がん看護PEPリソース
患者アウトカムを高めるケアのエビデンス

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「PEP(ペップ)」の呼び名で広く知られ、看護師ががん患者に提供できるケアをエビデンスごとに緑・黄・赤に色分けされて一覧できる実践書が、ついに日本語に翻訳! がん患者に提供するケアを選ぶ際はもちろん、膨大な数の研究結果と課題を簡潔にまとめた各文献のレビューは、がん看護の研究を行う際の道しるべともなる。がん患者にかかわるすべての看護師にとって、共通の基盤となる必携書。
編集 Linda H. Eaton / Janelle M. Tipton / Margaret Irwin
監訳 鈴木 志津枝 / 小松 浩子
日本がん看護学会翻訳ワーキンググループ
発行 2013年02月判型:B5頁:472
ISBN 978-4-260-01598-1
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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監訳者の序

 本書『がん看護PEPリソース―患者アウトカムを高めるケアのエビデンス』は,日本がん看護学会会員の多くの方々が待ち望んだ翻訳書です.日本がん看護学会では,質の高いがん看護ケアがわが国において広く浸透することを使命とし,これまでに,学会員総意のもと,米国がん看護学会(Oncology Nursing Society; ONS)発行の原書を翻訳本として刊行してきました.1つは,『がん看護コアカリキュラム』(医学書院,2007年),もう1つは,『がん化学療法・バイオセラピー実践看護ガイドライン』(医学書院,2009年)です.コアカリキュラムおよび実践看護ガイドラインは,がん看護の独自性を発揮するとともに,等しく水準の高い標準的ながん看護ケアを提供するうえで,核となる理論的枠組み,知識,技術を提供するものです.これらの翻訳本に引き続き,本書は質の高いがん看護ケア推進に役立つ本です.
 実践現場では,ガイドラインに基づく標準的ながん看護ケアを日々実践する努力を続けています.しかしながら現実には,「やるべきことがわかる」ことと「実際に実施する」ことの間には“ギャップ”が存在し,推奨されたケアを提供できていないという事実が,わが国のみならず,世界的な課題として認識されています(米国医療の質委員会 ・医学研究所著『医療の質―谷間を越えて21世紀システムへ』日本評論社, 2002年).エビデンスに基づく推奨されたケアがガイドラインで示されたとしても,それが患者のもとに届かなければ何にもなりません.
 こうした実践現場に横たわる“ギャップ”を払拭するために開発されたのが,『Putting Evidence into Practice: Improving Oncology Patient Outcomes』(本書『がん看護PEPリソース|患者アウトカムを高めるケアのエビデンス』の原書で,Vol.2と2冊合わせて翻訳しています)です.がん看護PEPリソースは,米国がん看護学会が会員の総力をあげ,四半世紀にわたる画期的なプロジェクトにより作り上げたものです(その歴史は,本書のVol.1ならびにVol.2の第1章にまとめられていますから,ぜひお読みください).この本の具体的な構成は,エビデンスを看護実践に取り入れるための活用情報(PEPリソース),測定ツール,患者ケアと施設内運用の考え方,これらのツールを用いたケーススタディが1冊にまとめられています.本書にある測定ツールから看護過程を展開するために必要な活用情報を一目瞭然に把握することができます.そして,看護実践でどの介入を適用するかを検討する際には,評価測定ツールと参考文献を用いることができます.さらに,患者アウトカムの測定により,われわれ看護師が,患者や家族,施設,医療関連の政策策定者に対し,ケアの効果をどのように示すことが可能かについても言及されています.まさに,実践のすべてのプロセスをナビゲートするリソースといえます.
 本書で取り上げられたケアは,看護介入によって影響や効果を生むことが可能な,看護ケアに感受性の高い患者アウトカムに焦点をあてて精選されています.〈食欲不振〉〈不安〉〈介護者の緊張と負担〉〈化学療法に伴う悪心・嘔吐〉〈便秘〉〈抑うつ〉〈下痢〉〈呼吸困難〉〈倦怠感〉〈リンパ浮腫〉〈粘膜炎〉〈疼痛〉〈末梢神経障害〉〈出血予防〉〈感染予防〉〈睡眠覚醒障害〉〈認知機能障害〉〈ホットフラッシュ〉〈放射線皮膚炎〉〈皮膚反応―皮疹,手掌足底感覚異常症,乾燥症,爪周囲炎,光過敏症,そう痒感〉――これらのアウトカムごとに,「問題」の明確化,「発生率」,「アセスメント」,「臨床で活用できる測定ツール」と参考文献が,エビデンスに基づく看護(evidence-based practice)の考え方に基づき,系統的にリソースとして整理され,一目瞭然できるようにまとめられています.そして,実践へこれらのリソースを用いるために,根拠のレベルによって,緑・黄色・赤に分類されたケアがエビデンスとともに,列挙されています.
 緑は,根拠の最も高いものであり,「看護実践において推奨される介入」または「有効性が認められる可能性のある介入」とラベルされたケアです.黄色は,「有益性と不利益性が同程度の介入」,「有効性が確立していない介入」とラベルされたケアです.赤は,「有効性が疑わしい介入」「看護実践において推奨されない介入」とラベルされたものです.実践現場では,時々刻々と臨床判断と的確なケアが求められます.本書はまさに,すぐ手に取って活用できるリソースとなるでしょう.
 本書を使用する際には,次のことに留意ください.(1)日本国内未承認の薬剤は原語表記としていること,また用法・用量をはじめ米国の状況を反映した記述になっていること,(2)アセスメントツールについては,日本語版が開発されているものは訳注を付し,それ以外のものも原語表記のほか訳を付していること.また,必ず,Vol.1の第1章と第2章にある,本書の意図と考え方を読み,理解を深めたうえで,各アウトカムの章へと進んでください.急がばまわれ,です.

