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認知症疾患治療ガイドライン2010

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認知症の定義や疫学、治療などの総論的な内容から、Alzheimer病やLewy小体型認知症といった個別の原因疾患ごとの具体的な特徴や診断基準、薬物・非薬物療法などの各論的な内容までを、全編クリニカル・クエスチョン形式で解説する。疾患に関するさらなる理解を促し、臨床で直面する問題の解決方法も提示する1冊。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会
編集 「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会
発行 2010年10月判型:B5頁:400
ISBN 978-4-260-01094-8
定価 6,380円 (本体5,800円+税)
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神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって(葛原 茂樹/水澤 英洋/清水 輝夫)/序に替えて(中島 健二)

神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって
日本神経学会
 前代表理事 葛原 茂樹/代表理事 水澤 英洋
 ガイドライン統括委員長 清水 輝夫

 日本神経学会では,2001年5月と7月の理事会で,当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
 2002年の発行から5年以上が経過し,各疾患において新しい知見や治療薬が加わったことを踏まえ,2008年5月と7月の理事会において治療ガイドラインの改訂を行うことを決定し,直ちに作業を開始しました.今回の改訂の対象は,前回のガイドライン発行以降に治療上の新薬承認や使用薬の変更があった「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「認知症」,「脳血管障害」の5疾患(その後,諸般の事情で慢性頭痛については今回の改訂は見送り)と,今回から新たに加わった「多発性硬化症」を含めた6疾患であり,疾患別治療ガイドライン(改訂)委員会が設置されました.さらに,これらと新規に設置された「遺伝子診断のガイドライン」作成委員会を含めて,全体を代表理事の下で統括する統括委員会も発足しました.なお,それぞれの疾患別委員会は,委員のほかに,研究協力者,評価・調整委員から構成されております.
 今回の治療ガイドライン改訂の作成にあたっては,本学会として,すべての治療ガイドラインに一貫性を持たせることができるような委員会構成としました.近年問題になっている利益相反に関しても,本学会として独自に指針と基準を定めた上で,担当委員を選びました.各委員会における学会としての責任体制を明確にするために,委員長(他学会と合同の委員会を作っているものについては,本学会から参加する担当理事)は,理事長が理事の中から指名しました.各疾患別委員会の委員候補者は,委員長(あるいは担当理事)から推薦していただき,推薦された委員候補者には利益相反について所定の様式に従って自己申告していただき,審査委員会の審査と勧告を踏まえて各委員会の委員長と再調整した上で,理事会で承認するという手順で委員を決定しました.
 ガイドライン作成にあたり,関連する他学会との協力は前回の治療ガイドライン2002でも実施されておりましたが,今回のガイドライン改訂にあたってはこの方針をもう一歩進めて,全疾患について複数の関連諸学会に呼び掛けて合同委員会を組織し,ガイドライン作成にあたりました.快く合同委員会設置にご賛同いただいた各学会には,この場を借りまして深く感謝いたします.
 今回の改訂治療ガイドラインは,日本図書館協会の協力を得て前回と同じくevidence-based medicine(EBM)の考え方に基づいて作成されていますが,基本的にQ&A(質問と回答)方式で記述されていますので,読者には読みやすい構成になっていると思います.回答内容は,エビデンスを精査した上で,可能な限りエビデンスレベルに基づいたガイドラインを示してあります.もちろん,疾患や症状によっては,エビデンスが十分でない領域もあります.また,薬物治療や脳神経外科治療法が確立している疾患から,薬物療法に限界があるために非薬物的介入や介護が重要な疾患まで,治療内容はそれぞれ様々で,EBMの評価段階も多様です.当然ながら,治療によって症状の消失や寛解が可能な疾患と,症状の改善は難しくQOLの改善にとどまる疾患とでは,治療の目的も内容も異なります.そのような場合であっても,現時点で考えられる最適なガイドラインを示すように努めました.
 さらに,神経内科診療において,遺伝子診断の重要性が増している現状を踏まえ,神経内科医に必要な遺伝子診断のための知識とポイントをまとめた『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』を新規に作成し,2009年に刊行いたしました.
 本ガイドラインは,決して画一的な治療法を示したものではないことにもご留意いただきたいと思います.同一の疾患であっても症状には個性があり,最も適切な治療は患者さんごとに異なっていますし,医師の経験や考え方によっても治療内容は同じではないかもしれません.治療ガイドラインは,あくまで,医師が主体的に治療法を決定する局面において,ベストの治療法を選択する上での参考としていただけるように,個々の治療薬や非薬物的治療の現状における一定の方式に基づく評価を,根拠のレベルを示して提示したものであります.
 本ガイドラインが,協力学会会員の皆様の診療活動に有用なものとなることを,作成関係者一同願っております.神経疾患の治療法は日進月歩の発展を遂げており,今後も定期的に改訂していくことが必要です.今回作成した各疾患の治療ガイドラインを関係学会会員の皆様に活用していただき,皆様からいただいたご意見をフィードバックさせて改訂内容に反映させることにより,よりよいものに変えていきたいと考えております.
 これらのガイドラインが,会員の皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご批判をいただければ幸いです.

