非結核性抗酸菌症診療マニュアル 第2版
NTM症を診る臨床医のための指針──疫学・細菌学から診断・治療に至るまでを網羅
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非結核性抗酸菌症(NTM症)の診療の指針となる書。疫学・病態・診断・治療に加え、今版では、薬剤、肺外NTM症、臨床的課題、Clinical Questionsの章を新設。国内外の疫学・基礎研究・臨床の現時点における知見がこの一冊に結実した。呼吸器内科医、プライマリケア医の必携書、待望の改訂。
| 編集 | 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 |
|---|---|
| 発行 | 2026年06月判型:B5頁:280 |
| ISBN | 978-4-260-06574-0 |
| 定価 | 4,840円 (本体4,400円+税) |
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序文
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第2版 理事長の言葉/第2版 序
第2版 理事長の言葉
このたび,日本結核・非結核性抗酸菌症学会より「非結核性抗酸菌症診療マニュアル第2版」を刊行できますことを,大きな喜びとともにご報告申し上げます.
肺非結核性抗酸菌症は,近年わが国において患者数の増加が続き,日常診療の場で遭遇する機会が非常に増えております.一方で,その診断や治療は決して平易ではなく,菌種の多様性,病態の幅広さ,基礎疾患や宿主因子の影響,さらに長期にわたる治療経過の評価など,多くの要素を総合的に判断することが求められます.臨床現場では,診断基準の理解,治療開始の適切なタイミング,使用薬剤の選択,副作用への対応,難治例への対処など,実践的な課題が数多く存在しています.
初版刊行以降,肺非結核性抗酸菌症を取り巻く状況は大きく変化しました.国内外から新たな知見が蓄積され,診断に関する考え方,化学療法の位置づけ,外科治療や吸入療法の役割,さらには患者支援や長期フォローアップの重要性についても,理解が深まりつつあります.今回の第2版は,こうした進歩を踏まえ,現在の標準的な考え方と実地診療に役立つ要点を整理し,より実用的で信頼できる一冊となることを目指して編まれました.
本書が対象とする読者は,呼吸器内科医のみではありません.一般内科医,若い医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,診療放射線技師,リハビリテーション職を含む多職種の医療者にとっても,肺非結核性抗酸菌症を理解し,適切な診療につなげるための手引きとなることを願っております.本症の診療には,多職種による継続的な連携が不可欠であり,そのことは今後ますます重要になるでしょう.
ご多忙のなか本書の編集・執筆にご尽力くださった先生方に,心より敬意と感謝を表します.本書が,わが国における肺非結核性抗酸菌症診療のさらなる向上に寄与し,患者さんによりよい医療を届ける一助となることを念願して,巻頭のご挨拶といたします.
2026年5月
日本結核・非結核性抗酸菌症学会 理事長
佐々木結花
第2版 序
このたび,「非結核性抗酸菌症診療マニュアル」の第2版を発刊する運びとなりました.2015年の初版刊行以来,約11年ぶりの改訂となります.この間,非結核性抗酸菌症(nontuberculous mycobacteriosis:NTM症)の領域においては,さまざまな進展と変化がみられました.2017年にはBTS(British Thoracic Society)よりガイドラインが発出されました.さらに2020 年にはATS(American Thoracic Society)/ERS(European Respiratory Society)/ESCMID(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases)/IDSA(Infectious Diseases Society of America)より肺NTM症の診療ガイドラインが発出され,国際的な標準として広く認識されています.わが国においては,診断・検査の分野では,同定法として質量分析の実用化が進み,CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)が推奨する最新の評価法に基づく迅速発育菌および遅発育菌に対する薬剤感受性試薬も開発されるなど,さまざまな進歩がありました.治療の分野では,わが国でも2022年よりALIS(アミカシンリポソーム吸入用懸濁液)が臨床導入されました.さらに,国際ガイドラインを踏まえ,本学会の社会保険委員会の尽力により,NTM症治療のキードラッグとされるアジスロマイシン,アミカシン,イミペネム/シラスタチン,クロファジミンなどの薬剤が,社会保険診療報酬支払基金の審査事例として,保険を適用した使用が可能となりました.その結果,わが国は国際的にも治療選択肢が最も充実した国の1つとなっています.これらの経緯を踏まえ,肺NTM症の治療に関する見解が2023年に,診断に関する指針が2024年にそれぞれ改訂され,本学会と日本呼吸器学会の連名で発出されました.
