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神経疾患の遺伝子診断ガイドライン 2009

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遺伝性神経疾患の多くで病因遺伝子が発見されつつあるなか、神経内科診療における遺伝子診断の役割が大きくなってきている。日本神経学会監修による本ガイドラインは、遺伝学や遺伝カウンセリングについて神経内科医が把握しておくべき点をまとめた総論と、代表的な遺伝性神経疾患を類型的に整理・解説した各論からなる。巻末には用語集や疾患遺伝子一覧等が付き、内容の理解を助ける。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会
編集 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会
発行 2009年10月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-00945-4
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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神経疾患治療ガイドライン改訂版および遺伝子診断ガイドラインの発行について(葛原 茂樹・清水 輝夫)/(辻 省次)

神経疾患治療ガイドライン改訂版および遺伝子診断ガイドラインの発行について
 日本神経学会では,当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,2001年5月と7月の理事会で主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました。
 2002年の発行からかなりの期間が経過し,新しい知見も増えてきていることから,2008年5月と7月の理事会で,それらの改訂を行うことを決定し,直ちに作業を開始しました。今回は,前回の発行以降に治療上の新知見や変化が加わった「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「認知症」,「脳血管障害」の5疾患に,今回から参加することになった「多発性硬化症」を加えた6疾患の治療ガイドライン改訂委員会,および新規に作成する「遺伝子診断」のガイドライン作成委員会が発足しました。
 今回の治療ガイドラインの作成にあたっては,本学会としてすべての治療ガイドラインについて一貫性のある委員会構成を行い,利益相反に関しても,本学会として適切な指針を定めた上で委員会構成を行うようにしました。そのために,理事長のもとに統括委員会を置き,その下に各ガイドライン(改訂)委員会を設置しました。各委員会の委員長(他学会と合同の委員会を作っているものについては本学会から参加する担当理事)は,理事長が理事の中から指名し,各委員長あるいは担当理事から委員候補者を推薦していただきました。推薦された委員候補者には,利益相反について所定の様式に従って自己申告していただき,審査委員会の審査と勧告に従って各委員会委員長と調整した上で,理事会で承認するという手順で決定致しました。なお,それぞれの委員会は,委員,研究協力者,評価・調整委員から構成されています。

 ガイドライン作成にあたり,関連する他学会との協力は前回の治療ガイドライン2002から実施されておりましたが,今回の改訂ガイドラインではさらにこれが進み,パーキンソン病を除く全疾患について,合同委員会で作成されました。快く合同委員会での作成に賛同いただいた各学会に,この場を借りまして深く感謝いたします。

 今回の改訂治療ガイドラインは,前回と同じくevidence-based medicine(EBM)の考え方に基づいて作成されましたが,基本的にQ&A(質問と回答)方式で記述されていますので,読者には読みやすい構成になっていると思います。回答内容は,エビデンスを精査し,可能な限りエビデンスレベルに基づくガイドラインを示してあります。もちろん,疾患や症状によっては,エビデンスが十分でない領域もあります。また疾患により,薬物治療や脳神経外科的治療法が確立しているものから,薬物治療に限界があるために非薬物的介入や介護が重要なものまで,治療内容は疾患ごとに様々で,それらのEBMの評価段階も多様です。また,治療目標が症状消失や寛解にある疾患と,症状の改善は難しくQOLの改善にとどまる疾患とでは,治療の目的も異なります。そのような場合であっても現時点で考えられる最適なガイドラインを示してあります。
 また,神経内科診療において,遺伝性疾患の診断に対する重要性が増している現状を踏まえ,神経内科医に必要な遺伝子診断のための知識とポイントを,専門家の推奨に基づきまとめた「遺伝子診断ガイドライン」を,このたび新規に作成いたしました。

 本ガイドラインは,決して画一的な治療法を示したものではないことにも留意いただきたいと思います。同一の疾患であっても,最も適切な治療は患者さんごとに異なっていますし,医師の経験や考え方によっても内容は同じではないかもしれません。治療ガイドラインは,あくまで,主体的に治療法を決定する医師がベストの治療法を決定する上での参考としていただけるように,個々の治療薬や非薬物的治療の現状における評価を,一定の方式に基づく根拠をもとに呈示したものであります。

 本ガイドラインが,診療現場で活躍する学会員の皆様の診療に有用なものとなることを願っております。神経疾患の治療も日進月歩で発展しており,今後も定期的な改訂が必要であります。本学会作成のガイドラインを実地に利用される会員の皆様に活用していただき,さらに学会員の皆様からのフィードバックをいただくことにより,ガイドラインの内容はよりよいものになっていきます。これらのガイドラインが,会員の皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご批評をお待ちしております。

