めまいの診かた・考えかた
めまい一筋45年の著者が伝授するめまい診療のエッセンス
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著者のライフワークであるめまいの診かた・考えかたを、内科医と若手耳鼻咽喉科医向けに惜しみなく伝授! 豊富な図解でめまい診療を簡潔にまとめた第1章、多彩なコラムにより平衡機能の基礎からめまいを理解できる第2章、中枢性めまいや良性発作性頭位めまい症、メニエール病などの重要なめまいを解説した第3章、さまざまなめまいの症例を学べる第4章という充実した構成。多面的にめまいを学び、臨床に役立てることのできる1冊!
著 | 二木 隆 |
---|---|
発行 | 2011年11月判型:B5頁:178 |
ISBN | 978-4-260-01124-2 |
定価 | 4,950円 (本体4,500円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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はじめに
私がこの本を書いた目的は,めまいを訴える患者さんがちゃんと(適正に)診てもらえるようになって欲しいと願うからである.
昭和41年(1966年),京都大学耳鼻咽喉科へ入局して「お勉強(研究)はめまいをやれ.臨床は腫瘍をやれ」と森本正紀教授に言い渡されて以来,めまい一筋の道を歩んできた.この間,現「日本めまい平衡医学会」での活動を通じ,「めまいの患者は耳鼻咽喉科へ」という発表も多々行ってきた.そして,やっと最近になって,内科や脳神経外科の先生方からめまいの患者さんが耳鼻咽喉科へ紹介されてくるようになってきた.
このことは1つの進歩ではあるが,しかし心配な点が2つ存在するのである.すなわち,
(1)主に内科を中心とした紹介医が,「ある程度の基礎知識があって」耳鼻咽喉科医へ紹介状を書いているが,耳鼻咽喉科医が検査の結果,診断名を記した返書をしたためても,その後の経過を適切に診てもらえるのか?
(2)内科医から紹介状を受け取った,めまいを専門としない耳鼻咽喉科医が的確な対応を行うことができるのか?
という問題である.
本書は,まさにこの2つの問題のギャップを埋める目的で書かれたといってよい.
したがって,本書を最も読んで欲しい医師群は,①内科研修医または脳神経外科研修医,②めまいの勉強をしてみたい内科医,③じっくり読んでめまいの研究をしたい耳鼻咽喉科研修医,または大学でめまい診療のトレーニングの機会をもてなかった耳鼻咽喉科勤務医,の三者であり,特別な装置がなくてもとりかかれるように工夫を凝らしたつもりである.
以上のような観点から,本書は何よりも入門書であるとともに,practicalな診断学の指南書であることを企図して,往診カバンに用意すべき7つ道具の図説から第1章を書き起こした.第2章は,なぜそのような診断行為(検査・診療と観察)を行うのかという理論的根拠を平易に記した.古典的な教科書である冲中重雄の『内科診断学』(医学書院)には,神経学的診断の基本が書かれており,当時若い学徒であった筆者たちは大いにその恩恵にあずかったが,本章ではclinical physiologyとしての「めまい診断学」の基礎知識であるminimum requirementを書いた.
続いての第3章では,危険なめまい(中枢性めまい)と内耳性(末梢性)めまいの代表的な疾患のみに限定して,実際の症例を示しながら実践的な鑑別診断法を例示した.なお,第2章および第3章のcolumnは拙著『めまいの医学』(中央書林,1990年)を手直しして再録したものが中心である.
そして,最後の第4章は,平成2年(1990年)に東京大学を辞してめまいクリニックを開業して以来,第一線のめまい臨床における日々の活動の中から拾い上げたテーマをまとめた論文であり,全科の医師が集まる地区の医学会で発表し続けてきたものの中から選び,手直しして収載したものが中心である.もちろん,専門性においては新知見であり,かつ全科的な視野に立つものである.
本書はとにかく役に立つ本でありたいと願ってまとめたものであり,筆者が一筋に努めてきた「めまい学」の集大成でもある.
