今日から使える
医療統計

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米国で生物統計家として20年の豊富なキャリアを持つ著者が、熟知した「医療系論文に多用される統計」「論文査読でチェックされる要点」「医療者が研究に際し陥りがちなポイント」を解説。“できるだけ数式を使わず”に今日から使える統計学の知識を、各章に例題/具体例/サマリーを折り込みつつ読み物形式で伝授。論文を紐解くための統計学の極意がここに。大きな反響を呼んだ 「週刊医学界新聞」 連載、待望の単行本化。
新谷 歩
発行 2015年04月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-01954-5
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 『週刊医学界新聞』で「今日から使える医療統計学講座」の連載を書かせていただいてから早3年が経とうとしております。この間に私の人生には大きな変化がありました。日本の臨床研究が危機的な状況なので,是非帰ってきてほしいと言われ,20年間のアメリカ生活にピリオドを打ち日本へ戻ったわけですが,聞いていた通り,臨床研究を取り巻く過酷な環境に大変驚いています。わが国の論文数でみた国際順位では基礎研究の4位に比べ,臨床研究では30位と大きく後退しています。トップは基礎研究も臨床研究も私が20年統計家として暮らしたアメリカですが,1位のアメリカと30位の日本の臨床研究を取り巻く環境の違いを日々痛感しています。
 なかでも一番大きな違いは臨床研究を支える生物統計家がいないということです。アメリカの大きな大学病院では通常30~50人態勢の統計家が一丸となって臨床研究をはじめから終わりまで密にサポートしているわけですが,日本ではその数が1施設に1人,2人といった程度です。最強の武器といわれる統計学を使いこなせる人材がわが国の医学研究分野で皆無に近いという事実を私たちはもっと真摯に受け止めるべきでしょう。その結果起こった医学アカデミアにおけるデータサイエンスの空洞化により,さまざまな倫理問題などが引き起こされたといっても過言ではありません。日本の大学では医療統計を教えている講座も極端に少なく,この現状はしばらく続くと思われます。生物統計家がほとんどいないわが国で,臨床研究をやり遂げるためには,やはり現場で臨床研究に携わる方々にすそ野の広い統計教育を行っていくしか道はないと考えております。
 本書の元となった『週刊医学界新聞』の記事も,私がウェブで配信しているビデオ講座でも,そんな気持ちを込めてお届けしております。
 講演先で出会う多くの方々は口々に統計は難しいといわれますが,決してそんなことはありません。統計とは皆さんの身近にある,ごくごく日常的に私たちが頭で考えていることを,データを使ってコンピュータに計算させているだけのことなのです。
 1つ例を挙げましょう。先日,日本に戻って半年ほどして健康診断を受けました。総コレステロールがちょっと高めだけど,HDLの値はとてもよいし,血圧は正常,日本人は食生活も運動習慣も西欧人よりかなりよいので,特に薬はいらないでしょうというありがたい診断でしたが,もし私がアメリカ人で,高血圧,運動もしない車ばかりの生活をしていたとしたら,ちょっと危ないので薬が必要ですという診断だったかもしれません。これら一連の計算を一瞬でやってのけた主治医はさすがだなと思いましたが,実はこの思考こそが統計のブラックボックスといわれる重回帰分析で行っていることと全く同じなのです。
 この本を読んだ皆さんが,統計って案外簡単だと気づき,結局大事なのは臨床的なことがら,つまり何が患者さんにとって大事かということにほかならないことをわかっていただければ大変嬉しく思います。そしてそれを統計家よりよく理解している皆さんが解析を進めるうえでの中心人物であるべきだということに“納得”していただければ,著者として幸甚の至りです。
 最後に私を『週刊医学界新聞』へと導いてくださった医学書院の前野みさきさん,ありがとうございました。本連載の執筆を通して大変多くの方々と出会い,それが日本へ帰るきっかけとなりました。そして家事を後回しにしながら働いている私をいつも応援してくれている主人と2人の愛娘,20年前私を信じてアメリカに送り出してくれた両親にも心からの感謝の意を込めて本書を捧げます。

 平成27年2月
 新谷 歩

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Lesson 1 統計の基礎知識-統計ってなんだろう
 標準偏差の意味と計算の仕方,使い方
 データの傾向をとらえる平均と中央値-いつ平均・中央値を使う?
 正規分布をとらない歪んだデータの記述の仕方
 標準誤差
 信頼区間
 仮説検定-どうして「薬が効かない」からはじめるの?
 P値-出会いが運命? ミラクルの起きる確率
 信頼区間とP値
 標準偏差と標準誤差,信頼区間,どちらを使うか

