• HOME
  • 書籍
  • 精神科治療ガイドラインのトリセツ

ケースでわかる!
精神科治療ガイドラインのトリセツ

もっと見る

精神科の診療ガイドラインの使い方をレクチャーする実践的講習会のテキストを大幅に加筆修正し書籍化。二大疾患とも言える統合失調症とうつ病について、症例をもとにガイドラインを用いた治療の進め方などを紹介。患者の問題点の洗い出しから治療方針の立て方、処方変更(とそれによるメリット・デメリット)など実際の臨床場面における具体的な考え方や対応を幅広くまとめており、明日の診療に活かせる知識が盛りだくさん!
編集 EGUIDEプロジェクト
発行 2020年11月判型:B5頁:138
ISBN 978-4-260-04292-5
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 数多い精神医学関連書籍の中から本書を手に取って頂いたことにまず感謝します。あなたは精神科臨床を少しでも向上させたいとのお考えをお持ちの方と拝察します。その熱意に敬意を表します。
 本書は後述のように,「EGUIDEプロジェクト講習会」の「アドバンストコース」においてグループディスカッションで用いた模擬症例を解説つきでまとめたものです。各症例に設けてあるポイントを一つ一つ考えながら,それに続く解説を読んで頂くことで,精神科領域での診療ガイドラインの内容を把握し,さらに診療ガイドラインの使い方のコツを理解し,診療ガイドラインに明示されていない部分の考え方・方針決定の幅を広げてもらうことができます。

 続いて,本書出版までの経緯を述べておきます。
 現在では世界的に医療実践の主たる方向性となっている〈エビデンスに基づく医療〉(Evidence Based Medicine:EBM)は,各患者の特性を最大限尊重しながら,良質の医師による臨床実践をさらに洗練していくものです1)。その中で診療ガイドラインというものが一つの推奨される方針,即ち〈患者集団に対して現時点で確率論的に最も有用と期待される治療方針〉を示す参考資料として作成されています。それは最大限エビデンスに基づき作成されるものですが,画一的な診療を強制するのではなく,むしろ各患者の個別性を重んじた診療の下支えとすべきものであり,その目的は,診療レベルの底上げと,日常診療の労力軽減です2)。本邦の精神科領域でもこの観点から例えば,日本うつ病学会から2012年に『うつ病治療ガイドライン』〔2016年最新版3),2019年序文改訂〕が,日本神経精神薬理学会から2016年に『統合失調症薬物治療ガイドライン』4)が公表され,現在に至っています。
 そして当然ながら,ガイドラインは臨床家に読まれ,日常臨床に利用されて初めて意味を持ちます。従来,各種のガイドラインが公表されてきましたが,それらがどれだけ活用されて診療に役立っているのかは判然としていません。そこで,2016年度から「EGUIDEプロジェクト」脚注1が立ち上げられ,上記2つの精神科領域の国内診療ガイドラインを利用し,ガイドライン利活用の教育と普及を推進すべく,全国各地で講習会を開催してきました(座学講習と,模擬症例を用いたグループディスカッション)。2020年8月1日時点での参加施設数は183(44大学を含む),累計受講者数は2,016人となっています。
 同プロジェクトの中ではさらに「番外編」として,通常の講習会ではカバーしきれない個別性の高い診療場面(例:妊産婦,高齢者,復職希望者)やガイドラインが直接に規定していない部分(例:多剤大量処方例での薬剤整理の進め方)について理解を深めるための「アドバンストコース」を毎年開催してきました。そこで使用する模擬症例はそれぞれ毎回,若手・中堅・ベテランを含む精神科専門医の全国的(大学・病院横断的)なグループが数か月〜半年にわたり参考文献を収集・調査し,ディスカッションを重ねて作成しています。その結果,一つ一つが量・質ともに精神医学教科書の一項目に相当する厚みを持つものとなっています。
 開始から3年が経過し,相当数の模擬症例が蓄積してきました。これらがアドバンストコース講習会で一度利用されるだけで埋もれてしまうとすればあまりにもったいないことであり,講習会にまだ参加されていない医師・コメディカルの皆様に活用してもらえる機会を作るべく今回,加筆して出版する運びとなった次第です。

 そして本書を読まれて新たにEGUIDEプロジェクトに興味を持たれた方は,ぜひ以下のウェブサイト(https://byoutai.ncnp.go.jp/eguide/)をご覧下さい。プロジェクトの説明や講習会日程を掲載しています。

 本書があなたの臨床での迷いを減らし,治療成績のさらなる向上と,より多くの患者さんの回復につながれば,チーム一同大変幸いです。

 2020年10月1日
 EGUIDEプロジェクトチーム

*脚注1:「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究:Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment」(略称:EGUIDE プロジェクト)