平成23年(2011年) 秋
二木 隆
私がこの本を書いた目的は,めまいを訴える患者さんがちゃんと(適正に)診てもらえるようになって欲しいと願うからである.
昭和41年(1966年),京都大学耳鼻咽喉科へ入局して「お勉強(研究)はめまいをやれ.臨床は腫瘍をやれ」と森本正紀教授に言い渡されて以来,めまい一筋の道を歩んできた.この間,現「日本めまい平衡医学会」での活動を通じ,「めまいの患者は耳鼻咽喉科へ」という発表も多々行ってきた.そして,やっと最近になって,内科や脳神経外科の先生方からめまいの患者さんが耳鼻咽喉科へ紹介されてくるようになってきた.
このことは1つの進歩ではあるが,しかし心配な点が2つ存在するのである.すなわち,
(1)主に内科を中心とした紹介医が,「ある程度の基礎知識があって」耳鼻咽喉科医へ紹介状を書いているが,耳鼻咽喉科医が検査の結果,診断名を記した返書をしたためても,その後の経過を適切に診てもらえるのか?
(2)内科医から紹介状を受け取った,めまいを専門としない耳鼻咽喉科医が的確な対応を行うことができるのか?
という問題である.
本書は,まさにこの2つの問題のギャップを埋める目的で書かれたといってよい.
したがって,本書を最も読んで欲しい医師群は,①内科研修医または脳神経外科研修医,②めまいの勉強をしてみたい内科医,③じっくり読んでめまいの研究をしたい耳鼻咽喉科研修医,または大学でめまい診療のトレーニングの機会をもてなかった耳鼻咽喉科勤務医,の三者であり,特別な装置がなくてもとりかかれるように工夫を凝らしたつもりである.
以上のような観点から,本書は何よりも入門書であるとともに,practicalな診断学の指南書であることを企図して,往診カバンに用意すべき7つ道具の図説から第1章を書き起こした.第2章は,なぜそのような診断行為(検査・診療と観察)を行うのかという理論的根拠を平易に記した.古典的な教科書である冲中重雄の『内科診断学』(医学書院)には,神経学的診断の基本が書かれており,当時若い学徒であった筆者たちは大いにその恩恵にあずかったが,本章ではclinical physiologyとしての「めまい診断学」の基礎知識であるminimum requirementを書いた.
続いての第3章では,危険なめまい(中枢性めまい)と内耳性(末梢性)めまいの代表的な疾患のみに限定して,実際の症例を示しながら実践的な鑑別診断法を例示した.なお,第2章および第3章のcolumnは拙著『めまいの医学』(中央書林,1990年)を手直しして再録したものが中心である.
そして,最後の第4章は,平成2年(1990年)に東京大学を辞してめまいクリニックを開業して以来,第一線のめまい臨床における日々の活動の中から拾い上げたテーマをまとめた論文であり,全科の医師が集まる地区の医学会で発表し続けてきたものの中から選び,手直しして収載したものが中心である.もちろん,専門性においては新知見であり,かつ全科的な視野に立つものである.
本書はとにかく役に立つ本でありたいと願ってまとめたものであり,筆者が一筋に努めてきた「めまい学」の集大成でもある.
