高齢者救急
急変予防&対応ガイドマップ

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ありそうでなかった高齢者救急のガイドマップ! 高齢者救急はもはや避けては通れない時代。高齢者は、訴えがあいまいで症状がはっきりとあらわれない、背後に重い病気が隠れているかもしれないなど、とにかく判断に迷うケースばかり。そんな悩めるケースの初期アセスメント→対応の流れを一目でわかるチャートで解説。目の前の高齢者のどこに気をつければいいのかがズバッとわかる。

シリーズ JJNスペシャル
岩田 充永
発行 2010年07月判型:AB頁:144
ISBN 978-4-260-01131-0
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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本書を読まれるみなさんへ

◎――高齢者の救急を避けては通れない!!
 「日本は急速に社会の高齢化が進み……」という文言をいろいろな機会に聞くようになりました。確かに街でも多くの高齢者をみかけます。元気に孫と散歩をする、旅行をする、ファミレスに集まってお茶をする……。そんな高齢者が増えることは国の豊かさの表れであり、素敵なことなのですが、残念ながら高齢者は少しの事で怪我を負ったり体調を崩しやすくなっています。そのため、高齢者の増加は高齢救急患者の増加に直結します。
 そんな現代に働くわれわれ医療従事者は──小児科、新生児科だけで勤務しない限り──高齢者救急は避けることができない分野となりました。
 しかし、病院で救急医療に従事している看護師さんの中には、救急隊からのホットラインで「傷病者は86歳で……」と連絡が入った瞬間にモチベーションが下がってしまう医師の姿を目撃した方も少なくないでしょう。あるいは介護施設で働いているみなさんの中には、元気がなさそうな入所者の受診依頼の電話を病院にかけたら、露骨に不機嫌な対応をされた経験がある方も数多くいらっしゃると思います。

 なぜ、このようなことが起こってしまうのでしょうか?

 残念なことですが、この国で高齢者救急はあまり熱心に考えられてきた分野ではありません。老年医学の専門家の多くは、認知症や動脈硬化、あるいはアンチエイジングといった老化に対する研究が専門分野ですし、救急医学の専門家の多くは、外傷や熱傷、ショックなど重篤な病態への対応が主たる専門分野でした。専門分化がどんどん進んでいる医学の分野で、ただでさえ狭間に陥りそうな老年医学と救急医学の、さらにその狭間に高齢者救急は追いやられてきたのです。

◎――あいまいな高齢者救急こそ力の見せ所
 高齢者救急は、診断がはっきりしない、病気以外にもたくさんの問題がある、治療がうまくいってもそれだけでは患者の幸福にはつながらない、など一言でいえば「あいまいさ」が特徴です。この「あいまいさ」こそが高齢者救急の難しさの正体です(専門性を求める医療者が距離を置く原因でもあります)。
 そこで、ともすれば敬遠されがちな高齢者救急に関してあまり疲れないで気楽に読めて、「あいまいさ」が少しでもスッキリする、あるいは、その「あいまいさ」にこそ興味をもてるような本を書くことができないかと思い立ったのが執筆のきっかけです。

◎――高齢者に優しい医療者に
 人間はみな年をとり、いつかは必ず高齢者になります。どのような格差社会になろうとも、これだけは唯一平等な事実です。この国で医療、福祉に従事する者として、自分の家族、そして自分の将来のためにも高齢者に優しい医療従事者が増えていってほしいものです。
 最後に、私の老年医学の恩師に教わった大切な言葉を紹介したいと思います。

「老年医学とは想像と優しさの産物である。いろいろな病気や怪我を経験した医療従事者はいても、誰も老いを経験したことはない。だから、老年医学には想像で臨むしかないのだ。想像のためには優しさが大切なのだ」

 本書を手に取ってくださったあなたは、高齢者の救急に対して何かを学びたいと感じた、優しさと想像力に富んだ素敵な医療従事者であると思います。さあ、一緒に高齢者救急について学びましょう!!