引用文献
1)古川 壽亮:エビデンス精神医療─ EBP の基礎から臨床まで.pp.13-16. 医学書院,2000
2)斎藤清二:医療におけるナラティブとエビデンス─対立から調和へ.pp.15-27,遠見書房,2012
3)日本うつ病学会(監修):うつ病治療ガイドライン 第2 版.医学書院,2017
4)日本神経精神薬理学会(編):統合失調症薬物治療ガイドライン.医学書院,2016

【読者の皆様へ】
 〈エビデンスに基づく医療〉では各患者の個別性が重視されます。本書の中で提示している対応法はあくまで一例であり,異なる医療機関・異なる患者においてはまた異なる対応が最適な場合がありえます。皆様が本書の内容を参考に実地の患者対応を検討される場合には,勤務されている医療機関と当該患者の特性を十分に踏まえ,患者・家族等との共同的な意思決定(shared decision making:SDM,本文参照)を通じて,現場の治療担当者の責任において最終的に治療方針を策定して頂くようお願いします。

開く

CASE 01 多様な症状にどう対応するか?
      統合失調症が再発した21歳女性

CASE 02 「出産したいので,薬を止めてもいいですか?」
      薬物療法の中止を求める27歳女性

CASE 03 「早く仕事に復帰させてください」
      うつ病で休職した48歳男性

CASE 04 言われたことをすぐに忘れてしまう
      長期入院中,老年期統合失調症の73歳女性

CASE 05 「そろそろ仕事をしたいのですが…」外来主治医の交代を機に相談
      慢性期の統合失調症の30歳男性

CASE 06 面接の仕方を考える〈実践編〉
      複数の問題を抱えた統合失調症紹介患者

索引

開く

ガイドラインでは届かない“かゆいところ”に手の届く書籍
書評者: 尾崎 紀夫 (名大大学院教授・精神医学/親と子どもの心療学)

 書評執筆も回数を重ねてきたが,今回の執筆依頼は,評者自身がかかわった「うつ病治療ガイドライン」(に加えて「統合失調症薬物治療ガイドライン」)の研修プログラム(EGUIDEプロジェクト講習会)を元にした書籍であり,「直接関係のない書籍の書評とは勝手が違うのではないか」と思っていた。しかし本書を読み,ガイドラインを踏まえてはいるが,著者たちの創意工夫に溢れたオリジナルな書籍であることを実感した。

 「うつ病治療ガイドライン」は「最新のエビデンスを盛り込む」が,「診断基準に含まれる患者群は極めて多様であり,『抑うつエピソード』に基づいた確認が終了した段階で治療方針を立てることは困難」である点を踏まえ,「うつ病治療を始めるにあたっては,詳しい診断面接(検査含む)により,患者さんの診立てを行い,初診から治療終了までの全体を見通して,大まかに治療計画を立てることが必要」との基本方針のもと,発表した。とはいえ,具体的な症例は提示されておらず,使い方は読者任せである。一方,本書は,例えば中等症のうつ病寛解状態にある挙児希望の患者を挙げ,ガイドラインを生かした治療方針の立て方,さらにガイドラインでは不足するエビデンスの補足,何より相対する患者および家族にどのような情報を共有し,いかに対応するのか,すなわちShared decision makingのあり方を記載している。

 また「統合失調症薬物治療ガイドライン」は薬物治療に特化した内容であり,「うつ病治療ガイドライン」で重視している「治療計画の策定」に当たる部分や心理社会的治療に関する記載には乏しいきらいがある。しかし本書には,主治医交代を機に,就労を希望する統合失調症患者を例にとり,「詳しい診断面接(検査含む)により,患者の診立てを行い」「(心理社会的な側面を含む)治療計画」をどのように立てたかが,面接場面とともに描写されている。

 ガイドラインでは果たすことができなかった,かゆいところに手が届く,書籍である。

 最後に,本書というより,EGUIDEプロジェクトへの期待を込めたお願いをしておきたい。心理教育がアドヒアランス向上の効果を上げるためには,「『自分の力で救ってやろう』とする医師と『ひたすら受身的な患者』という望ましくない治療モデルを避け」,患者が「実際に行動を修正し,新しい対処や問題解決技術を学ぶ助けとなる」ことが不可欠〔秋山剛,尾崎紀夫(監訳):双極性障害の心理教育マニュアル.医学書院,2012〕である。この点は,既に本プロジェクトにおいて具現化されているように,本書から感じる。

 加えて,認知リハビリテーションにおいて「認知課題セッション」で得られた方法が,就労につながるためには,実生活の場面について検討する「言語セッション」が必須である。さらに「サポートつき雇用」を併用することにより,一層の機能改善が得られる(Annu Rev Clin Psychol. 2013[PMID:23330939])。以上を踏まえると,若手精神科医(専攻医)が実際に遭遇した症例を提示し,検討するセッションをEGUIDEプロジェクトに加えていただくと,一層教育効果が上がるのではないかと思う。関係者の方々には今後の課題としていただければ幸いである。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。