説明できるエンゼルケア
40の声かけ・説明例

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ご家族の参加を促す声かけとは? 死後の身体変化をどう説明する? なぜ下半身に綿つめをしない? 爪きりとマニキュアの意外な効用とは?――ケアの最後を締めくくるエンゼルケアは、そのやり方も、それをどう説明するかも、時代とともに変わってきた。「なぜやるのか、なぜやらないのか」をあなたは説明できますか? 生と死のミックスゾーンで、遺された人々と看護師自身を助ける「声かけ」と「振る舞い」のお手本帖。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
小林 光恵
発行 2011年08月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01436-6
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 ながらく慣例的に行われてきた死後処置は転換期を迎えました。
 死後の身体変化を踏まえた遺体管理法を取り入れ、保清や身だしなみの整えを基本として、ご家族の意向を重視し柔軟に添う方向が出てきたのです。これらは、「死後処置」ではなく「エンゼルケア」と呼ばれています。
 エンゼルケアでは、ナースのコミュニケーション力が重要となります。亡くなった患者さんのご家族は、臨終直後の対応にまつわる情報がほとんどありません。したがって、これまでの死後処置の問題点や、なぜ新しい対応が出てきたのかなど、必要な点をまずわかりやすく説明し、そのうえでご家族に「どうしてほしいのか」を考えていただかなければならない時代になったのです。
 当然のことながら、一方的な声かけや説明ではコミュニケーションになりません。ご家族のさまざまな疑問点に答えることができる用意があることが大切です。また、声かけや説明の言葉の端々に、話す側のスタンスや配慮が反映されますから、ナース自身があらかじめ、どういう理由で、何に重きを置き、どのようなエンゼルケアを提案したいのか、ケアする側の考え方をしっかりと理解・納得している必要があります。
 このように考えると、「ご家族への声かけや説明の言葉を考えること」イコール「具体的な死後ケアの検討」であるといえるでしょう。
 本書は、私の所属するエンゼルメイク研究会(p.58参照)が望ましいと考える死後のケアの流れや配慮すべき点を、「声かけ」と「説明例」として表現したものです。そのまま、あるいはアレンジしてみなさまの職場で活用していただけましたら幸いです。
 静岡県の榛原〈はいばら〉総合病院には、2002年からエンゼルメイクを含むエンゼルケア全般の検討において多大な協力を得ています。本書においても、榛原総合病院のマニュアル「逝去時の看護」で紹介されている事例や検討成果を参考にさせていただきました。
 遺体管理学の伊藤茂さんには、エンゼルケアを考えるうえでなくてはならない死後変化についていつも教えていただいておりますが、それを本書でも随所に活かすことができました。
 また、医学書院看護出版部の白石正明さん、石塚純一さんとの出会いがなければ、エンゼルケアの「声かけ・説明」に注目した本書は生まれることはありませんでした。柔軟かつ熱心に本づくりを進めてくださいました。
 みなさまにこの場を借りて御礼を申しあげます。ありがとうございました。

 2011年7月 小林光恵



エンゼルメイクとは
医療行為による侵襲や病状などによって失われた生前の面影を、可能な範囲で取り戻すための顔の造作を整える作業や保清を含んだ、“ケアの一環としての死化粧”。また、グリーフケアの意味合いも併せ持つ行為であり、最期の顔を大切なものと考えたうえで、その人らしい容貌・装いに整えるケアのこと。

エンゼルケアとは
エンゼルメイクを含む、死後ケア全般のことを指す。

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 はじめに

01 臨終の告知直後
  コラム 生きているときと同様にご遺体を気遣う
02 お別れ(お過ごし)の時間
  コラム 現代のご家族の心身負担を考える
03 退院までの流れの説明
04 ご家族に参加をうながす
  コラム “触れる時間”としての死後ケア
05 点滴・チューブ類の対応
06 皮下出血
  コラム 声かけ・説明時の話し方
07 口腔ケア・眼内ケア/死後硬直のこと
08 清拭・入浴(シャワー浴)
09 死後の身体変化
10 体表面(皮膚)の乾燥傾向
11 皮膚の脆弱化
12 感染対策
  コラム 身体への「死」の印づけをどう考えるか
13 下半身に綿つめを行わないことについて
14 口や鼻への綿つめについて
15 手浴・足浴
  コラム 爪切りとマニキュアの効用
16 簡易シャンプー
17 髪の整え
18 更衣とならわし
19 ならわし全体について
20 手を組ませること
  コラム 末期の水について
21 腐敗と冷却
22 顔のエンゼルメイク全体について
23 男性の顔のエンゼルメイク
24 クレンジングマッサージとむしタオル
25 ファンデーションとパウダー
26 チーク
  コラム アイブロウ(眉)
27 アイラインとマスカラ
28 リップクリームと口紅
  コラム その人らしくエンゼルメイクするには
  コラム 顔のエンゼルメイクの基本手順
29 顔にかける白い布
30 退院後の葬儀関係業者のサービスについて
31 病室から迎えの車までの移送(霊安室仕様の有無も含め)
32 お見送り
  コラム コストに関する知識
33 開口への対応
34 目蓋が閉じにくい場合
35 入れ歯が入らない場合
36 黄疸がある方に
37 顔面のうっ血
38 顔面腫瘍・傷・潰瘍/チューブ痕
39 褥瘡のある方に
40 るいそうの方に
  コラム 人工肛門・胃ろう・ペースメーカーはどうするか