 2010年8月


序に替えて
「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会
 委員長 中島健二

 2002年に,日本神経学会が中心になって「痴呆疾患治療ガイドライン2002」を公開した.その後8年が経過し,また,2006年に日本神経学会治療ガイドライン評価委員会から出された改訂に向けてのいくつかの提言を受け,ここに認知症疾患治療ガイドラインの改訂がなされることになった.

ガイドライン改訂に向けての経緯
 2002年の痴呆疾患治療ガイドラインが公開された後,本邦の認知症実地診療において新たに使用可能になった抗認知症薬はいまだ登場していない.このため,当初は日本神経学会治療ガイドライン評価委員会からの提言についての限定的な改訂を想定していた.同評価委員会による提言から,今回の改訂では以下の点に配慮した.まず,認知症診療において不可避と考えられる合併症や医学管理上問題となる事項の解決法をより具体的に提示することを目指した.また,2002年版の総説的な内容はコンパクトに残し,エビデンスの揃っていない点に関しては本ガイドライン改訂・作成合同小委員会としての対策を提示するようにし,“治療”に限定せず診断も含めた“診療ガイドライン”とすることとした.
 その後,今回の改訂ではクリニカル・クエスチョンを用いたガイドラインを作成することになり,また,日本神経学会,日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年精神医学会,日本老年医学会,日本神経治療学会の6学会が協力して合同で改訂作業を進めることになり,新たに各学会から推薦された委員も加わって改訂作業が行われることになった.これらのために,本ガイドラインの改訂は,ほぼ全面的な改訂作業を行うことが必要となった.
 さらに,本ガイドライン改訂に当たっては,日本神経学会の利益相反に関する方針に従い,本小委員会委員の利益相反について日本神経学会倫理委員会による審査を受け,その審査結果に基づいて作業を進めた.この利益相反に関する対応がガイドライン作成作業の中途で決定されたところから,本小委員会委員に迷惑と手数をお掛けしたことは申し訳なく思うところである.
 なお,日本神経学会治療ガイドライン改訂統括委員会からの指示もあり,今回の「認知症疾患治療ガイドライン2010」は,読者対象として一般の医師を想定して作成することとした.

本ガイドラインの改訂作業について
 本委員会ではメーリングリストを作成して議論を進めるとともに,必要に応じて委員会を開催した.
 2008年4月25日に第1回の委員会を開催し,基本的な構成や分担等を決めた.まず,クリニカル・クエスチョンを作成し,それについてメーリングリストで議論した後,各クリニカル・クエスチョンに対応したキーワードを選定した.そのキーワードを用い,日本医学図書館協会診療ガイドラインワーキンググループにより1983年以降の文献検索を行った.文献検索は2008年12月から2009年1月に終了した.このため,本ガイドラインの検索対象文献は,2008年までのものとなった.このようにして得られた文献リストから,各委員により文献が吟味して選択され,アブストラクトテーブルが作成され,各文献のエビデンスレベルを評価して原稿を作成した.なお,アブストラクトテーブルやアブストラクトフォームの作成には,本小委員会委員のみならず,各委員から推薦された研究協力者の協力により作業が進められた.
 2009年4月に第2回の委員会を開催し,委員が一同に会して全原稿について議論し,原稿の修正を行うとともに,各クリニカル・クエスチョンについて推奨グレードを確認した.その後,全原稿をインターネットで閲覧可能にしてメーリングリストで議論を進めた.
 同年8月に第3回の委員会を開催して全原稿について再度議論して検討し,推奨グレードを再確認した.その委員会議論を受けての原稿修正を終え,同年9月に本小委員会のアドバイザー,評価調整委員に対して本原稿についての意見を求め,それに対する修正を行った後,12月に各学会へ原稿を送付し,本ガイドライン(案)に対する各学会の学会員に対して意見公募を行った.

