質が問われる時代の
看護サービスマネジメント

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人材育成コンサルタントとして病院の研修に数多く携わっている著者が、「医療はサービス業である」という視点から、一般企業のマネジメント事例やマネジメント論を取り入れて独自の「看護サービスマネジメント」について言及。著者自身が看護や医療現場を実際に見聞きする中で得た改善・改革のヒントは、きわめて具体的。組織的サービスの質を高めることが求められる今日の看護師・看護管理者に、患者サービスの本質を伝える1冊。
江藤 かをる
発行 2011年04月判型:A5頁:224
ISBN 978-4-260-01311-6
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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はじめに

 前著『看護サービスマネジメント』は,1999年8月に出版していただきました。出版から10年以上が経過しましたが,この間,日本の医療界,看護界ともに大きく変化しました。例えば,看護界では,看護婦・看護士から看護師への名称変更,多数の看護大学の誕生,7対1入院基本料の実現などはその代表的な例でしょう。
 外部環境の変化に合わせ,一部に加筆,修正が必要なテーマが生じたこと,また,筆者がどうしても新たに付け加えたいと思っていたテーマがいくつか生まれたことにより,前著に大きく手を加え,『質が問われる時代の看護サービスマネジメント』として出させていただくこととなりました。
 前著を執筆中に生まれた息子も今年13歳になります。子どもの心身の成長には目を見張るものがあります。翻って,私たち大人は,常に自らを鼓舞し律していなければ,マンネリ化に陥り退化していきます。看護現場の皆さんへエールを送るとともに,筆者自身は職業人として進化してきたかといった自戒も込めて本書を執筆しました。

■自律性のある専門家に

 ひと昔前,「医療はサービス業である」という言葉を使うと,多くの医療者から「サービスという言葉に違和感をもつ」という返事が返ってきました。今でも一部に抵抗を示す方がいらっしゃいますが,若い世代には,当然のごとく「医療はサービス業である」ことが浸透しています。これも大きな変化の1つでしょう。
 先にあげましたが,目に見える変化としては「看護師」の呼称があげられます。前著では,呼称を「ナース」で統一しました。当時,看護士・看護婦の呼び分けがされていたものを,political correctness(ポリティカル コレクトネス)の理由から筆者がこだわって呼称統一したものでした。
 しかし,2002年3月に「看護師」と名称が変更され,看護士・看護婦の呼称が消滅しました。呼称変更当初はメディアで「看護士」と間違えて表記していたものも多かったのですが,今では「看護師」は定着しつつあります。ただ,看護現場では「婦長さん」の呼び方は,いまだに残っています。医療者のみならず,患者側にとっても愛着のある呼称だったのでしょう。
 男女平等のもと,単に名称が変わっただけではありません。看護師に変わったことにより,医師・薬剤師同様の社会的地位が認められました。それと同時に,社会的責任を看護師も負うことになりました。医療訴訟が起こった場合,これまでは医師ほど追及されることがなかった刑事責任が,看護師にも求められるようになりました。
 今後は医師の補助者としてではなく,対等なパートナーとして,また,患者や他職種に対しては自立性・自律性をもった専門家としてのあり方が,看護師にはますます強く求められることになるでしょう。
 この10年あまり,あらゆる方面の看護現場を見てきた筆者には,今,看護の世界はあるべき姿を模索してもがいているように見受けられます。
 現場レベルでは,対立や葛藤が渦巻いています。看護をより科学的な根拠や論拠で医学と同等にとらえようと,果敢に挑戦を続ける人たちがいます。理論を学んだものの,現場での実践に生かすことができずジレンマに陥っている人もたくさんいます。理論を学んだ人と学んでいない人の対立にも似た葛藤もあちらこちらで目にします。そして,残念ながら,忙しい,人が足りないと嘆き,ただ日常業務をこなすだけの人たちも少なからずいます。
 本書の執筆にあたり,こういった看護現場の葛藤を外から冷静に分析し,判断することで皆さんのお役に立ちたいと思いました。本書は前著とは趣を変え,どの階層の方にも読みやすいよう,エッセイ風に執筆しました。サービスそのものへの言及もありますが,多くは人材育成をテーマとして取り上げました。特に新人指導や,後輩・部下指導で困難を感じている方たちのために,なんらかの解決の糸口になれば幸いです。