Lesson 2 グラフの読み方・使い方
 研究で一番よく使われる棒グラフ,比較の精度はわからない
 棒グラフにエラーバーを付けてみよう
 データの分布を表すグラフ
 箱ひげ図の読み取り方
 平均値の群間比較のエラーバーとP値の関係

Lesson 3 単変量統計テストの選び方
 異なる検定で,異なる結果が出る,どうして?
 誤った解析結果は医療スキャンダル
 Let's Try-研究に適した統計手法を選んでみよう!
 差をみるのか,相関をみるのか?
 比較データは対応しているか?
 アウトカムは,連続変数,2値変数,順序変数,
  名義変数のいずれに分類できるか?
 アウトカムが連続変数の場合,その分布は正規分布であるか?
 比較群間で比較を行うとき,比較群の数は2つか,3つ以上か?
 データの総数は?

Lesson 4 交絡と回帰分析モデル
 リンゴとミカンを比べない交絡のコンセプト
 交絡をどう防ぐかで臨床研究の質が決まる-リンゴをリンゴと比べるために
 回帰分析モデルの選択の仕方

Lesson 5 症例数とパワー計算
 症例数を増やせばいつか必ず有意差がでる
 研究を始める前に知っておいて欲しいこと
  -解析プランはデータをみないですべて立てておく
 1型エラーと2型エラー,無実の人が罪に問われるエラーと
  真犯人が野に放たれているエラー
 症例数計算に必要なデータ
 さあ,症例数計算してみよう-PSソフトの使い方
 アウトカムが生存,死亡のような2値変数の症例数の計算
  -NEJM研究例を用いて,さあトライ!
 よくある質問

Lesson 6 多重検定
 ボンフェローニの呪い
 見過ぎによる出過ぎ?
 多重検定の種類
 比較群が多い場合の補正法(偽発見率法)
 補正すべきか,否か,今でも高まる論争の行く手は?

Lesson 7 中間解析
 過剰な中間解析は誤った結果を導きかねない
 “見過ぎによる出過ぎ”をいかに補正するか
 中間解析について研究計画書に詳細な記載を

Lesson 8 多変量解析-説明変数の選び方
 交絡因子をいかに取り除くか
 説明変数は何個までモデルに入れられるか?
 説明変数の選び方
 交絡除去に対応できる症例数の確保を
 傾向スコアとは?

Lesson 9 ランダム化比較試験(RCT)におけるデータ解析
 表にP値は必要か?
 ランダム化の本当の意味-全体的なバランスをみる
 アウトカムの解析は補正すべき?

Lesson 10 インターアクション(交互作用)
 インターアクションを交互作用と理解するとわかりづらい
 インターアクションは交絡とは根本的に違う

Lesson 11 感度・特異度
 解釈が難しい感度・特異度解析
 陽性的中率は検査の理由によってここまで変わる?
 感度・特異度の隠れた個人差
 診断検査ツールを検証する際のチェックポイント
 感度・特異度でよく使われるROC曲線
 あまり使えないROC曲線に代わる統計量

Lesson 12 同等性・非劣性の解析
 同等性を示すにはどのような手続きが必要か
 信頼区間を使って,同等性,非劣性をみてみよう
 信頼区間を用いた症例数の計算方法

Lesson 13 カプランマイヤー曲線
 カプランマイヤー法の活用方法
 累積の生存率とリスク
 中途打ち切りのデータは計算上どう扱うか

索引

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第一線で活躍する統計家が,現実的な視点で,知りたかった問題に答えてくれる
書評者: 香坂 俊 (慶大講師・循環器内科)
 自分は最近,無謀にも 臨床系の大学院を開設するなどして1),院生と循環器疾患の大規模レジストリからの分析を行ったりしている。そこでよく「統計難しいっすね」などという趣旨の発言を耳にしたりもするのだが,厳密にはそれは間違った認識であると思う。

 実は統計の理論そのものはそれほど難しいことではない。高校数学の新課程では「データ解析」が【数Ⅰ】に織り込まれ(2012年~),高校生でもその基本的なコンセプトは習得可能,とされている。実際,進研ゼミのQ&Aなどをみても十代にして彼らの理解度は恐ろしく高い2)

