序
作業療法という仕事は雲のように掴みどころがありません.
われわれのように他の専門職から「なにをやっているのか」と突っ込まれ,自分たちでも「私たちの専門性はなんだろう」と自虐的に問い続けている専門職もそうは多くないと思います.しかし作業療法理論によってわれわれのアイデンティティは紡がれ,2018年の定義改定で今後の方向性も定まりました.
これからの作業療法のありかたは,研究によって示されるべきです.
もちろん臨床・教育現場,どこも多忙であることは重々承知していますが,すべての臨床家と研究者が手を取り合い,作業療法のエビデンスを共創していく時代です.その使命感を持って本書を執筆しました.
「日々の臨床で精一杯なのに研究なんてできません!」という方もいらっしゃると思いますが,まず研究を「使う」ことから始めてみてはどうでしょうか.研究を「する」こと自体は確かにオプショナルかもしれませんが,最新の研究結果を臨床に取り入れることは専門職としての責務です.本書は第3章でエビデンスに基づいた実践(EBP)について触れており,このEBPを理解するだけで研究が身近に感じられるかもしれません.
日々エビデンスを調べるなかで,既存の研究だけではわからないことが出てきたときが研究を「する」絶好の機会です.そこで第1章の研究法概論に戻り,研究仮説の作りかたや,研究デザインなどを調べてみるとよいかもしれません.特に本書では,研究活動を始めるまでの初期摩擦をできるだけ少なくする目的でマンガを採用してみましたので,そちらも参考になれば幸いです.
また,新人教育プログラムや学会などで発表し,なんとなく研究に興味は持っているけれども,次にどうすればいいかわからず足踏みをされている方も多いと思います.そういう方が次のステップに進むために,本書のなかの現場に根ざした観察研究(4章),効果を検証する介入研究(5章),臨床の実態を丁寧に分析する質的研究(6章)などが参考になると思いますし,自分で新しい何かを開発したいときには,理論研究(7章)や尺度研究(8章)も役立つでしょう.
研究のコツは,まずやってみることです.
研究方法や統計がわからないので自分には無理,と誤解されがちですが,私たちも最初はよくわからないままスタートし(倫理的に問題のない範囲で),実際に研究しながら理解してきました.研究にはスマートなイメージがあると思いますが,実際には泥臭いものです.
断言してもいいですが,本書もただ読むだけではいつまでも理解できないでしょう.もちろん本書は業界では類を見ない最新の研究手法も多々扱っていますが,そもそも研究法を学ぶという行為自体が「知行合一」的な性格を持っていることも理解していただき,実際に研究を運用しながら本書を“活用”してみてください.まずやってみることが大切です.
研究を学ぶには,それなりの時間と努力を要します.研究を始めるには多少ストレスがかかることでしょう.しかし,ストレスが「人生のスパイス」とたとえられるように,作業療法研究が皆さまにとっての「スパイス」となり,不確実な作業療法を味わう機会につながるなら筆者らも望外の喜びです.
10年後を「今日から」創りましょう.
使命感に突き動かされた人へ贈ります
2019年2月
筆者を代表して 友利幸之介