記述式内膜細胞診報告様式に基づく
子宮内膜細胞診アトラス

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日本臨床細胞学会/細胞診ガイドラインに採用された、新しい記述式内膜細胞診報告様式に準拠した初めてのアトラス。「標本の適否」「陰性/悪性ではない」「内膜異型細胞(ATEC)」「子宮内膜増殖症」「子宮内膜異型増殖症」「悪性腫瘍」の項目ごとに、背景、定義、診断基準、注釈などの解説を加え、直接塗抹標本、鮮明な液状化検体(LBC)標本による写真が多数掲載されている。
総編集 平井 康夫
編集 矢納 研二 / 則松 良明
発行 2015年11月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-02409-9
定価 11,000円 (本体10,000円+税)
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(平井康夫)/イントロダクション(平井康夫,矢納研二,則松良明)


 子宮内膜細胞診は,子宮体癌高危険群を対象とした子宮体癌スクリーニングの手法として日本で頻用されてきた.同時に外来診療の現場でも,内膜組織診による精密検査の必要性を判断するための重要な検査法とされている.したがって,その診断精度と精度管理は重要な課題となっている.
 こうした中,全身26領域の細胞診をまとめた『細胞診ガイドライン』(日本臨床細胞学会編)が本年より適宜出版されている.このガイドラインは,今後日本における細胞診の標準的報告様式として,判定基準や実用的な精度管理の基礎となることが期待されている.
 本書は,『細胞診ガイドライン1(婦人科・泌尿器)』の「記述式内膜細胞診報告様式」に則り,報告様式の項目ごとに「背景」「定義」「診断基準」を明記したアトラスとした.特に項目ごとの具体的「診断基準」は,子宮頸部細胞診報告様式であるベセスダシステムにおいて示されている「判定基準」と同じように活用でき,従来の書にはない特徴となっている.
 近年,従来の直接塗抹法による子宮内膜細胞診に代わって,液状化検体細胞診(liquid based cytology:LBC)による子宮内膜細胞診(内膜LBC法)の研究が世界的に進んできた.内膜LBC法は従来法にはない多くの利点(再現性が高い,不適正が少ない,臨床医の負担が少ない,など)が期待され,全国的な広がりをみせている.本書では,内膜LBC法による細胞写真も数多く掲載し,解説している.
 記述式内膜細胞診報告様式は,簡潔,明瞭で臨床的取扱いの助けになることが期待されている.本書で用いている項目や結果報告の用語は,『細胞診ガイドライン1』に準拠しているので,そのまま臨床医にその報告内容と臨床的取扱いを伝達することが可能となっている.歴史的にみて,子宮内膜細胞診の報告様式や用語は,国や施設によっても大きな違いがあり,そのことが時には混乱を招いたり,あるいは多施設間でのデータの共有や精度管理を妨げてきた面がある.本書が「記述式内膜細胞診報告様式」の標準的アトラスとして,子宮内膜細胞診の判定診断に携わる人々にとっての座右の書として活用されることを願う.また臨床の場では,「記述式内膜細胞診報告様式」の結果報告に沿った標準的な臨床的取扱いの選択基準として大きな力を発揮することを期待している.

 2015年10月
 総編集 平井康夫


イントロダクション
 子宮内膜細胞診が日常の臨床検査として実施されているのは,日本だけである.これは,1970年代の米国において,当時実施されていた内膜細胞診の信頼性の低さを結論づける論文が複数出されたことで,米国政府のFDA(U.S. Food and Drug Administration)が検査としての認可を取り消し,その後,諸外国がこの動きに追従したためである.一方,日本では,多くの産婦人科医が子宮内膜細胞診を子宮頸・腟部細胞診と同じように用い,信頼を得てきたため,臨床検査としての立場を失うことなく現在に至っている.その結果,1970年代当時の報告とは異なり,診断精度の向上に成功した施設も多い.

 しかし,残念ながらその検査精度は,標本や判定方法の標準化が果たされていないため,国内で大きくばらついている.今後は,これまで以上に臨床医の方々にも子宮内膜細胞診に関心をもってもらい,より完成度の高い子宮内膜細胞診が行われることが望まれる.このことが,将来予想される子宮体癌の罹患率・死亡率の上昇の抑制に有効であると考えられるからである.

