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理学療法ガイドライン 第2版

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エビデンスに基づく理学療法によって臨床の質を高めるために、これからの臨床の指針となる一冊。21領域、41疾患・外傷における195のCQが、理学療法の現在の立ち位置と進むべき方向を示す。

監修 公益社団法人 日本理学療法士協会
編集 一般社団法人 日本理学療法学会連合 理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会
発行 2021年10月判型:B5頁:648
ISBN 978-4-260-04697-8
定価 6,050円 (本体5,500円+税)

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    2021.11.01

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『理学療法ガイドライン 第2版』の発刊と活用に期待を込めて

 このたび,『理学療法ガイドライン 第2版』を発刊します.この発刊にご協力いただいた1,400名以上の方々に御礼申し上げます.
 背部痛,腰椎椎間板ヘルニア,膝前十字靱帯損傷,肩関節周囲炎,変形性膝関節症,脳卒中,脊髄損傷,パーキンソン病,脳性麻痺,糖尿病,心大血管疾患,慢性閉塞性肺疾患,身体的虚弱(高齢者),下肢切断,地域理学療法,徒手的理学療法の16の疾患・領域からなる『理学療法ガイドライン 第1版』(2011年)から10年ぶりです.第2版は,脳卒中,脊髄損傷,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,パーキンソン病,脳性麻痺,低出生体重児,二分脊椎症,骨形成不全症,デュシェンヌ型筋ジストロフィー,頸部機能障害,腰椎椎間板ヘルニア,非特異的腰痛,腰部脊柱管狭窄症,肩関節周囲炎,上腕骨外側上顆炎,肘部管症候群,投球障害肩,投球障害肘,橈骨遠位端骨折,手指屈筋腱損傷,関節リウマチ,手根管症候群,大腿骨近位部骨折,変形性股関節症,寛骨臼大腿骨症候群,鼡径部痛症候群,変形性膝関節症,膝蓋大腿関節症,前十字靱帯損傷,アキレス腱障害,足関節捻挫,大血管疾患,心不全,慢性閉塞性肺疾患,間質性肺疾患,人工呼吸器管理,糖尿病,軽度認知障害,フレイル,地域理学療法の41の疾患・領域からなります.これは理学療法のエビデンス化の進歩を示しています.そして,理学療法を主語とし,公益財団法人日本医療機能評価機構のMindsに準じ,理学療法における現行のエビデンスを1冊に集積・作成されたことは大きな成果です.
 今後は,このガイドラインの有効活用が命題です.私は臨床時代に,『脳卒中ガイドライン』を購入し,医師の診療基準を学び,理学療法に活かせる内容を探索し,その理学療法の実践が医師との信頼関係と患者さんの利益を高める道筋と考え,精読していました.実際に効果のある理学療法のエビデンスが弱いならば,エビデンスを高めるために,症例発表,症例集積発表,症例対照研究に取り組みました.こうした経験からも,会員にわかりやすく推奨内容を周知し,当たり前に活用されるようになり,理学療法の科学性が外部へ認知され,理学療法の発展につながる風土の醸成が重要となります.
 最後に,このガイドラインが日常診療で頻回に利用され,さらなる理学療法のエビデンスが構築されることを願います.そしてそれは,理学療法士の行う「理学療法」が,安心・安全かつ効果的であり,国民の健康と福祉に寄与することの証明につながると信じてやみません.