 岩田充永

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本書を読まれるみなさんへ
本書の見方

高齢者の身体的・生理学的特徴─注意するべき14の場面
高齢者の救急受診─5つの特徴と注意点
高齢者のアセスメント・初期対応
 CASE 1 【元気なし】「元気がなくて動けません」
  (漠然とした訴えからの情報収集)
 CASE 2 【転倒】「転んで怪我をしました」
  (背後の急病は? 高齢者に多い外傷・骨折の解説)
 CASE 3 【認知症】「急にわけがわからないことを言います。認知症でしょうか?」
  (認知症とせん妄の違い、背後の急性疾患)
 CASE 4 【発熱】「発熱といってもたいした熱じゃないし、大丈夫ですよね?」
  (頻度が高い感染症、見逃しやすい感染症)
 CASE 5 【便秘】「お腹を痛がっています。便秘症でしょうか?」
  (こわい血管疾患、見落としやすい閉鎖孔ヘルニア、便秘)
 CASE 6 【意識障害】「意識がありません」
  (失神とけいれんの鑑別、失神の対応法)
 CASE 7 【呼吸困難】「呼吸が苦しそうです」
  (喘息? COPD? 心不全?)
 CASE 8 【失神】「意識を失ったようです。今は回復しましたが……」
  (一過性意識消失をTIAと言ってないか?)
 CASE 9 【胸痛】「胸を苦しがっています」
  (3大重篤疾患、虚血性胸痛の初期対応)
 CASE 10 【めまい】「めまいがします」
  (めまいやふらつきの評価)
 CASE 11 【ショック】「顔色が悪いようです。もしかしてショック?」
  (ショックの鑑別、初期対応)
 CASE 12 【虐待】「これって虐待?」
  (高齢者虐待への対応法)
 CASE 13 【介護疲労】「入院させてもらえませんか?」
  (介護ストレスへの対応法、介護保険)

Q&A
 高齢者の心肺停止症例で胸骨圧迫を行うと肋骨が折れてしまうのではないかと心配になります。
 麻痺をきたしている高齢者のアセスメントではどこに注意するべきですか?
 目の前でけいれんを起こした患者さんの対応をする時の注意点は?
 胃ろうが抜けてしまった時、応急処置はどうしたらよいでしょうか?
 腰痛の高齢者のアセスメントでは何に気をつけるべきでしょうか?

PICK UP
 高齢者増加のスピード
 外傷看護アプローチ
 高齢者と薬
 低流量システムによる酸素投与
 呼吸困難のフィジカルアセスメント
 意識レベルの評価
 注意が必要な高齢者の検査値
 心電図の誘導
 要介護高齢者が生活する施設

文献
索引

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高齢者救急のポイントが整理され臨床で即活用できる一冊 (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 川原 千香子 (東京医科大学病院 教育担当看護師長 救急看護認定看護師)
 JJNスペシャルは、わかりやすい項目立てや和むイラストが特徴のシリーズである。近年さらにイラストや写真がふんだんに使われ、カラフルになり、内容も文章だけではなく、フローチャートやその他の図解でわかりやすくなった。

 今回の『高齢者救急』も、高齢者の身体的生理学的特徴や救急診療におけるポイントの解説の後、主題である高齢者の救急事例におけるアセスメントと初期対応について、ケースを提示しポイントが整理されているため、たいへん読みやすい。特に、アセスメントから初期対応の流れは、ケースごとにフローチャート形式で提示してあり、「まずコレ」「キケンな一言」が書かれている。また、それぞれ事例と課題、解答、実践例とポイントがまとめられているため、自分の疑問点や知りたいところをピックアップして読むことができ、臨床ですぐ活用できる内容になっている。

