医学書院

検索
HOME書籍・電子メディア > 書籍詳細

がん患者の在宅ホスピスケア


著:川越 厚

  • 判型 B5
  • 頁 176
  • 発行 2013年07月
  • 定価 2,808円 (本体2,600円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01831-9
現場での長年の経験から生まれた貴重な参考書
本書は、在宅で日々黙々とホスピスケアに携わる医師や看護師などの医療者をはじめボランティアなどの経験をもとに、在宅ホスピスケアの方法やコツをまとめたもの。豊富な事例からケアの実際を知るだけでなく、死に逝く患者の生き様や感動も感じられる。がん患者のホスピスケアとは何かを改めて考えるうえで参考になる書。
序 文
まえがき

 近来のがん治療の発展は目覚ましいものがあり,その恩恵により,従来は“末期”と判断され絶望のなかで死を待つしかなかった患者や家族が,死から解放され希望をもって生きることができるようになった.大変喜ばしいことである.だが,人々の抱く希望は果たして本物なのだろうか.
 医...
まえがき

 近来のがん治療の発展は目覚ましいものがあり,その恩恵により,従来は“末期”と判断され絶望のなかで死を待つしかなかった患者や家族が,死から解放され希望をもって生きることができるようになった.大変喜ばしいことである.だが,人々の抱く希望は果たして本物なのだろうか.
 医療が無力となり,人々が死を前にして絶望に陥るしかなかった時代.その閉塞した時代にあって,“医の原点を再発見”した偉大な人物がいた.彼女は人の命を助ける医師であったにもかかわらず,“人は死すべき存在である”ことを謙虚に認め,それを受け入れた.彼女は,死が避けられない状況になっても,医療にはやるべきことがあることを私たちに教えてくれた.そして彼女は,死を前にしても人間は“希望をもつことのできる存在である”ことを人々に声高らかに宣言し,その大切なことを思い起こさせてくれた.彼女とは,Cicely Saunders(シシリー・ソンダース)である.
 彼女の考えの根本には,“ホスピスケア”という言葉で表現される哲学がある.現在は類義の“緩和ケア”を用いるのが世界の趨勢であるが,本書ではあえて“ホスピスケア”という言葉を採用している.その理由はのちに詳述するが,要はWHOの「緩和ケアの定義」(2002年)のなかで表現されている“生命を脅かす疾患がもたらす問題に直面している患者と家族(後略)…”をどう考えるか,にかかっている.結論的にいえば,同じ“生命を脅かされている”と言っても,“助かる可能性が残されている状態”と“助かる可能性はなく,死を免れない状態”とは区別しなければならないからである.
 現代の医療を見ていると,人々は“人は死すべき存在である”という当たり前のことを忘れたかに見える.このことが,緩和医療自体を混乱に導いている.私たちはC.ソンダースによって,現代医療が否定してきた死を認め,死すからこそ大切で必要なケア(その哲学を形にしたのがホスピスケアである)を考え直すきっかけを与えられた.にもかかわらず,筆者にはいまその根源にある死自体を否定するかのような時代に戻った気がしてならない.そうだとすれば,時代に逆行した人々を再びスタートラインに引き戻してくれるのは一体誰なのであろうか? 苦しい治療を受け,後悔だけを残して死を迎える患者とその家族かもしれない.もしそうだとすれば,これは大変不幸なことである.
 死に逝く方の,人間としての命と残された大切なときを支えるトータルなケア.そのトータルケアがホスピスケアという形で歴史上に登場してから,50年が経過した.わが国ではひところの,熱に浮かされたようなホスピスブームは一段落したようである.それよりも,人生の最後のときを豊かに過ごすため,最もふさわしい場所はどこなのかについて,静かに,しかし熱く切実な思いで,今あらためて振り返りがなされている.
 わが国におけるホスピスケアは主に,ホスピスという施設で提供されてきたが,ホスピスケアには自宅で受けるもの(これを在宅ホスピスケアという)もある.遺憾ながら,施設ホスピスはホスピスケアを行う最良の場所でもないし,ましてやパラダイス(楽園)でもない.これは社会福祉法人賛育会の賛育会病院長時代,22床の緩和ケア病棟を立ち上げた筆者自身の経験に基づいての確信である.
 そのような経験とは別に,緩和ケア病棟を立ち上げる前の10年間(今からほぼ25年前),筆者は在宅でのホスピスケアにすでに携わっていた.それまで医師として,病院でたくさんの方の死に立ち会ってきたが,在宅での死は驚きと感動の連続であった.そして,在宅でのホスピスケアこそホスピスケアの原点(スタート)であるとともに,目標(ゴール)でもあるという信念をもつようになった.その信念は,今も変わりない.
 賛育会病院の病院長を拝命したのは,経営危機に瀕していた病院の再建のためであった.しかし病院長になってからも,「この素晴らしい在宅ホスピスケアを一人でも多くの方に届けたい.そのためにはどうすればよいか」という問題意識は筆者の頭から離れたことはなかった.未知の領域ゆえ,自分自身の手で道を切り開くしかない.多くの仲間や後輩にその成果を示すためには,長く病院長の職に留まることなど考えてもいなかった.横着者の筆者ではあるが,このときばかりは逆に病院の危機回避,立て直しをめざして病院の経営に専念した.
 幸いなことに,必ずしも完全な形ではなかったかもしれないが,託された使命を自分が描いた計画のときよりも早く果たすことができた.ただ立場が立場だけに,後任が決まるまでは,筆者の個人的なわがままを実行に移すことは許されなかった.それが可能になったのは,故鴨下重彦先生が筆者の後を引き継いでくださったからである.もし50歳代の前半に病院長を辞し,パリアンを立ち上げることができなかったら,本書は誕生していなかったであろう.
 在宅ホスピスケアに関して,これまで筆者は2冊の書籍と1冊の演習問題を上梓している.最初の書籍は1991年に発売された『家庭で看取る癌患者-在宅ホスピス入門』(メヂカルフレンド社,1991),続いて出した書籍が『在宅ホスピスケアを始める人のために』(医学書院,1996)であった.演習問題は2003年に出版した『在宅ホスピス・緩和ケア-演習形式で学ぶケアの指針』(メヂカルフレンド社)である.
 それぞれの著書で述べた哲学,実際のやり方は,比べてみていただければよくわかると思うが,今とほとんど変わりない.しかし,いかんせん2冊目を出版してからすでに15年以上のときが経過しており,その間,医療と福祉をめぐる環境は大きく様変わりしている.時代に即した新しい書を早く出さなければ,という気持ちは強かったが,出版が延び延びになってしまった.これは,ひとえに筆者の責任である.
 本書は,どちらかというと専門的に在宅ホスピスケアに取り組む医療者を対象にして書いてある.その理由は,これからの時代が在宅ホスピスケアを行うにはますます難しい状況になると考えたからである.もちろん,「これから新たに始めたい」という医師や訪問看護師にも参考になると信じている.また病院で働く医療者にもぜひ手に取っていただきたいと願っている.
 本書は,今はやりのEBMに基づいて書かれていない.むしろ筆者が20数年間かかわった約2,000人のがん在宅死の経験を反映したものである.研究視点から見ると,本書は純系マウスを用いた実験腫瘍で得られた結果と考察を記した原著論文のようなものである.いわゆる雑種(hybrid)を対象としていないのは,医療機関間の考えや,やり方がわが国ではあまりに異なるからである.本書は末期がん患者に対する在宅医療の平均を示したものではなく,“こうすればうまくできましたよ”ということを示したつもりである.現場発の実践に基づいた報告として参考にしていただければ幸いである.
 本書の作成にあたってはパリアンに所属する医師,看護師,研究職,事務長など多くのスタッフの協力を得た.とくに,次に掲げる人は執筆協力者としてご尽力いただいたので特別に紹介し,この場を借りて謝意を表したい.

