では、その意味合いはかなり異なります。
血液ガス交換について苦手意識を持つ読者も多いと思いますが、身近なパルスオキシメータを題材にすることで、「SpO
2が90%になれば血液中の酸素はどれだけ減少するのか?」「酸素投与中のSpO
2の数値が高値であっても安心できないのはなぜか?」といった問題を1つひとつ考えることによって、組織への酸素運搬についての総合的な理解を深めていくことができると思います。
パルスオキシメータに表示される値を見るだけでは、単にモニターの数値を読みとっているにすぎません。血液ガス交換の知識を身につけ、その数値が意味するところを理解できるようになれば、目の前の患者さんがどのような状況に陥っているのかを把握し、適切な対応ができるようになるでしょう。本書がそうした「ワンランク上の判断力」を養うきっかけとなれば幸いです。
2013年1月 堀川由夫