神経疾患の視覚的ポイントを豊富な実写真とともにケースベースで提示
書評者:徳田 安春(地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
◆ケースベースで神経所見の視覚的ポイントを示す
書籍シリーズ『みるトレ』の神経版。MRI時代に突入した近年において,やはり神経疾患ほど病歴と診察が重要な診療科は少ない。神経診察法の書籍が多く出ている中で,ケースベースで視覚的ポイントを豊富な実写真とともに提示したのが本書である。代表的な疾患の...
神経疾患の視覚的ポイントを豊富な実写真とともにケースベースで提示
書評者:徳田 安春(地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
◆ケースベースで神経所見の視覚的ポイントを示す
書籍シリーズ『みるトレ』の神経版。MRI時代に突入した近年において,やはり神経疾患ほど病歴と診察が重要な診療科は少ない。神経診察法の書籍が多く出ている中で,ケースベースで視覚的ポイントを豊富な実写真とともに提示したのが本書である。代表的な疾患のケースでは,典型的な病歴と診察所見とともに,キーとなる高画質の画像が提示されている。画像は,患者の写真に加え,画像所見のみならず,神経病理画像も含まれており,最終診断としての病理検査所見の重要性も理解できるようになっている。
それぞれの重要問題ケースには,問題とその選択肢が並んでいるので,鑑別診断のトレーニングにもなる。学習者の立場に立った配慮がなされている。本書は「問診票のウラを読む」からスタート。患者と出会う前にすでに診断推論が始まっている。ここでは,パーキンソン病の小字症など,実際に問診票に記載された筆跡を提示し分析してくれており,ウラの読み方の具体例が提示されているのはユニークだ。読者が今日から即使える技となるであろう。本書の中には,「診察室」というコーナーがあり,著者がお考えになる「理想の診察室」などが紹介されているのもおもしろい。
◆鑑別診断を進める際のポイントがわかる
姿勢や顔貌編での写真は特にお勧めである。パーキンソン病における斜め徴候(Pisa徴候)や半坐位徴候。筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーの「首下がり」。また,仮面様顔貌や膏顔(oily face),斧状顔貌のみならず,筋病性顔貌(myopathic face)やWilson顔貌などの貴重な写真を「みてトレーニング」することができる。歩行や話し方の異常では,具体的な観察法や問診での具体的な質問法と異常な返答例が記載されているので,日常診療で活用しやすい。各論では,症候別のスタイルとなっており,ベッドサイドでの利用価値も高くなっている。しびれやめまい,物忘れなど,コモンな症状へのアプローチが系統的に記述されているので,鑑別診断を進める上でたいへん参考になる。「鑑別のポイント」で臨床上最も重要なことがわかるようになっている。
◆クリニカル・パールと呼ぶべき数々のエピソード
各章の最後のまとめでは,著者が実際に経験したケースのエピソード集から成り,これがまた興味深く,読み取れるパールも多い。「急に立ち上がった時や歩き始める時に右手足がこわばって動けなくなる」という問診票のみで,“X1”と診断し,その後カルバマゼピンで軽快したケース。「顔面の片側のみ髭がそりにくくなった」ということで“X2”症候群を診断した例。気管支炎後の脱力で当初は廃用症候群が疑われたが四肢の腱反射が消失し“X3”症候群と診断したケース。一方で,頻回受診で「物忘れ」を訴えるも客観的には異常がない人で後に“X4”症候群とわかったケース。さて,これらのケースの回答“X1~4”が知りたい方は今すぐこの本を注文したい衝動を感じただろう。その衝動に従うことを評者はお勧めする。