本ガイドラインの内容・項目
 今回のガイドラインにおいては,総論的な事項として,定義,疫学,診断,対応・治療,薬物・非薬物治療,合併症とその治療,精神医学的管理,社会資源,倫理的配慮,予防,軽度認知障害mild cognitive impairment(MCI),重症度別対応等を取り上げた.また,認知症の原因疾患としての各論的事項としては,Alzheimer病,血管性認知症,Lewy小体型認知症,前頭側頭型認知症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,Huntington病,プリオン病を対象とした.特発性正常圧水頭症等,他にガイドラインがある疾患,硬膜下血腫やその他の数多くの内科的・脳外科的疾患等については,診断・鑑別診断の中で述べることに留め,それぞれの治療に関して項目立てをして記載することは見送ることとした.

認知症者への配慮
 長寿,老化予防,認知症予防は,古くからの人類のテーマであるが,いまだに解決の目処は立っていない.人口高齢化とともに,認知症の増加が予想され,認知症の治療・ケアのみならず,その予防も含め,これらへの取り組みが社会的にも強く要請されている.一方,認知症診療においては,人間としての尊厳を尊重し,適切な医療・ケアを受ける権利は平等に保障されるべきであり,認知症であることや高齢であること等を理由として差別を受けるようなことがあってはならないことは当然認識されるべきである.これらの認識を踏まえて本ガイドラインの作成に当たった.

認知症の診断について
 本治療ガイドラインでは,日本神経学会治療ガイドライン評価委員会からの提言に従い,治療のみならず診断についても記載することとして作業を進めた.
 認知症の診断は,病歴,診察,適切な検査を行って診断する.認知機能・心理検査,さらに,血液検査や画像検査を含めた必要な検査を適宜行う.また,高齢者が多く,種々の薬剤を服薬していることが少なくないところから,認知機能に変化をきたす可能性のある薬剤を確認することも重要である.遺伝的要因,家庭や職場等,患者を取り巻く環境要因等についての確認も必要である.
 通常,まず認知症であることを診断した後,認知症の原因診断が行われる.その際,認知症の原因疾患に関する臨床的な診断基準が用いられる.しかし,各診断基準に従って診断を進めても,診断の重なりもあったりし,認知症の原因疾患について明確に区別しがたい場合も少なくないことが指摘されてきた.一方,最近では認知症であることを診断すると同時に,画像検査等により直接認知症の原因疾患の診断を行うことも試みられる.また,認知症をきたす疾患の診断マーカーの開発も検討されており,Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)が進められ,本邦でもJ-ADNIで検討が行われている.

