内科医と産婦人科医をつなぐ
妊産婦診療ガイド
妊産婦に寄り添い家族を支える 母性内科のエビデンスとエッセンス
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日本母性内科学会の監修による、妊産婦を診るすべての医師のためのガイド。プレコンセプションケア、妊娠中によくある・注意すべき症候と検査値異常、主な妊娠合併症、母性内科診療の極みともいえる合併症妊娠の治療・管理をエキスパートが詳しく解説した。必要十分な情報にアクセスでき、適時・適切なコンサルトが行えるようにまとめられた、内科と産婦人科の架け橋となるガイド。文献、妊産婦と薬の情報、母性内科TIPSも満載。
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序文
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序
頭痛を訴える妊婦が受診した際,「どのような疾患を鑑別すべきか」「どのような薬剤なら使用できるか」と身構えたことはないだろうか? 腎疾患をもつ女性に妊娠の可否について聞かれて戸惑ったことはないだろうか? このような疑問に答えてくれる教科書・ハンドブックが欲しいとの声に応え,日本母性内科学会監修のもと,母性内科を修練した医師たちにより本書は執筆された。
母性内科の起源は,1981年に開院した大阪母子医療センターにある。同センターでは,母子医療の現場において内科的アプローチが不可欠であると考えた大阪大学第三内科教授・山村雄一氏が,臨床遺伝グループの精鋭を派遣し,母性内科診療を開始したことにより,その歩みが始まった。その後,国立成育医療研究センターの開設に際して,準備を指揮した開原成允氏(当時,国立大蔵病院長・東京大学名誉教授)の英断により,同センターにおいても母性内科が2002年,設置された。当時,母性内科を有する施設は全国にわずか4か所しか存在していなかったが,これらの施設には合併症妊娠に取り組む医師や施設から診療方針に関する相談が多く寄せられるようになった。こうした状況を背景に,母性内科医療に関する意見交換および学術振興の場の必要性が高まり,2014年に4施設の医師を中心として日本母性内科学会が設立された。現在,同学会は内科医と産婦人科医がほぼ半数ずつを占め,双方の専門性を融合させながら,新たな医療領域の創造を目指して活動を続けている。
医学の進歩により,かつては妊娠を断念せざるを得なかった慢性疾患患者においても妊娠が可能となるケースが増えてきている。それに伴い,合併症妊娠に関する知識や経験の重要性は,これまで以上に高まりつつある。さらに,妊娠年齢の高齢化により妊娠合併症が増加している現状を踏まえると,専門医に限らず一般医師にも,母性内科的な診療技術が求められる時代が到来している。本書ではプレコンセプションケアを含む母性内科の基本的知識に加え,「母性内科診療の極み」として,数多くの慢性疾患合併妊娠について,慢性疾患の主治医および妊娠管理を担う産婦人科医にとって,不可欠な知識をわかりやすく解説している。また,妊婦のプライマリケアにおいて重要な偶発合併症,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病といった一般的な妊娠合併症を取り上げた。これらは救急外来やプライマリケアの現場で即戦力となる内容であると自負している。さらに,妊娠中に将来の疾病リスクが顕在化した女性に対し,出産後の生活指導を通じて健康な中高年期へと導くための道筋も提示した。出産から中高年期に至るまでの指導に言及した点は,多くの女性にとって医療的空白となる期間に光をあてる画期的な試みである。
医学教育および臨床現場において,母性内科領域が十分に議論される機会が限られている現状を踏まえ,本書がその状況に一石を投じる契機となり,ひいては医療を必要とする女性とその子どもたちのウェルビーイングの向上に寄与することを,心より願っている。
最後に,多忙な中にもかかわらず執筆にご尽力くださったすべての先生方に深く感謝申し上げるとともに,企画から監修に至るまで情熱をもって本書作成を牽引してくださった三島就子先生,そして編集にご尽力くださった医学書院のスタッフに,心より謝意を表する。
2025年5月
村島 温子
目次
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1章 母性内科総論
1 妊娠の生理的変化
2 合併症妊娠に関する産科的基礎知識
3 不妊・習慣流産の知識
4 妊娠・授乳と薬
2章 プレコンセプションケアの実際
1 背景と現状課題
2 慢性疾患のスクリーニング
3 禁煙
4 栄養・運動
5 女性のがん検診
6 パートナーのプレコンセプションケア
3章 検査値異常と内科的トラブル
A.検査値異常
1 妊娠中に血糖異常をみたら!