 本書は,2015年春に,日本臨床細胞学会の編集により出版された『細胞診ガイドライン1』に新たに掲載された,「記述式内膜細胞診報告様式」の理解を深めるためにまとめられた初めてのアトラスである.本文では,鮮明で豊富な写真を掲載し,おのおのの細胞診判定区分の理解を深めるように工夫されている.また,今後の内膜細胞診標本の標準化には欠かせない液状化検体細胞診(LBC)の写真を中心に取りまとめられていることにより,しばしば問題とされてきた,アトラスで紹介されている画像所見と自施設における標本所見との差異に気を煩わされることがないように配慮されている.

 記述式内膜細胞診報告様式は,日本臨床細胞学会平成20年度班研究「記述式報告様式を用いた子宮内膜細胞診の感度・特異度確立と向上のための多施設共同研究」で,初めて運用された.この報告様式では,従来の報告様式とは異なり,あらたに標本の適正基準が設定されるとともに,組織診断に即した報告様式が設定された.また,判定のグレーゾーンとしての内膜異型細胞(atypical endometrial cells:ATEC)も設けられている.さらには,判定区分ごとに推奨される臨床対応が,暫定的に設定されている.今後,記述式内膜細胞診報告様式を用いることで細胞診標本の標準化が達成され,それによって細胞診判定の標準化も実現され,その結果として内膜細胞診の検査精度がこれまで以上に向上することが期待される.

 ATECは,現時点では未知の病態を含めた判定領域である.今後,判定のグレーゾーンであるATECに科学的検証が集中することによって,子宮体癌の癌化プロセスの解明の一助にもなることが期待される.そのためにも,病理医や細胞検査士の方々だけではなく,臨床医の方々にもATECのもつ意味を十分に理解していただき,総力を挙げて子宮内膜細胞診から子宮体癌の癌化プロセスの解明を目指していくことを願っている.この願いが,記述式内膜細胞診報告様式に込められていることをくみ取っていただき,ぜひ,本書で十分な子宮内膜細胞診に関する理解を深めていただきたい.

 平井康夫
 矢納研二
 則松良明

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イントロダクション

Ⅰ 診断用語と報告様式の概略
Ⅱ 標本の種類による判定法
Ⅲ 標本の適否
Ⅳ 記述式細胞診結果報告
   陰性/悪性ではない
    増殖期内膜
    分泌期内膜
    月経期内膜
    萎縮内膜
    炎症に伴う変化
    ホルモン環境異常による変化
    医原性変化(IUD,TAM,MPAによる)
    その他の良性反応性変化
    子宮内膜ポリープ
    単純型子宮内膜増殖症
   内膜異型細胞(ATEC)
   子宮内膜増殖症
    複雑型子宮内膜増殖症
   子宮内膜異型増殖症
   悪性腫瘍
    類内膜腺癌
    漿液性腺癌
    漿液性子宮内膜上皮内癌
    明細胞腺癌
    混合癌
    上皮性・間葉性混合腫瘍
    子宮外悪性腫瘍

索引

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即時に応用可能なアトラス
書評者: 長村 義之 (国際医療福祉大病理診断センター長/国際細胞学会(IAC)次期理事長/日本臨床細胞学会(JSCC)元理事長)
 子宮内膜細胞診を臨床検査として日常的に実施しているのは,国際的にもわが国だけであり,日本での細胞診従事者は,この分野で世界のリーダーとして位置付けられてきた。

 本書は,日本臨床細胞学会で作成した全身26領域の「細胞診」の中で,婦人科・泌尿器の「記述式内膜細胞診報告様式」にのっとって,これまでに蓄積された知見を網羅して作成され,「背景」「定義」「診断基準」を明記したアトラスとなっている。「診断基準」はわれわれが慣れ親しんでいる子宮頸部細胞診報告様式(ベセスダシステム)の判定基準と同様に活用できるよう工夫されており,使いやすい。また,直接塗抹法のみならず液状化検体細胞診(LBC)にも言及されており,いずれの施設においても即時に応用が可能である。内膜細胞診におけるLBCの利点も強調されている。

