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精神科ならではのファーストエイド

搬送時サマリー実例付

著:中村 創/三上 剛人

  • 判型 B5
  • 頁 168
  • 発行 2018年06月
  • 定価 2,592円 (本体2,400円+税8%)
  • ISBN978-4-260-03589-7
精神科で発生したファーストエイドの26場面をシミュレーション
自傷他害、あるいは事故など、精神科でファーストエイドが必要になった実例をリアルに写真で再現し、いざという時にどう対応するかをシミュレーションするための本。医療的に何をすべきか、とっさの声かけ、望ましい態度、避けるべき言動がわかる。搬送時に送るサマリーの実例付。「精神科」はもちろん「救急」の医療者も必携。
序 文
はじめに

 「どうすればいいのだろう」――頭が真っ白になり立ち尽くしてしまうような場面に遭遇することは、看護師であるならば必ず経験します。けれども立ち尽くしていれば事態は悪化します。
 悪化させない、深刻化させない。この本を手に取ったあなたは、そのためにどうすればよいかという知...
はじめに

 「どうすればいいのだろう」――頭が真っ白になり立ち尽くしてしまうような場面に遭遇することは、看護師であるならば必ず経験します。けれども立ち尽くしていれば事態は悪化します。
 悪化させない、深刻化させない。この本を手に取ったあなたは、そのためにどうすればよいかという知識を求めていらっしゃることと思います。
 本書は、精神科領域において求められる緊急時の手引書として、具体的な対応と考え方を、理論や根拠に基づいて提示しようと試みるものです。

 看護技術は実践の中で磨かれます。しかし精神科の臨床において、大量出血を伴うような急変事例は日常的に生じるわけではありません。ですから緊急場面への実践経験を積む機会がどうしても不足してしまいます。経験の少なさは、いざという場面での動きを鈍らせます。
 その一方で、急変が一度生じれば重篤化する可能性が高いのが精神科です。
 そこで私たちは、起こり得る事象を事前にシミュレーションできる本を作ることにしました。直面するかもしれない困難な状況に、心の準備ができることを意図したのです。


 第I部では、26ケースを挙げました。特に力を入れたのは、緊急場面をできるだけリアルに再現することでした。
 読者の皆さんのなかには、本書にある場面や状況と似たような経験をされた人がいるかもしれません。ここに出てきた場面や状況は、主に私自身や協力をしてくれた仲間たちが見聞きした経験をもとに再現したものです。もし自分がこの状況に遭遇したならばどういう対応をするだろうかと、その気持ちも想像しながら読んでいただければと思います。
 事例の後に、看護として優先的にすべきことは何なのかが一目でわかるような工夫をしました。そして患者さんにどのように声かけをすればよいのか、望ましい態度はどのようなものなのか、逆に避けるべき言動はどういうものか、を紹介しています。

 第II部では、患者さんの自傷や自殺などの強い衝撃に遭遇した家族と看護師へのフォローについて述べています。家族は臨床では置き去りにされがちですが、彼らへの支援も看護師の重要な役割であり、それは患者-看護師関係と同様です。
 最前線で動く看護師もまた置き去りにされがちであり、現状における大きな課題です。強い衝撃に遭遇した看護師に対する支援の重要性と方法について述べました。

 第III部では、救急病棟などへ搬送を要する際に用意するサマリーについてです。すべての情報をひとまとめにする従来のあり方ではなく、2段階に分ける新方式を提案しています。


 臨床現場はさまざまな事象が重なり合って複雑化します。読者の皆さんには、本書をきっかけにご自身のフィールドで精神科におけるファーストエイドをさらに発展させ、適切な方法を検討していっていただきたいと願っています。
 最後に、本書は雑誌『精神看護』での特集や記事掲載を経て本になりました。企画、原稿のとりまとめ、編集に石川誠子さんから多大な支援を賜りました。心より御礼申し上げます。

 2018年6月
 著者を代表して 中村 創


本書には、創傷や患者さんの状態をできるだけリアルに再現した写真が掲載されています。そうした写真が苦手な方はご注意ください。なお、これらは救命救急の現場でシミュレーション訓練用に開発された特殊インク、創傷部位のパーツなどを組み合わせて作り出したものです。モデルに対して実際に傷や損傷を加えたわけではありません。
言うまでもありませんが、これらは医療者がシミュレーションにより対応技術を磨くことを目的に表現されたものであり、患者さんを見下すような意図は一切ありません。
書 評
  • 利用者さん、患者さんの一番の味方になるために(雑誌『精神看護』より)
    書評者:大藪 舞(株式会社N・フィールド 居宅事業本部 教育専任室 室長・看護師)