 なので,極端なことを言えば,統計解析というのは足し算や引き算のような演算の一種であり,統計家は電卓である(註)。ただここで問題なのは,
医療者が考えるほど統計という学問も「カッチリ」したものではなく,
逆に医学という学問も統計家が思うほど「キチッ」としていない
ということではなかろうか。日常の臨床には非常に多くのヒューマンファクター(目に見えない交絡因子)が存在し,それを互いが認識し,共同作業で補正していかないときちんとした研究を行うことはできない。

 そこで本書『今日から使える医療統計』である。これまで数多くの統計系の書籍が出版されてきたが,どこか「カッチリ」した教科書が多く,実践とはかけ離れている感があった。本書はそうではなく,現役の第一線で活躍されている統計学者の新谷先生が極めて現実的な視点でポイント絞った解説をしてくれている。記述統計の項から入り,終盤にはロジスティック回帰分析や生存解析の多変量解析モデルや,最近の医学論文では当たり前に目にするようになったc-statisticsやnet reclassification improvementの内容までもカバーしている。

 特筆すべきは,新谷先生が米国でGrant(研究費)の申請を行ったり,あるいは論文の査読を行ったりする立場の人物であるというところである。そうした立場の方の生の声はなかなか聞こうと思っても聞けるものではない(しかも,日本語で!)。中でもパワー計算(必要な症例数の算定)に関する率直な議論や,重回帰分析を行うにあたっての共変量の考え方など,まさに多くの方々が解答を見つけられずにいる問題ではなかろうか?

 現代は,良くも悪くも,クールに大量のデータが手に入る時代になった。ここで問われるのはそのデータの「質」の評価,そしてそれを解釈するための正しい疫学や医学統計知識であろうと感じている。新谷先生も前書きで述べられている通り,残念ながらわが国の医療統計を取り巻く環境は未発達である。Evidence Based Medicineに必須な知識を少しでも高めていただくため,ぜひ論文を読み始めた方々,あるいはこれから自分で疑問を解決しようという方々に,一読いただきたい好著である。

(註)筆者は実際に統計の専門家からそのように自己紹介されたことがあり3),統計家の先生方に悪意があるわけではありません。
1)慶應義塾医療科学系臨床研究大学院;http://www.cpnet.med.keio.ac.jp/research/
2)http://kou.benesse.co.jp/nigate/math/
3)Kohsaka S, Sciacca RR, Sugioka K, Sacco RL, Homma S, Di Tullio MR. Electrocardiographic left atrial abnormalities and risk of ischemic stroke. Stroke. 2005 ; 36 (11); 2481-3.

点と点を結び付け,医療統計が生きた知識に変わる
書評者: 佐々木 宏治 (テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター Clinical Fellow・Leukemia)
 臨床研究をするに当たりどの統計手法を使うべきなのだろうか? 論文を読むたびに目にする統計手法は正しい手法なのだろうか? それぞれの統計解析の意味はいったい何なのだろう?——論文を読む際,また自分自身が臨床研究をするに当たって,このような疑問を感じたことはありませんか。私がそのような疑問を抱えた時に巡り合ったのが,2011年に新谷歩先生が週刊医学界新聞に寄稿された「今日から使える医療統計学講座」シリーズでした。

 統計学の教科書をひもとくと,一つ一つの統計解析に関して解説が詳細に述べられていますが,臨床研究をするに当たりどのように統計テストを選択していくかを解説しているものは非常に少ないと感じます。

 新谷歩先生の連載に出会うまではスチューデントのt検定,クラスカル・ウォリス検定,ピアソンのカイ2乗検定,ログランク検定,対応のあるt検定,スピアマンの順位相関係数……と,数々の統計テストの名前に圧倒され,統計学の教科書を読んでは,いつかは知識が定着してくれれば良いなと当てもない努力を繰り返していました。

 新谷先生の連載と出会ってはっと気付かされたのは,それぞれの統計解析の枝葉を学習することに血道を上げていて,統計手法にはどれを選択すべきなのか,幹となるべき全体像を把握していなかったということでした。その後,新谷先生の連載を何度も読み返すにつれ,それまで断片的であった点と点がお互いに線で結び付き合い始め,統計解析が自身で活用できる生きた知識に変わる一番大きなきっかけであったと思います。

