がん臨床試験テキストブック
考え方から実践まで

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CRCをはじめ医師、薬剤師、看護師など、がん臨床試験に携わる医療者が必ず知っておくべき情報を理解しやすくまとめた。法規制、倫理ガイドライン、臨床試験デザイン、QOL評価、研究組織などの基礎的知識から、プロトコル・レビュー、管理、治療効果判定、有害事象の評価・報告などCRC業務の実際に至るまで、臨床現場ですぐに役立つ内容となっている。
編集 公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター がん臨床研究支援事業(CSPOR)教育研修小委員会
責任編集 大橋 靖雄 / 渡辺 亨 / 青谷 恵利子 / 齋藤 裕子
発行 2013年10月判型:B5頁:248
ISBN 978-4-260-01645-2
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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  • 序文
  • 目次
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序に替えて:がん臨床試験CRCセミナーの思い出

 本書の起源は,東京・神楽坂にオープンしたばかりのアグネスホテル東京で2000年5月12~13日に開催されたCSPOR第1回CRCセミナー(http://www.csp.or.jp/cspor/seminar/)に遡る。CSPOR(Comprehensive Support Project for Oncology Research)は,財団法人(現在は公益財団法人)パブリックヘルスリサーチセンターが主催し,現在も数多くのがん臨床試験・疫学研究を支援する事業である。昨今の降圧薬臨床試験に関する不祥事の背景の一つは,中立の立場で資金管理と研究管理を行う組織の不在であった。当時,新しい乳がん補助療法臨床試験(NSAS-BC02)を計画されておられた本書責任編集のお一人である渡辺亨先生が私に試験実施のための新組織の設立を依頼されたことがCSPOR設立,がん臨床試験に携わるCRC向けの上記セミナーの開始,そして本書執筆に繋がることになる。本書に寄稿されたほぼ全員が,運営委員・講師・グループディスカッションのリーダーとして本セミナーを支えてきた方々である。
 わが国でCRCの必要性がやっと認識され本格的な教育が開始されたのがGCP導入の1997~1998年である。病院の看護部・薬剤部からの出向と非常勤採用からなるCRCの地位は不安定であり,将来のキャリアに関する見通しは不確かであった。まして高度な知識と膨大な業務量が必要とされるがん領域において,質の高い試験実施に必須であるCRC教育を「とにかく始める」「皆で将来を考えよう」が本セミナーのミッションであった。
 NSAS-BC02試験の先駆であり「日本のがん医療を変えた」とされるNSAS-BC試験(小崎丈太郎:N・SAS試験─日本のがん医療を変えた臨床試験の記録.日経メディカル開発,2013)を支えた方々,そして(臨床の他領域では考えにくいことであるが)BC02試験に資金提供を表明された二つのライバル企業の方々がセミナー立ち上げに参画され,全国から42名の受講者が参集し,泊りこみで熱い議論が展開された。このグループディスカッションは本セミナーの名物となる。セミナーは2011年10月の第23回まで,途中からは婦人科がん共同研究グループJGOGの共催により,延べ2,020人のCRCと臨床試験支援スタッフの教育を行った。
 臨床試験に参画する施設体制の整備とCRC数の増加とともに,セミナー参加者の背景が変化してきた。参加者の半数は初回参加者やがん臨床試験の初心者となり,基礎的な教育と実務に即したグループディスカッションのバランスをいかに保つかが常に議論されるようになった。そこで,初心者にとっては目標となり,中・上級者にとっては参加の前提となるような教科書を作るためにセミナーの講演を書き起こそうと渡辺亨先生が発案され,メディカルライターの佐久間光江さんが原稿を作られた。この原稿を加筆修正するため,本書責任編集の齋藤裕子さんと青谷恵利子さんに加え,一木龍彦さん,木茂さんが休日返上で何度も編集作業を行い,いくつかの章は書き下ろしで追加され,ようやく本書の上梓となった。企画がなされた2008年10月から5年がかりである。この序文の執筆が私にとってのCRCセミナーの幕引きである。

 2013年9月
 責任編集を代表して
 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻生物統計学・教授
 元CSPOR-BC運営委員長 大橋靖雄


 追記:2013年8月31日の日本臨床腫瘍学会において,同学会と日本臨床試験研究会(2014年には学会となる予定)共同のプロジェクトとして,中・上級者向けがん臨床試験CRCセミナーが開催された。このセミナーは最新の情報提供を行うことが主目的であり,グループディスカッションを伴うがん臨床試験支援スタッフ向けの教育は日本臨床試験研究会主催で開催されることとなる。同時に日本臨床試験研究会による「がん臨床研究専門職認定」の準備も始まった。