■「私が変なのでしょうか」

 理想的な看護師さんだなと筆者が感じている人の口から,ため息交じりにこの言葉が出てくることはとても残念なことです。詳しく話を聞いてみると,規則違反を平気でする,協調性がない,患者に暴言を吐いたり,ため口(友達口調)で接するなどの問題があると思われる看護師が,我がもの顔で職場に君臨していたり,そんな看護師の意見が現場でまかり通っているというのです。
 皆のことを考え,自分の時間を削って後輩や患者のために一所懸命働く看護師さんが涙ながらに,この言葉を口にするときには,胸が詰まるとともに,激しい憤りを禁じえませんでした。
 まじめに懸命に働いている看護師さんに「私が変なのでしょうか」といわせてしまう病院や看護部は,その組織の風土がよくないのです。自己中心的な人が大きな顔をし,上司はリーダーとして機能していないため,このような職場では俗にいう「正直者がバカを見る」といわれる現象が起こります。また,コミュニケーションの風通しが大変悪くなるので,精神的な疲弊がメンバーに蔓延していきます。
 人間には,ずるい面や弱い部分があります。しかし,自分の欲求やわがままを押し通したいがために,助け合わなければならない職場でそのずるさや弱さを全面的に押し出す人を筆者は認めたくありません。また,それを容認している管理者や責任者にも,研修や話し合いを通じて責任を自覚していただきます。
 弱者である患者に対するサービスの根底には,職員同士の思いやりやいたわり合いが欠かせません。そういったものを忘れてしまっている組織や医療者があまりにも多いと感じています。
 本来,医療者は優しく思いやり深い人が多いことを筆者は知っています。外部環境が厳しい今の時代だからこそ,医療者の本来のよさや強さが生かされるよう,まじめに働く者が正当に評価されるよう,筆者はあえて厳しい姿勢で医療者や看護師に臨むことにしています。
 前著の第1章は「医療はサービス業である」で始まります。前述したように,「医療はサービス業である」という言葉にまだ違和感をもつ医療者が多かった時代に,筆者が考える看護サービスマネジメントの立脚点を明確にしておきたかったからです。そして,その第1章の冒頭で「外からみた医療」と題して,筆者は下記のような文章を書きました。これは筆者の看護マネジメントについての問題意識の表明でもあるのですが,看護マネジメントが置かれている状況自体は,残念ながら10年前とほとんど変わっていないことに,皆さんも気づかれることと思います。少し長くなりますが,引用させていただきます。

■看護師の頑張りが空回りしている

 看護の現場を見ていて「もったいないな」と感じることの1つが,「個人の頑張りが空回りしている」ことです。医療には,質の高い医療技術や専門知識とともに,ホスピタリティが欠かせません。ホスピタリティは,「親切にもてなすこと」のほかに「受容力」や「理解力」の意味がありますが,医療従事者の中でも,看護師には後者の意味でのホスピタリティが強く要求されます。患者は看護師に常に優しさや受容を求め,看護師もこれに応えようと努力します。美しい光景ではありますが,このホスピタリティが意外と曲者なのです。
 ホスピタリティは病院という組織全体が備えなければならない要件でもあります。ところが,病院ではこれを従業員一人ひとりが,就業時点ですでに備えているべき心構えとして期待します。看護師をはじめ,まじめな医療従事者たちも,その期待に応えようと日々努力しています。にもかかわらず病院には,まったくといってよいほど個人の努力を支援するためのハードもソフトも準備されていません。
 1人ひとりのサービスの質を高めることは重要ですが,個人でできるサービスには限界があります。だからいくら1人ひとりの看護師が努力しても,患者にとって満足のいく看護にならないといった問題が生じてきます。例えば,外来看護師がいたわりを込めて笑顔で応対し,心から「大変お待たせして申し訳ございません」といくら上手に謝ることができたとしても,いつも2時間も3時間も待たされるのであれば,患者の満足度は上がりません。
 一所懸命頑張ったわりには,患者にちっとも評価してもらえない,それどころか不平・不満をぶつけられるといった事態が起こることになります。このようなことを繰り返していると看護師の間には無力感や焦りが広がり,満足感ややりがいを仕事で感じることが少なくなってきます。
 少なくとも,病院という組織で医療を提供していく限り,組織としての理念に基づいた「組織的サービス」が提供されなくてはなりません。そうでなくては,患者は満足しません。ホスピタリティは,組織全体で提供していくものであり,重要な医療サービスの一環でもあります。病院はこの「組織的サービス」の観点が欠けていて,個人の頑張りや心構えに頼るあまり,最も重要な組織力を駆使したサービスに目を向けていないのです。
 看護師の側にも,個人の能力やサービス精神に期待しすぎる傾向があります。その結果,まじめで頑張る人が潰れてしまうという,いわゆるバーンアウト(燃え尽き症候群)が起こってしまうのです。人間のためにつくったはずの組織が,人間を押し潰してしまったのでは,組織で働く意味がありません。
 このような現状をつくりだした責任の大部分は,病院経営者にありますが,病院の特殊な組織運用の形態をみる限り,それぞれの部門の管理者の責任も大きいといえます。看護部も例外ではありません。