平成23年(2011年) 秋
二木 隆
目次
開く
第1章 図解:めまい診療
1 緊急時のめまい患者への対応
患者の状態把握のチェックポイント
患者と家族に対する問診のポイント
7つ道具による一般内科的診療
診療を進めるうえで想像すべき平衡機能のしくみ
当面の対応と処置・治療法
救急,当直での対応
2 日常診療でのめまい患者への対応
めまい診断フローチャート
患者入室時の第1印象によるスクリーニング
問診のチェックポイント
椅子に座らせてできるスクリーニング
立たせてできるスクリーニング
寝かせてできるスクリーニング
自律神経検査
画像診断を要する疾患は何か
3 耳鼻咽喉科での二次検査
オージオグラムの解釈
ENG(electronystagmograph:眼振電図)の実際
重心動揺計
第2章 めまいの基礎講義
1 平衡機能の基礎
平衡機能の基礎
回転性めまい(vertigo)と非回転性めまい(dizziness)
平衡を支えるシステム:内耳のはたらき
2 姿勢反射
内耳信号をサポートする「姿勢反射」
「足踏み検査」と「遮眼書字法」:目隠し鬼ごっこと福笑いから
平衡維持メカニズムとしての姿勢反射:「風神雷神図」の描写から
知らず知らずの「姿勢反射」の調節:狂言「船渡し婿」から
乗り物酔いを防ぐには
大脳・小脳連関ループ
起立姿勢と重心:ウィリアム・テルのリンゴから
3 眼振とめまい
温度眼振:「寝耳に水」の話
視運動性眼振
第3章 重要なめまいの診かた・考えかた
1 危険なめまい:(1)小脳障害をきたすめまい
訴えの性質
病因
所見
発生と構造:無意識の平衡感覚をつかさどる小脳
小脳の血管支配
画像診断
注意点
2 危険なめまい:(2)顔面神経異常をきたすめまい
中枢性顔面神経障害(多くは神経内科の領域である)
聴神経腫瘍
末梢性(核下性)顔面神経障害
3 良性発作性頭位めまい症
Naming:提案も含めて
History
「頭位性めまい」とメニエール病の違い:予後の決定的な違い
耳石器のおさらい(直線加速度=重力・遠心力のセンサー)
耳石機能検査法
診断のポイント
治療のコンセプト(病期に対応した治療法)
生活指導のポイント
4 メニエール病
メニエール病命名の由来
発症原因
診断基準
分類
病態
メニエール病の検査(内リンパ水腫の検査)
薬物療法
ステロイドの導入とその考え方
手術療法
生活指導,リハビリテーション
5 前庭神経炎
特徴
診断のポイント
治療法・患者説明
第4章 症例から学ぶさまざまなめまい
1 糖尿病とめまい
2 神経内科疾患(主にパーキンソン病)とめまい
3 精神症状・自律神経失調症を有するめまい
4 中枢性めまい:(1)診断名変更のめまい難診断例
5 中枢性めまい:(2)後迷路性めまい
6 頸性めまいと下眼瞼向き垂直性眼振(down beat nystagmus: DBN)
7 梅毒とめまい
8 高齢者に対するめまい治療薬の特徴-EBMに基づく解説
和文索引
欧文索引
column
1.めまいの語源とその分類:目は「舞う」のか「回る」のか
2.直線加速度に関する研究の歴史
3.福田「遮眼書字法」誕生秘話
4.乗り物酔いを防ぐ訓練
5.Bárányの「発見」
6.Bárányの鉄路眼振(Eisenbahnnystagmus)への問題提起
7.戦争の副産物:Goldon Holmusの小脳障害の研究
8.『病草紙』の鋭い描写:顔面神経麻痺
9.ワレンベルク症候群と純回旋性眼振
10.メニエール病の苦痛:文学,絵画で表現された病悩
11.メニエール病の実体(病態)は内リンパ水腫:ノーベル賞級の大発見
12.「梅毒性内リンパ水腫」と「遅発性内リンパ水腫」(メニエール病の亜型):
梅毒とおたふく風邪
13.わが国で生まれた診断基準:厚生省特定疾患「メニエール病調査研究班」(班長:渡辺勈)
14.内リンパ水腫の存在を生体で見当がつけられる「脱水試験」:
グリセロールテストとフロセミドテスト
15.ステロイドの評判
16.両側性メニエール病:メニエール病は一側耳だけの病気ではなかった!
