医療者のための
伝わるプレゼンテーション

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学会発表、多職種カンファレンス、患者教育、さまざまなプレゼンテーションの場で、医療者の「伝える力」が求められている。プレゼンテーションを成功させるために重要なのは、実施前のデザイン。そのデザインから、発表後の評価までを5つのステップに分けて、「伝わるプレゼンテーション」のすべてを解説。 医学書院ADBOX
シリーズ JJNスペシャル
編集 齊藤 裕之 / 佐藤 健一
発行 2010年10月判型:AB頁:272
ISBN 978-4-260-01165-5
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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本書を読まれるみなさんへ

プレゼンテーションは「デザイン」が大事!

 今この文を読んでくれているみなさん、あなたはきっと「プレゼンテーション」に何らかの課題を感じているからこそ、本書を手に取られたのだと思います。

◎ 「伝えたいのに伝わらない!」あなたへ

 私たち医療者は、医業を本務としながら、ただでさえ忙しいその傍らで、一見それと関係なくも思える「プレゼンテーション」をする(しなければならない)機会にしばしば直面します。医療の進歩と改善のための研究発表もそうですし、専門家として講師に招かれることもあるでしょう。日々の臨床に目を移してみても、院内での症例検討や患者教室など、プレゼンテーションの力量を問われる場面が少なからずあります。私たちの本務には、「伝える」ということが本来的に含まれているのかもしれません。
 伝えるためには技術が必要です。本書は、「伝えたい!」気持ちはあるのに「うまく伝えられない……」という悩みを抱えているあなたのために、“伝える技術”をまとめています。プレゼンテーションは、実は双方向のコミュニケーションです。あなたの思いを誰かに伝え、そして、相手の思いを感じて、互いにつながるための礎にしていただけたらうれしく思います。

◎ 「プレゼンテーションが苦手!」なあなたへ

 初めての研究発表で当座の急をしのぐために本書を手に取ったという方もいるかもしれません。数回、研究発表はこなしたけれど、思うようにならず、できればもう二度とやりたくない! なんていう人もいるかもしれませんね。
 仕方なくプレゼンテーションすることになったものの、困り果て、手をこまねいている人、プレゼンテーションにどうしても苦手意識のある人には、本書を通じて、プレゼンテーションを創り上げていく「枠組み」をもっていただければと思います。この枠組みに則って準備をすれば、必ず形にすることができるでしょう。そうして経験を積んでいけば、きっと伝えることが楽しくなっていくはずです。

◎“ほろ苦い経験”

 とはいえ、プレゼンテーションを依頼されて、二つ返事で引き受けるという人はなかなかいないでしょう。
 せっかく苦労してプレゼンテーションを準備したのに、当日、聞き手の興味をひけなかったといった過去のマイナス経験の積み重ねや、伝えたいことをうまく伝えきれなかったフラストレーションが、あなたにそう感じさせているのかもしれません。しかし、そんなほろ苦い経験は“グッドプレゼンター”と呼ばれる人たちほど数多く経験しているもの。マイクロソフトの創業者である、ビル・ゲイツ氏にさえ、Windows98のプレス発表の際、スクリーンが誤作動するハプニングに見舞われたというエピソードがあります。

◎私も苦手でした

 そもそも人前で話すことが苦手だという人も少なくないでしょう。しかし、“グッドプレゼンター”も、人前で話すのがもともと得意だった人ばかりではありません。かく言う私も、研修医になりたてのころは、プレゼンテーションが大の苦手でした。先輩医師たちを目の前にした症例発表で毎回大汗をかき、何度となく失敗してしまった経験から、一念発起してプレゼンテーションの技術を学び始めたのです。
 その後も、思い出すだけで赤面してしまうような数々の“ほろ苦い経験”を繰り返してきました。依頼された地方講演の会場で「あなたの話は、何を伝えたいのかわからない」と聞き手に言われてしまったこともあります。患者とのコミュニケーションに関するセッションを依頼され、当日のロールプレイの進行中に、「どうしてこんなことをさせられるのか理解できない」と参加者からボイコットの申し出があったこともあります。

◎ “ほろ苦い経験”には原因がある

 プレゼンテーションがうまくいかないのには理由があります。当時はその原因がわかりませんでした。でも、今はわかっています。聞き手に伝わる形にメッセージが絞り込めていなかったり、内容が聞き手のニーズを満たしていなかったからです。
 そしてプレゼンテーションは、その内容ももちろん重要ですが、聞き手あってこそ成り立つものです。プレゼンターは、これから行うプレゼンテーションで何を伝えたいのか? と同じくらい、自分がその聞き手だったら、そのプレゼンテーションから何を得たいだろうか? をまず自分自身に問わなければなりません。