認知症の治療方針の検討,指導・ケア・治療について
 認知症では,その診断・評価とともに,患者・家族との信頼関係構築,生活指導やケア等も重要で,そのためには,病名告知も必要となる.また,社会資源の活用もポイントになる.認知症医療においては,薬物治療のみならず非薬物治療も重要で,ケアや非薬物的対応が重視される.通常の認知症診療においては,まず非薬物治療・対応が検討され,非薬物治療だけでは対処できない場合に薬物治療が考慮される.認知症の薬物治療においては,原則として少量から注意深く観察しながら投与し,リスクとベネフィットを十分に評価して必要に応じて見直しを行うことも必要である.一方,認知症の発症・進行の予防に関する取り組みについても重要視されてきている.
 認知症では本邦において保険で認可された薬剤は少ない.しかし,実際の診療現場では種々の薬剤が使用されている.例えば,本邦においても認知症の診療現場において非定型抗精神病薬も実際に使用されているが,米国食品医薬品局Food and Drug Administration(FDA)から死亡率の増加が指摘され,警告が出ていることを理解しておくことも必要である.また,海外においてもFDAの警告後も認知症に非定型抗精神病薬が投与され,定型抗精神病薬がより有害事象が多いとの指摘もあって非定型抗精神病薬の有用性を指摘する意見もある.認知症の診療におけるこのような多くの問題をかかえながら診療に当たらねばならないことも認識しておかねばならない.
 海外で使用されていながら本邦では認可されていない薬剤は多い.本ガイドラインにおける推奨レベルは,本邦での保険診療における使用を推奨するものではなく,あくまで,文献のエビデンスレベルに従って推奨グレードを決定している.このため,本邦では使用不能な薬剤や保険で認可されていなかったりする薬剤でも推奨レベルが高い場合もある点をご理解頂きたい.

本ガイドラインにおける治療薬の記載について
 本ガイドラインにおいては,本邦で認知症診療において使用が認められている薬品や,本邦での認知症への保険使用が認められていなくても本邦で使用されている薬剤の薬品名はカタカナで記載し,海外でのみ使用され本邦では使用されていない薬品については英語表記とした.
 一方,薬品名の記載についても,種々の記載法が用いられている.本ガイドラインにおいては,ドネペジル塩酸塩はドネペジル,memantine hydrochloride(メマンチン塩酸塩)はmemantine,galantamine hydrobromide(ガランタミン臭化水素酸塩)はgalantamine,rivastigmine tartrate(リバスチグミン酒石酸塩)はrivastigmineといったように簡略した形の名称で記載した.

認知症領域において用いられる用語等の問題と,本ガイドラインでの用語使用について
 認知症の領域においては,用語にも多くの混乱がある.例えば,mild cognitive impairment(MCI)は軽度認知障害と軽度認知機能障害,認知症の中核症状と認知機能障害,周辺症状と認知症の行動・心理症状,あるいは,認知症の行動と心理症状等の表現も用いられる.本ガイドラインでは,MCIは軽度認知障害,認知症の中核症状は認知機能障害,周辺症状は認知症の行動・心理症状behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)として用語を用いた.認知症の重症度についても,進行期の用語として「重度」と「高度」がほぼ同義に用いられている.「痴呆疾患治療ガイドライン2002」で「重度」が用いられていたこともあり,それを踏襲して本ガイドラインでも「重度」を使用した.これらの用語については,今後整理統一されていくよう検討されることを望みたい.
 なお,本ガイドラインの中で用いられる略語については略語表を掲載したので,そちらを参照頂きたい(371頁).

本ガイドラインにおいて用いたエビデンスレベル
 エビデンスレベルの記載について,治療に関してはMinds分類(表1),それ以外はOxford Centre for Evidence-based Medicine Levels of Evidence分類(表2)を用いた.

 表1 エビデンスレベル(Minds分類)
  I システマティックレビュー/RCTのメタアナリシス
  II 1つ以上のRCTによる
  III 非RCTによる
  IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
  IVb 分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
  V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
  VI 患者データに基づかない専門委員会や専門家個人の意見

 表2 エビデンスレベル(Oxford Centre for Evidence-based Medicine Levels of Evidence分類)
  1a RCTのシステマティックレビュー
  1b 個々のRCT
  1c 悉無研究
  2a コホート研究のシステマティックレビュー
  2b 個々のコホート研究
  2c “アウトカム”研究:エコロジー研究
  3a ケースコントロール研究のシステマティックレビュー
  3b 個々のケースコントロール研究
  4 症例集積研究
  5 系統的な批判的吟味を受けていない,または生理学や基礎実験,原理に基づく専門家の意見

本ガイドラインにおいて用いた推奨グレード
 推奨グレードの記載は,Minds分類に従って行ったが,作業を進めていくうちに,本小委員会委員から問題点が指摘され,特に,Minds分類C2「科学的根拠がなく,行わないよう勧められる」は使用しにくいとの指摘があり,C2を「科学的根拠がなく,行うよう勧められない」に変更して用いることとした(表3).

