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アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引き

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アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の新しい診断基準と最新の知見をまとめた診療の手引き。研究班の全国調査を経て得られたABPMのデータをもとに、日本の実情に合った形で作成し、ABPMの診療に役立つ内容となっている。
監修 日本アレルギー学会 / 日本呼吸器学会
編集 「アレルギー性気管支肺真菌症」研究班
発行 2019年06月判型:B5頁:114
ISBN 978-4-260-03921-5
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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 アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)は,主に成人喘息患者あるいは嚢胞性線維症患者の気道に発芽・腐生した真菌(糸状菌)が気道内でI型アレルギーとIII型アレルギー反応を誘発して発症する慢性気道疾患である.真菌感染症と異なり菌体は気管支内粘液栓に限局しており,気道組織への浸潤は認められない.Aspergillus fumigatus(アスペルギルス・フミガーツス)が原因真菌となることが多く,その場合はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)と呼ばれるが,他のアスペルギルス属真菌(A. flavusA. nigerA. oryzaeなど)やPenicillium(ペニシリウム)属,Schizophyllum commune(スエヒロタケ)などの糸状菌でも発症する.臨床的には末梢血好酸球数の増加や高IgE血症がみられ,真菌特異的IgE・IgG・沈降抗体,真菌に対する即時型・遅延型皮膚反応が陽性となる.画像所見では,移動性の浸潤影,中枢性気管支拡張,気管支内粘液栓が特徴的である.治療には経口副腎皮質ステロイド薬が用いられるが,補助的に抗真菌薬も使用される.顕在例以外にも重症喘息などと誤診されている潜在例が多く,再発を繰り返し,放置すれば肺の線維化から呼吸不全に至る.
 しかし,この疾患に対する知見の多くは,気候や衛生状態の違いのために環境真菌相が大きく異なる南アジア(インドなど)や,日本では稀な嚢胞性線維症を背景疾患とするABPM症例が多い欧米でのものであり,わが国での当疾患に関する体系的検討は行われていなかった.また,診断自体も1977年にRosenberg,Pattersonらが提唱したABPA診断基準が現在も頻用されているが,現在では皮膚テストの実施率が低いこと,逆にほぼ全例に胸部CTが施行されていることなど実状に合わない点も多く,診断感度も必ずしも高くない.さらに非アスペルギルス属真菌によるABPMの診断については適切な基準が存在していない.また,アスペルギローマなどの慢性肺アスペルギルス症を合併するABPMや,慢性下気道感染症合併例などの実態,ステロイド離脱困難例で有効性が期待される抗IgE抗体の適切な投与量・期間など,ABPMの診断・治療には未解決の問題が多い.以上の理由から,わが国の実態に則した診療指針の確立が必要とされていた.
 このような状況を踏まえ,平成25年度に厚生労働科学研究の難治性疾患等克服研究事業(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)の一環として,「アレルギー性気管支肺真菌症の診断・治療指針確立のための調査研究」班が設置された.平成26年度からは日本医療研究開発機構(AMED)の免疫アレルギー疾患等実用化研究事業に移行し,平成28年度からは「アレルギー性気管支肺真菌症の新・診断基準の検証と新規治療開発」研究班(以下,ABPM研究班)として平成31年3月まで活動した.本書は,同事業の成果であるわが国初のABPM全国調査の結果などを踏まえ,ABPMの新しい診断基準や最新の知見をまとめたものである.この手引きにより,わが国におけるABPM診療がよりよいものとなることを祈念する.
 本研究班の活動にご協力いただいた全国の協力施設ならびに協力者の皆様,6年間にわたって多くの有用な助言をいただいた日本医療研究開発機構,ならびに監修いただいた日本アレルギー学会,日本呼吸器学会に深謝する.

