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外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム

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臨床研究を行うにあたっては、アウトカムの設計が非常に重要です! 患者報告型アウトカム(PRO)とは何か? 外科医の技量は測定可能か? 尺度開発研究とは? 術後QOLを臨床研究のアウトカムにできるのか? そもそもQOLとは一体何なのか……? 外科専攻医シワシワ君と一緒に、手術アウトカムの奥深い世界をのぞいてみましょう。あなたの“臨床研究力”をレベルアップさせる、「外科系医師のための臨床研究」シリーズ第2弾!
本多 通孝
発行 2019年07月判型:A5頁:276
ISBN 978-4-260-03932-1
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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  • 目次
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はじめに

 手術が終わって,外科医が患者さんの家族に対して「手術は成功です」などと言うシーンをテレビドラマ以外で見かけたことがあるでしょうか。メディアでもしばしば「手術成功」または「手術ミス」などという言葉も使われますが,成功,失敗,ミスとは,何を意味するのでしょうか。合併症なく退院したら成功でしょうか。逆に合併症が起こったら,これは失敗でしょうか。癌の手術では合併症がなくても手術後にしばらくして再発したら失敗でしょうか。もちろん,その手術の「目的」が何であるかによるでしょう。

 手術の内容やいろいろな診療科での文化にもよるかもしれませんが,少なくとも私の周囲では手術に対して「成功」とか「失敗」などの表現は使用されないように思います。しかし,術後の説明において「結局手術は成功したのですか?」と患者さん(およびその家族)に聞かれることはあります。その場合,「あなたのおっしゃる“成功”とはどのようなことを指しますか?」と聞いてみると,愕然とする答えが返ってくることがあります。

「予定どおり,無事に手術は終わりました」
「手術は成功したってことですか?」
「えーと,成功とはどのような意味ですか?」
「それはもちろん,がんが治って,また仕事に復帰して今までどおり何年も仕事が続けられることです」

 当然ですが,手術前には病状,手術の内容,起こりうる合併症や後遺症についても十分に説明したうえでのやり取りです。「そんなことまだわからん」と言いたくなるかも知れませんが,一方でこの患者さんの立場とすれば,それ(今までどおり何年も仕事を続けること)こそが手術を受けた第一の目的なのです。多少の合併症が起こって入院期間がすこしくらい長くなったとしても,また元気に仕事に復帰できて,家族を養っていくことができるのかどうかが最大の関心事なのです。

 「何をもって成功とするか」は一概に決めることができませんが,外科医と患者さん(およびその家族)が共通の認識をもって治療にあたっているかどうかという点において,一度立ち止まって考え直してみる必要があるかもしれません。私たちはしばしば「治療成績」や「手術成績」などと表現しますが,「何をもって手術の結果を評価するのか」という問題は,外科医が臨床研究を行ううえで避けては通れない重大な論点です。そしてこれは研究者側のみの価値観で決定できることではないのです。

 本書は,『外科系医師のための 手術に役立つ臨床研究』(医学書院,2017)の続編として,手術のアウトカムに焦点を当てて書かせていただきました。この領域はまだまだ研究途上だと思います。患者さんそれぞれの好みや考え方はもちろん,時代背景,地域の文化などにも依存する問題であり,医学的のみならず難しい社会学的要素も含まれてくるでしょう。しかし,手術を生業とする以上,結果を振り返り,それを糧として次につなげることが必要です。すぐに解決できない難しいことであっても,次世代を見据えて取り組んでいかなければなりません。

 今回,「手術の成功とはなんぞや」という極めて根源的で難しい疑問に,正面から取り組んでみよう!という心意気のある若手外科医の皆様と一緒に,なるべくわかりやすく論点を掘り下げ考えていきたいという思いから本書を執筆しました。本書との出会いをきっかけに,皆様の臨床研究にすこし違った角度から光が当たり,学会発表,論文執筆における議論がより深く,より多面的になることがありましたらこれに勝る喜びはありません。

 2019年7月
 本多 通孝

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はじめに

序章 プロローグ
 1 医者も突然患者になる
 2 外科医が理想とする手術とは何か?
 3 予測モデル研究が流行したものの
 4 アウトカム設計を深く追求しているか

第1章 アウトカムリサーチとは
 1 臨床研究におけるアウトカムの設計
 2 ペナントレースのアウトカム
 3 外科領域の臨床研究にはどんなアウトカムが用いられてきたか
 4 アウトカムを数値化する
 5 真のエンドポイントとは
 6 選好・価値による意思決定とアウトカムリサーチ
 本章のまとめ

第2章 手術を評価するPRO尺度の開発
 1 PROを用いた外科手術評価
 2 PROを用いて手術の評価ができるか
 3 尺度開発研究とは
 4 尺度開発の具体的な手順
 5 単純な概念の測定
 6 PROの観点から古典理論を見直してみる
 本章のまとめ