 2009年5月吉日
 日本神経学会
 代表理事 葛原 茂樹
 ガイドライン統括委員長 清水 輝夫



 遺伝性神経疾患の多くで,病因遺伝子が発見され,神経内科の診療における遺伝子診断の役割が大きくなっている。診断を確定することは,診療の根幹をなすものである。神経疾患では,遺伝子診断を行って初めて診断を確定できる疾患が少なからずあり,神経内科診療における遺伝子診断の意義は大きい。さらに重要なこととして,診断の確定により,症状や臨床経過,予後,治療法,療養上の対処方法,その疾患の遺伝に関する事柄など,多くの有用な情報が提供できる。最近では,酵素補充療法をはじめとして,治療法が確立されつつある遺伝性疾患も増えてきている。
 一方,遺伝子診断は,患者本人,個人の遺伝情報を扱うということばかりでなく,家族にも関係する遺伝情報を扱うことになるということから,その実施にあたっては,遺伝情報及び遺伝子診断の持つ意義や留意点などを十分理解した上で,適切な説明ないし遺伝カウンセリングを行うことが必要である。
 2008年(平成20年)度から,進行性筋ジストロフィーに加え,これまで先進医療で認められていた,家族性アミロイド多発ニューロパチー,脊髄性筋萎縮症,中枢神経白質形成異常症などの遺伝子診断が保険収載されるようになった。あわせて,これらの診断に関連する遺伝カウンセリングに対する診療報酬も保険収載されるようになった。このように,遺伝子診断が保険診療の中においても定着しつつあり,今後,保険収載される遺伝子診断の数は増加していくものと考えられる。このような状況にあって,臨床現場で,われわれ神経内科医が,遺伝子診断を実施していくことの重要性が増しており,神経内科診療の充実・向上に向けて,適切な遺伝子診断を実施するためのガイドラインを,日本神経学会として作成した。
 本ガイドラインは,われわれ神経内科医が,適切に遺伝子診断を進める上で役に立つガイドラインを目指している。通常,診療のガイドラインは,その科学的エビデンスを明示し,推奨レベルを示すのが基本的なスタイルである(“evidence-based”)が,遺伝子診断のガイドラインにおいては,そのようなスタイルは当てはまりにくく,専門家による推奨(“expert recommendation”)というスタイルをとっている。本ガイドラインは,神経内科診療において遺伝子診断を適切に実施していく上で,神経内科医が理解しておくべき点を整理して示し,質の高い診療実現のために,遺伝子診断をどのように役立てるかという点を基本指針として作成した。臨床的に遺伝ないし遺伝子に関連する問題に対処する場合,遺伝カウンセリングの重要性を認識しておく必要があるが,本ガイドラインは,遺伝カウンセリングそのもののガイドラインではない。専門性の高い遺伝カウンセリングが必要とされる場合には,所属医療機関の臨床遺伝医学の専門的知識及び経験を有する臨床遺伝専門医などとの連携,臨床遺伝医学診療部門への紹介,臨床遺伝医学診療部門のある他の医療機関への紹介など,適切な対応が推奨される。
 今後,神経内科診療における遺伝子診断の役割はさらに大きくなっていくと予測される。たとえば,本ガイドラインでは取り上げていないが,個人の体質にあわせた薬効の最適化,薬剤の副作用回避などを目的とした薬理遺伝学(pharmacogenetics;PGt)的検査が,一部の医療機関では実施され始めており,近い将来に診療に広く取り込まれていくものと予測される。
 ゲノム医科学の研究の進歩は,技術面での進歩ともあいまって,現在なお目覚しいものがあり,さらに多くの遺伝性疾患の病因遺伝子の解明が進むと期待される。孤発性疾患についても,疾患の発症に関わる遺伝子(疾患感受性遺伝子と呼ばれる)の探索が活発に行われており,孤発性疾患の発症機序に関する理解が深まると期待される。このような疾患感受性遺伝子に関する遺伝情報を診療の中に位置づけていくには,さらなる研究の発展を待つ必要があるが,神経内科診療における遺伝子診断の役割は,病態機序に基づく治療法開発の発展とともに,拡大していくものと期待される。遺伝子解析技術の面でも,研究の発展により新しい遺伝子診断法が導入されつつあり,このような点についても注目していく必要がある。
 本ガイドラインの総論では,神経内科診療において,遺伝子診断をよりよく進めるために,神経内科医が,遺伝学や遺伝カウンセリングについて把握しておくべきことについて重点を置いた。各論では,個別の疾患については,すべての疾患を網羅していないが,代表的な疾患を取り上げて,類型別に整理し,解説している。診療現場では保険収載されていない疾患に対する遺伝子診断のニーズも高いと考えられるので,保険収載された疾患に限らず幅広く取り上げている。なお,巻末には,遺伝性神経疾患の分子遺伝学についての最新の情報を表形式で紹介してある。また,遺伝子検査を実際に施行するにあたって参考となるよう,遺伝子検査を行っている機関についての情報も,掲載許可の得られる範囲で巻末に紹介してある。
 本ガイドラインが,神経内科医が遺伝子診断を進める上で有用なものとなり,神経内科診療が充実することを委員一同望んでいる。