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 序章 がん臨床試験の全体像とCRCの役割
  1.がん治療に関する臨床試験の全体像
  2.がん臨床試験におけるCRCの専門性
  3.おわりに

I.基礎知識編
 第1章 がん治療心得帳
  1.がんとはどのような疾患か
  2.がん治療で使う薬剤の特徴
  3.日本のがんを取り巻く環境
 第2章 がん臨床試験におけるEBMの重要性
  1.EBMとは
  2.情報収集
  3.情報の批判的吟味とエビデンスレベル
 第3章 がん臨床試験にかかわる法律
  1.臨床試験に関する法体系
  2.GCPとは何か
  3.GCPの遵守と違反
  4.「臨床研究に関する倫理指針」の展望
  5.個人情報の保護とGCP
 第4章 がん臨床試験の倫理の基本
  1.臨床研究の実施に必要な条件
  2.臨床研究の条件が出てきた背景
  3.新たな規制の必要性
  4.研究に携わる人の役割と責任
 第5章 品質管理・品質保証とデータマネジメント
  1.臨床試験の信頼性
  2.品質管理・品質保証
  3.臨床試験データマネジメント
  4.モニタリング
 第6章 がん臨床試験のデザイン
  1.がん臨床試験の特徴
  2.臨床試験デザインのポイント
  3.がん臨床試験デザインの最近の展開
  4.おわりに
 第7章 がん臨床試験に必要な統計学的考え方と解析手法
  1.「割合」と「率」
  2.生存時間解析に出てくる用語
 第8章 がん臨床試験のエンドポイント
  1.臨床試験の骨格とエンドポイント
  2.主要評価項目と副次的評価項目
  3.試験の相とエンドポイント
  4.エンドポイント設定における注意点
  5.生存に関するエンドポイントの定義とその考え方
  6.エンドポイントの測定における問題点
  7.真のエンドポイントと代替エンドポイント
  8.支持療法とエンドポイントの評価
 第9章 健康アウトカム評価と医療経済評価
  1.医療における「健康アウトカム」とは
  2.がん臨床試験において健康アウトカムを評価する意味
  3.がん臨床試験で評価が求められる
   主観的健康アウトカム(PROs)とQOLの概念
  4.QOL評価尺度の種類
  5.QOLの定量的評価法
  6.がん臨床試験におけるQOL評価の実際
  7.医療経済評価の意義
 第10章 医薬品開発の流れ
  1.医薬品開発の概観
  2.抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインにみる臨床試験の流れ
  3.抗がん剤開発の進歩と新たな臨床試験のありかた
  4.治験相談と承認審査
  5.市販後の臨床試験
 第11章 がん臨床試験の組織と実施体制
  1.がん臨床試験の支援組織の種類
  2.臨床試験の実施体制とCRCの位置づけ
  3.臨床試験への財政支援
  4.海外の臨床試験グループ

II.CRC業務の実際編
 第12章 CRCの視点で行うがん臨床試験のプロトコル・レビュー
  1.プロトコルとは
  2.プロトコル・レビュー
  3.CRCの視点で行うプロトコル・レビューのポイント
 第13章 臨床試験の情報提供とコミュニケーション
  1.CRCによる情報提供の重要性
  2.コミュニケーションの6つのポイント
  3.がん臨床試験におけるインフォームドコンセント
 第14章 がん臨床試験の管理とマネジメントツール
  1.臨床試験全体の管理
  2.被験者スクリーニング時の管理ツール
  3.症例登録後の管理ツール
  4.被験者情報の共有
 第15章 固形がんの治療効果判定規準-RECIST
  1.病変の測定と分類
  2.効果判定
  3.RECIST評価の手順
  4.腫瘍評価の例
  5.よくある質問
  6.CRCに期待される役割
 第16章 有害事象の評価と報告(CTCAE)
  1.CTCAEとは
  2.グレード評価における注意点
  3.因果関係の評価
  4.有害事象(安全性)評価を行う際の留意点
  5.重篤な有害事象の報告
 第17章 有害事象の情報収集・評価・マネジメント
  1.全身倦怠感と四肢の浮腫を取り上げた理由
  2.全身倦怠感
  3.四肢の浮腫
 第18章 医師主導治験・国際共同臨床試験の支援
  1.医師主導治験の支援
  2.国際共同臨床試験の支援
 第19章 がん臨床試験におけるCRCの教育
  1.継続教育の重要性
  2.CRCのコンピテンシー
  3.CRC教育に求められるもの
  4.教育の目的とCRCキャリアラダー
  5.がん領域CRCの専門教育の必要性
  6.CRC認定制度
  7.医療機関としてのCRC教育支援の重要性
  8.CRC教育のクオリティ評価
  9.教育の具体的な方法
  10.基礎教育の課題