NTM症の多くは呼吸器感染症であり,国内の疫学調査においても肺NTM症の増加傾向が報告されています.一方で,医療の進歩に伴い,侵襲的医療に関連した皮膚・軟部組織感染症や,免疫抑制状態(治療関連,基礎疾患,先天性・後天性免疫不全など)に認められる播種性NTM症も注目されるようになっています.本学会では,抗酸菌症を臓器横断的に全身感染症としてとらえる視点を重視しており,本改訂版では肺外感染症にも焦点を当てました.加えて,臨床現場において関心の高い診療上の疑問や課題を取り上げ,解説を加えています.
近年,非結核性抗酸菌症に対する関心がますます高まり,病態解明,診断,治療,予防の各分野で着実に成果が積み重ねられています.最新の情報に基づくこの診療マニュアルがNTM症についての理解を深め,臨床への一助になりましたら編集・執筆に携わった一同の大きな喜びです.
2026年5月
責任編集者
長谷川直樹・藤田昌樹
目次
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第1章 非結核性抗酸菌症の現状
I 総説:日本と世界の非結核性抗酸菌症の疫学と動向について
第2章 非結核性抗酸菌症の病態
I 細菌側の要因(病原因子)
A 非結核性抗酸菌の細菌学的性質と感染源
B 非結核性抗酸菌の分子疫学解析法
C 非結核性抗酸菌の病原因子
II 宿主側の要因
A 非結核性抗酸菌に対する宿主の防御能
B 非結核性抗酸菌症の宿主因子
C 医療関連感染としての非結核性抗酸菌症
第3章 肺非結核性抗酸菌症の診断
I 臨床症状
II 画像所見
III 病理所見
IV 細菌検査(塗抹,培養,同定など)
V 細菌検査(薬剤感受性試験)
VI 血清診断法
VII 診断基準──2024年改訂指針と国際ガイドラインを踏まえた整理
第4章 肺非結核性抗酸菌症の治療──外科的治療を含めて
I 肺非結核性抗酸菌症の治療開始と治療評価の基準
II 肺非結核性抗酸菌症の重症度の評価と予後
III 肺MAC症の治療──治療開始基準,治療内容,レジメン,治療期間
IV 肺M. kansasii 症の治療
V 肺M. abscessus species 症の治療
VI その他の肺非結核性抗酸菌症の治療
VII 肺非結核性抗酸菌症の外科療法
第5章 主要な薬剤の使い方
I 主要な薬剤の作用機序と薬物動態
II 実際の使用と副作用対策
第6章 肺非結核性抗酸菌症の臨床的課題と新たな視点
I 肺非結核性抗酸菌症の予防──環境・感染源対策
II 肺非結核性抗酸菌症と気管支拡張症
III 肺非結核性抗酸菌症と慢性下気道感染──緑膿菌を中心に
IV 肺非結核性抗酸菌症とアスペルギルス症
V 生物学的製剤・JAK阻害薬使用下の肺非結核性抗酸菌症
VI 肺非結核性抗酸菌症の栄養管理
VII Patient Reported Outcome(PRO)
VIII 小児における非結核性抗酸菌症
IX 喀血対策
第7章 肺外非結核性抗酸菌症
I 肺外非結核性抗酸菌症の疫学
II 肺外非結核性抗酸菌症──皮膚,骨も含めて
III HIV関連播種性MAC症
IV 抗IFN-γ自己抗体陽性例における非結核性抗酸菌症
第8章 Clinical Questions
CQ1 誘発喀痰か気管支鏡か?
CQ2 マクロライド耐性肺MAC症
CQ3 2剤治療 vs. 3剤治療──リファンピシンの意義
CQ4 クラリスロマイシンかアジスロマイシンか
CQ5 静注アミカシンup-to-date
CQ6 アミカシンリポソーム吸入用懸濁液 up-to-date
CQ7 クロファジミン up-to-date
CQ8 肺非結核性抗酸菌症治療におけるフルオロキノロン系薬の意義
CQ9 M. abscessus species症におけるβラクタム系薬の意義
Column
深層学習(deep learning)の応用
Mycobacterium 属への再統合(2025年)
肺NTM症における血痰の成り立ち
索引
書評
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通読にも拾い読みにも適した充実の改訂版
書評者:田坂 定智(弘前大大学院教授・呼吸器内科学)
お恥ずかしい話だが,評者には読書の習慣がない。電車通勤だったころには通勤時間が読書タイムだったが,車通勤となってからはとんと本を読まなくなった。もちろん仕事柄,論文やbook chapterを読むことは日常だが,一冊の本に腰を据えて向き合ったのはいつが最後であったか。そのような私が書評のご依頼をいただいた。一瞬ちゅうちょしたが,「マニュアルであれば」とお引き受けした。しかし届いた本を見て,「これはマニュアルであろうか?」というのが第一印象であった。非結核性抗酸菌(NTM)の細菌学に始まり,診断,治療,各治療薬の特徴,合併症対策,栄養管理など,NTM症のあらゆる側面が網羅的に記されている。これが読み始めると面白い。ヒト宿主内という安定した環境に住む結核菌が遺伝的に閉じた集団として進化してきたのに対し,水や土壌など多様な環境にいるNTMの遺伝子は環境適応のために拡張・再編され続けているなどは目からうろこであり,NTM症の診療はNTMという進化を続ける生き物との戦いなのだと認識を新たにしつつ,一気に通読してしまった。