 2021年8月
 公益社団法人 日本理学療法士協会
 会長 斉藤 秀之


発刊にあたって

 『理学療法ガイドライン 第2版』が多くの困難を克服して完成したことに,心より感謝いたします.赤坂部会長の下,多くの委員,班員,アドバイザーの協力によって作業は続けられたとお聞きしています.会員の方々が,このガイドラインを積極的に活用して,科学性のある臨床理学療法を提供することを切に願っています.
 診療報酬の第7部リハビリテーションの部では,「リハビリテーション医療は理学療法,作業療法,言語聴覚療法等の治療法によって構成される」とされています.理学療法は治療法であり,治療であるからこそ診療報酬を得られる立場が確立しているのです.治療であれば,当然のようにガイドラインは必要不可欠です.
 私は2020年の10月に中央社会保険医療協議会(中医協)の専門委員になりました.中医協の構成は1号側委員として各種保険者,2号側委員として医師・歯科医師・薬剤師,専門委員として学者数名・看護師・歯科衛生士,そして理学療法士である私という構成です.私が参加した初めての会議で「各学会にガイドライン作成を求める件」が検討され,ガイドラインのない学会に対しては強くガイドライン作成を要請するということが話し合われました.その論議の中で「ガイドラインのない治療法は報酬の対象にはなりえない」との発言が厚生労働省からありました.1号側委員からもその考えを推奨する意見が出されたのです.また,2021年3月の中医協では費用対効果についての論議があり,これまでの1年くらいの検討の結果,2022年診療報酬改定に費用対効果判定を導入することが決まりました.当面の間は単価の高い治療等について検討することになったのです.医療保険での動きを受けて,介護保険でも次期改定時には費用対効果が俎上に上がることが予測されます.介護保険は,医療保険と違って単価が非常に高いものは存在しないために,全体としての伸びが大きいものが費用対効果判定の対象となる可能性があります.
 日本は少子化の影響を受けて,大きく経済力を落としていくことが考えられます.社会保障費が国家的重荷となり,その抑制を強く求められる時期が来る可能性があります.その時の基準になるものはまちがいなく「費用対効果」になります.臨床理学療法が壊滅的な打撃を受けないように,ビッグデータを集積し,ガイドラインを作成し,公的保険収載を守ることが肝要です.最近の医療の革新性を考慮するとガイドラインの見直しは数年単位で行うことが求められます.今後も第3版,第4版とたゆまぬ努力を続けることが理学療法の発展には欠かせません.委員および班員・アドバイザーの努力に感謝するとともに,次の機会にもご協力いただくことをお願いいたします.