 今回,新谷歩先生が週刊医学界新聞に連載された記事をまとめて単行本として出版され,その内容はさらにわかりやすくなっています。読み進めれば,書かれている内容を理解しようと積極的に頭が働いていることを,自然と実感されると思います。

 臨床研究に意欲ある医学生・初期研修医の先生方,これからまさに臨床研究に取り組もうとされている後期研修医・大学院生の先生方,後輩に統計指導をするに当たり何か良い本がないかと探されている教育者の先生方,現在臨床研究をされていて統計手法を振り返りたいコメディカルの方々……と,幅広い読者にお薦めできる書籍です。

 この書籍をきっかけにより多くの方々が臨床研究に関心を持たれ,また臨床研究の発表が日本から世界へ多くつながることを願っております。
臨床研究を行う研究者,医学論文を紐解く臨床医は必読! 医療統計学珠玉の指針がここに
書評者: 小林 広幸 (東海大大学院教授・臨床薬理学/医学研究科研究科長/総合臨床研究センター所長)
 “数式を使わないで直観的に学ぶ”『今日から使える医療統計学ビデオ講座』で,精力的にわかりやすい情報を発信されてきた新谷歩教授の医療統計への慧眼と熱き思いが,単行本として結実し上梓された。基礎および臨床医学研究大国である米国で生物統計学者として20年の豊富なキャリアを重ねてきた著者が,医療統計の重要なテーマに関する極意を例題/具体例を活用し読み物形式で伝授してくれる。これまで医療統計の本に構えてしまった読者でも,数時間もあれば楽しく講義を受けている感覚で一気に読めるだろう。

 本書を読み進めていくと,2003年から2年間ヴァンダービルト大学大学院の臨床研究科学マスターコースで新谷教授から医療統計の講義・演習を受けた際の衝撃が鮮烈に蘇ってきた。グラフィックやイメージを多用し実例を基に医療統計の概念や前提条件を教えてくれる講義は,医療統計学に対する見方が一変,目から鱗が落ちる連続で,楽しみながら医療統計に関する知識・スキルを習得することができた。新谷教授は,研究者としてはもちろん教育者としても一流で,そのユニークな統計教授法には定評があり,ヴァンダービルト大学でベストティーチングアワードを受賞している。

 本書がめざしているのは,臨床研究を計画・遂行しデータを解析・論文化するのに必要な急所・要点を“できるだけ数式を使わず”に今日から使える知識として読み物形式で伝授することである。初めに統計の基礎知識について,論文投稿時のチェックリストも紹介し平易に教えてくれている。その後,量的情報を可視化することの重要性に触れ,グラフの作成について実践的に解説している。ナポレオンのモスクワへの行進に関する情報を可視化したものは,筆者がヴァンダービルト大学大学院の講義でも感銘を受けたグラフだ。統計テストを選択する際のチェックポイントとチャートは,医学研究を進める上で今日からにでも役立つことは間違いない。このチャートは,大学院入学者に必ず配布し活用させて頂いている。交絡の概念と補正法についても臨床に携わっている読者に自然と受け入れられるような例を挙げ,見事に説明されている。必要症例数とパワー計算については,ヴァンダービルト大学で開発された無料ソフトの使用例も交えて統計的有意差と臨床的有意差の違いにも触れ,実践的に教示してくれている。インターアクション(交互作用)については,薬剤の併用例を取り上げeffect modificationとして捉え,The New England Journal of Medicineのレポートガイドラインも紹介し非常にわかりやすく説明されている。これを読み,交絡と交互作用の違いを明確に理解できる読者も多いだろう。また,多重検定,中間解析,最近進歩してきた診断や予後の予測研究の解析法,同等性・非劣性の解析,生存解析なども要領よく極めて理解しやすい解説が加えられている。

 著者は,生物統計学者として20年の豊富なキャリアの中で,臨床研究のデータがより良い医療の確立を切望する患者一人一人の思いと,データを取得する研究者の努力・情熱に裏打ちされていることを熟知している。だからこそ,それらに応えるためにも適切な研究計画と解析法を研究者へ教育することを使命とされている。行間から新谷教授の熱き思いが伝わってくる渾身の一書だ。臨床研究を行う研究者,医学論文をひもとく臨床医に是非勧めたい。特に医療系大学院生には全員に読ませたい。

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