17.ポルトマン(Portman)の偉業:サメからの着想
1 緊急時のめまい患者への対応
患者の状態把握のチェックポイント
患者と家族に対する問診のポイント
7つ道具による一般内科的診療
診療を進めるうえで想像すべき平衡機能のしくみ
当面の対応と処置・治療法
救急,当直での対応
2 日常診療でのめまい患者への対応
めまい診断フローチャート
患者入室時の第1印象によるスクリーニング
問診のチェックポイント
椅子に座らせてできるスクリーニング
立たせてできるスクリーニング
寝かせてできるスクリーニング
自律神経検査
画像診断を要する疾患は何か
3 耳鼻咽喉科での二次検査
オージオグラムの解釈
ENG(electronystagmograph:眼振電図)の実際
重心動揺計
第2章 めまいの基礎講義
1 平衡機能の基礎
平衡機能の基礎
回転性めまい(vertigo)と非回転性めまい(dizziness)
平衡を支えるシステム:内耳のはたらき
2 姿勢反射
内耳信号をサポートする「姿勢反射」
「足踏み検査」と「遮眼書字法」:目隠し鬼ごっこと福笑いから
平衡維持メカニズムとしての姿勢反射:「風神雷神図」の描写から
知らず知らずの「姿勢反射」の調節:狂言「船渡し婿」から
乗り物酔いを防ぐには
大脳・小脳連関ループ
起立姿勢と重心:ウィリアム・テルのリンゴから
3 眼振とめまい
温度眼振:「寝耳に水」の話
視運動性眼振
第3章 重要なめまいの診かた・考えかた
1 危険なめまい:(1)小脳障害をきたすめまい
訴えの性質
病因
所見
発生と構造:無意識の平衡感覚をつかさどる小脳
小脳の血管支配
画像診断
注意点
2 危険なめまい:(2)顔面神経異常をきたすめまい
中枢性顔面神経障害(多くは神経内科の領域である)
聴神経腫瘍
末梢性(核下性)顔面神経障害
3 良性発作性頭位めまい症
Naming:提案も含めて
History
「頭位性めまい」とメニエール病の違い:予後の決定的な違い
耳石器のおさらい(直線加速度=重力・遠心力のセンサー)
耳石機能検査法
診断のポイント
治療のコンセプト(病期に対応した治療法)
生活指導のポイント
4 メニエール病
メニエール病命名の由来
発症原因
診断基準
分類
病態
メニエール病の検査(内リンパ水腫の検査)
薬物療法
ステロイドの導入とその考え方
手術療法
生活指導,リハビリテーション
5 前庭神経炎
特徴
診断のポイント
治療法・患者説明
第4章 症例から学ぶさまざまなめまい
1 糖尿病とめまい
2 神経内科疾患(主にパーキンソン病)とめまい
3 精神症状・自律神経失調症を有するめまい
4 中枢性めまい:(1)診断名変更のめまい難診断例
5 中枢性めまい:(2)後迷路性めまい
6 頸性めまいと下眼瞼向き垂直性眼振(down beat nystagmus: DBN)
7 梅毒とめまい
8 高齢者に対するめまい治療薬の特徴-EBMに基づく解説
和文索引
欧文索引
column
1.めまいの語源とその分類:目は「舞う」のか「回る」のか
2.直線加速度に関する研究の歴史
3.福田「遮眼書字法」誕生秘話
4.乗り物酔いを防ぐ訓練
5.Bárányの「発見」
6.Bárányの鉄路眼振(Eisenbahnnystagmus)への問題提起
7.戦争の副産物:Goldon Holmusの小脳障害の研究
8.『病草紙』の鋭い描写:顔面神経麻痺
9.ワレンベルク症候群と純回旋性眼振
10.メニエール病の苦痛:文学,絵画で表現された病悩
11.メニエール病の実体(病態)は内リンパ水腫:ノーベル賞級の大発見
12.「梅毒性内リンパ水腫」と「遅発性内リンパ水腫」(メニエール病の亜型):
梅毒とおたふく風邪
13.わが国で生まれた診断基準:厚生省特定疾患「メニエール病調査研究班」(班長:渡辺勈)
14.内リンパ水腫の存在を生体で見当がつけられる「脱水試験」:
グリセロールテストとフロセミドテスト
15.ステロイドの評判
16.両側性メニエール病:メニエール病は一側耳だけの病気ではなかった!