    ◆1人が基本の訪問看護で

     精神科に特化した訪問看護に従事するようになり10年が経ちました。訪問看護の前は精神科単科の病院で3年間ほど、病棟看護師として働いていました。病棟勤務時代は精神状態の急性増悪や、脳梗塞といった身体疾患による急変、窒息事故などがあったものの、すぐに他の看護師や医師が駆け...
    利用者さん、患者さんの一番の味方になるために(雑誌『精神看護』より)
    書評者:大藪 舞(株式会社N・フィールド 居宅事業本部 教育専任室 室長・看護師)

    ◆1人が基本の訪問看護で

     精神科に特化した訪問看護に従事するようになり10年が経ちました。訪問看護の前は精神科単科の病院で3年間ほど、病棟看護師として働いていました。病棟勤務時代は精神状態の急性増悪や、脳梗塞といった身体疾患による急変、窒息事故などがあったものの、すぐに他の看護師や医師が駆けつけてくれたので、私はチームの一員として看護に当たることがほとんどでした。
     訪問看護に従事している今は、精神科ならではの自傷、自殺、事故、急変時に1人で対応しなければならないので、「1人でも冷静に、かつ正しい対応ができるように、もっと知識を深めなければ!」と奮起しながら日々を送っています。
     そんななか『精神科ならではのファーストエイド』に出会い、リアルな写真に衝撃を受けるとともに、丁寧に書かれた「とっさの声かけ・望ましい態度」「そのとき患者さんに何が起きているのか」という解説を読むうちに、過去の自分の経験やスタッフのエピソードが思い出されたのでお話ししたいと思います。

    ◆皆の前で自殺を図ろうとしたAさん

     20代女性、解離性障害疑いのAさんへ訪問看護を提供していた4年ほど前、当時の地域の支援者たちと、Aさん宅で支援者会議を行うことになりました。当時、Aさんは地域の支援をあまり必要と感じておられず、支援者が自宅に訪ねても不在だったり昼夜逆転で熟睡されていたり、なかなかケアが受けられない状態にありました。そこで本人も交えてご自宅で支援者会議を開催し、本人にとって必要な支援方法について話し合いをしようとしたのです。
     その最中、Aさんにとっては非常に耳の痛い話をする場面がありました。これは本人が自身の障害にどう向き合っているのか、今後どのような人生を歩んでいきたいのかを知るためにも必要な話であり、その話題を進行する支援者は嫌われ役を買って出てくれていました。耳の痛いことを問いかける時は、Aさんを責めず、また、責めていると思われないような口調や声のトーンだったと記憶しています。
     しかし、こちらの意図は届かず、Aさんはみんなに責められていると感じてしまいました(そのように受け止めることが、本人を苦しめる「症状のクセの1つ」でもあったのですが)。話の最中、Aさんはおもむろに台所へ行き、包丁を取り出しご自身の首を切ろうとしたのです。
     支援者たちはあわてて止めに入り、なんとか外傷なく包丁をAさんから遠ざけることができましたが、次に彼女はベランダに出て十数階の高さから飛び降りようとしました。支援者たちの阻止と説得で落ち着きを取り戻したAさんでしたが、その後は泣きながら「誰も味方がいない。皆に自分は必要ないと思われている」と訴えていました。
     今思い返せば、あの時の自分はAさんにとって味方ではなかったことや、Aさんが背負っている障害や生い立ち、価値観、感情の表出方法を十分に把握していなかったこと、本人にとって耳の痛い話を皆の前で伝えるメリットとデメリットについて十分な検討がなされていなかったことなど、反省すべき点がたくさん挙げられます。また、実際に自傷・自殺行為が遂行されてしまったら自分は冷静に対応できていただろうか、これが自分1人で対応していた時に起きていたらどうなっていただろうかと考えると、冷や汗が出る感覚が今でもあります。

    ◆縊首を発見したスタッフのエピソード

     次は、同じ訪問看護ステーションのスタッフが経験した、私の心に刺さったエピソードです。

     訪問に伺った際、玄関に入ってすぐの階段で、紐で首をくくって利用者さんがぶら下がっている状態を発見しました。体が投げ出された階段は吹き抜け状になっており、自分1人で体を持ち上げられる状況ではありませんでした。マニュアルには、体に触れて救助に努めるなどが書かれていましたが、消防や警察に連絡をするのが精一杯でした。消防や警察は直ぐに駆けつけてくれましたが、心肺停止状態でした。しかし、自殺した時間(首を吊ったのは訪問の20~30分ほど前と思われること)を聞き、自分に何ができたのか、何かできたはず、との思いが渦巻きました。
     消防や警察が到着するまでの間に、自分はもっと何かできたのではないか、と今でも思います。その場でどのような行動を取るべきだったのか、と何度も何度も考えます。
     他の利用者さん宅で、同じような構造の階段を見るたび、その光景がよみがえります。このような状況下で、自分は何ができたのでしょうか。何をしなければならなかったのでしょうか。

