OCTアトラス 第2版

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今や眼科診療に不可欠の検査機器となったOCT(optical coherence tomography:光干渉断層計)画像を存分に盛り込んだカラーアトラス、待望の改訂第2版。初版の方針を踏襲し“アトラス”としてのビジュアルな紙面づくりを意識しつつ、OCT angiographyをはじめここ10年での進歩を踏まえて画像・記述を全面的にアップデートした。

監修 𠮷村 長久 / 板谷 正紀
編集 辻川 明孝
発行 2022年08月判型:A4頁:504
ISBN 978-4-260-04905-4
定価 27,500円 (本体25,000円+税)

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第2版の序

 本邦でOCTが一般的になりだしたのはOCT3000が販売された2002年に遡ります.その後の10年で,spectral-domain OCTが普及し,OCTで得られた所見をもとにした疾患の病態理解・治療マネージメントが一般化しました.その集大成として,2012年に『OCTアトラス』が刊行に至りました.
 初版『OCTアトラス』は,その当時最も鮮明な網膜Bスキャン像が得られたSpectralisを中心に構成されています.あれから10年,OCTはどれくらい進化したでしょうか? Swept-source(SS)OCTの導入,EDI-OCT法の普及により脈絡膜の観察による病態理解は大きく進歩しました.また,SS-OCTはゲインの減衰が小さいため,硝子体観察に有効であり,網膜硝子体界面疾患の病態の解明が大きく進歩しました.そして,広画角のOCT撮影が可能になったことにより,強度近視に伴うさまざまな合併症の病態理解も大きな前進を遂げました.しかし,網膜の観察にはどのような進歩があったでしょうか? 市販されている機器で撮影したベストなBスキャン像のレベルは目を見張るほどには進歩していないように感じます.意外と,10年以上前に,情熱をもった視能訓練士や大学院生が撮影したOCT画像は今見直してみても,その鮮明さに驚きます.今後,AO-OCTなどの新しい技術の開発が加速することが期待されます.一方で,現在,研修医がどのOCT機器で撮影してもかなりきれいなBスキャン像が撮影可能であり,全体の底上げはめざましいといえるでしょう.
 この10年での一番の進歩はOCT angiography(OCTA)でしょう.最初は3×3mmの狭い領域に限られた臨床には役立ちそうにない画像でしたが,撮影範囲の拡大,モンタージュ法の進歩,SS-OCTAの導入,重ねあわせによるノイズ軽減,AIを用いたデノイズなどの開発により,画質も使い勝手も驚くほど進歩しました.OCTAは毛細血管網の層別解析が可能なため,種々の網膜疾患の毛細血管レベルで病態理解が大きく前進しました.フルオレセイン蛍光眼底造影とOCTAとは互いの長所を活かした棲み分けが起こりつつあります.
 初版『OCTアトラス』は𠮷村長久先生,板谷正紀先生の嗜好とこだわりが色濃く映し出された一冊でした.網膜硝子体界面疾患や加齢黄斑変性などの非常に詳細な章もある反面,緑内障,神経眼科,腫瘍など,ほとんど触れられていない領域もありました.『OCTアトラス』はアトラスという本の性格上,すべての領域を完全にカバーすることは意図していません.症例画像を通して,多くの疾患の病態理解を深めることをめざしています.初版のよさを残しながら,最新の情報を伝えることができるように,症例を取捨選択し,用語・疾患概念も時代に即した改修を行いました.『OCTアトラス 第2版』が読者諸氏の網脈絡膜硝子体疾患の病態理解・治療マネージメントに貢献できることを願っています.

 2022年6月
 観光客のほとんどいない静かな京都にて
 辻川明孝

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1 OCT読影の基礎
 Bスキャンの基礎
 正常網膜
 正常眼脈絡膜イメージング
 Bスキャン表示
 深さ分解能の誤解
 アーチファクト
 OCT angiography読影の基礎
 OCTA特有のアーチファクト

2 網膜硝子体界面病変
 特発性黄斑円孔
 Macular microhole
 特発性黄斑上膜
 硝子体黄斑牽引症候群

3 糖尿病網膜症
 糖尿病網膜症
 糖尿病黄斑浮腫

4 網膜血管病変
 正常網膜血管
 網膜静脈閉塞症
 網膜動脈閉塞症
 Paracentral acute middle maculopathy
 網膜細動脈瘤
 コーツ病
 高血圧網脈絡膜症
 妊娠高血圧症候群網膜症

5 中心性漿液性脈絡網膜症
 Pachychoroid spectrum disease
 Pachychoroid pigment epitheliopathy
 中心性漿液性脈絡網膜症
 Pachychoroid neovasculopathy
 Pachychoroid geographic atrophy
 Focal choroidal excavation, Peripapillary pachychoroid syndrome