 付録:退院時文書の活用

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 松村 真司 (東京・松村医院、医師)
 臨床に出て何十年も経っているのに、いまだにうまく臨終を告げることができません。

 経験が少ないわけではありません。これまで数えきれないくらいの人の死に立ち合ってきました。かつては、ほんの少し前に出会った人の臨終を、1日に何回も告げたこともありました。在宅での看取りがほとんどになった今は、モニターに囲まれた病院での最期とは異なります。ある程度あらかじめ予想されていた死を目前にしたご家族は、それを承認する私の言葉を待つだけです。臨終に際してはこれまでの経験で培った私なりに準備されたスタイルがあり、それに従って告げるだけなのですが、意識しすぎるのかいつもうまく言葉が出なくなってしまうことが多いのです。

 それでもどうにか、臨終を告げています。頼りにしているそのスタイルは、正式に教わったものではなく、先輩方のやり方を参考に自分なりに構築したものです。しかし、それが本当に適切なものかにまで思いを巡らせることは、これまでありませんでした。

◆死に逝く人を医療者としてどう見送るか

 本書では、患者さんが亡くなられた直後から始まる、医療者の1つひとつの所作について、死後の身体変化とご家族の心情を踏まえて、どのように進めていくかが記された実践の書です。臨終直後の立ち位置、家族への声かけから始まり、点滴・チューブ類の対応、口腔ケア・清拭、着替え、メイク、お見送りまで、それぞれ全部で40の実践方法が豊富なカラーイラストとともに記されています。とくに「なぜそれを行なうか(そして行なわないか)」についての声かけ、説明の例が数多く示されているのが特徴です。

 著者によると、エンゼルケアとは死後の身体変化を踏まえ保清や身だしなみの整えを基本として行なうケアのことであり、グリーフ・ケアの意味も併せもつものである、とのことです。従来、慣例的に行なってきた「死後処置」を、ケアのまなざしをもって評価し直し、それをご家族への説明を通じて共に考えながら再構築していく活動は、医療が人生の最終場面に関与することが圧倒的多数になった今は、きわめて重要なことであると思います。

 本書は、病院で行なわれているエンゼルケアの記載が中心ですが、これからは在宅や施設での看取りもますます重要になります。とくに独居高齢者や高齢者のみの世帯の場合、家族以外の第三者の関わりが大きくなります。家族だけではなく、ケアマネジャーやヘルパーを含む多職種が、エンゼルケアを理解することも必要になってきます。ある人の一生のうちでたった一度の瞬間に多くの人々が関わることは、いつかは訪れる自分の大切な人や自分自身の最期のためにも、かけがえのない経験になると思います。

 本書を通じ、多くの人がエンゼルケアについて考えるようになり、そして多くの看取りの場面に「ケアのまなざし」が浸透していくことを期待したいと思います。

(『訪問看護と介護』2012年6月号掲載)
癒しの心を導くエンゼルケアの実践書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 根岸 貴子 (埼玉医科大学保健医療学部看護学科)
 看護教育においては,死に向かう人のケアとしてエンゼルケアを位置づけ,亡くなられた故人や家族の意向を大切にするケアとして教育している。しかし,「綿をつめる,つめない?」など根拠が明確にされないことも多く,混沌としたなかで教育してきた背景がある。エンゼルケアはいかにあるべきか,これから看護師になる学生たちは何を知っておく必要があるのか,本書にてそれを知る機会を得た。

 昨年の東日本大震災後のある家族のことである。亡くなった母親のご遺体に対して生前の顔に近い状態にエンゼルメイクをして差し上げ,子どもたちと夫が寂しいなかにもやっと別れの決意ができたという報道を見た。エンゼルケアでは,大切な方と別れ,残された方の心が癒される必要がある。最後の姿をご家族の望む形でお送りしたい。それはケアにあたった看護師たちも同じ気持ちである。では,実際にはどのようにしていったらよいのだろうか。故人を見送るご家族や近親者の心の叫びに耳を傾けるとはどういうことか,看護師自身がもつべきスタンスとは何か,その疑問に答えてくれたのが本書である。