17.ポルトマン(Portman)の偉業:サメからの着想
書評
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めまい診療にかかわるすべての方に勧める1冊
書評者: 北原 糺 (大阪労災病院耳鼻咽喉科部長)
めまい診療に関するテキストは今までにもたくさん出版されていますが,内容は患者さん向け,研修医向け,専門医向けと別々に企画されているものが多く,膨大な内容を網羅するため分冊の形態を取らざるを得ないか,1冊にまとめられたとしてもページ数が多くなり分厚くならざるを得ない傾向がありました。
ところが,このたび医学書院から出版された『めまいの診かた・考えかた』は,初期研修医,若手耳鼻咽喉科医,めまい非専門の耳鼻咽喉科医,内科医,他科医,さらにはめまい専門医にとっても充実した内容の1冊であり,このような幅広いニーズに対応できるテキストはほかに例を見ません。しかも,現場のコメディカルスタッフにも学習しやすく書かれており,それでいて150ページ程度に簡潔にまとめられているので,持ち運びしやすく誰もが必要時に参照することができて便利です。
「第1章 図解:めまい診療」には,めまい患者への基本的な救急対応の仕方が解説されていて,めまいを内科救急で診る必要がある初期研修医,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医が診察と治療を勉強するのに役立ちます。「第2章 めまいの基礎講義」には,めまい患者の病理・病態を考える上で必要不可欠な基礎知識が解説されていて,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医,めまいのことを今さら人に聞けないめまい非専門の耳鼻咽喉科医が,めまい平衡の基礎知識を充実させる上で有用です。「第3章 重要なめまいの診かた・考えかた」には,めまい患者の鑑別診断,確定診断に必要な専門知識が解説されていて,めまい専門医にとっても日ごろ行っているめまい診断の道筋を整理し直す上で役立つレベルの高い内容です。また,次の時代を担う新しいめまい治療法のヒントが隠されているかも知れません。「第4章 症例から学ぶさまざまなめまい」には,著者がめまい診療最前線で取り扱いに難渋した症例を中心に呈示されていて,広くめまい患者を日常的に診療している内科医や他科医にとって便利な内容です。その他,めまいに関する歴史的な逸話が豊富に盛り込まれたコラムも楽しめます。
著者は,私が生まれた昭和41年に京都大学の耳鼻咽喉科めまい平衡グループの門をたたかれている大先輩で,のちに東京大学に移られてからも多くのめまい患者を手掛けられ,また多くのめまい専門医を育てられました。著者のめまい診療とめまい教育に関する経験から得られた叡智が,この1冊に凝縮されていると言えるのではないでしょうか。
めまいを診療するすべての臨床医に薦める良書
書評者: 田久保 秀樹 (荏原病院神経内科部長)
めまいはプライマリケアの重要な症状の一つである。突然のめまいを発症した患者は嘔吐し,起立困難であれば車で連れてこられ,救急車を要請されることも少なくない。耳鼻咽喉科に限らず,かかりつけ医,内科,脳神経外科,神経内科に救急受診することが多く,患者は脳卒中などを心配して画像検査を希望することも少なからずある。また,慢性のめまい,ふらつきを主訴に受診する中高年の患者も多い。血液検査や画像検査をして異常がなければ対症療法で帰宅することになる。しかし,患者自身はめまいの原因がわからずに不安を抱えて生活している。自称メニエール病の何と多いことか。これらはめまいの診療では日常茶飯事である。
めまいはありふれた症状ではあるが,めまいで発症して小脳出血であった症例,軽いめまいの2日後に重篤な脳幹梗塞を来した症例,ふらつきの原因が多発性脳梗塞・慢性硬膜下血腫であった症例,徐々に進行して脊髄小脳変性症であることが判明した症例など非特異的な症例も多々あり,小生は神経内科医であるが,めまいの診断は必ずしも容易ではないと常々考えている。本書ではその注意ポイントが平易に示されている。