6 加齢黄斑変性
 ドルーゼン
 網膜色素上皮剝離
 萎縮型加齢黄斑変性
 滲出型加齢黄斑変性
 ポリープ状脈絡膜血管症
 網膜血管腫状増殖 Type3 neovascularization

7 黄斑疾患
 黄斑部毛細血管拡張症
 点状脈絡膜内層症
 若年網膜分離症
 卵黄様黄斑ジストロフィ,成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ
 弾性線維性仮性黄色腫
 Acute macular neuroretinopathy
 特発性脈絡膜新生血管
 多発性一過性白点症候群
 急性帯状潜在性網膜外層症

8 網膜変性症
 スタルガルト病
 癌関連網膜症
 クリスタリン網膜症
 網膜色素変性症
 白点状眼底(眼底白点症)
 小口病
 オカルト黄斑ジストロフィ
 錐体(杆体)ジストロフィ
 中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ
 コロイデレミア

9 ぶどう膜炎
 ベーチェット病
 サルコイドーシス
 原田病
 交感性眼炎
 トキソカラ症
 急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)
 視神経網膜炎
 サイトメガロウイルス網膜炎
 真菌性眼内炎

10 病的近視とその類縁疾患
 近視
 Dome-shaped maculaと下方ぶどう腫

11 網膜剝離
 裂孔原性網膜剝離

12 腫瘍
 脈絡膜母斑
 脈絡膜悪性黒色腫
 脈絡膜骨腫
 脈絡膜血管腫
 転移性脈絡膜腫瘍
 網膜血管芽腫
 眼内リンパ腫

13 緑内障
 緑内障

14 視神経疾患
 視神経乳頭隆起・腫脹
 視神経萎縮

索引
 欧文索引
 和文索引
 症例索引

Column
 優性と劣性,顕性と潜性
 「黄斑ジストロフィ」という疾患名について
 コロイデレミアのキャリア(CHM遺伝子内の病的変異保因者)について

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網膜の専門家にも,これから眼底疾患を学ぶ方々にも
書評者:本田 茂(大阪公立大大学院教授・視覚病態学)

 現代の眼科診療,特に網膜診療において光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)は欠かせない機器となっています。単に病気の診断や治療の評価に用いるだけでなく,OCTによる網膜および脈絡膜構造の三次元的理解は疾患の病態解明にも大いに役立ってきました。最近ではコンピューター性能の向上によって画像取得の高速化,広画角化が進み,また長波長レーザーを用いたSwept-source OCTでは脈絡膜および硝子体のより詳細な観察と病態評価が可能となっています。さらに,現在,導入が広がりつつある網膜光干渉断層血管撮影(OCT angiography:OCTA)では造影剤なしで網膜の微小血管構造の描出が可能であり,また層別解析による血管の三次元的変化を捉えることができるようになりました。

 本書は初版からちょうど10年を経て改訂されました。私は同書の初版も所有していますが,当初から京大眼科学教室の実力を大いに発揮された,通常のアトラスよりも一歩踏み込んだ内容に感銘を受けました。それは掲載される各画像の美しさだけでなく,当時最先端の解析方法や所見の記載,それを元にした病態解釈まで網羅されていることに大きな学術的意義を見ることができたからです。今回の第2版では,その後の10年間で得られたさまざまな新知見を盛り込み,さらに進歩した画像解析と病態解釈を提示したものとなっています。特にOCTAによって発見された数多くの知見は初版にはなかったものであり,それだけでも改訂による内容の大幅な向上を十分に感じ取ることができますが,本書では各疾患におけるOCTA所見とその解釈が大変詳細に述べられており,これは他に類を見ないものです。また,初版では記載の少なかった腫瘍,緑内障,視神経疾患の他にもpachychoroid spectrum diseaseやparacentral acute middle maculopathyのように,この10年間で新たに提唱された疾患概念もあり,第2版ではそれらもくまなく網羅されています。一方,滲出型加齢黄斑変性などよく知られた疾患においても,例えば従来の脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization)が黄斑新生血管(macular neovascularization)という呼び方に変わり,IS/OS,COSTと呼ばれていた所見がそれぞれellipsoid zone(EZ),interdigitation zone(IZ)という表現に変わりました。OCT所見において,新たに同定された所見を表す用語が増えたことはもちろんですが,特発性黄斑上膜の分類に見られるように同じ所見でも病態解釈の変化によって所見を表現する用語が変化した場合もありますので,それらのアップデートも第2版の重要なポイントになっています。

 本書はOCTアトラスでありながら,その他の検査画像所見との関連性にも言及し,またシェーマを多用して読者の病態理解を促す構成となっていることから,網膜のエキスパートのみならず,これから眼底疾患を学ぶ先生方にとっても教科書的な役割を果たしていると言えるでしょう。本書の監修,編集および執筆をされた先生方に心からお祝いとお礼を申し上げます。

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