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質的研究と量的研究のエビデンスの統合

ヘルスケアにおける研究・実践・政策への活用

著:キャサリン・ポープ /ニコラス・メイズ /ジェニー・ポペイ 
監訳:伊藤 景一/北 素子

  • 判型 B5
  • 頁 240
  • 発行 2009年11月
  • 定価 3,888円 (本体3,600円+税8%)
  • ISBN978-4-260-00950-8
『質的研究実践ガイド』の著者が研究の最新の状況を紹介
好評を博している 『質的研究実践ガイド』 (医学書院刊)の著者による最新の書。ヘルスケアに関する質的研究のエビデンスと量的研究のエビデンスをどのようにして統合して研究や実践、政策に生かしていくか、統合のさまざまなアプローチを紹介し、その利点と限界について述べている。医学や看護学をはじめとするヘルスケア領域の研究者、実践家、政策立案者必読の書。
序 文
日本語版への序序文

 『質的研究と量的研究のエビデンスの統合─ヘルスケアにおける研究・実践・政策への活用』(Synthesizing Qualitative and Quantitative Health Evidence : A Guide to Methods...
日本語版への序序文

 『質的研究と量的研究のエビデンスの統合─ヘルスケアにおける研究・実践・政策への活用』(Synthesizing Qualitative and Quantitative Health Evidence : A Guide to Methods)の日本語版の初版発行にあたり,この短い序文を書くよう監訳者らからご依頼いただいたことを,私たちはとてもうれしく思います。本書執筆のねらいは,最近増えつつある量的研究と質的研究の統合の方法について,有益な概説を提供することにありました。政策立案者と保健医療従事者に対しては,研究のエビデンスにもとづいて意思決定を行うことが期待されるようになっています。文献レビューの方法論,すなわち多くの研究結果を集積して統合することにより,診療や看護実践と意思決定を導くためのより強いエビデンス基盤を得る方法が開発されてきました。初期のシステマティックレビューでは,量的で統計学的なエビデンスに焦点が当てられていましたが,エビデンスにはさまざまなタイプや情報源があり,それらは意思決定に情報を与え得るものであるということが,ますます認められるようになってきています。質的研究は,必然的に小規模であることが少なくありません。つまり一般的に,質的研究は少数の回答者や,ただ1つの場や事例に焦点を当てていると思われます。研究者とレビュー実施者が,いくつものユニークな質的研究の結果を統合できるようにするために,これまで数多くの方法が開発されてきました。また,量的研究のレビュー結果と質的研究のレビューによる統合とを組み合わせて,エビデンスのより包括的で詳細な見方を得ようとする方法も提唱されてきました。量的エビデンスの公式なシステマティックレビュー方法は,かなりのところまで開発されており,また実証されてきました。しかし,質的研究のレビューに取り組むための数多くの方法と,量的研究のレビューと質的研究のレビューを組み合わせようとする数多くの方法が新しく発展しつつあることを,私たちは知っています。本書は,エビデンス統合の地形を見渡して,エビデンス統合への主要なアプローチの例をまとめようとする私たちの試みです。
 私たち自身の研究の大部分は,英国の保健医療と社会福祉サービスの文脈のなかで行われてきました。本書で用いた数多くの例は,私たちが精通している研究と方法論的な仕事から選ばれています。それは,必然的にヨーロッパ,北アメリカ,オーストラリアからの英語による資料によるものでしょう。システマティックレビューのコミュニティから教えられた重要な教訓の1つは,研究は世界的規模の活動であるということでした。単一の言語による研究報告やたった1つの国から報告された研究に頼ることは賢明ではないこともあります。そこで,私たちは自分たちの意思決定に情報を伝えるほかのエビデンスの情報源に目を向ける必要があります。私たちは,本書で提示したエビデンス統合に対するアプローチが,ほかの環境にうまく「トランスレート」(翻訳)されることを心から望んでいます。そして,将来,日本のエビデンス統合について学ぶことをとても楽しみにしております。

