研究の育て方
ゴールとプロセスの「見える化」

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「総合リハビリテーション」集中講座「研究入門」(2016年1月~2017年3月掲載:全15回)の書籍化。20年にわたる大学院での研究指導の経験から得た、研究のノウハウと指導のポイントをもとに、研究に関する考え方、進め方、論文の書き方など研究に必要な全体像を1冊にまとめた。初心者でもイメージしやすいように、基礎的な用語解説や具体例を含む「コラム」を用いることで、「研究」の全体像を掴めるようにした。
近藤 克則
発行 2018年10月判型:A5頁:272
ISBN 978-4-260-03674-0
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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 本書の目的は,研究の初心者から中級者を対象に,研究の育て方について,そのゴールとプロセスなどを「見える化」し,コンパクトに伝えることである.
 私は,医療や福祉の現場で働く社会人を中心に,60人余りの大学院生を指導教員として受け持ち,(博士号取得後の)ポスドク研究員(postdoctoral fellow,博士研究員)などの相談にものってきた.そのなかには,学会発表すらしたこともなく漠然と研究に憧れている初心者から,数本の論文を書いた経験はあるが,よい研究とは何かを知りたい人,臨床医から研究者を目指す道に転じるべきか悩む人までいろいろな人たちがいた.
 その人たちの疑問に応えようとすると,研究方法や論文の書き方にとどまらず,よい研究とは何かから,研究テーマの育て方,研究プロジェクトを育てるための助成獲得に向けた計画書,学会発表,ライフワークの育て方まで伝えるべきことは多い.また,それらは研究だけでなく,臨床・実践や学習・教育・研修指導などにおいて,新しいゴールを設定したり,新しい方法を取り入れたりするプロセスにおいても活かせる視点や考え方,手法に満ちている.
 「そんな話は初めて聞きました」と言われたことも少なくない.参考になりそうな本を探してみると,「研究方法」や「論文の書き方」など研究プロセスの一部を取り上げた本は多い.しかし,初心者が最初に読んで,研究全体の流れや,目指すべきもの,各段階で必要となる考え方や進め方など,研究(テーマ/プロジェクト/論文/者)の育て方が1冊でわかる本は,意外なことに(少)ないことに気づいた.
 そこで,以下のような特徴を持つ本書を企画した.

・研究方法論や論文執筆の方法などの「手段」だけでなく,よい研究の条件やライフワークなどの「目的」,研究を学べる場などの「環境」まで,研究に関わる全体を扱う
・一方で,網羅的に書くと,ページ数が増えて通読が困難となる.あくまで初心者が最初に通読して全体像が掴めるようにコンパクトにまとめる
・研究経験が乏しい初心者でもイメージが湧きやすいよう基礎的な用語解説や具体例を使ったコラムをたくさん入れる
・研究の成果物である原著論文の構成(背景,目的,対象・方法,結果,考察,結論)に沿って,何を書くべきかという考え方や構造・枠組み,そしてチェックリストを示す
・「臨床と研究の両立」など今まで受けることが多かった質問への回答も入れる

 本書の読者としては,主に研究に初めて取り組む学部生などの初心者から,大学院進学を考え始めた人,院生を想定している.今までの経験からすると,数本の論文を書いて研究者を目指そうかと迷っている専門職など中級者や研究指導にあたっている人にも役立つ内容が含まれていると考えている.また研究分野や手法によって,それぞれのお作法やガイドラインがあるが,本書では私の経歴を反映し,臨床医や看護師,リハビリテーション専門職などの医療職が取り組む臨床研究や疫学研究における量的なデータ分析手法と,医療ソーシャルワーカーや地域包括ケアに関わる福祉専門職,社会政策など社会科学系の質的な分析手法や地域介入研究まで,多様な研究領域や方法にかかわらず共通する基本的な知識や考え方を紹介できたと思う.
 「研究を研究」した本書によって,「研究の育て方」,そのゴールとそこに至るプロセスが「見える化」され,経験者しか知らない大変さとそれを突き抜けたときの喜びを知る人が増え,根拠にもとづく医療や実践,政策形成とその社会実装が,日本でも進むことを願っている.