     この話を聞き、その時のスタッフの驚きや悲しみ、後悔、そして利用者さんの死ぬほどつらかった状況や絶望感に共振し、いたたまれない気持ちになりました。そして私自身が経験したAさんのエピソードもよみがえりました。力が抜けていくような無力さも感じますが、それと同時に「同じ経験をしない! させない!」と強く思う自分もいます。
     相手の心がデータでは読み取れないのが精神科です。だからこそ、「病気や障害の特性を深く知る」「言葉や動作、生活面、治療状況等から心(精神)の状態を正しく読み取る」「精神科ならではの自傷や自殺、事故、急変した時だからこそ、相手に寄り添い、心の状態をアセスメントしながら迅速に正しい対応をとれるようにしておく」ということが精神科看護師の役割なのだと感じています。そして、この役割を果たしてこそ、利用者さん、患者さんの味方になれるのだと考えます。

    ◆目をそむけずに、困難な状況に備えたい

     つらい経験があっても、これからも精神科に携わりたい、利用者さん、患者さんの味方でいたい、と思います。この『精神科ならではのファーストエイド』は視覚的なインパクトと共に、とっさの声かけと望ましい態度、発見時はまずどう動くのか、出血量と止血点のポイントなどのおさらいがわかりやすく説明されています。
     さらに、自傷・自殺行為をする患者さんの心理を理解するための解説や、スタッフのデブリーフィングの方法にまで触れられており、今後困難な状況に直面した時に必ず役立つ1冊だと思います。看護師だけでなく、医療にかかわる多職種の皆さんがこの本を学ぶことで、利用者さん、患者さんの一番の味方になっていかれることを願っています。

    (『精神看護』2018年9月号掲載)
  • 苦しみの主観的体験への道標に(雑誌『看護教育』より)
    書評者:清水 隆裕(聖隷クリストファー大学)

     本書を開くと,凄まじい自傷行為の再現場面がありありと迫ってきます。精神科とか急変時の看護実践という視点で眺めると,危機的状況におかれた患者さんの身体的安全を,どう取り扱うのが最善なのかという実践的方法論がていねいに説明されています。現場の看護師には,お守り代わりの一冊となるでしょう。

     さて...
    苦しみの主観的体験への道標に(雑誌『看護教育』より)
    書評者:清水 隆裕(聖隷クリストファー大学)

     本書を開くと,凄まじい自傷行為の再現場面がありありと迫ってきます。精神科とか急変時の看護実践という視点で眺めると,危機的状況におかれた患者さんの身体的安全を,どう取り扱うのが最善なのかという実践的方法論がていねいに説明されています。現場の看護師には,お守り代わりの一冊となるでしょう。

     さて,看護教育という視点で眺めた場合は,著者が「患者さんの心に向けてどう声かけし対応するかが決定的に大事」と述べているように,自傷や自殺企図をせざるを得ない主観的体験に,思いをはせられるようなこころの醸成に主題があるように見えます。

     教員は自傷や自殺企図という行動自体ではなく,患者さんがそう行動せざるを得なかった体験に向かえるよう,学生に道標を示すことが求められます。そのため私は学生に「自傷しないと,こころの安定が保てない苦しみが想像つきますか?人生に対する絶望とその呻き声が聞こえますか?(少なくとも私には難しい)」と,問いかけます。しかし,学生を苦しみの体験に導くことはとても困難で,言葉だけが上滑りしやすい。

     著者は「精神科での看護経験がある人ならば,(中略)そうせざるを得ない理由があったのだろうと容易に理解することができると思います」と,言っています。学生は,実体験がないからわからないのです。「看護のこころが発展中の学生に,病を抱えた人間の苦悩や苦しみをどうやって伝えるのか?」という難しさです。

     今までの教科書は,「自傷したときの気持ちを受け止める」などと記述されていました。しかし,学生は知識として理解できたとしても,実体験として知っていないため,自傷行為に至るこころがどれだけ凄まじい状況か,想像が追いつきません。