 キャサリン・ポープ,ニコラス・メイズ,ジェニー・ポペイ
 2009年7月


序文
 本書は,政策決定と組織管理上の意思決定に有用になるよう,多様なエビデンス資料を統合するための手引き書である。本書は,保健医療領域における研究者,政府や自治体の政策立案者,保健医療従事者を念頭に書かれたものだが,教育や福祉,犯罪や刑務所,住宅供給など,ほかの社会政策や公共政策の領域で働く人たちにも役立つことと思う。また,意思決定者というよりは,意思決定上の情報を提供するために文献レビューを実施したいと思っているが,一方で例えば「何に役立つのか」はもとより,「いつ」「どのように」「なぜ」役立つのか,はたまた「どのような状況にあるどのような人々に」役立つのかというように,意思決定者の求めるものが複雑であることを認識している研究者に向けられている。このような疑問に対する答えはさまざまな研究資源や研究的ではない情報源のなかにあることが多く,出版物やまだ出版されていないものから答えが得られることもあるだろう。エビデンスを統合することにより,このような多様なエビデンス資料を理解し,活用する方法を得ることができる。本書で議論されている方法の多くは,公表された質的研究と量的研究の結果を統合することを意図しているが,そのなかには,ほかの種類のエビデンスを統合することにも適用できる可能性があるものもある。本書では文献レビューをいかにして行うかについて説明しているが,中心となる焦点はエビデンスの統合である。統合は,エビデンスを組み合わせてまとめようとする文献レビュープロセスの一部分である。
 本書にある方法の多くは,質的エビデンスと量的エビデンスの統合の方法を概観することから発展したものである(Mays et al. 2005)。この作業に加え,私たちは,公衆衛生と保健医療サービスに関する政策に関連する問題についての重要な研究に着手した。この種の研究への取り組みでは,研究者に国レベルの政策決定者,研究の最高責任者,また保健医療サービスとサービス提供についての課題に対する答えや,人々の健康を改善し,医療の格差を是正する方法を探し求めている地域保健医療機関の長や医療従事者など,さまざまな意思決定者との接触が必須となる。本書では,いわゆるエビデンスと政策とのギャップを埋めるために発見した方法,すなわち,さまざまな意思決定者にとってより有用なレビューを実施する方法について詳しく述べる。本書に紹介されている実例の多くは,私たちが最もよく知っている領域であるため保健医療領域から選んでいるが,応用社会学のほかの領域でエビデンスをレビューする研究者にとっても同様に,本書は活用できるものであることを期待している。
 私たちは応用研究者であると同時に,いわば研究と評価のためのミックスメソッドの実践家でもあるといえるだろう。私たちは質的研究と量的研究の両方に精通しているが,医学や保健医療サービス,公衆衛生領域の研究を伝統的に支配してきた量的アプローチに対して,さまざまな点で質的アプローチを擁護していることを断っておく必要がある(Pope and Mays 1993 ; Popay and Williams 1998)。私たちはいろいろな意味で,エビデンスの統合はこのミックスアプローチが自然な形で発展したものとみているし,意思決定を導くことを目指したレビューやレポートのなかで,何をエビデンスとして数え上げていくのかの範囲を広げることに大きな関心を寄せている。私たちは,エビデンスにはステークホルダー調査や,また専門家やユーザーの視点や価値観を調べたような形式のエビデンスと同様に,量的研究と質的研究の結果が含まれると考えている。
 私たちの見解では,レビューに多様なエビデンス資料を含めることは,システマティックレビューの厳密性を放棄することを意味しない。厳密性とは,一部のエビデンスの形式が本質的であるとか,普遍的であるとか,ほかより質が低いなどのことを明確にすることではなく,文脈におけるエビデンスの質を検証し,特定の疑問に答えるだけのエビデンスであるかどうかを明らかにすることを意味すると考えている。
 なぜ私たちにはエビデンスの統合が必要なのだろうか。利用可能なエビデンスが増えている(これについては第1章で説明する)にもかかわらず,あるいは,またおそらくはそのために,保健医療政策の多くの領域では,エビデンスの基礎が蓄積されていない。このため研究をデザインする研究者は,解決すべきギャップや新しい疑問を明らかにすることが難しくなっているし,従来の研究が扱った領域をさかのぼって調べ直すことに研究時間が費やされることになっている。エビデンスが蓄積されていないことは,研究の資金提供者や研究委員会が,限られた資源をどこに投資するかを決定するうえでも問題となっている。エビデンスの統合は,この人たちすべての研究の領域を定めるのに役立つ。統合のもう1つの重要な強みは,保健医療などの分野の政策と意思決定に寄与する可能性があることであり,この分野では質的研究と量的研究の結果を融合(integrate)したり関連づけたりすることができるようになるであろう。