 2021年8月
 公益社団法人 日本理学療法士協会
 前会長 半田 一登


『理学療法ガイドライン 第2版』の作成経過について

 『理学療法ガイドライン 第1版』の作成過程を振り返ると,2008年にガイドライン特別委員会を設置し,0版が2010年3月完成,パブリックコメントを実施し,2011年10月に完成した(担当理事:内山靖氏,部会長:鈴木重行氏).2014年にはダイジェスト版の作成を開始し,2015年9月に完成した.
 2015年12月1日に『理学療法ガイドライン 第2版』の作成のため,第1回ガイドライン・用語策定委員会が日本理学療法士協会にて開催され,日本理学療法士学会分科学会より12名の委員が参加した.日本スポーツ理学療法学会の川島敏夫氏が委員長に互選され,検討が開始された.
 2016年4月,第2版に向けて,作成班ごとに班員や外部委員の構成,スコープ案の検討が本格化した.さらにガイドラインの作成方法についての理解を深める目的で,2017年4月には,森實敏夫先生(日本医療機能評価機構[Minds])と河合富士美先生(聖路加国際大学)をお招きして研修会を開催した.また,2017年度より前任の川島敏夫氏に代わり,赤坂が委員長を務めることになり,副委員長に片田圭一氏と諸橋勇氏が互選された.
 第2版では,世界的な診療ガイドラインの標準的な作成および運用方法を提案しているMindsの作成方法に準じて作成することを基本方針とし,アドバイザーとして中山孝氏,乙戸崇寛氏,藤本修平氏,佐々木祥氏に加わっていただき,SR研修会を開催した.一方,作成班では班員を対象に修正デルファイ法を実施し,CQを順次決定し,委員会で承認作業を行うこととした.2018年2月にはCQについてパブリックコメントを実施した.3月には,新たに3名のアドバイザー(高崎博司氏,杉田翔氏,小向佳奈子氏)に加わっていただいた.5月より作成班が検索式を提出し,6月から検索式のフィードバックを開始した.この検索式のフィードバックでは「検索式に対するフィードバックシート」を作成し,各班が効率良く修正が行えるように努めた.
 2019年10月の時点で検索式の修正が10回となる班があり,全体として検索式がアドバイザーのチェックで承認されたのは全体のおよそ6割にとどまる状況となった一方で,メタアナリシスが終了した班も出てきて,全体の進捗状況に大きな差が生じることとなった.COVID-19の感染拡大により,対面での委員会を開催することが難しくなり,メールでの連絡では委員および関係者との意思疎通に時間差が生じ,齟齬が生まれやすい環境となった.
 2020年4月には,①理学療法ガイドライン・用語策定委員会は,ガイドラインを2021年3月(またはできるだけ早期)に書籍(理学療法ガイドライン 第2版〉として出版する.また,出版後6か月を目処に,日本理学療法士協会のウェブサイトにガイドライン詳細版を掲載する.②委員会による承認を経て文献取り寄せ委託業者への依頼方法を改定し,作成グループへのメール連絡の方法が周知徹底された.③各CQに対して,これまで検討してきた推奨文,作成班とSR班を中心に理学療法の専門家としてのステートメントの2種類の形式でまとめていただくこととし,作業が大幅に遅れて推奨文またはステートメントとしてまとめることが難しいCQについては,辞退を検討することにした.なお,推奨では作成までの経過を明らかにする予定であったが,ステートメントや中止となる場合についても作成までの経過について記録を残すこととした.
 9月下旬には作成班よりパネル会議後の検討を踏まえて,推奨とステートメントの第1校が提出され,5名の委員による校閲,作成班へのフィードバック後,第2校の提出,5名の委員による校閲,そして作成班で再修正後,12月10日から4回に分けて,パブリックコメントを実施した.さらに,そのパブリックコメントに対して作成班で修正,委員会での承認作業を経て,推奨文とステートメントとして最終原稿をまとめた.ガイドラインを読むための用語と解説,疾患総論,BQについても同様の方法で進め,すべての原稿を完成させることができた.
 2021年4月,日本理学療法士学会は一般社団法人日本理学療法学会連合となり,ガイドライン・用語策定委員会は理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会となった.
 多くの検討と作業を乗り越えて,『理学療法ガイドライン 第2版』は2021年秋に発行の運びとなる見通しとなった.第2版は,統括委員会27名,作成班174名,SR班1,193名,外部評価委員25名が関与し,21領域,41疾患・外傷数,そのCQ数は最終的に195,推奨文129,ステートメント66となった.
 『理学療法ガイドライン 第2版』の作成作業が進むなか,近年はエビデンスを意識した研究論文や発表が多くなった.このことは,エビデンスを意識して文献を確認し,研究活動や臨床での理学療法を行う姿勢,そしてガイドラインなどを参照して根拠に基づく理学療法を実践する姿勢に変化してきたと考えている.
 成果物として第2版をまとめたことは大きな仕事であったが,実際にはこの作業を通じて,多くの理学療法士が,エビデンスや科学的視点に基づいて理学療法を提供するように変化してきたことが最大の功利であったと感じている.

 2021年8月
 一般社団法人 日本理学療法学会連合
 理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会
 部会長 赤坂 清和

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策定にあたって

第1章 脳卒中理学療法ガイドライン
第2章 脊髄損傷理学療法ガイドライン
第3章 神経難病理学療法ガイドライン
第4章 小児理学療法ガイドライン
第5章 頸部機能障害理学療法ガイドライン
第6章 背部機能障害理学療法ガイドライン
第7章 肩関節機能障害理学療法ガイドライン
第8章 肘関節機能障害理学療法ガイドライン
第9章 投球障害肩・肘理学療法ガイドライン
第10章 手関節・手指機能障害理学療法ガイドライン
第11章 股関節機能障害理学療法ガイドライン
第12章 膝関節機能障害理学療法ガイドライン
第13章 前十字靱帯損傷理学療法ガイドライン
第14章 足関節・足部機能障害理学療法ガイドライン
第15章 足関節捻挫理学療法ガイドライン
第16章 心血管疾患理学療法ガイドライン
第17章 呼吸障害理学療法ガイドライン
第18章 糖尿病理学療法ガイドライン
第19章 軽度認知障害理学療法ガイドライン
第20章 フレイル理学療法ガイドライン
第21章 地域理学療法ガイドライン

ガイドライン・用語策定委員会 統括委員会一覧
外部評価委員一覧
作成班一覧
SR 班一覧
パネル会議およびアウトカム重要度評価会議 外部出席者一覧
索引

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さまざまな医療職が自身の臨床に生かせる良書
書評者:吉田 俊子(聖路加国際大看護学部長)