 2009年8月吉日
 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会
 委員長 辻 省次

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総論
第1章 基本理念
 1.神経内科診療における遺伝子診断の意義
 2.遺伝子診断の際の留意点
 3.遺伝カウンセリングの重要性
第2章 遺伝子診断の目的と概要
 1.遺伝子診断の適応
 2.遺伝子診断の実施において配慮すべき点
 3.神経疾患の遺伝子診断において特に配慮すべき点
 4.診療における個人情報の保護
 5.保険収載されている遺伝子診断
 6.発症前診断,保因者診断,出生前診断について
第3章 遺伝子検査に際して確認すべき点と進め方
 1.神経内科医が遺伝子検査を行う前に確認すべき点
 2.神経内科診療における遺伝子診断の進め方
 3.神経内科医の責務と臨床遺伝専門医や臨床遺伝医療部門との連携
第4章 インフォームド・コンセント
 1.インフォームド・コンセントとは
 2.遺伝子診断におけるインフォームド・コンセント
 3.インフォームド・コンセントの実施にあたって
 参考説明文書例
 参考同意書例
第5章 代諾同意を必要とする患者についての遺伝子診断
 1.一般的な考え方(成人の場合)
 2.未成年者(小児)に対する遺伝子診断
第6章 遺伝子検査法(遺伝学的検査)と結果の解釈
 1.染色体検査
 2.遺伝子(DNA)検査
 3.遺伝子検査結果の解釈
第7章 遺伝子検査結果の説明
 1.患者(被検者)への説明の要点
 2.関連した説明事項
 3.未成年者(小児)に対する説明
第8章 家系図の書き方
 1.遺伝形式と家系図の具体的な記載例
 2.家系図記載法
第9章 遺伝カウンセリング
 1.遺伝カウンセリングの基本理念
 2.遺伝カウンセリングの一般的手順
 3.遺伝カウンセリングの診療体制
 4.遺伝カウンセリング担当者

各論
第10章 未成年で発症する疾患
 1.デュシェンヌ型筋ジストロフィー及びベッカー型筋ジストロフィー
 2.福山型先天性筋ジストロフィー
 3.肢帯型筋ジストロフィー
 4.ジスフェルリノパチー
 5.遠位型ミオパチー
 6.筋強直性ジストロフィー1型
 7.ミトコンドリア脳筋症
第11章 治療法が未確立の遅発性の疾患
 1.ハンチントン病
 2.脊髄小脳変性症
 3.プリオン病
第12章 治療法が具体化しつつある疾患
 1.根治を目指した治療が可能となってきた遺伝性神経疾患
 2.家族性アミロイド多発ニューロパチー
 3.副腎白質ジストロフィー

参考文献
 A.関連ガイドライン等
 B.臨床遺伝医学一般
 C.データベース及び関連検索サイト
 D.各論疾患別参考文献
用語集
疾患遺伝子一覧
遺伝子検査実施機関

索引

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神経疾患の診療に携わるすべての人へ
書評者: 黒木 良和 (川崎医療福祉大大学院教授/臨床遺伝専門医・指導医)
 分子遺伝学の急速な進歩により多くの神経疾患の病因遺伝子が同定され遺伝子診断の重要性が高まっている。遺伝子診断の意義は診断の確定にとどまらず,治療や予後,ケア等に関する多くの有用な情報を提供できる点にある。

 一方,遺伝子診断で明らかにされる遺伝情報は高度の個人情報であり,遺伝子診断の実施に当たっては当事者の自己決定権,プライバシーの保護,守秘義務など十分な配慮が必要である。したがって神経疾患の遺伝子診断に際しては,疾患の専門知識と同時に,遺伝カウンセリングの基本を押さえておく必要がある。

 本書はそのような観点から,主として神経内科医を対象に,遺伝子診断を適切に進める上で役立つガイドラインの提示をめざしている。本ガイドラインは日本神経学会の「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会(委員長:辻省次東大神経内科教授)によりまとめられたものである。

 本ガイドラインは総論と各論の二部構成になっている。総論では,神経内科医が診療現場で遺伝子診断を適切に進めるために知っておくべき遺伝学や遺伝カウンセリングの基本事項が診療の流れに沿って重点的に示されている。ただ,すべてを神経内科で完結させるのではなく,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと連携する必要性を述べているのは注目に値する。