2 妊娠中に血圧異常をみたら!
3 妊娠中に甲状腺機能異常をみたら!
B.症候別
1 妊娠中に頭痛がでたら!
2 妊娠中に動悸がでたら!
3 妊娠中に嘔気・嘔吐がでたら!
4 妊娠中に呼吸苦がでたら!
5 妊娠中に腰痛がでたら!
4章 主な妊娠合併症
1 妊娠糖尿病
2 妊娠高血圧症候群の妊娠中の管理
3 妊娠高血圧症候群の産後の管理
4 周産期心筋症
5 マタニティブルーズ,産後うつ病
5章 母性内科診療の極み
A.代謝・内分泌疾患
1 糖尿病合併妊娠(1型・2型)
2 肥満
3 脂質異常症
4 バセドウ病
5 橋本病,潜在性甲状腺機能低下症,産後甲状腺炎
6 下垂体疾患
B.高血圧・腎疾患
1 高血圧
2 二次性高血圧
3 慢性腎臓病(CKD)
4 糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,周産期TMA
C.循環器疾患
1 先天性心疾患
2 不整脈
3 肺高血圧
D.血液疾患
1 貧血
2 血小板減少症
3 凝固異常症(遺伝性血栓性素因を中心に)
E.免疫・アレルギー疾患
1 全身性エリテマトーデス(SLE)
2 関節リウマチ(RA)
3 シェーグレン症候群(抗SS-A抗体陽性)
4 抗リン脂質抗体症候群(APS)
5 その他のリウマチ膠原病疾患
6 炎症性腸疾患
7 気管支喘息
F.神経・精神疾患
1 てんかん
2 免疫性神経疾患
3 うつ病・双極症(躁うつ病・双極性障害)
4 統合失調症
5 不安症(不安障害),強迫症(強迫性障害)
G.感染症
1 B型・C型肝炎
2 TORCH症候群
3 HTLV-1関連疾患
4 HIV感染症
5 新型コロナウイルス感染症
6 肺炎
7 尿路感染症
H.その他
1 がんサバイバー女性の妊娠(白血病など)
2 腎移植後女性の妊娠
巻末付録
妊娠中・授乳中に使用されることの多い薬剤の安全性情報リスト
《COLUMN》母性内科を学べる書籍等のご紹介
索引
書評
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「檄」に応えてくれた一冊
書評者:木村 正(堺市立病院機構理事長/前阪大大学院教授・婦人科学/前日本産科婦人科学会理事長)
以前,関連病院の部長から「うちの病院の他科は妊婦を診てくれないんですよ」という愚痴を聞いた。「妊婦も人間やろ。何で診られない,などと言われなあかんのや!」と,思い,これは学生・初期研修医から教えないといけない,と考えた。学生には「妊娠と薬・放射線」の講義は一番試験に出るところ,と言い続けた。初期研修医には,将来どの分野を専門にしようとも,合併症妊婦の多い阪大病院産科病棟での研修目的は「妊婦に多種の薬剤を安全に使う必要があることを知る」ことだ,と言い続けた。若者たちに「せめて,自分の専門領域の女性患者が妊娠したい,あるいはすでに妊娠して君の外来に来たら逃げるな。妊婦も人間や」と檄を飛ばし続けた。
この『内科医と産婦人科医をつなぐ 妊産婦診療ガイド』を,私が飛ばしてきた檄をコンパクトに具現化していただいたと感謝しながら読ませていただいた。妊産婦に対する薬剤投与とその結果を丁寧に収集され,日本の薬剤の添付文書から科学的根拠に基づかない「妊娠禁忌」を外すことにご尽力されてきた村島温子先生,三島就子先生をはじめとする先生方の集大成と言える力作である。日本の全ての大学医学部では学生に薬害をテーマとした講義が行われている。学生に最もインパクトを与えているのはサリドマイド禍であり,あのような悲劇を二度と繰り返してはならない。しかし,妊産婦への投薬自体を,根拠なく恐れるのではなく,催奇形性やその他の胎児への影響,授乳中の薬物動態と新生児への影響などを具体的根拠を持って「正しく恐れ,正しく行う」ことが母と子の幸せにつながることを改めてこの本から学ぶことができた。疾患を持つ女性に妊娠前から正しい情報を与え,妊娠する前に薬剤の調整を行うこと,妊娠特有の病態の鑑別,あるいは投薬の際の説明の仕方なども随所に「母性内科TIPS」として書かれ,妊娠前相談(プレコンセプションケア)から妊娠中,授乳中にも役立つ知識となっている。