     そうしたとき,画像付きのリアルな状況が見られる本書があれば,疑似実体験として,学生はその心情に思いをはせることが可能になります。そのとき教員から「そうせざるを得ないこころが,想像できますか?」と,問いかけがあれば,学生はどれだけ願っていても,患者と同じ苦しみの地平に立つことは難しいと気づけます。大切なことは,相手の気持ちは完全にはわからないという気づきです。その気づきは,不全感に苦しみながらも努力しつづける信念につながります。その苦悩と忍耐が,患者─看護師関係から,限界を抱えた真の人間同士の出会いを開くのです。そこがこの本書の潜在能力として,今までの本と圧倒的に違うところです。そのとき,強者(ケア者)─弱者(患者)の一方通行の関係から,限界と弱さを抱えた人間同士の相互的な関係性のなかに在ることが培われていくことでしょう。

    (『看護教育』2018年9月号掲載)
目 次
はじめに
「とっさの場面で必要な対応」の基本とは

I いざというときの動き方 応急処置が必要となった26のケース
 1 自傷
  01 体感幻覚による腕への自傷(大量出血の場合)
  02 カミソリで手首を自傷(止血が必要な場合)
  03 パニック発作で手首を自傷。収まったあとに自殺企図
  04 幻聴による命令で箸を鼻に詰めた
  05 幻聴による命令で、腕をバーナー型ライターで焼いた
  [解説1]自分を傷つける─そのとき、患者さんには何が起きているのか
 2 自殺
  06 ナイフで腹部を切って自殺企図
  07 ハサミで首を切って自殺企図
  08 飛び降りて自殺企図
  09 洗剤を飲んで自殺企図
  10 首を吊って自殺企図
  11 大量服薬で昏睡状態に
  [解説2]自殺発生─すぐ動くための5つの心得
  [解説3]自殺未遂をした患者さんとの対話
 3 事故
  12 熱い飲料を入れたペットボトルを持ち続け、手指を熱傷
  13 燃える布団にくるまりながら寝ていた
  14 浴室内で意識消失。水中に沈んでいるところを発見
  15 薬のヒートを誤飲した
  16 オムツを異食した
  17 部分入れ歯を誤飲。咽頭に刺さっている
  18 喉に食べ物が詰まった(意識消失)
  19 喉に食べ物が詰まった(意識あり)
  20 倒れているところを発見。呂律不良である
  [解説4]事故防止につながる疾病理解─せん妄
 4 急変
  21 身体拘束がきつすぎたことによるうっ血
  22 肺血栓塞栓症
  23 アルコール依存症患者の吐血
  24 アルコール依存症患者の離脱症状(振戦せん妄)
  25 多飲症による低ナトリウム血症
  26 悪性症候群による痙攣
  [解説5]アルコール依存症による身体合併症
  [解説6]多飲症について
  [解説7]悪性症候群を防ぐには

II 家族と看護師のフォロー
 1 家族へどう対応するか
  1 家族が持つ心理的負担への理解
  2 望ましい対応とは
  [point]これが遺族へ連絡し、かかわるときの基本姿勢だ
 2 忘れてはならない! 命にかかわる事故に遭遇した看護師のフォロー
  1 自傷・自殺が看護師に与えるすさまじいストレス
  2 看護師は相談しているか?
  3 組織的に「聞き上手」「吐露上手」を目指そう
  4 デブリーフィングのやり方
  [point]第一発見者となったスタッフの「心情」と「行動」を理解するために
  [point]自殺に遭遇した看護師は他者の言葉に敏感になっている

III 搬送時サマリーの書き方
 1 サマリーは2段階で書く!
  1 救命救急側にとって必要な情報でなければ意味がない
  2 Firstサマリーには「手術に関連する身体情報」を
  3 Secondサマリーには「継続看護のための情報」を
  資料1 Firstサマリー|フォーマット解説
  資料2 Secondサマリー|フォーマット解説
 2 搬送時サマリー実例
  体感幻覚による腕への自傷(大量出血)[16頁 ケース01]
  カミソリで手首を自傷(止血が必要な場合)[18頁 ケース02]
  幻聴による命令で箸を鼻に詰めた[22頁 ケース04]
  ハサミで首を切って自殺企図[36頁 ケース07]
  飛び降りて自殺企図[42頁 ケース08]
  大量服薬で昏睡状態に(自殺企図)[52頁 ケース11]
  燃える布団にくるまりながら寝ていた[68頁 ケース13]
  倒れているところを発見。呂律不良である[82頁 ケース20]
  肺血栓塞栓症[94頁 ケース22]
  アルコール依存症患者の吐血[96頁 ケース23]
  悪性症候群による痙攣[108頁 ケース26]

索引