 現在の医療においてガイドラインは必須であり,医療の質保証の根幹にある。ガイドラインの作成には,当該分野を主導する学術団体などが膨大なエビデンスの集積と精選を行い,臨床での位置付けを示していく。医学のさまざまな分野からガイドラインが出され,多職種連携による包括的な介入の重要性が示されているが,目前の患者に対して各専門職がどのように介入していくのかに悩む場面も見受けられる。

 この悩みを解決するためには,医療チームでの検討とともに,専門性や独自性に則った検討が重要となる。患者の個別の状況,施設の医療体制や人員配置などの影響のほか,同じ職種間においてもガイドラインの理解や介入方法に相違も見受けられる。エビデンスに基づく介入を臨床に落とし込むには,各専門職がどのような手法を用いるのか,どのような効果を得るのかを明確にしていくことが求められる。

 『理学療法ガイドライン 第2版』は,「理学療法」のエビデンスを体系的に一冊にまとめたものである。21領域にわたり理学療法の臨床分野が網羅されており,総勢1400名が参画して作成されている。最新の臨床上の疑問についてCQを用いて表現されており,理学療法の見地から臨床上の疑問や課題を設定し,その疑問に答えることにより推奨を回答していく形をとっている。また,網羅的な論文を対象としたシステマティックレビューによる推奨と,理学療法士が専門家としての意見をまとめたステートメントで構成されており,外部評価には医師などの他職種のほか,患者会や一般市民も参加して作成されている。

 現在の医療は多要素に行われていることから,理学療法としてのCQを示してその効果を評価していくことは,かなりの苦労があったのではないかと推察する。このCQの設定は,もちろん理学療法の観点で臨床上の疑問に沿ってまとめられているが,看護の疑問解決につながる内容が多く認められる。例えば,フレイル患者を対象とした運動療法は,看護師が普段接するフレイル患者の活動性をどのように考えていくかにつながっていく。このように,全般にわたり他職種の介入にも重要な示唆を得ることができる内容が示されている。

 本書は,5年以上の歳月を費やして出版されているが,医療の目覚ましい進歩により,まとめる経過途中では変化する医療へのさまざまな対応や審議があったのではないかと思う。理学療法に携わる医療者の熱意と統合していく力,結果を体系づけて示していく力に,心より敬意を表したい。診療報酬を獲得していくためにも,このエビデンスの集積は重要な課題である。多彩な専門領域をどのように集積してエビデンスを示して臨床につなげていくか,本書から学ぶことは大きい。理学療法士のみならず,さまざまな医療職が自身の臨床に生かしていくことができる良書であり,ぜひ手にとって活用していただきたいと思う。


 

拡大・変貌していく理学療法の在り方を示す一冊
書評者:上月 正博(東北大病院リハビリテーション部部長/東北大大学院教授・内部障害学)

 このたび,初版から10年ぶりに『理学療法ガイドライン第2版』が発刊された。本書は,理学療法における現行のエビデンスを,前版の16領域から21領域に増やし,41の疾患・外傷数,195のCQ,129の推奨文,66のステートメントを含む総ページ数648ページの堂々たる書物である。統括委員会27名,作成班174名,SR班1193名,外部評価委員25名の総計1400名以上もの関係者の力をいかんなく示した労作であり,関係者の努力と団結力に深く敬意を表したい。

 本書は,公益社団法人日本理学療法士協会に置かれた日本理学療法士学会(現・一般社団法人日本理学療法学会連合)の事業として作成された。Mindsの作成手順に準じてガイドラインの作成を行い,各種疾患でどのような理学療法が推奨されるのかというCQを設定し,CQに基づいてPICO/PECO式を立て,文献検索の実施,システマティックレビューを行った上で推奨文をまとめてある。

 脳卒中,脊髄損傷,神経難病,小児,頸部機能障害,背部機能障害,肩関節機能障害,肘関節機能障害,投球障害肩・肘,手関節・手指機能障害,股関節機能障害,膝関節機能障害,前十字靱帯損傷,足関節・足部機能障害,足関節捻挫,心血管疾患,呼吸障害,糖尿病,軽度認知障害,フレイル,地域の21領域での理学療法ガイドラインを掲載している。