 2018年8月
 近藤 克則

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第1部 総論
 第1章 研究のゴールと研究プロセス
  研究とは何か
  研究の種類
  研究のフェーズ
  研究発表の形と研究水準の高さ
  研究プロセス
  研究力
  まとめ
 第2章 よい研究の条件
  研究の質を決める2つの軸
  よい研究デザインの3条件―意義・新規性・実現可能性
  7種類の新規性
  研究構想を育てる前に
 第3章 研究の種類の選択
  研究の種類を選ぶ
  研究の種類―基礎研究・応用研究・橋渡し研究
  不足している研究人材と学部生研究室配属・社会人大学院のねらい
  意思決定の根拠と研究の位置づけ
  現場での研究の必要性
  理論主導かデータ主導か
  研究の種類選択のときに気をつけるべきこと
 第4章 論文の種類
  論文の種類
  院生や研究者を目指す人が書くべき論文はどれか

第2部 構想・デザイン・計画立案
 第5章 研究テーマの育て方
  何を決めなければならないのか
  研究テーマの大きさと俯瞰図
  博士論文・研究者を目指す人のテーマの育て方
  初心者における研究テーマの育て方
  初心者は相談を
 第6章 研究構想・デザイン・計画
  着想から計画まで
  構想や仮説を育てるための関連要因図
  よい計画書とは
 第7章 原著論文の構成
  原著論文の構成・構造
 第8章 背景と文献レビュー
  「背景」の構造と書くべきこと
  レビューですべきこと
  まとめ
 第9章 目的
  「目的」に書くべきこと
  リサーチ・クエスチョンと仮説の違い
  よいリサーチ・クエスチョンの条件
  よい検証仮説の条件
  まとめ
 第10章 対象と方法
  同じ目的でも達成する方法はいろいろ
  「方法」の構成
  研究デザインとセッティング
  対象
  方法
  研究倫理
 第11章 採択される研究助成申請書の書き方
  研究助成を得るメリット
  研究助成の探し方
  主な公的研究費助成団体と研究費の種類
  科学研究費補助金(科研費)の審査方法
  研究助成申請書作成上のポイント
  不採択になる研究計画書の共通点と対策
  ないのは研究費だけ
 第12章 研究倫理に関する指針
  ヘルシンキ宣言
  日本における医学研究に関する指針
  まとめ

第3部 研究の実施・論文執筆・発表
 第13章 データ収集
  重要な予備的調査・実験・分析
  データ収集
 第14章 データ分析
  記述統計とデータクリーニング
  2次データ・分析
  3次分析
  研究目的達成に向けた(4次)分析
  主な所見のまとめ
 第15章 期待した結果が得られないとき
  仮説を巡る問題
  分析上の問題―「見かけ上の関連」でないか
  データの問題
  まとめ
 第16章 結果の記述
  主な結果の示し方
  言葉を選ぶ
  図表の活用
  まとめ
 第17章 考察・結論の考え方・書き方
  考察の目的・位置づけ
  分析に有用な視点・ツール
  考察の書き方とチェックリスト
  結論の考え方・書き方
  まとめ
 第18章 共著者・謝辞・文献リスト
  共著者の決定
  謝辞(Acknowledgment)
  文献リスト
 第19章 全体の推敲と要旨
  全体の推敲
  要旨の書き方
  まとめ
 第20章 研究発表―学会発表
  学会発表の事前準備―発表資料・リハーサル・Q & A
  学会発表の当日
  まとめ
 第21章 研究発表―論文発表
  学会発表と論文の位置づけ
  論文掲載までのプロセス
  まとめ

第4部 研究に関わるQ & A
 第22章 研究を学べる場の条件
  寄せられた質問から
  「学びの共同体」が必要
  研究「方法」を知るだけでは研究はできない
  大学院の勧め
 第23章 臨床と研究の両立
  臨床と研究のスペクトラム
  臨床家が研究することの意義
  臨床と研究の両立のためのタイムマネジメント
  重要性と緊急性からみた優先順位
  ポートフォリオの勧め
  まとめ
 第24章 研究者の成長プロセス,ライフワーク
  4段階の成長プロセス
  研究者のライフワーク
  まとめ