著者はめまいを専門として研究を積み重ね,近年は地域医療の中で実地医家としてめまい診療をしている。本書は著者がまとめ上げた珠玉のエッセンスである。第1章では緊急時と日常診療でのめまい診療を図解で大変わかりやすく解説している。問診の重要性と鑑別に必要な診察方法を述べ,二次・三次救急への搬送が必要なチェックポイントについて,めまいを専門としない医師のために詳細が示されている。プライマリケア医はぜひご一読いただきたい。第2章はめまいの病態を理解する上での基礎事項が歴史的背景を踏まえて解説されている。第3章ではめまいを来す代表的な疾患について専門家でなくとも理解できるように説明されている。良性発作性頭位めまい症の項では運動療法についても図解で説明されている。メニエール病の項では突発性難聴からメニエール病に「化ける」症例が少なくないことを知って目からウロコであった。さらに第2―3章にある17のコラムは一息つきながら興味深く読めて,めまいを理解する上で優れた内容である。
本書はめまいを診療するすべての医師に必要な事項をわかりやすく記載した著作であり,耳鼻咽喉科医はもちろん,めまいを専門とはしないが日常診療でめまいの診療をする機会の多い研修医,家庭医,総合診療医,内科医,脳神経外科医,神経内科医をはじめとするすべての医師に推奨するものであり,実践的な良書である。ぜひご一読の上,日常診療でご活用いただきたい。
めまいの病態生理から臨床症状・治療方針までを説き起こした画期的テキスト
書評者: 加我 君孝 (東京医療センター・臨床研究センター名誉センター長/国際医療福祉大三田病院教授・耳鼻咽喉科)
フランスの神経学者のシャルコー(1825-1893年)が“眼振にだけは手を出すな”と言ったほど眼振というのは当時わかりにくいものであったが,現在ではその生理も病態もよくわかるようになっている。初期研修医にとってめまい発作を呈する救急患者が運ばれたときは,CTをオーダーして脳に病変がないかどうかチェックする程度であるかもしれないが,耳鼻咽喉科以外の医師であってもフレンツェル眼鏡で頭位眼振検査をすれば,おそらく半数以上の患者の正しい診断が可能であろう。眼振の有無がわかるからである。ただし,そのためには眼振の正しい診かた・考えかたを身につけていなければできることではない。
本書は,この100年めまい・平衡障害の領域で星野貞次,福田精,檜學の各教授をはじめとする多くの人材を生んだ伝統のある京都大学耳鼻咽喉科学教室で研鑽を積み,アカデミックなキャリアの後,現在めまいを中心とする東京のプライベートクリニックで活躍する二木隆先生による半世紀のめまい診療の総決算である。
本書は4つの章とコラムからなる。第1章の「図解:めまい診療」では,(1)緊急時のめまい患者への対応,(2)日常診療でのめまい患者への対応,(3)耳鼻咽喉科での二次検査に分けて,イラスト,写真,表を用いてわかりやすく説明している。電気眼振計の記録(ENG)の重要性を強調している。しかし,所見を記載してもその背後にある病態生理がわからないとなぜそうなるのか理解ができないため,第2章「めまいの基礎講義」冒頭のカラー図譜で解剖と病態生理をわかりやすく説明している。めまいと眼振はここの理解なしにはいくら経験しても深くならない。次に第3章「重要なめまいの診かた・考えかた」で小脳障害,顔面神経麻痺を伴うめまい,良性発作性頭位めまい症,メニエール病,前庭神経炎について最近の考えかたと症例が説明されている。第4章「症例から学ぶさまざまなめまい」では著者が発表した論文のうち,末梢性めまいから中枢性めまいまでのエッセンスを記載している。
本文以外に本書を特徴付けているのは17からなるコラムである。バラニーやメニエールの発見などをはじめ,読者がおもしろく読んでかつ本質が理解できるような工夫されたコラムである。
眼振や眼球運動は動きのあるものであり,いくら記述しても研修医や専門外の医師にとってはわかりにくいものである。本書を改訂する際には,短くてもよいので眼振・眼球運動に関する動画のDVDを付録に付けると理解が増すであろう。