 表3 推奨グレード
  A 強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
  B 科学的根拠があり,行うよう勧められる
  C1 科学的根拠がないが,行うよう勧められる
  C2 科学的根拠がなく,行うよう勧められない
  D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる

認知症診療における本ガイドラインの使用にあたって
 本ガイドラインは,認知症診療を支援するための参考資料を提供するもので,現場の認知症診療を制約するものではない.本ガイドラインの記載内容に縛られることなく,一人ひとりの認知症者への個別的認知症診療に関する工夫が重要で,個別に必要な医療・ケア・情報等の提供が望まれる.そのような認知症診療における診療支援の一つとして,本ガイドラインが活用されることを希望するものである.
 本ガイドラインで評価した文献の多くが海外からのもので,認知症に関する本邦でのエビデンスは極めて少ない.今後,本邦の医療実態,日本人に合った薬剤や用量,本邦の社会的・文化的な実情に応じたケアや介護等を明らかにしていく必要がある.本邦における認知症医療の発展,エビデンスの蓄積が待たれる.
 一方,認知症の医療は進歩し,新たな治療薬の登場も期待されている.このガイドラインもその進歩とともに改訂が必要である.遠くない時期に再度の改訂が必要となる認知症診療の進歩を期待したい.

本ガイドラインの著作権
 著作権は,日本神経学会に帰属する.許可なく転載すること等を禁ずる.

本小委員会委員への謝辞
 今回のガイドライン改訂・作成作業を認知症関連6学会が合同で協力して進めたことは,本邦における認知症医療においても極めて重要なものと考える.各学会から本小委員会に参加し,多忙ななか本ガイドライン作成のために多大なご努力を頂いた本小委員会委員の方々に感謝したい.

 2010年9月

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第1章 認知症の定義,概要,経過,疫学
第2章 認知症の診断
第3章 認知症への対応・治療の原則と選択肢
 A.認知症症状への対応・治療
 B.薬物治療各論
 C.非薬物療法
 D.合併症とその治療
 E.認知症における医学的管理のありかた,社会資源,倫理的配慮
第4章 経過と治療計画
 A.予防
 B.軽度認知障害(MCI)
 C.重症度別対応
第5章 Alzheimer病(AD)
第6章 血管性認知症(VaD)
第7章 Lewy小体型認知症(Parkinson病も含む)
第8章 前頭側頭型認知症(FTD)
第9章 進行性核上性麻痺(PSP)
第10章 大脳皮質基底核変性症(CBD)
第11章 Huntington病(HD)
第12章 プリオン病

略語一覧
索引

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常に手元に置いて参照すべき貴重な資料
書評者: 森松 光紀 (徳山医師会病院病院長)
 2010月10月に,日本神経学会監修,「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会(委員長:中島健二鳥取大学脳神経医科学講座教授)編集による『認知症疾患治療ガイドライン2010』が医学書院から出版された。合同委員会は,日本神経学会のほかに日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年精神医学会,日本老年医学会,日本神経治療学会から選出された編集委員から成っている。

 遡れば2002年に日本神経学会Ad Hoc委員会編集『痴呆疾患治療ガイドライン2002』が作成された。その後,「痴呆」の用語が「認知症」に変わるとともに,認知症を取り巻く状況が大きく変化した。当時は,老年期認知症の主要原因はAlzheimer病と血管性認知症の2つとされたが,現在では,これらにLewy小体型認知症を含めて3大要因とされる。また,認知症疾患の病態生理・分子生物学的研究および診断法も著しく進歩した。さらに介護保険による認知症対策が普及し,国民も認知症を自らの問題として考えるようになった。筆者は『痴呆疾患治療ガイドライン2002』の編集に参加した者として,新『認知症疾患治療ガイドライン2010』の書評を担当させていただいている。

