身体所見、微生物学的検査所見、画像所見……これらの「みる所見」に現れる診断の手掛かりを見逃さないことが、適切で効率的な感染症診療には欠かせない。本書は、優れた感染症医、総合診療医として知られる3人のエキスパートが、すべての臨床医に必要とされる「みる力」のトレーニングのためにまとめた感染症臨床問題集の決定版である。一問一問を解くたびに、感染症診療の力がアップしていく。
はじめに
2012年2月,全国から80名の参加者を集めて,奈良でIDATEN(日本感染症教育研究会)の
ウインターセミナー(通称SHIKATEN)が開催された.この中心となって活躍したのが,天理よろづ相談所病院の佐田竜一医師と市立奈良病院の忽那賢志医師である(いずれも当時の所...
はじめに
2012年2月,全国から80名の参加者を集めて,奈良でIDATEN(日本感染症教育研究会)の
ウインターセミナー(通称SHIKATEN)が開催された.この中心となって活躍したのが,天理よろづ相談所病院の佐田竜一医師と市立奈良病院の忽那賢志医師である(いずれも当時の所属).今から考えれば,この2人と奈良でともに働いていたことは奇跡ともいえる幸運であった.そして,この出会いこそが本書が生まれた端緒である.
本書には,感染症疾患に関連する数多くのclinical pictureが掲載されているが,その内容は,数ある「アトラス」や「臨床写真集」とは完全に一線を画している.一つひとつの解説には,単なる写真の説明だけでなく,どのような経過のなかでその所見が得られたのか,一連の診療の流れのなかで,その所見がどのように役立つのかというように,あくまでも「実地臨床家」の目線からのメッセージが込められている.そして,その根底にあるのは,得られた経験や教訓を「共有したい」という情熱である.
「イントロダクション」と随所に散りばめられたコラムは,本書をよりいっそう類書の及ばないものに仕上げている.clinical pictureの診断における重要性やピットフォール,さらに学術的な意義について,これほどまでに包括的に詳述された書物は本書以外に存在しない.
clinical pictureのよいところは,特別な準備などは不要で,その気になれば誰でもすぐに気軽に撮影できることである.本書によって,1人でも多くの読者がclinical pictureに興味をもち,その経験や教訓,そして興奮を他者と共有していただければ幸いである.
2015年3月
執筆者を代表して
笠原 敬
はじめに
イントロダクション-Take Clinical Pictures!
身体をみる 視診の極意
目でみるグラム染色 臨床医と細菌検査室をつなぐ「かすがい」
臨床検査とのお付き合い
第1章 身体所見
CASE 01 癒合する盛り上がる皮疹だけど…
CASE 02 左目が赤いです…
CASE 03 ダニに咬まれた痕のまわりが…?
CASE 04 爪が緑色なんですけど…
CASE 05 うちの娘たちの爪が!!
CASE 06 骨折した後から両足が腫れてきた…
CASE 07 両手が腫れて握りづらいです…
CASE 08 ヤケドみたいに皮が剥がれてきました…
CASE 09 えっ! なんでわかるの?
CASE 10 こう診断するしかありません
CASE 11 赤い目,そしてあふれ出す目やに
CASE 12 昨日元気で,今日ショック…
CASE 13 本当にしつこくてタチが悪い
CASE 14 膝が腫れ,意識状態が悪い…
CASE 15 Snap Diagnosisの落とし穴
CASE 16 白い苔から赤いイチゴが!
CASE 17 どんな薬でも出る時は出ます
CASE 18 入院中に,全身にぶつぶつが…
CASE 19 入院中に水ぶくれができた…
CASE 20 ネコに咬まれて敗血症!
CASE 21 ヨダレが止まりません
CASE 22 発熱とともに全身の皮疹・痛みが出現した…
CASE 23 ノドにイクラが…!?
CASE 24 目が急に見えづらくなりました…
CASE 25 命にかかわる陰部の腫脹…
CASE 26 口が開かない!!