巻末資料
 STROBE声明(要旨)

あとがき―私のポートフォリオ
索引

コラム
 (1)研究活動とは
 (2)研究と勉強の違い
 (3)技術論の3段階
 (4)理論は仮説から始まる
 (5)2つの妥当性―内的妥当性と外的妥当性
 (6)下村教授のノーベル賞
 (7)研究の意義
 (8)パラダイム(認識の枠組み)の重要性
 (9)実装科学・橋渡し研究
 (10)新しい科学
 (11)査読制度
 (12)「悩む」ことと「考える」こと,問題解決プロセス
 (13)臨床研究デザインに有用なフレームワーク
 (14)おいしいミカン
 (15)医学雑誌における学術研究の実施・報告・編集・出版のための勧告
 (16)批判的吟味とエビデンスレベル
 (17)ピクセル(画素)によるたとえ話
 (18)95%信頼区間
 (19)平均年齢や回収率を記載するのは,方法それとも結果
 (20)変数の呼称
 (21)標準化された尺度
 (22)尺度の種類
 (23)私の経験―研究助成獲得と審査委員
 (24)見落とされていた温度条件
 (25)異常値や外れ値発生の原因
 (26)理論仮説の適用限界とメタ認知
 (27)バイアスによる「見かけ上の関連」の一例
 (28)多重共線性(multicollinearity)
 (29)高度な統計解析手法―傾向スコア・多重代入法
 (30)p値よりも実数を知りたい
 (31)栗ようかん・串だんご・ネコのお尻
 (32)研究者の説明がわかりにくい理由
 (33)3色だんご
 (34)「ない」ことも情報になる
 (35)引用・転載許諾
 (36)謝辞の書き方―科学研究費補助金の記載例
 (37)インパクトファクター
 (38)文献欄の書き方の例
 (39)長い文章だとわかりにくくなる
 (40)添削前の論文要旨
 (41)添削の視点・修正した理由
 (42)添削後の要旨
 (43)ポートフォリオ登場の背景

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成果を論文や書籍にまとめて発表し続けるための心構えとノウハウ
書評者: 二木 立 (日本福祉大相談役・名誉教授)
 本書は医学書院の月刊誌『総合リハビリテーション』において2016~17年に長期連載されて好評を博した集中講座「研究入門」を一書にまとめたものです。リハビリテーション医療の臨床研究から「健康の社会的決定要因」を中心とする社会疫学へと研究のウィングを広げつつ,現在も第一線で研究を続けている近藤克則氏が,自己の研究をいかに育ててきたか,大学院生や若い研究者をいかに育ててきたかを,系統的かつ具体的に紹介しています。

 全体は以下の4部(24章)構成です。第1部「総論」,第2部「構想・デザイン・計画立案」,第3部「研究の実施・論文執筆・発表」,第4部「研究に関わるQ&A」。各章の最後には,近藤氏オリジナルのさまざまな「チェックリスト」が付けられており,頭の整理に役立ちます。

 第1部で一番強調されていることは,良い研究には意義・新規性・実現可能性の3条件があることです。これらは初学者が「お勉強のまとめ」的論文を書くことで自己満足しないために,常に意識すべきことです。第2部の中心は第5章「研究テーマの育て方」です。ここで私が一番重要と感じたのは,「研究テーマを考えるとき」に「先輩や指導者に相談すること」です。このことは,本書全体で何度も強調されています。先行研究の「レビューですべき3つのこと」(p.80~82)も,良い研究をする上で不可欠と思います。第2部で一番実用性が高いのは第11章「採択される研究助成申請書の書き方」で,近藤氏の豊富な審査委員としての経験に基づいて,ポイントが簡潔に示されています。

 第3部で類書にあまり書かれていないのは第15章「期待した結果が得られないとき」で,それへの対策が簡潔に書かれています。第4部は『総合リハビリテーション』連載に寄せられた質問に対する回答で,特に第22章「研究を学べる場の条件」は,研究(者)を目ざしている方必読です。ただし,最後の「大学院の勧め」では,現在は働きながら学べる夜間制大学院や通信制大学院が多数あることにも触れていただきたかったと思います。