 今回の治療ガイドライン・シリーズに共通するコンセプトとして,以下の特徴が挙げられる。(1)診療において不可避と考えられる合併症や医学管理上の問題について解決法を具体的に提示する。(2)治療に限定せず,診断も含めた「診療ガイドライン」とする。(3)総論・各論ともに「クリニカル・クエスチョン」方式で執筆し,問題点を明確にする。ただし,『多発性硬化症治療ガイドライン2010』などでは総論は解説文として示され,各論について「クリニカル・クエスチョン」方式がとられている。

 本ガイドラインは第1章「認知症の定義,概要,経過,疫学」,第2章「認知症の診断」,第3章「認知症への対応・治療の原則と選択肢」,第4章「経過と治療計画」から成り,続く章でAlzheimer病,血管性認知症,Lewy小体型認知症(Parkinson病も含む),前頭側頭型認知症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,Huntington病,プリオン病の8疾患が取り上げられている。すなわち,極めて網羅的で,認知症の教科書としても十分機能する。また,レベルの高い文献に基づいているため,診療のみならず研究上も有用である。

 さて,有効な治療法が切実な課題であるAlzheimer病については,ドネペジル以外に新たな治療薬が期待されている。既に外国では抗コリンエステラーゼ薬のガランタミンとリバスチグミン,NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬のメマンチンが使用されている。2011年1月に,本邦でもガランタミンとメマンチンが承認されたが,これら3薬の有効性についても十分に分析されている。γセクレターゼ阻害薬やワクチン療法は取り上げられていないが,まだ早期に過ぎるという配慮からであろう。

 本書は認知症診療において,常に手元に置いて参照すべき貴重な資料と考えられ,委員長および各委員のご努力に対して深甚なる謝意を表したい。
現在の認知症治療を理解し,最善の治療を行う参考書
書評者: 野元 正弘 (愛媛大教授・臨床薬理学)
 米国の健康保険は企業により運営されているものが中心で,経費を少なくすることが経営上大きなメリットとなる。このため給付の要求に対して,エビデンスの有無を確認し,使用する薬剤や手術,検査など,なるべく支払いの少ない治療を医師に要求する。これに対して現場の医師たちが最新の治療基準を作成し,必要な治療薬や検査,手術方法などを確保するために,治療ガイドラインの作成が広がった。わが国では公的健康保険が全国民をカバーしており,保険支払いに対抗してガイドラインを作成する必要はなく,最新のEBMに基づき,患者にとって最も良い治療を選択する手段として作成されている。欧州では国により状況は異なるが,学会で作成している治療ガイドラインの作成基準はわが国とほぼ同様である。英国では収入から一定額を徴収して健康保険と年金の予算としており,NHS(National Health Service)が公的医療保険を運営している。NHSは診療に対しては以前から基準を設けている。例えば,抗生物質の使用はサルファ剤を検討し,効果のないことが確認されている場合には,セファロスポリンやペニシリン系薬剤を使用し,順次,抗菌力の高い治療薬へ変更することを指示している。これはMRSAの広がりを防止するためであるが,同時に健康保険の経費にも対応している。また治療薬の安全使用について力を入れており,例えば,抗コリン薬は70歳以上には使用しないこととしている。これは薬剤性認知症に対する対応である。また,このガイドラインの対象は家庭医として治療を担当するGP(General Practitioner)である。

 今回改訂された『認知症疾患治療ガイドライン2010』は,日本神経学会,日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年精神医学会,日本老年医学会,日本神経治療学会の6学会が協力して作成しており,認知症の診療を専門に担当している医師により基準を共有して作成されたものである。治療には適切な診断が必須であるが,今回のガイドラインでは診断の指針を設けてあり,治療薬の選択とともに,疫学,診断に用いる評価方法と画像診断,認知症の症状評価と分析,非薬物療法として日常の生活,リハビリテーションの方法,施設等の社会資源の利用,予防法の評価,経過観察技術の有用性等を含めて,最新の知識が総合的に集約されており,現在の認知症診療が簡潔に要約されている。内容はわかりやすくまとめられており,通して読んで教科書として使えるが,また設問形式で項目が設けられており,診療時に調べたい内容を探すことも容易である。

 現在の認知症治療を理解し,最善の治療を行う参考書として推薦したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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