 2013年6月
 川越 厚
目 次
まえがき

I 在宅ホスピスケアの歩みと理念
 1 ケアの質を確認した時代:パリアン設立まで(1989~2000年)
 2 質を保ちつつ量を追求した時代:パリアン設立以後(2000年以降)
 3 パリアンとは
 4 パリアンの基本理念

II 在宅ホスピスケアのプログラム
 1 在宅ホスピスケアの基準(Standard of Home Hospice Care)
 2 ホスピスケアの対象患者
 3 家族ケア
 4 独居患者の在宅ホスピスケアの基本
 5 チームアプローチ
 6 治療病院,他施設との連携
 7 24時間ケア
 8 身体的苦痛の緩和
 9 心理的苦痛の緩和
 10 社会的苦痛の緩和
 11 スピリチュアルペイン
 12 在宅ホスピスケアにおける療養環境整備
 13 遺族ケア
 14 ホスピスデイケア
 15 ボランティア
 16 地域への働きかけ

III 実際の在宅ホスピスケアの流れ
 1 相談外来
 2 準備期
 3 開始期
 4 安定期
 5 終末・臨死期
 6 死亡時
 7 死別期のケア
 8 ケア期間から見た在宅ホスピスケアの問題
 9 バーンアウト
 10 在宅ホスピスケアが困難な事例

IV 死の教育
 1 死の教育とは
 2 在宅ホスピスケアにおける死の教育の実際
 3 真実を告げること,いわゆる告知について

V がんの種別による留意点とケアのポイント
 1 食道がん
 2 胃がん
 3 結腸・直腸がん
 4 肝がん
 5 膵・胆管・胆嚢がん
 6 肺がん
 7 乳がん
 8 泌尿器科がん
 9 婦人科がん
 10 脳・脊髄腫瘍
 11 頭頸部がん
 12 血液がん

VI 社会保障制度の活用
 1 医療保険
 2 介護保険

VII 医療用麻薬
 1 在宅で使用される医療用麻薬(とくに強オピオイド)
 2 わが国における医療用麻薬の歴史
 3 実際の使用上の注意

巻末資料
 資料1 本書と関連した重要用語の定義
 資料2 ホスピス,ホスピスケアの歴史
 資料3 パリアンのデータ管理
 資料4 がん原発部位別集計

参考文献
あとがき
索引