索引


コラム
 CRC(Clinical Research Coordinator)
 IHC(日・米・EU三極医薬品規制調和国際会議:
  International Conference on Harmonization of Technical Requirements
  for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)
 がん臨床試験の特殊性と補償の考え方
 Fraudの事例
 これからの臨床試験データマネジメント(CDM)
 事件簿 第I相試験での深刻な有害事象
 承認審査の体制
 CROとSMOの位置づけ
 CONSORT
 臨床試験の登録
 国際医薬用語集(MedDRA)とは
 CRC教育に活用可能な情報

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現場感覚に溢れたがん臨床試験スタッフ必携の書
書評者: 森下 典子 (大阪医療センター臨床研究推進室室長)
 臨床試験や治験の実施において,今やなくてはならない存在となった臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator,以下CRC)。

 日本では1998年から本格的にCRCの養成が始まりました。評者もモデル研修に参加して,それまで全く縁のなかった「治験・臨床研究の基礎知識」から「CRCとは何ぞや」のところまで,未知なる世界のことを数多く学びました。しかし当時は,CRCが研修に参加する機会が十分にあるとはいえず,CRCの役割や業務の確立に皆が試行錯誤していた時代でもありました。

 がん臨床研究支援事業(CSPOR)主催のCRCセミナーは,そんな時代にあってCRCが臨床試験の知識を学び,仲間作りができる大変貴重なセミナーでした。充実している講義内容もさることながら,全国のCRCとそこで知り合い,意見交換を行うことで,日々の悩みを自信に変えて施設に帰っていくことができるのです。評者はCSPOR設立当初にはよく研修に参加させていただいていました。その後セミナーは23回を数え,延べ2,020名のCRCと臨床試験支援スタッフが参加されていると知り,ここまでCRC教育のために本セミナーを企画し,実行してくださった関係者の先生方には本当に頭の下がる思いです。本書には,そんなセミナーの講演をもとに,がん臨床試験に真摯〈しんし〉に取り組んでいる大勢のエキスパートの方々が寄稿しています。第1回のセミナーから13年。まさに,本書は「待ちに待った」出版であり,がん領域の臨床試験に携わる人には必携のテキストブックになっています。

 本書の魅力は,(1)がん臨床試験にかかわるのは初めてという人にとってはわかりやすく,読みやすいように構成されており,「がん臨床試験」のAからZまで学ぶことができること,そして,(2)がん臨床試験の経験者にとっても,がん臨床試験をめぐる環境の変化が理解でき,トピックスが数多く盛り込まれているため,基礎から復習するのに最適であること,さらに,(3)CRCはもちろんのこと,医師,看護師,薬剤師,治験・倫理審査委員会委員等々,がん臨床試験にかかわるどの関係者が読んでも,日常,疑問に思っていること,知りたいと思っていることが随所に散りばめられている現場感覚いっぱいの内容となっていることです。もちろん,じっくりと読んでいただくことをお勧めしますが,「時間がない」という方には,興味のある章のみを読んでもわかりやすいように構成されていますので,研究者が臨床研究を企画・立案・実施する前に本書に目を通せば,何に気をつければよいのか,CRCは何をする人なのかがとてもよくわかります。

 いつも熱意ある行動力,発想力,指導力でもって,わが国のCRC教育をけん引してくださる大橋靖雄先生,渡辺亨先生,そしてCRCの先駆者として,いつも私たちの良きモデルとなってくれている青谷恵利子さん,齋藤裕子さん(ここでは親しみを込めてあえて「さん」と呼ばせてください),本書を送り届けていただいてありがとうございました。

 本書を手に取った研究者,臨床試験支援スタッフが,臨床試験のお作法を学び,日本の臨床試験のレベルをさらに高め,まだまだ難治性疾患が多いがん領域において,より良い医療を一日も早く患者さんに送り届けることを心から願っています。

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