第3章 手術手技そのものを評価する
 1 手術の技量は評価してはならない
 2 外科治療の質を評価するSPOとは
 3 手術の技量は測定可能か
 4 Volume-Outcome Relationshipと手術の集約化
 5 手術手技を評価した研究
 6 手術を評価する尺度
 7 手術評価尺度はどのように作成されるか
 8 何をもって「コンセンサスを得た」とするのか
 9 手術のトレーニング・ラーニングカーブに関する研究
 本章のまとめ

第4章 手術を評価するQOL研究
 1 急増するQOL研究
 2 究極のアウトカム“QOL”について考える
 3 QOL測定に関する諸問題
 4 QOL研究の実例
 5 QOL研究への期待
 6 QOLと効用値
 本章のまとめ

終章 エピローグ
 おわりに
 索引
 著者紹介

column
 1 結果の見せ方①:点推定と区間推定
 2 結果の見せ方②:TableとFigure
 3 外的妥当性について
 4 主観的情報は誰が評価すべきか①
 5 主観的情報は誰が評価すべきか②
 6 主観的情報は誰が評価すべきか③
 7 ビデオ動画がない場合どうするか
 8 外科医にとってのnon-technical skillとは何か①
 9 外科医にとってのnon-technical skillとは何か②
 10 外科医も脳トレが必要
 11 包括的尺度と疾患特異的尺度とは
 12 レスポンスシフトを回避する面接式QOL調査“SEIQoL”
 13 悪性腫瘍を評価するQLQ-C30と臓器モジュール
 14 食事のQOLを評価する尺度の開発
 15 歩くことに主眼を置いた尺度があるか

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「患者の生の声を形にする」ための方法論を軽妙に解説
書評者: 佐藤 雅昭 (東大病院講師・呼吸器外科)
 今回,本多通孝先生の著書『外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム』を拝読する機会をいただいた。私自身も外科医として,とても納得というか,「そうだよな~」と激しく同意する部分が多々あり,大変勉強になった。これから臨床医として研究を進める若手医師にもぜひ一度読むことをお勧めしたい。

 特に「おわりに」に書かれている,忙しい臨床医が業務と両立できる研究は「患者の生の声を形にする研究がよいのではないか」との言葉は,本多先生ご自身が第一線の外科医であることがにじみ出ており,わが意を得た思いだった。われわれ臨床医が研究を行う意義はまさにそこにあり,患者が何を期待しているか,われわれ外科医はそれにどれだけ応えられているかという問題は,大きな侵襲を伴い「肉を切らせて骨を断つ」手術という治療を行うわれわれにとって常日頃から真摯に向き合わなければならない課題である。

 一方,本書に書かれている内容からは,それは言うほど簡単なことではない,というのが本多先生からの重要なメッセージと思われる。特に「第4章 手術を評価するQOL研究」に関しては,本多先生も執筆に苦労されたと書かれており,われわれ外科医のめざす手術と患者の受け取り方,そして患者の人生におけるさまざまなイベントや人生観とその変化なども加わって,いかにその評価が難しいかがよくわかる内容になっている。命を救うことを第一に手術をして,それがうまくいって外科医が満足しても,その後の生活・人生の中でその手術の結果をどう解釈するかは患者次第であり,思わぬ不満を耳にすることは多くの外科医が経験していることだろう。本書では,これを研究という形で普遍的なサイエンスに落とし込む作業がいかに難しいかが,取っ付きやすい軽妙な対話形式で問われ,それに対する一定の答えが示されているところが実に秀逸である。

 臨床医にとって研究とは何か――なぜ臨床医なのに研究するのか,これは私自身も追い求めているテーマだが,本書の中にはその答えに通じる内容が多く書かれている。そして「アウトカムそのものを深めていく作業を通じて,外科医のプロフェッショナリズムを高めてくれるヒントがたくさん見つかる」(「おわりに」から引用)という言葉がそれを実によく表していると思う。私の考えでは,臨床医にとっての研究は,日々忙殺されていると流れていってしまう日常の臨床活動に楔(くさび)を打ち込む作業であり,それは臨床医としてのプロフェッショナリズム追求の重要側面であると考えてきた。このように臨床研究というものをphilosophicalに理解・解釈しつつ,さらに具体的なmethodologyに踏みこんで,「じゃあ何をどうするの?」に答えてくれるのが本書である。