薬剤添付文書の「妊娠中・授乳中は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」という何の役にも立たない一文を乗り超え,真に必要な薬剤に関する情報を得て,疾患が妊娠に与える影響・妊娠が疾患に与える影響をコンパクトに学ぶことができる一冊である。また,その根拠となる重要な研究成果が“文献”として網羅されている点もありがたい。
先生方がご覧になる患者の半数は女性である。少子化とはいえ出生+流産で年間約80万人の妊婦がおられ,20~45歳女性(1600万人強)の受療率はかなり低いので(10万対2000~4000程度),先生方を受診されるこの年代の女性患者のそれなりの割合が妊娠中または妊娠したい人であろう。この方々がよりよい医療を受けられるための座右の書物として,ぜひ全ての診療科の先生方にご一読をお薦めしたい一冊である。
内科医が直面する可能性の高い状況が網羅されている
書評者:長野 広之(天理よろづ相談所病院総合内科)
私は総合内科医として15年目の医師です。日常診療において妊産婦の方と接する機会は決して多くありません。しかし産婦人科からのコンサルトや慢性疾患で通院中の患者さんが妊娠された際など,まれながら妊産婦の診療に携わることはあります。特に当科では膠原病を持つ若年女性を長く診ていく機会が多く,全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群,そしてステロイドや免疫抑制剤を服用中の患者さんが妊娠を希望されたり,妊娠中に病状が変化したりといった状況に出会うことがあります。その中で感じていたのは,産婦人科領域の専門性と内科的視点との間の「橋渡し」の必要性です。本書はその必要性に応えてくれる一冊であると強く感じました。
本書の最大の特長は,その網羅性と実用性にあります。第1章の「母性内科総論」では,妊娠による生理的変化や合併症妊娠に関する基礎知識が簡潔にまとめられており,内科医が妊産婦診療に臨む上で不可欠な知識を学ぶことができます。第2章の「プレコンセプションケアの実際」は初めて知る領域でしたが,内科医が患者さんの妊娠前からかかわることの意義を認識させてくれます。そして,本書の真骨頂は,第3章以降の「検査値異常と内科的トラブル」「主な妊娠合併症」「母性内科診療の極み」です。妊娠中に遭遇し得る血糖異常,血圧異常,甲状腺機能異常といった検査値異常への対応から,頭痛,動悸,嘔気・嘔吐といった症候別の鑑別診断と初期対応,さらには妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群といった主要な妊娠合併症へのアプローチまで,内科医が直面する可能性の高い状況が網羅されています。
これまで,妊産婦の診療は産婦人科医の専門領域という意識が強く,診療する際に不安を感じることが少なくありませんでした。しかし,本書は,内科医が持つ知識と産婦人科医が持つ専門知識を合わせることで,より質の高い妊産婦診療を提供する道筋を示してくれています。まさに「内科医と産婦人科医をつなぐ」というタイトル通りと感じました。本書を通じて内科医と産婦人科医が密に連携し,妊産婦とその家族を支える医療がますます発展していくことを期待します。