 本書ではエンゼルケアにあたる人の心得,ご家族や近親者への配慮の仕方について,胸中を察した声かけ方法を具体的に示し,イメージできるようにしてある。質問形式やイラストを用いて説明してあるので,とてもわかりやすい。イラストはあまり暗くなくさわやかである。そして,これまで慣例的にやってきたことに関しても,きちんとした根拠を明確に説明してある。例えば,顔にかける白い布・手を組ませるなど,筆者も違和感を感じてきたことであるが,理由がわかるように説明してある。自分のやっていた行為の意味がよくわかった。本書の大切にしていることは,故人を生前と区別しないこと,亡くなった方を生きているときと同様に気遣い,ご家族の気持ちに寄り添うこと,死の印づけは行わないことである。その人らしく家族の望むようにして差し上げ,最後の姿が家族のなかに永遠に残るようにしてあげたい。いつ思い出しても心が癒され納得ゆくものであることが望ましい。エンゼルケアは,故人に関わる人たちのグリーフケアのひとつなのである。

 生きているときと同様に接し遺体として区別しないこと。これまでの慣わしに縛られていたものを一度立ち止まり選択してみる。本書はそれを教えてくれた。これから人の死に遭遇する看護学生やエンゼルケアにあたる人々が本書を一読することで,ご家族の気持ちに寄り添い,心安らかにケアにあたることができると考える。誰もが死に至る。自分の愛する人の最後の姿は,その人らしく残された人の望む姿でお見送りしてあげたい。本書はそれを身近に教えてくれた一冊である。

(『看護教育』2012年3月号掲載)
書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 櫻井 雅代 (訪問看護パリアン )
 小林光恵さんのこれまでの著書を契機に、日本中の看護師がいっせいに、それまでのエンゼルケアを見直しました。エンゼルメイクセットを買い揃え、講習会を開催し、ご家族に満足いただけるエンゼルケアへと質が向上してきていると思われます。

 でも、そのエンゼルケアは、狭義の「エンゼル“メイク”」に偏重してはいないでしょうか? メイクだけでよいのなら、エンゼルケアを「看護師が行なう意味」は弱まってしまいます。私は、昨今のエンゼルケアの躍進を、多少冷ややかな目をもって眺めていました。

 本書には、臨終の告知直後からお見送りまで、看護師がなすべき具体的な声かけ・説明が“セリフ”として記述されています。硬直・におい・肌色などの身体変化や、清拭や綿つめなどの方法も具体的に書かれていますので、この本さえあれば、エンゼルケアの一連の流れがつぶさにわかります。また、家族からのよくある質問にも、もれなく対応しています。精読すれば、明日から自信をもってケアに臨めるでしょう。もちろん、エンゼルメイクについても書かれています♪

 しかし、この本の最大の特徴は、「身体変化」や「ケアを行なう/行なわない」の“根拠”が、丁寧にとてもわかりやすく記述されていることです。たくさんの討議、失敗経験からの学び、遺体管理学の専門家からの貴重な教えも加味され、家族の気持ちに配慮した最善の声かけ・説明、手技を導いています。

 普段、エンゼルケアについて仲間と語り合ったり振り返ったりする機会は、なかなかありません。著者をはじめ、多職種で議論し尽くした結晶が紹介されており、私は「得したなあ」と感じました。

◆「看護師が行なう」ことの意味

 身近な方を看取る機会が少ない現代です。荼毘に付すまでの身体の変化や、昨今の葬儀事情を熟知した家族は多くありません。遺体に接したり葬儀を出したりするのは今回が初めて、不安とわからないことだらけ……ということがほとんど。

 ケアに当たる看護師自身もまた同じではないでしょうか。そのこと自体は、仕方ありません。でも、「家族」も支える専門職として、死後の身体の変化や葬儀事情にも、自信をもって確かな説明をしたいものです。死後のケアや説明に、不安や迷いを少しでも感じたら、是非この本をご一読ください。きっと、「そうそう、このこと知りたかったの」という答えがびっしりと詰まっています。

 在宅ホスピスに従事してまだ未熟な私ですが、「エンゼルケアは、グリーフケアの一部」と心して行なっています。40の声かけ・説明と同時に、ありし日の故人を偲び、ご家族の介護を労って、想い出を語り合うグリーフケアの意味を含んだエンゼルケアができたらいいな、と思います。看護師と共に行なったエンゼルケアが、家族にとって、新たな生活を歩み出す“より所”となり得るよう祈りながら……。それこそが、看護師による本当のエンゼルケアであると信じています。

(『訪問看護と介護』2012年1月号掲載)

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