 記述式内膜細胞診報告は,(1)陰性/悪性ではない,(2)内膜異型細胞(ATEC),(3)子宮内膜増殖症,(4)子宮内膜異型増殖症,(5)悪性腫瘍とに整理して分類されている。写真は,細胞診が主たる画像であるが,適宜病理組織画像も貼付され,理解が深まるように工夫されている。写真は美麗であり,その説明も的確と言える。

 従来の3段階分類(陰性・偽陽性・陽性)において,「偽陽性」とされていたものに関して,記述式内膜細胞診報告様式では,「ATEC」の判定領域を用いることにより,組織診断との整合性や,臨床医に向けて経過観察や組織診の対応が明らかにされると考えられる。

 本書では,わが国で盛んに行われている内膜細胞診に熟達した著者により,ATEC,ATEC-US,ATEC-Aなどのカテゴリーも,適切な図を使用してわかりやすく解説されている。ATECの判定基準について,特に判定に苦慮するもの(ホルモンによる変化,増殖性病変)に関しては,多くの写真を用いて解説してあり,さまざまなパターンを視覚的に捉えることができ,実際の現場においても大いに活用されると考える。また,今後多くの現場で導入されるであろうLBC法による写真も数多く掲載されており,標本の種類(作製法)による細胞の差異にも対応できると考えられる。

 全体を通して,非常に読みやすい構成となっているので,一度通読し,その後実際の症例に遭遇した際に本書を活用することが勧められる。

 本書が,臨床検査技師の方々および細胞病理医の方々の座右の書として,日常の診療において役立つことを大いに期待している。
形態学による子宮内膜細胞診のアプローチ
書評者: 青木 大輔 (慶大教授・婦人科腫瘍学)
 子宮内膜細胞診は非常に難しいと常々感じている。判定者間の再現性が高いとは言えず,世界的にみてもコンセンサスを得られた検査法としては確立されているとは言い難い。本書のイントロダクションにもあるように,日常的にこの検査を行っているのはほぼ日本のみであろう。その日本においても細胞診所見の判定基準に統一した見解を持ち得ていない。

 現在,わが国では子宮内膜細胞診の所見についてどのように記載し判定していくか,どこまで統一見解を持ち得るものかを模索している。めざすべき方向としては,有意な所見とされるものの再現性や科学的な根拠があるかどうかを検証し,また内膜細胞診が子宮内膜癌の診断や検出にどのように寄与し得るか否かについても臨床的な取り扱いとともに科学的に検証することであるが,今回はそのプロセスの第一段階ともいうべき取り組みとして,たたき台となる最も重要な判定の枠組みの提示をしていただいた。

 本書は多彩な細胞診の顕微鏡写真を掲載することによって,この第一段階がどのようなイメージのものであるかを可視化したものである。本書の画像や説明をもって納得される方もいれば,あるいは相いれない意見を持たれることも,現段階では十分許容されるものである。特に内膜細胞診の判定をする際に最も悩ましいグレーゾーンをさらに良性と捉えられるべき範疇の中の変化と悪性疾患が疑われる変化に分けて,その特徴についても詳述している。現行のsuspiciousとの判定を行っているものにとってみればかなり大胆なchallengeである。そして数多くの方々がこのアトラスに目を通し,オープンな場での議論が始まるのを惹起することこそが本書の真の狙いであろう。この機会を提供してくれた執筆陣諸氏の,「内膜細胞診をどうにかしたい」という一念からの無私な努力に敬意を表し,広く,婦人科腫瘍学に携わる方々,もっぱら病理診断を専門とされる方々,細胞診に携わる職種以外の方々にもぜひご一読いただき意見をいただければと思っている。

 内膜細胞診の試みが始まった当初に比べ,今日では形態学を中心とした臨床検査の分野にも組織化学などの手法の導入が可能になったり,細胞診にもさらに分子生物学的手法が用いられるようになった。この段階で,形態学による内膜細胞診のアプローチの可能性とその限界を把握しておくことは,新たな手法とのすり合わせをどう考えていくかを準備するためにも重要である。今後,オープンなディスカッションを経て,本書がどのように変遷していくかは現在未知数であるが,本書の指針である細胞診ガイドラインとともに広く活用され,検査室ではすぐに手に取って一読できる書籍になることを希望している。

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