本書の概要
 本書は,大きく3つの部分に分かれている。第1部では,エビデンスのレビューについて詳細にみていく。第1章では,異なるタイプのレビューの発展と,システマティックレビューの出現について論じる。統合を実施することの理論的根拠と,「決定支援」のためのレビューと「知識支援」のためのレビューとの違いを検討する。第2章では,エビデンスを系統的にレビューする際に必要なステージについてより詳細に論じ,研究エビデンスの質査定にまつわる問題についても述べる。
 第2部は,エビデンスを統合するためのさまざまなアプローチに焦点を当てる。これらのアプローチは,エビデンスに質的研究と量的研究の結果が含まれる場合に有用である。この2つのアプローチを見分ける簡単な方法として,大ざっぱに量的なもの(つまり,数や統計分析を含んでいる方法)と,より質的あるいはテキストベースであるものとを識別することがある。これは,過去に私たちが取り入れたアプローチである(Mays et al. 2005)が,本書を書いていくうちに,統合の3つのアプローチを描き出すほうが有益であることが明らかになった。すなわち,数値データを扱うもの,一般的には質的データを扱い,解釈の焦点によって関連づけられるもの,そして最後により広いカテゴリーであり,適当な用語がないため,私たちが統合のためのミックスアプローチと呼ぶことにしたものである。これらには,レビュープロセスの一部として質的分析法と量的分析法の両方あるいは一方が含まれている。この分類を念頭に,第3章では,統計分析すなわち数値ベースの論理(ブール代数)分析を可能にする,さまざまな統合アプローチについて論じる。第4章では,広い意味で質的・解釈的な統合アプローチについて概説する。第2部の最終章である第5章では,量的・解釈的アプローチと一致しない,ミックスアプローチと呼ぶのがふさわしいエビデンスの統合アプローチを検討することに焦点を広げる。このアプローチには,すでに論じた方法をいくつか組み合わせることができるナラティヴ型が含まれる。
 第3部は,統合の結果に焦点を当てる。第6章では,特にシステマティックレビューの一部としての統合に焦点を当てながら,エビデンスの統合結果を提示する方法を探る。そして,読者が検討できるよう監査の足跡を明らかにするために,統合のプロセスの透明性をどのようにして保つかについて考察する。第7章では,政策と組織管理のためのレビューにおける統合の位置づけに目を向ける。意思決定におけるエビデンスの役割に着目し,なぜ異なる種類のエビデンスが無視されるのか,また,この限界を克服できる統合実践の道があるかどうかを考える。第8章では,質的エビデンスと量的エビデンスの統合を実施し解釈するプロセスについて概説し,そのポイントをまとめる。特に,異なるタイプの問いに答え,かつ異なるタイプのエビデンスを使いこなすための適切な手法の選択について探る。そして最後に,多様なエビデンスを統合したものの質を評価するために用いることができる,問いのリストを示す。
目 次
日本語版への序
著者略歴
序文
謝辞

第1部 エビデンスのレビューのプロセス
 1 さまざまなタイプのエビデンスレビュー
 2 エビデンスの系統的なレビューの各段階
第2部 エビデンスの統合の方法
 3 エビデンス統合の量的なアプローチ
 4 エビデンス統合の解釈的アプローチ
 5 ミックスメソッドによるエビデンス統合
第3部 エビデンスの統合の成果
 6 エビデンスの統合の整理と提示
 7 政策決定と意思決定を目的としたエビデンスレビューの活用
 8 アプローチとアセスメント:さまざまな方法の選択と質の考慮

監訳者あとがき
有用な文献
文献
索引