 本書は,日々の看護に閉塞感を感じていたり,組織に理不尽なものを感じていたり,何かしら壁に突き当たっている看護師や看護管理者にぜひ読んでいただきたいと思っています。
 前著の執筆時より,筆者自身の医療や看護現場への理解が進んだので,厳しく批判するというより,なんらかのアドバイスや改善・改革へのヒントになるような記述を心がけました。まだまだ現場の皆さんと一緒に改善を試みている途中の問題もありますが,本書が多少なりとも行き詰まりや問題に光を当てるものであればよいと念じております。

 2011年3月
 江藤 かをる


*人種や民族,宗教,性差別などの偏見が含まれていない公平な表現
*ホスピタリティ(hospitality)第1章 p.44参照

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第1章 患者満足(PS)と顧客満足(CS)
 患者満足(PS)と顧客満足(CS)
  patient(患者)からparticipant(参加者)へ
  本質をとらえていないPS
 経営感覚とPS
  サービスという商品
  医療はサービス業である
  プロのサービス
  顧客満足マネジメント
  企業から学ぶ
  情報提供も顧客サービス
 従業員満足(ES)もなおざりにしない
  やる気を引き出すには
  管理者は理解してもらえない
  先回りできる看護師に
  院内イベントで職場を活性化
 Evidence Based Design
  ハード,ソフト,ハート
  新築,建て替え,増築時がチャンス
  バリアフリーからユニバーサルデザインへ
  最後はスタッフの「ケア力」

第2章 サービスと組織
 サービスは組織的に提供する
  サービスの質向上は柔軟な組織風土から
  変化・変革を嫌う風土ができ上がっていませんか
  組織風土とサービス文化
 組織での管理者の位置づけ
  上司のフォロアーとして
  メンバーとして
  他部門,他職種にはメンバー代表として
  外部には組織の代表者として
  マネジャーとして,リーダーとして
 リーダーとしての管理者のスタイル
  目標は9・9タイプの管理者
  スタイルを決めるのは管理者の部下育成観
  基本的な考え方が変わらなければスタイルは変わらない
  目標統合に必要な管理者の能力
  9・9タイプの管理者の責任
  看護部門の業績とは
  管理者のとるべき行動
  結果主義よりプロセス主義で評価する
 「組織」を理解する
  人が組織をつくる理由
  組織とは何か
第3章 サービス人間を育てる
 「お手軽」に人は育たない
  接遇講演に何を求めるのですか
  コストのかからぬサービスはない
  時間対効果,費用対効果,労力対効果
 採用で8割が決まる
  アクティブ・リーダーとマベリック
  採用で失敗しないために
  本当に数は必要ですか
 新人の育て方
  甘やかされ世代の新人たち
  親への配慮ができる現場に
  なぜ,新人育成に失敗するのか
  壁を乗り越えるための導きを
  事前に壁を低くすることは可能です
 医療界における教育不足のツケ
  社会人として組織人としての教育不足
  意外に多い「オコチャマ」看護師
 価値観・立場の違いへの配慮
  子育て中のスタッフへの配慮
  「甘え」を持ち込むスタッフへの指導
  家庭をもつスタッフへの配慮
  忙しさを分析的にとらえる
  報告・連絡の欠如からクレームが起こっていませんか
  人材統括部門が必要
 サービス人間とは
  コンピタンス
  井の中の蛙にならない
  管理者は援助者に徹する

第4章 看護師としての適性を養う
 看護サービスの基礎の基礎
  衛生観念は大丈夫ですか?
  PS看護の元祖はナイチンゲール
 悪しき慣行
  医療事故にみる悪しき慣行
  食品会社の悪しき慣行
  看護部の悪しき慣行
 敬語はいらない?
  8割は方言,ため口派
  丁寧語も敬語
  時間・費用,根気が必要
  最上級の敬語を求めてはいけない
  トップの信念が文化を変える
 対人サービスにおけるトラブル
  患者はがまんの塊
  対処スキルを磨く
  暴力の加害者と被害者
  患者・利用者からの暴力対策
  快適な療養環境と患者・職員の安全の両立
  患者をクレーマーにしないための配慮
 病棟から外へ目を向ける
  自宅で出る患者の本音
  訪問看護では思いが形にできる
  心に残った訪問看護体験
 ユマニチュード

おわりに
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