 本原書の翻訳が理事会,評議員会,総会の承認を経て学会事業として,完成に至るまでの2年間の経過は,これまで同様,日本がん看護学会会員(今回は50名)の協力者による熱意と責任感と努力の結集により進めることができました.このパワーは,今後の日本がん看護学会の将来を明示するものでもあります.
 本書の刊行にあたって,最新のがん医療・研究の動向と知見が幅広く織り込まれた翻訳原稿について,医学専門分野から厳正かつ的確にチェックしていただくことが必要でした.この大変な医学監修の任を負ってくださったのは,『がん化学療法・バイオセラピー実践看護ガイドライン』に引き続き,武蔵野赤十字病院腫瘍内科部長の中根 実先生です.多忙極まる中,がん看護の発展にむけて丁寧に,かつ精力的に医学監修を進めてくださったことに改めて心より感謝申し上げます.最後になりましたが,日本がん看護学会のこれまでの翻訳本の刊行に引き続き,本書の企画・実行を全面的にご支援いただき,また,種々の難題にも寛大な対応をいただきました医学書院専務取締役・編集長の七尾 清様に心より感謝申し上げます.そして,本書の膨大な編集作業を,最初から最後まで忍耐強く誠実に丁寧に進めていただきました看護出版部3課の北原拓也様に心からの謝意を表します.これまでの2冊の翻訳にもまして構成が複雑で,多彩な知見がちりばめられた本書が日々の実践ですぐに使うことができ,役立つよう,心を砕いて編集していただきました.ありがとうございました.