現在は既にシャルコーの時代と違い,眼振には積極的に手を出すことで,正しい診断が可能な時代であることを本書は教えてくれる。
書評者: 北原 糺 (大阪労災病院耳鼻咽喉科部長)
めまい診療に関するテキストは今までにもたくさん出版されていますが,内容は患者さん向け,研修医向け,専門医向けと別々に企画されているものが多く,膨大な内容を網羅するため分冊の形態を取らざるを得ないか,1冊にまとめられたとしてもページ数が多くなり分厚くならざるを得ない傾向がありました。
ところが,このたび医学書院から出版された『めまいの診かた・考えかた』は,初期研修医,若手耳鼻咽喉科医,めまい非専門の耳鼻咽喉科医,内科医,他科医,さらにはめまい専門医にとっても充実した内容の1冊であり,このような幅広いニーズに対応できるテキストはほかに例を見ません。しかも,現場のコメディカルスタッフにも学習しやすく書かれており,それでいて150ページ程度に簡潔にまとめられているので,持ち運びしやすく誰もが必要時に参照することができて便利です。
「第1章 図解:めまい診療」には,めまい患者への基本的な救急対応の仕方が解説されていて,めまいを内科救急で診る必要がある初期研修医,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医が診察と治療を勉強するのに役立ちます。「第2章 めまいの基礎講義」には,めまい患者の病理・病態を考える上で必要不可欠な基礎知識が解説されていて,これからめまいを勉強する若手耳鼻咽喉科医,めまいのことを今さら人に聞けないめまい非専門の耳鼻咽喉科医が,めまい平衡の基礎知識を充実させる上で有用です。「第3章 重要なめまいの診かた・考えかた」には,めまい患者の鑑別診断,確定診断に必要な専門知識が解説されていて,めまい専門医にとっても日ごろ行っているめまい診断の道筋を整理し直す上で役立つレベルの高い内容です。また,次の時代を担う新しいめまい治療法のヒントが隠されているかも知れません。「第4章 症例から学ぶさまざまなめまい」には,著者がめまい診療最前線で取り扱いに難渋した症例を中心に呈示されていて,広くめまい患者を日常的に診療している内科医や他科医にとって便利な内容です。その他,めまいに関する歴史的な逸話が豊富に盛り込まれたコラムも楽しめます。
著者は,私が生まれた昭和41年に京都大学の耳鼻咽喉科めまい平衡グループの門をたたかれている大先輩で,のちに東京大学に移られてからも多くのめまい患者を手掛けられ,また多くのめまい専門医を育てられました。著者のめまい診療とめまい教育に関する経験から得られた叡智が,この1冊に凝縮されていると言えるのではないでしょうか。
めまいを診療するすべての臨床医に薦める良書
書評者: 田久保 秀樹 (荏原病院神経内科部長)
めまいはプライマリケアの重要な症状の一つである。突然のめまいを発症した患者は嘔吐し,起立困難であれば車で連れてこられ,救急車を要請されることも少なくない。耳鼻咽喉科に限らず,かかりつけ医,内科,脳神経外科,神経内科に救急受診することが多く,患者は脳卒中などを心配して画像検査を希望することも少なからずある。また,慢性のめまい,ふらつきを主訴に受診する中高年の患者も多い。血液検査や画像検査をして異常がなければ対症療法で帰宅することになる。しかし,患者自身はめまいの原因がわからずに不安を抱えて生活している。自称メニエール病の何と多いことか。これらはめまいの診療では日常茶飯事である。
めまいはありふれた症状ではあるが,めまいで発症して小脳出血であった症例,軽いめまいの2日後に重篤な脳幹梗塞を来した症例,ふらつきの原因が多発性脳梗塞・慢性硬膜下血腫であった症例,徐々に進行して脊髄小脳変性症であることが判明した症例など非特異的な症例も多々あり,小生は神経内科医であるが,めまいの診断は必ずしも容易ではないと常々考えている。本書ではその注意ポイントが平易に示されている。
