精神科を専門としない医師の疑問に答える
書評者:森脇 龍太郎(埼玉医大講師・高度救命救急センター)
わが国の自殺既遂者は1998年より年間3万人を超えている。そして自殺未遂者は少なくともその10倍以上存在するといわれている。このような自殺企図患者の治療の中心的役割を果たしているのが救命救急センターであるが,自殺手段としては向精神薬を中心とした薬剤の大量摂取を選択することが多いようである。したがっ...
精神科を専門としない医師の疑問に答える
書評者:森脇 龍太郎(埼玉医大講師・高度救命救急センター)
わが国の自殺既遂者は1998年より年間3万人を超えている。そして自殺未遂者は少なくともその10倍以上存在するといわれている。このような自殺企図患者の治療の中心的役割を果たしているのが救命救急センターであるが,自殺手段としては向精神薬を中心とした薬剤の大量摂取を選択することが多いようである。したがって,救命救急センターに長く勤務していると,向精神薬の薬理作用にも自ずから詳しくなるものである。
なまじ詳しくなると,内科外来でうつ病らしき患者にたまに出会うと,向精神薬を処方したくてうずうずしてくる。かねてより坑不安薬や睡眠薬はときどき処方していたが,SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の登場以来,現在は坑うつ薬も含めて頻繁に処方するようになった。しかし,向精神薬の選択に当たって十分な根拠と自信をもって処方しているわけではない。効果がなかったときの第2選択薬は?効果があった場合はいつまで続ける?などなど,さまざまな疑問が湧いてくる。おそらく一般内科医も同じような疑問を持ちながら向精神薬を処方しているのではないかと思われる。
◆研修医も含めたすべての医療者に推薦する
このような折,まさにタイムリーな本が上梓されたものである。第1章「内科医がよく出会う精神疾患とその治療法」では,日常内科外来で遭遇する代表的な精神疾患について言及しているが,各々の疾患の特徴,治療の手順(専門医に任せるかどうかについても言及),処方例,第2選択薬,副作用とその対策,病気の経過,薬剤の減量法などが簡潔にかつ明瞭に述べられており,上述した疑問が氷解した思いである。
第2章「身体疾患に伴って現れる精神症状とその治療法」,および第3章「薬剤によって起こる精神症状とその治療法」では,精神症状を起こしやすい内科疾患および薬剤を取り上げて,各々の内科疾患や薬剤服用中に起こりやすい精神症状の特徴からはじまって,第1章と同様の切り口で治療の手順(専門医に任せるかどうかについても言及),処方例,第2選択薬,副作用とその対策,病気の経過,薬剤の減量法などが述べられている。
さらに第4章「向精神薬の効果と副作用」では漢方薬も含めた代表的な向精神薬について簡便にポイントを押さえて述べられており,精神科を専門としない一般医にとってはたいへん便利であろう。また処方例が具体的に商品名でも提示されているのも実用的で,小生は外来診療に当たってポケットに入れて,必要に応じて参照している。
「内科医が知っておきたい」という前置きがあるが,一般内科医のみならずすべての医療従事者にも推薦したい良書である。本年度から研修制度が変更になり,精神科研修も必須となったようであるが,その研修前に必読の書として研修医の方々にも強く推薦したい。