NTM症は,今や結核の罹患率・死亡率を上回り,日常診療で避けて通れない疾患となった。患者数は増加の一途をたどり,呼吸器内科医だけでなく,プライマリケア医や多職種がこの疾患に向き合う時代が到来している。本書は,そうした現場のニーズに応えるべく,2015年の初版から約11年ぶりに刊行された,まさに時宜を得た一冊である。
本書の最大の特長は,この10年間の進歩を余すところなく織り込んでいる点にある。2020年に国際ガイドラインが発表され,わが国でも2021年にアミカシンリポソーム吸入用懸濁液(ALIS)が導入された。さらに,アジスロマイシンやアミカシンなどが保険審査上使用可能となるなど,治療環境は大きく様変わりした。本書はこれらの動きを踏まえ,2023年の治療に関する見解の改訂,2024年の診断に関する指針の改訂に至る流れが良く理解できる内容になっている。
マニュアルと銘打っているだけに拾い読みにも適しており,診療に役立つtipsも豊富である。例を挙げると,採痰の際に水道水でうがいをさせてはいけない,一般細菌培養検査で同定されていないグラム陽性桿菌があるときは迅速発育抗酸菌を疑う,クロファジミンは牛乳など脂肪分を含む飲料と一緒に服用するとバイオアベイラビリティを最大化できる,など,初学者から専門医まで役に立つ内容である。また第8章「Clinical Questions」は秀逸であり,マクロライド耐性肺MAC症への対応など,臨床で迷うポイントについて明快に道筋を示してくれている。
総じて,本書はNTM症診療の“現在地”を知るための必携の書であり,通読にも拾い読みにも適した充実の改訂版と言える。
非結核性抗酸菌症に対する理解と実際の診療に幅広く役立つ手引書
書評者:小川 賢二(国立病院機構東名古屋病院医療顧問)
2026年6月,日本結核・非結核性抗酸菌症学会の編集による『非結核性抗酸菌症診療マニュアル 第2版』が発刊されました。
本書は非結核性抗酸菌症の全てに理解を深めるため,最新の疫学情報から始まり,病態として細菌側要因,宿主側要因の解説,最新の診断治療,新たな課題と視点,そして巻末の第8章には診療の現場で大変役に立つClinical Questionsが添えられており,マニュアルのレベルを超え診療ガイドラインに匹敵するのではないかと思わせる内容となっています。
各章を見てゆきますと,細菌側要因,宿主側要因の項目では臨床医のみならず基礎的研究者にとっても大変興味深い研究が網羅されており,本疾患を克服したいと考える研究者や臨床医は,ここを起点に新たな治療法,治療薬開発のアイデアが湧いてくるのではないかと期待させます。また2024年に学会から発出された「肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針―2024年改訂」では,診断基準に加え暫定的診断基準が追記され,わが国で開発された抗GPL-core抗体検査や胃液検査の活用が提唱されています。本検査の感度・特異度,適用時の注意点などが詳解されており,新たな考え方として国際的にも注目されるのではないかと思います。治療薬については保険適用の問題で長年使いにくい状態でしたが,本学会の現理事長である佐々木結花先生が社会保険委員会の中心となり,重要な薬剤を保険で使用できるよう厚労省に申請し審査事例として認可を受け,治療の選択肢が大幅に増えたことが特筆されます。また副作用出現時の薬剤選択や代替薬の意義に関しても記載されており,診療現場ですぐに役立つ内容となっています。現状の治療では本疾患の完治という最終目標がいまだ達成できてないという問題点があり,現行治療薬の新たな運用法の検討や新薬開発の推進などが今後の重要な課題かと感じました。
本書は非結核性抗酸菌症対策委員会・前委員長の長谷川直樹先生と現委員長の藤田昌樹先生を中心に,本学会会員の総力を挙げて作成された渾身の手引書であると思います。現場の臨床医(一般・呼吸器専門),看護師,薬剤師,臨床検査技師,診療放射線技師,理学療法士の実践にすぐ役立つ内容であるばかりでなく,本疾患にかかわる研究者にとってもアイデアを提供する興味深い内容となっており,非結核性抗酸菌症に対する理解と実際の診療に幅広く役立つ一冊と言えるでしょう。