著者はめまいを専門として研究を積み重ね,近年は地域医療の中で実地医家としてめまい診療をしている。本書は著者がまとめ上げた珠玉のエッセンスである。第1章では緊急時と日常診療でのめまい診療を図解で大変わかりやすく解説している。問診の重要性と鑑別に必要な診察方法を述べ,二次・三次救急への搬送が必要なチェックポイントについて,めまいを専門としない医師のために詳細が示されている。プライマリケア医はぜひご一読いただきたい。第2章はめまいの病態を理解する上での基礎事項が歴史的背景を踏まえて解説されている。第3章ではめまいを来す代表的な疾患について専門家でなくとも理解できるように説明されている。良性発作性頭位めまい症の項では運動療法についても図解で説明されている。メニエール病の項では突発性難聴からメニエール病に「化ける」症例が少なくないことを知って目からウロコであった。さらに第2―3章にある17のコラムは一息つきながら興味深く読めて,めまいを理解する上で優れた内容である。
本書はめまいを診療するすべての医師に必要な事項をわかりやすく記載した著作であり,耳鼻咽喉科医はもちろん,めまいを専門とはしないが日常診療でめまいの診療をする機会の多い研修医,家庭医,総合診療医,内科医,脳神経外科医,神経内科医をはじめとするすべての医師に推奨するものであり,実践的な良書である。ぜひご一読の上,日常診療でご活用いただきたい。
めまいの病態生理から臨床症状・治療方針までを説き起こした画期的テキスト
書評者: 加我 君孝 (東京医療センター・臨床研究センター名誉センター長/国際医療福祉大三田病院教授・耳鼻咽喉科)
フランスの神経学者のシャルコー(1825-1893年)が“眼振にだけは手を出すな”と言ったほど眼振というのは当時わかりにくいものであったが,現在ではその生理も病態もよくわかるようになっている。初期研修医にとってめまい発作を呈する救急患者が運ばれたときは,CTをオーダーして脳に病変がないかどうかチェックする程度であるかもしれないが,耳鼻咽喉科以外の医師であってもフレンツェル眼鏡で頭位眼振検査をすれば,おそらく半数以上の患者の正しい診断が可能であろう。眼振の有無がわかるからである。ただし,そのためには眼振の正しい診かた・考えかたを身につけていなければできることではない。
本書は,この100年めまい・平衡障害の領域で星野貞次,福田精,檜學の各教授をはじめとする多くの人材を生んだ伝統のある京都大学耳鼻咽喉科学教室で研鑽を積み,アカデミックなキャリアの後,現在めまいを中心とする東京のプライベートクリニックで活躍する二木隆先生による半世紀のめまい診療の総決算である。
本書は4つの章とコラムからなる。第1章の「図解:めまい診療」では,(1)緊急時のめまい患者への対応,(2)日常診療でのめまい患者への対応,(3)耳鼻咽喉科での二次検査に分けて,イラスト,写真,表を用いてわかりやすく説明している。電気眼振計の記録(ENG)の重要性を強調している。しかし,所見を記載してもその背後にある病態生理がわからないとなぜそうなるのか理解ができないため,第2章「めまいの基礎講義」冒頭のカラー図譜で解剖と病態生理をわかりやすく説明している。めまいと眼振はここの理解なしにはいくら経験しても深くならない。次に第3章「重要なめまいの診かた・考えかた」で小脳障害,顔面神経麻痺を伴うめまい,良性発作性頭位めまい症,メニエール病,前庭神経炎について最近の考えかたと症例が説明されている。第4章「症例から学ぶさまざまなめまい」では著者が発表した論文のうち,末梢性めまいから中枢性めまいまでのエッセンスを記載している。
本文以外に本書を特徴付けているのは17からなるコラムである。バラニーやメニエールの発見などをはじめ,読者がおもしろく読んでかつ本質が理解できるような工夫されたコラムである。
眼振や眼球運動は動きのあるものであり,いくら記述しても研修医や専門外の医師にとってはわかりにくいものである。本書を改訂する際には,短くてもよいので眼振・眼球運動に関する動画のDVDを付録に付けると理解が増すであろう。
現在は既にシャルコーの時代と違い,眼振には積極的に手を出すことで,正しい診断が可能な時代であることを本書は教えてくれる。
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