 私は14年間を内科医として過ごし,その後,リハビリテーションの重要性に目覚めてリハビリテーション科医に転じて27年になる。リハビリテーションを始めた頃は,目覚ましく回復する人に出会う一方,内科に比べると確固たるガイドラインが少なかった。当時の日本リハビリテーション医学会の大御所に悩みを相談しても,「個人個人で障害程度が異なるため,リハビリテーションの内容は個別的になる。そのためリハビリテーションではRCTは組みにくいし,その必要もないのではないか。ましてや動物実験などはありえない」と諭され,困惑したことを覚えている。

 あれから約30年,かつては理学療法が禁忌であった心不全,肺高血圧,慢性腎臓病などは,基礎研究とRCTにおいて,理学療法の有効性が証明されており,隔世の感がある。今後,理学療法の対象は,がん,重複障害,再生医療などますます拡大していくことは確実であり,また生体情報をモニターしながらの遠隔リハビリテーションの時代に入り,理学療法の在り方も変貌していくことが予想される。

 本書では,エビデンスレベルC,Dが多く(CQの内容次第ではA,Bになった可能性がある。リハビリテーション処方を出すリハビリテーション科医にも責任があると考える),他学会のリハビリテーションに関するガイドラインとの整合性や擦り合わせの余地を残す。しかし,わが国のリハビリテーション関連職による論文が続々と発表されていること,若くて有能なリハビリテーション関連職が多く育ってきている現状を考慮すれば,わが国の理学療法士および理学療法・リハビリテーションの将来は前途洋々である。

 本書を片手にエビデンスレベルの高い理学療法を行うとともに,さらなる理学療法研究が進むことで,次回改訂ではさらに広い領域で多くの高いエビデンスレベルのガイドラインが読めることを期待したい。


理学療法の臨床・研究水準を確実に押し上げる一冊
書評者:友利 幸之介(東京工科大准教授・リハビリテーション学)

 本書は,日本理学療法士協会の主導により,約1400人の関係者のもと,5年以上の歳月を費やして作成された,まさに「集大成」とも言える一冊である。日頃の業務に加え,本書の作成に尽力された皆さまへ心から敬意を評したい。

 なぜ,理学療法士協会が全リソースを投入してまでガイドラインを作成する必要性があったのか。その答えは,半田一登前会長の序文にある。つまり,半田前会長が中央社会保険医療協議会(中医協)へ出席した際,「ガイドラインのない治療法は報酬の対象となり得ない」,「各学会にガイドラインの作成を求めていく」,「今後は費用効果による判定も導入していく」といった議論があったことが述べられており,ガイドラインの作成は待ったなしの状況であったと推察される。

 社会保障費の財源を考えるとガイドラインの作成は至極当然のことと言えるが,その作成過程においては多くのジレンマがあったのではないだろうか。ガイドラインの作成は,理学療法士の信念とは少し離れたところで作業が進められる。効果のある治療法が特定される一方で,すでに頒布されている治療法が否定されたり,根拠に乏しいことがわかったりと,全てが比較にさらされる。実際,本書の多くのクリニカルクエスチョン(CQ)で,エビデンスの脆弱性についても正確に記されており,ステートメントという独自の推奨方法も少なくない。それでもガイドラインを出版し,国民や中医協の期待に答えていくという理学療法士協会の強い意志や誠実な姿勢は,多くの医療者関係者が見習うべきであることは言うまでもない。

 これまで臨床場面において,エビデンスに基づく医療(EBM)が十分に普及してこなかった要因として,時間がない,どう実践すれば良いかよくわからない,という2点が挙げられるが,本書はこれらを解消してくれるであろう。各疾患や領域におけるCQに対して,推奨,推奨の強さ,エビデンスの強さが端的にわかりやすく説明されているだけでなく,レイアウトも非常に見やすく統一感がある。「臨床の隙間時間に,既存のエビデンスをサッとスクリーニングしておきたい」,「EBMとかよくわからないけど取り入れてみたい」という臨床家のニーズを,しっかり満たしてくれるだろう。

 今後,本書が起点となって理学療法の臨床や研究の水準が格段に前進することは間違いないが,さらに本書を手本に,われわれ作業療法士のような周囲の医療職においても,EBMの普及が進むかもしれない。5年後のリハビリテーション業界がどうなっているか楽しみである。そのくらいのインパクトをもたらしてくれる一冊である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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