 最後に初学者が本書を読む際の留意点を一つ述べます。それは,本文だけでなく,本書に含まれている多数の図や表を丁寧に読むことです。著者は「ページ数が増えて通読が困難となる」ことを避けるため,盛りだくさんの内容を200ページ強にコンパクトにまとたため,重要な図表の説明をほとんど省略しているからです。
これから臨床研究を志す若手研究者・臨床家のThe指南書
書評者: 和座 雅浩 (各務原リハビリテーション病院副院長)
 本書はまず「研究とは何か?」の概説から始まる。研究とは,何らかの新規性があり,今まで知られていなかったことを明らかにすること,新たな因果関係や分類を見いだしたり,当然と思われていた常識を覆すこととされている。研究を志す者は,研究と勉強の違いをよく理解しておかないと研究現場で仕事を続けることは到底困難との忠告ともいえるが,研究を続けることのやりがいと社会的価値とともに,それをなし得るための厳しさも伝えたいという,後進に対する思いやりとエールだと感じた。また研究という言葉はとても曖昧に利用されており,医療機関においても混乱の原因ともなっているが,研究の分類とともに,この書籍によりよく理解することができた。

 各章に掲載されているチェックリスト一覧は,研究の立案から遂行,データ収集から解析,そして論文化に至るまでの重要事項が,各ステップごとにくまなくリストアップされている。それぞれの段階で,特に初心者が陥りやすい事項も網羅されており,ここまで詳細に実践的な内容が教示されている指南書を拝読できたのは初めてで,20年にわたり60人余りもの大学院生を指導されてきた豊富な教育経験に基づいた,その教える手法に感服した。私自身,今後新たな研究を立ち上げるときは,本書の手順を踏みながら進めていきたいと思う。

 客観的で論理的な思考ができるようになるためのエッセンスとして,私には特に第17章の「考察・結論の考え方・書き方」で解説されているSWOT分析が非常に参考になった。論文作成時に初心者が一番頭を悩ませるのは考察であるが,客観的に結果を分析し自己の研究意義と有用性を「見える化」するには絶好の分析法であり,一読をお勧めしたい。一貫した論理で説得力のある考察ができるか否かは,研究者にとって必須の資質であることも,より理解できると思う。

 各コラムには,研究におけるトピックや,臨床統計学の理解には必須でも初心者にはわかりにくい用語がわかりやすい事例で解説されていて,楽しく読める。研究に対する初心者への不安を,うまく払拭する工夫も随所に感じられた。私的には特に「ポートフォリオ登場の背景」(p.230)のコラムが印象的であった。著者がリハビリテーション科医師として,健康長寿社会の実現のための科学的な基盤作りに尽力された「あとがき―私のポートフォリオ」(p.243)には,医師として心から敬服するとともに,いつか自身も著者のような医師ポートフォリオを描けるようになりたいと思った。第23章の「臨床と研究の両立」(p.226)は,臨床家にとっては永遠のテーマともいえるが,この2つを両立させることのやりがいと意義が,著者自身の医師キャリアに基づいて,このセッションで力説されている。「研究のプロセスは楽しいことばかりではないが,壁を突き抜けたときの快感や達成感は,(少なくとも筆者にとって)他では得難いものである」(p.231)には,大いにエンカレッジされた。特に将来「論文もかける臨床家」をめざしたい若手医師には,著者が伝えたいこのスピリットを学ぶべきであると思う。

 実は私は,著者の「研究の見える化」の教育を享受している一人であり,その恩恵にあずかり,当院のリハビリテーション臨床研究の一つを,先日ある米国誌に採用してもらうことができた。著者は千葉大に赴任後も,若手研究者の臨床研究を指導する研究会を,定期的に名古屋でも開催されている。私は幸運にも,日本リハビリテーション医学会の専門医研修会で,著者よりレクチャーいただける機会を得たことをきっかけに,今でもこの会に紛れ込ませていただいている。私はこの会を近藤研ミーティングと勝手に命名させていただいているが,全国の研究機関,医療機関に属する臨床家がそれぞれの研究テーマを持ち込み,著者監修の下,活発なディスカッションが行われる,まさに研究の方向性と論理を明確にする「見える化」が行われている現場であり,毎回この会の参加を楽しみにさせていただいている。以前,この会で著者から,研究デザインの不出来やデータ収集の甘さの指摘とともに,「一般病院で臨床研究・英著論文投稿なんて,どうしてそんな大変なことをするのか? 本当にできるのか?」と質問された時には,自身の浅学に随分凹んだが,本書を拝読し終えた後,それくらいの緻密な準備と段取りで「研究を見える化」して進めていかないと,ゴール到達は困難だとの教えであったことに気付いた。門戸外の私に対しても,親身に指導してくださった著者の教育熱には,この場をお借りして心より謝意を申し上げたい。