 各論では,発症時期や治療法の有無で類型化して,代表的疾患について,臨床像,遺伝学・遺伝子診断,遺伝カウンセリングについて簡潔にまとめられている。また,公的補助制度や患者サポート組織など社会資源の活用にも触れている。治療法が未確立な疾患群と,治療法が確立または可能性のある疾患群に分けて,対応法や遺伝カウンセリングのポイントが明確に示されていて診療の実際に有用なものとなっている。

 参考文献では単なる文献の羅列ではなく,内外の各種ガイドラインやデータベース,有用なオンライン検索サイトなどが紹介されている。

 巻末には遺伝医療の簡単な用語集があるが,これは臨床医にとってあまりなじみのない遺伝学用語が簡単にまとめられており,本ガイドラインの理解に役立つであろう。また,遺伝性神経疾患の最新の遺伝子情報が一覧表形式で紹介され,遺伝子検査の実施機関の紹介とともに遺伝子検査の実施に有用なものと思われる。

 本ガイドラインは現状における標準の提示であり,今後ゲノム医学の進歩に合わせて改訂されるものと考えられる。近い将来個人の体質に合わせた個別化医療についてもガイドラインに盛り込まれるであろう。

 本書は神経内科医のみならず,神経疾患の診療に携わるすべての医師,研修医,看護師,検査技師などの医療職および介護・福祉関係者,遺伝医療専門職(臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーなど)やそれらをめざす人に広く薦めたい一冊である。
安易に行われる遺伝子診断の現状に警笛
書評者: 埜中 征哉 (国立精神・神経センター病院名誉院長)
 遺伝子検査が神経・筋疾患の診断に大きな役割を果たす時代になっている。保険適応になっている疾患もあり,遺伝子検査が安易に行われている事例が後を絶たない。

 乳幼児が感冒に罹患したとき,あるいは何らかの理由で採血がなされ,生化学検査を受ける。その時,たまたまクレアチンキナーゼ(CK)値が異常高値だったとする。医師は筋ジストロフィーを疑い,確定診断を得るために,まず侵襲が少ない遺伝子検査を行う。デュシェンヌ型や福山型は保険適応になっているので,検査会社に提出することもできる。申込用紙には十分な遺伝カウンセリングを行うこととの記載があり,カウンセリングを行った医師の署名が必要である。ただ,医師が専門医であるかどうかの担保は要らない。また,どこまでカウンセリングしたかの記録も必要でない。

 検査結果が主治医のところに返ってくる。ジストロフィン遺伝子の欠失があるとの結果が記載されているとする。小児科医がすべて筋疾患に十分な知識があるわけではない。医師は,デュシェンヌ型の平均寿命は延びてはいるが,平均30歳にもみたない,今のところ治療法はなく,短い命なので,子どもの好きなことをさせてあげるようにと告知する。

 いきなり,筋ジストロフィー,短い命,治療法がない,と告知された親のショックは計り知れないものがある。筆者は筋疾患専門外来を行っているので,告知を受けた両親がインターネットで調べたりして,お子さんを連れて受診される。あまりにも安易に行われている遺伝子診断の現状に憤りを感じることがまれでない。

 遺伝子診断はそれを行う前に病気について,遺伝子診断の意義について十分な説明をすること,それも病気や遺伝に十分な知識がある医師が行うこと。これらのことは多くの書物や論文で繰り返し述べられている。しかし,現実にはそれが忠実に守られていない。

 今回,日本神経学会により監修・編集された本書は総論で多くのページを割いて,遺伝子診断の在り方について解説している。すべての神経内科医,小児神経科医が一読する必要がある内容である。

 各論では筋ジストロフィー,脊髄小脳変性症,家族性痙性対麻痺などの主な神経・筋変性疾患の特徴,遺伝子変異について記載されている。遺伝子が次々とクローニングされると病気の数は増え,分類はますます複雑となる。常染色体優性脊髄小脳変性症は約30もの疾患に分類されている。

 臨床症状からどのような順序で診断を進め,遺伝子診断にもっていったら良いのか,具体的記載はない。症状から病型の推測をチャート式に記し,どの遺伝子に的をしぼっていけば良いのかを示して欲しかった。また,遺伝子検査を依頼するとき,どこの誰に連絡したら検査が可能かといった,詳細な遺伝子検査可能施設一覧があれば,読者には大いに役立ったと思う。ただ,現在のような膨大な数の遺伝子変異を調べるのは大変な負担である。保険適応でないものは検査者(研究者)の善意に頼っている。検査可能施設一覧表を作って,検査が殺到したら,とてもでないが研究室の運営は成り立たないであろう。公開の難しさがそこにあると思った。

 いずれにしても,本書は優れた遺伝子診断ガイドラインであり,神経内科医,小児神経科医など神経疾患に関与する人の必読の名著であることは間違いない。

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