◆高齢者救急の現状

 なぜ“高齢者救急”なのだろうか。著者岩田充永医師は「本書を読まれるみなさんへ」で、老年医学では老化の研究が主で、救急医学では外傷、熱傷、ショックが主で、その狭間に高齢者救急はおいやられてきたのではないかと問題提起している。また著者は、高齢者救急の特徴は病気以外のたくさんの問題や治療の限界などの“あいまいさ”であると表現している。その“あいまいさ”に興味がもてるようにと本書を書かれたそうだ。

 なるほどと思うのは、事例の課題や解説中に「医師がこんな危険な一言を発したときこそ、看護師の慎重な初期対応が求められる」など、医師のみの判断ではなく、看護師が観察や情報収集をカバーするというように読み取れる箇所がいくつかあることである。著者は、そのプロフィールで、高齢者救急をオーケストラにたとえ、患者とその家族の幸福につなげるためには、医師、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師など多くの職種のアンサンブルがとても重要と書かれている。それだけ高齢者救急は、従来の医学的な診断、治療だけでは困難であることを実感されているのだと感じた。

◆高齢者の情報収集の難しさ

 救急場面では、突然運ばれてきた患者から、できる限り多くの情報を系統立てて収集し、今必要な診療やケアを提供できるように、チームで瞬時に判断対応することが求められる。年齢性別等にかかわらず、積極的に、少ない情報から的確なフィジカルアセスメントを行い、生命危機回避を最優先にした診療看護が行われる。

 しかし、高齢者では典型的な疾患が非典型的症状で現れることや、知覚・感覚・運動能力の低下や、認知症をはじめとした記憶力や脳機能の低下により病状の発見が遅れるなどの特徴があり、うまく情報収集ができないと悩むことも少なくないのではないだろうか。この書籍では「元気がなくて動けない」「急にわけのわからないことをいう」など、緊急性の判断に悩むケースが取り上げられている。高齢者の特徴をよく理解したうえで観察し、さらに高齢者の特徴に照らし合わせたアセスメントを行うことができれば、より的確な診療やケアを提供できる。この書籍はそのような情報収集やケアの提供のガイドブックになりそうである。

◆高齢者を取り巻く社会の変化

 少し視点を変えてみると、2010年夏、今年は北海道でも気温が30度をなかなか下回らない酷暑で、熱中症の救急搬送が激増、なかでも高齢者の居室内での発症および死亡例が続いた。さらに近年、高齢ドライバーの操作間違いによる痛ましい交通事故も後を絶たない。老老介護の時代である今、高齢ドライバーがその家族の病院への送り迎えを余儀なくされている、そんな背景が思い浮かぶ。

 高齢者を取り巻く社会の変化に伴って、従来は、疾病救急が中心で残存機能の維持や生命予後の配慮に重きをおいていた高齢者対応のみならず、対象に合わせた積極的な社会復帰への介入を今まで以上にチームで取り組むことが求められている。そのため、身体の老化や限界と向き合って、その予備能力に応じた患者の身体的、精神的、社会的背景をアセスメントし、介入することが看護師の高齢者救急対応の基本だと考える。さらに高齢者救急医療・看護では、より速やかな生命危機回避に加え、早期から退院援助を意識した介入が必要である。そのためには、高齢者の特徴を正しく理解し、その回復過程にかかる時間や回復機能の違いに応じた対応を学ぶ必要があるだろう。

◆病院全体のクリティカルケア化が進むなかで

 第6回クリティカルケア看護学会長である札幌市立大学看護学部長中村惠子氏は、学会HPで、病院全体のクリティカルケア化が進行していることを指摘し、「クリティカルケア看護の知識、技術はすべての看護職が共有しあい他職種と有機的に協働、連携し提供されるのは当然であるかのごとく変化してきた」と述べている。まさに高齢者救急もその典型である。救急初療場面、ICUのみならず、一般病棟、介護施設、デイケア、在宅どの場面にも必要である。

 この書籍は多くの看護者の高齢者救急(急変)学習の入門書になるだろう。

(『看護学雑誌』2010年11月号掲載)

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