 本書のメインメッセージの一つと思われる「よい研究は,質の高い臨床や健康長寿社会の実現のために必要で,普遍的な価値がある」(p.231)は,若手研究者・臨床家の研究マインドを大いにかき立てるフレーズであり,ここにも記載させていただきたい。本書はフィールドを問わず研究を行うことの意義と目的,そしてそれを達成するためのノウハウが懇切丁寧に記載されたまさにThe指南書であり,一人でも多くの研究者・臨床家が本書を読まれ,実りのあるキャリアを形成されることを心から祈念する。
著者の研究者としての経験を惜しみなく「見える化」
書評者: 麻原 きよみ (聖路加国際大学大学院看護研究科・公衆衛生看護学)
 「初心者が最初に読んで,研究全体の流れや,目指すべきもの,各段階で必要となる考え方や進め方など,研究(テーマ/プロジェクト/論文/者)の育て方が1冊でわかる本」(序)である。研究方法や論文の書き方だけでは研究を実施できない。試行錯誤や途方に暮れた日々があり,また論文がアクセプトされたときの喜びがある。このような経験や感情を含めて研究のプロセスであり,より良い研究にするために手間をかけ力を尽くして育む,まさに「研究の育て方」である。

 本書は,学生目線で学生に語り掛けるように書かれている。学生がつまずいたり陥りやすい落とし穴について取りあげ,具体的な対処法を提示する。知りたいことについてすぐ答えを求めたい今どきの学生のために,研究プロセスにおける進め方や考え方について,あの手この手で理解できるように工夫されている。文章の表現の仕方を例示したり,コラム,図表を多用したり,研究の各段階でやることの落ちがないようにチェックリストで確認できるようにしている。分析の視点について理解を促すために,「串だんご」(p.162),「駅のプラットホームの写真」(p.174)などを例示し,「なるほど」と納得させる。本の表の見返しには,「目的」「対象と方法」など各研究段階が書かれているページが,また裏の見返しには各チェックリストの書かれているページが示されており,すぐに目的のページにたどり着くことができる。中でも,「目的が3つあれば結論も3つ」(p.74),「優れた文献だけを20~50本選んで引用する」(p.74),「考察分量の目安は,1:3~4:1~2程度」(p.177),「5~7回は推敲する」(p.190)と数字で目安を断定した記載は小気味よいほどであり,学生の心強い目安となり安心感を与えてくれることだろう。これは卓越した研究実績と豊富な学生指導の経験をもつ著者ならではのエビデンスに基づくものであり,どれも納得のいく数字である。これらはまさに「見える化」である。

 本書は,「研究の育て方」だけでなく「研究者の育て(ち)方」,すなわち研究者としての態度も教示している。「よい研究デザインの3条件」,「意義・新規性・実現可能性」を文中で何度でも繰り返す。「よい研究は,質の高い臨床や健康長寿社会の実現のために必要で,普遍的な価値があるもの」(p.231)と研究者としての姿勢を説く。しかし一方で,研究の意義や価値はどこにあるのか,「それを追究すること自体が楽しいとか,面白いとか意義が大きいと思える研究テーマや指導者と出会えることが重要」(p.55)と,現実的で肩の力を抜くような語りかけをし,その中に著者自身の研究者としての経験を惜しみなく織り込んでいる。

 本書は,学生や研究初心者に最適である。私は研究指導している学生に,本書を一度読んでから来てほしいと思う。しかし本書は,学生だけでなく,研究者にも研究指導者にも新たな気付きを与えてくれるそんな1冊である。

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