 本書は文体も親しみやすく(本多先生のお人柄がよく出ている),構えなくても忙しい中でも,スイスイ読み進められるように書かれている。これから臨床研究を始めようとする若手医師(外科医とは限らない)や,実際に研究をやっている先生方にはぜひご一読いただきたい。
外科医が臨床研究を始める前に一読すべき名著
書評者: 篠原 尚 (兵庫医大主任教授・上部消化管外科)
 院内で抄読会を行っている消化器外科医なら,Michitaka Hondaの名前を一度は目にしたことがあるだろう。ステージI胃癌の腹腔鏡手術と開腹手術のアウトカムを観察研究で比較し『Annals of Surgery』に掲載された有名なLOC-1 studyをはじめ,数々の一流誌に質の高い臨床研究を報告している気鋭の消化器外科医である。今回,「『…先生,手術は成功ですか?』こんな質問にどう答えますか!?」という帯の文句に思わずひかれて,本書を手にとった。外科医がこれまで何となく曖昧にしてきた「手術のアウトカム」をどう評価すべきかを論じた,本多通孝先生渾身の著作である。

 数ページも繰らないうちに,私は読むのを止めた。本書は前作,『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』(医学書院,2017)の続編になるが,前作を読まずして本書を読み始めることがすごくもったいなく感じたからである。世上,臨床研究について書かれた本や医学統計の入門書は多いが,前作では外科医がとっつきやすいClinical Questionを例に挙げ,それを洗練されたResearch Questionに変え,臨床研究の定石であるPECOを組み立てながら研究のデザインを磨き上げていく過程がわかりやすく述べられている。ありがちな探索的研究の著者曰く“ダサい”抄録が,仮説検証型研究のポイントを絞った科学論文にみるみる変貌していく過程は圧巻である。ただしPECOのうちP,E,Cは何とか設計できても,いつも行き詰まってしまうのがO,すなわちアウトカムであり,それをどうやって測定するのかが本書のテーマである。アウトカムは患者目線に立たなければ意味がないが,主観的要素が大きいため,それをデータ化するのは実は大変難しい。良い尺度が見つからなければ自分で作らなければならない。こうしたアウトカムそのものを深めていく作業は,実は手術を受ける患者さんの生の声を形にする,外科医としての本質的な研究となる。本書を読み終えると,それが著者の一貫したメッセージとして伝わってくる。

 もっと若いころに本書を読んでいたら自分も少しはましな論文が書けただろうに,とじくじたる思いになった私は,大学院生に前作と合わせて本書を貸した。すると案の定,すぐに手元に戻ってきた。自分で買ったのでお返しします,今書いている論文を書き直してみます,とのこと。ほらね。外科医が臨床研究を始める前にはぜひご一読いただきたい名著である。
何をもって手術の成功とするのか? 外科医必読の書
書評者: 篠原 信雄 (北大大学院教授・腎泌尿器外科学)
 本多通孝先生は,胃癌や食道癌術後患者の後遺症やQOLの評価尺度を開発したことで世界的に知られる外科医である。2003年に日大医学部を卒業後,京大Master of Clinical Research(MCR)コースを修了し,現在は福島県立医大低侵襲腫瘍制御学講座教授として,精力的に消化器外科手術を行いながら,多くの研究成果を報告している。

 前作『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』に引き続き,今回の『外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム』では臨床研究における「アウトカム」設計の奥深さについてさまざまな角度から論じられている。「『…先生手術は成功ですか?』こんな質問にどう答えますか」というこの本の帯の質問の意味は深い。「何をもって手術の成功とするか」というのは,「何を手術のアウトカムとするか」という質問に置き換えることができるだろう。手術自体がトラブルなく終了すれば成功なのか,術後に十分な機能回復が得られることが成功なのか,それとも術後生存期間が長いことが成功なのであろうか。

 本書の概要は,第1章では,臨床研究の真のエンドポイントをどのように設定するべきかについて詳説している。特に「エンドポイントの真贋(本物と偽物)当てクイズ」は臨床研究を行う上で非常に重要で示唆に富む内容である。第2章では手術を評価するための患者報告型アウトカム(PRO)について新たな尺度開発の理論や手順が深く解説されている。他書ではなかなか勉強できない内容が著者の経験を交えて非常にわかりやすく書かれており,世の中にはこのような研究があるということを知る意味でも一読の価値がある。第3章では,術者の手術手技そのものを定量化する既存尺度とともに,新たな評価基準のコンセンサス形成を行う手法としてデルファイ法が紹介されている。第4章では,「手術を評価するQOL研究」と題され,奥が深く議論の尽きないQOL研究の問題点や実施上の注意点について,わかりやすく解説されている。

 外科医がなぜ臨床研究をする必要があるのか? その問いに対する著者の答えは,「臨床研究には,外科医のプロフェッショナリズムを高めてくれるヒントがたくさんある」ということである。臨床研究を設計する過程では,「外科医が目指す手術とは何か」,「患者が期待する手術とは何か」といった根本的な問いに対する,答え(アウトカム)を深めていく必要がある。本書は,外科手術を評価する臨床研究に取り組もうとする外科医にとって必読の書である。

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