 2013年1月
 日本がん看護学会理事,翻訳ワーキンググループ長 小松浩子
 日本がん看護学会理事長 鈴木志津枝

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監訳者の序

Vol.1
 第1章 PEPを看護実践に-米国がん看護学会によるPEPリソースの紹介
 第2章 アセスメントと測定ツール
 第3章 食欲不振
 第4章 不安
 第5章 介護者の緊張と負担
 第6章 化学療法に伴う悪心・嘔吐
 第7章 便秘
 第8章 抑うつ
 第9章 下痢
 第10章 呼吸困難
 第11章 倦怠感
 第12章 リンパ浮腫
 第13章 粘膜炎
 第14章 疼痛
 第15章 末梢神経障害
 第16章 出血予防
 第17章 感染予防
 第18章 睡眠覚醒障害
 第19章 エビデンスに基づく看護実践-質の改善における役割

Vol.2
 第1章 実践力を高めるためのPEP
   -エビデンスを看護実践に活用するためのリソースの拡張
 第2章 認知機能障害
 第3章 ホットフラッシュ
 第4章 放射線皮膚炎
 第5章 皮膚反応-皮疹,手掌足底感覚異常症,乾燥症,爪周囲炎,光過敏症,そう痒感

索引

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日々の看護実践で頼りになる,手元に置きたい一冊
書評者: 角田 明美 (群馬大病院患者支援センター副看護師長・がん看護専門看護師)
 看護の実践現場において,患者と家族に最善のケアを提供することは,がん看護に携わる看護師の大切な役割の一つです。質の高いがん看護ケアを提供するには,エビデンスに基づいた看護介入が必要です。多忙な臨床現場においては,目の前にいる患者・家族や日々患者をケアする医療者に対して,症状マネジメントやセルフケアの方法・教育を迅速に選択し提供することが求められます。

 本書を初めて手に取ったとき,信号機やトリアージ・タッグのように,根拠のレベルによって緑・黄色・赤に分類されたケアがエビデンスとともに列挙されている点にとても興味を持ちました。緑は最も根拠の高いものであり「看護実践において推奨される介入」または「有効性が認められる可能性のある介入」,黄色は「有益性と不利益性が同程度の介入」「有効性が確立していない介入」,赤は「有効性が疑わしい介入」「看護実践において推奨されない介入」とラベルされています。常に明確なアセスメントと的確なケアが求められる臨床現場においては,色のラベルを活用することで根拠に基づいた看護ケアをすぐに提供できます。

 また,本書はエビデンスを看護実践に取り入れるための活用情報(PEPリソース),測定ツール,患者ケアと施設内運用の考え方,これらのツールを用いたケーススタディが一冊にまとめられています。看護介入によって影響や効果を生むことが可能なnursing-sensitive patient outcomes(看護に感受性の高い患者アウトカム)に焦点を当てて書かれているので,看護の力を最大限にケアに生かすことが可能となります。〈食欲不振〉〈不安〉〈介護者の緊張と不安〉などの17項目のアウトカムごとに問題の明確化,発生率,アセスメント,臨床で活用できる測定ツールと参考文献が,エビデンスに基づく看護の考え方に基づき,系統的にリソースとして整理され,まとめられています。

 私は現在がん相談外来で,がん患者・家族の相談支援を行っています。化学療法に伴う有害事象やがんに伴う症状マネジメントを要する患者,介護に困難を抱える家族が相談に来院します。相談支援では,外来通院中の患者・家族が多いため,早急な看護介入を必要とします。そこで本書を手に取り,アセスメントを行い,問題を明確化します。特に本書の活用しやすい点は,(1)介入がエビデンスとともに列挙され,アウトカムが明確になりやすい点,(2)エビデンスと参考文献が記載されているため,チーム医療を行う上で,医師など多職種に提案しやすい点,(3)ケーススタディが具体的な事例で書かれているため,イメージしやすい点です。常に患者にとって最善のケアを提供したい,エビデンスに基づいた看護介入を提供したいと考える私にとっては,日々の看護実践の実用書として手元に置くことで,測定ツールの活用や具体的な看護介入方法がわかる,頼りになる一冊となります。

 がん看護に携わるすべての看護師に,まずは手に取って自身の目で確認していただくことをお薦めしたいと思います。

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