 2019年5月
 浅野浩一郎

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略語一覧
用語解説

第1章 日本におけるアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)
 1 病態
  A 基礎疾患
  B 原因真菌の特性
  C 気道における免疫応答と病態形成
 2 疫学
  A 有病率
  B 発症年齢の分布
 3 原因真菌―アスペルギルス以外の原因真菌種
  A ABPMの原因真菌判定における問題点
  B 原因真菌種に関するこれまでの報告
  C 研究班におけるデータ
  D 解析結果に基づく対策―正しく原因真菌を得るために

第2章 診断
 1 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の臨床像
  A 基礎疾患
  B 性別・発症年齢
  C 臨床症状
  D 検査データ
  E クラスター解析によるABPAのフェノタイプの同定
 2 非アスペルギルスABPMの臨床像
  A 原因真菌
  B ABPMの臨床像と診断
  C スエヒロタケABPM
 3 血清診断法
  A 抗原特異的IgE検査
  B 沈降抗体・抗原特異的IgG検査
 4 画像所見
  A ABPAに見られる画像所見
  B 鑑別診断
 5 喀痰真菌培養・同定法
  A ABPMにおける喀痰培養の意義
  B 検体
  C ABPM疑診例における培養法
      (高度病原性真菌の可能性を考える必要がない場合)
  D 菌種同定の方法
  E 菌を保存しておきたい場合
 6 病理
  A ABPMにおける粘液栓の意義
  B 好酸球性粘液栓の病理像
  C 鑑別
 7 従来のABPA診断基準
  A 従来の診断基準
  B 従来のABPA診断基準の問題点
 8 新しいABPM診断基準
  A ABPM臨床診断基準
  B 各項目の解説
  C 新ABPM臨床診断基準の検証

第3章 合併症
 1 慢性肺アスペルギルス症(CPA)
  A ABPAとCPA合併例の臨床像
  B ABPAとCPA合併例の治療
 2 慢性下気道感染症,肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)
  A ABPA/ABPMと慢性下気道感染症
  B ABPA/ABPMと肺NTM症
  C まとめ

第4章 予後
 1 臨床病期
  A 臨床病期
  B ABPA-seropositive
 2 呼吸機能
  A 呼吸機能
  B ABPA/ABPM治療と呼吸機能改善効果
 3 再燃・長期予後
  A 再燃の定義
  B 再燃の頻度とその要因
  C 長期予後

第5章 治療
 1 治療総論
 2 経口副腎皮質ステロイド薬
 3 抗真菌薬
  A ABPAに対する抗真菌薬の位置づけ
  B ABPAに対する抗真菌薬の投与期間
  C ABPAに対する抗真菌薬の投与の副作用
  D ABPMに対する抗真菌薬の位置づけ
 4 抗IgE抗体
 5 マクロライド系抗菌薬
  A 慢性気道感染を伴うABPAに対するマクロライド系抗菌薬
  B ABPAに対するマクロライド系抗菌薬の可能性
 6 環境対策

索引

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切望していたABPMの新たな診断基準がここに
書評者: 西村 善博 (神戸大病院教授・呼吸器内科学)
 アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)の診断には1977年にRosenberg,Pattersonらが提唱したABPAの診断基準が用いられてきた。40年以上前に提唱されたものである。近年の医療とのギャップを感じることもあったのだが,本書では日本人におけるABPMの病態を明らかにし,新たな診断基準が示された。

 本書発刊に至るまでには,東海大呼吸器内科学教授の浅野浩一郎先生を研究代表者とする「アレルギー性気管支肺真菌症」研究班の多大なる努力があったものと思われる。この研究班の前身は,2013年に厚生労働科学研究の難治性疾患等克服研究事業の下に設置されたものであり,本書は長年にわたる調査・研究の集大成といえる。研究代表者の浅野先生はこの分野の第一人者であり,浅野先生を中心にアレルギー学・呼吸器内科学研究者の精鋭たちが結集し,ABPMに関する最新の知見がまとめられた。

 ABPMはAspergillus fumigatusを主とする真菌類が関与したアレルギー性疾患で,末梢血好酸球数の増加,高IgE血症などの血液検査異常,気道内真菌の検出や真菌への抗体,特異的な画像異常が認められる。近年,検査技術,特に画像診断技術が進歩し,日常臨床でも汎用されている。今回の新診断基準では,胸部CT画像所見が10項目中3項目に適用されており,この点が従来の診断基準と大きく異なる。また,新診断基準の検証も行われ,感度95%,特異度97%とRosenbergらの診断基準のそれぞれ25%,98%と比較し,その有用性が実証された。また,本書の各項目には「ポイント」として,数個のまとめの記載があり,初学者にも読みやすく理解しやすい構成になっている。

 本書は,内科,呼吸器内科,アレルギー科の専門医をめざす若手医師のみならず,呼吸器,アレルギーの専門医にとっても有益な良書であり,本書を参考に的確な診断を行い,一人でも多くの苦しんでいる患者さんを救うことにつながれば幸いである。

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