CASE 27 脾臓摘出後+発熱+ショック=内科エマージェンシー!!
CASE 28 意外に重症化することもあります
第2章 微生物学的検査
CASE 29 焼肉食べたらカモメが出てきた!
CASE 30 髄液からグラム陽性菌が…
CASE 31 いわゆるネバネバ○○○です
CASE 32 末梢血スメアに何の関係が?
CASE 33 髄液のスメアで三日月状のものが見える!?
CASE 34 感染症のエマージェンシー!
CASE 35 喀痰グラム染色で見えた菌の正体は…?
CASE 36 ただの蜂窩織炎かと思ったら,らせん菌が…?
CASE 37 菌のまわりにまとわりつくものは…?
CASE 38 実は急性期でも診断できるんです
CASE 39 髄液グラム染色で見える妙な黒
CASE 40 カルバペネムが効かない肺炎…?
CASE 41 見えている菌は何種類?
CASE 42 染めよ! さすれば与えられん!
第3章 画像
CASE 43 急性発症の認知症です…
CASE 44 腹腔鏡の視診でSnap Diagnosis
CASE 45 ガス産生のみられる腎盂腎炎?
CASE 46 70%は国内発症です
CASE 47 これは腫瘍でしょう
CASE 48 首が動かず,急に息苦しい…
CASE 49 リウマチ患者の急な発熱と呼吸苦…
CASE 50 腹腔内感染症で熱が長引く時はこの可能性も考えましょう
疾患(診断名)目次
索引
コラム
1.臨床推論の統合モデル
2.NEJMへの道(1) “Images in Clinical Medicine”
3.NEJMへの道(2) なぜClinical Pictureを撮るのか
4.NEJMへの道(3) どの医学誌に投稿すべきか(前編)
5.NEJMへの道(4) どの医学誌に投稿すべきか(後編)
6.NEJMへの道(5) NEJM投稿に必要な断固たる決意
7.NEJMへの道(6) 4つのカテゴリーに分けて考える(その1)
8.NEJMへの道(7) 4つのカテゴリーに分けて考える(その2)
9.NEJMへの道(8) 4つのカテゴリーに分けて考える(その3)
10.NEJMへの道(9) 4つのカテゴリーに分けて考える(その4)
11.眼科領域の感染症
12.NEJMへの道(10) 過去問をチェックしよう!
13.NEJMへの道(11) いよいよ投稿準備!
14.NEJMへの道(12) レターを書こう(前編)
15.NEJMへの道(13) レターを書こう(後編)
16.NEJMへの道(14) 投稿したら果報は寝て待て!
17.NEJMへの道(15) リジェクトされたら頭を切り替えよう!(その1)
18.NEJMへの道(16) リジェクトされたら頭を切り替えよう!(その2)
19.NEJMへの道(17) まとめ
20.Clinical Picture:身体所見の写真のキセキ
21.「インフルエンザ診療に思う」
22.写真を撮る前に(0) よりよい写真を撮るためには?
23.口腔内の写真を上手に撮るには
24.写真を撮る前に(1) 患者さんへの説明
25.写真を撮る前に(2) 羞恥心への配慮,そして最大限に学ぶ
26.「五感をフル活用せよ」
27.末梢血スメアと感染症
28.感染管理室長という仕事
29.ムコイド型に寄せる慕情
30.クリプトコッカス属のグラム染色像
31.7月のレジオネラ肺炎
32.血液培養グラム染色の醍醐味
33.写真を撮る前に(3) きれいな写真を撮るための3要素
34.Kinyoun染色
35.キノロン系薬は結核の診断を遅らせるのか
36.写真を撮る前に(4) スマートフォンにご注意!
37.多様なアスペルギルス感染症
38.HIV患者と非HIV患者のニューモシスチス肺炎
39.血栓性静脈炎の診断は難しい
40.写真を撮る前に(5) じゃ,どんなカメラがいい?
41.写真を撮る前に(6) 明るいことはよいことだ!?
42.写真を撮る前に(7) ぶれない!