◎原因はプレゼンテーション当日“以前”にあった

 私たちはこの問いの答えを、プレゼンテーションを作成・実施する以前 に出さなければなりません。なぜなら、プレゼンテーションの成功は「デザイン」にかかっているからです。当日のプレゼンテーションを具体的にイメージしながら、聞き手が知りたいであろう内容を考え、自分が伝えたい内容を絞り込み、それに応じてまず、プレゼンテーションを設計する必要があります。さらにそれを実現するには、そのための“プロセス”が必要です。
 そこで本書は、プレゼンテーションの準備(STEP1~3)、プレゼンテーションの本番(STEP4)、そして次につなげるフィードバック(STEP5)というプロセスを、5つのステップに分けて解説しています(準備のステップ数の多さからも、“本番以前”が重要であることがわかっていただけると思います)。くわしくは「本書の使い方」をご参照ください。プレゼンテーションを創り上げていく一連の流れを、どのように組み立てていくのか、楽しみながら読んでいただけたらと思います。

◎トラブル対処もデザインしておく

「プレゼンテーションはライブだ!」と言うことがありますが、どんなに準備をしていても当日はいろいろなトラブルが待ち構えています。むしろすべてを円滑に進められることのほうが少ないかもしれません! きっとプレゼンテーションとはそういうものなのでしょう。
 でも大丈夫、それも“想定内”です。今や私は、当日どのようなトラブルに遭遇しても慌てません。もし万一慌てていても、高まった自分の心拍数を正常に戻すにはどのような対処方法をとればよいか、それを乗り越える術を知っているからです。デザインの段階でトラブルの可能性をもシナリオに書いておくことで、気持ちに余裕をもって臨機応変に対処することができるでしょう。

◎プレゼンテーションは幸せだ

 筆者が全国各地でプレゼンテーションのセッションを開催するようになって、はやくも5年が経ちます(この盛況ぶりからも、医療職がいかにプレゼンテーションに苦戦し、また、関心をもっているのかがわかります。現在も継続中ですので、ご興味をお持ちの方はぜひご連絡ください)。新しいもの好きな私は、同じ内容のセッションを繰り返し行うと、いつもすぐに退屈な感情に支配されてしまうのですが、プレゼンテーションに関しては、いまだその魅力に取りつかれているのが不思議です。
 プレゼンテーションは私たちを退屈させず、むしろ心地よい緊張感で包んでくれます。何より、自分の伝えたかったことが聞き手に伝わったとき、そして、相手がそれに満足を感じてくれたときの喜びは何物にも変えられません。その喜びをみなさんにも感じていただけるよう、プレゼンテーションを成功に導く「方法」をお伝えできればと思います。
 では、プレゼンテーションを始めましょう!

 齊藤裕之

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  本書を読まれるみなさんへ
  本書の使い方
  本書の“プレゼンター”

今、なぜプレゼンテーションなのか?
 医療者に“プレゼンテーション能力”が問われる理由
 看護師も例外ではありません!
 「看護師はプレゼンテーションが苦手」???
 依頼されたら引き受けてみよう!
 プレゼンテーションが生み出す「価値」とは?
 プレゼンテーションを作り上げる“枠組み”
 この本で最も伝えたいこと

STEP 1 Pre-Design
プレゼンテーションの目的を明確にする
 “どのような”目的を設定するか
 目的の設定方法(1) 「あなた(プレゼンター)の立場」は?
 目的の設定方法(2) 「聞き手のニーズ」を知る方法
 目的の設定方法(3) 「目的」と「聞き手のニーズ」を“赤い糸”で結ぶ

STEP 2 Design
プレゼンテーションの設計図を描く
 プレゼンテーションの3部構成
 目次(小目標)を立てる
 構成の各パートをデザインする(1) Opening/Intro-聞き手の心に火をつける
 構成の各パートをデザインする(2) Body-説得力をもたせる
 構成の各パートをデザインする(3) Conclusion-聞き手を尊重している証

STEP 3 Building Content
プレゼンテーションを作成する
 伝えるために作る
 効果的な「スライド」の作り方(1) スライド全体の基本スタイルを統一しよう
 効果的な「スライド」の作り方(2) 読みやすい文字
 効果的な「スライド」の作り方(3) 理解を助ける図とグラフ
 効果的な「スライド」の作り方(4) 写真の効果的な使い方
 効果的な「スライド」の作り方(5) アニメーションを活用する
 効果的な「スライド」の作り方(6) これからは動画の時代だ
 効果的な「スライド」の作り方(7) スライドの最終仕上げ(校正)
 魅力的なポスターの作り方(1) ポスターならではの配慮をしよう
 魅力的なポスターの作り方(2) ポスター作成の手順・原則・創意工夫
 「ハンドアウト」をつくってみよう
 板書の技術
 Coffee Break! 誌上プレゼンテーションコンテスト

STEP 4 Delivery
いよいよ本番!
 プレゼンテーション直前の準備Point(1) 命運を握るリハーサル
 プレゼンテーション直前の準備Point(2) 本番が楽になる読み原稿を作る
 プレゼンテーション直前の準備Point(3) 当日、会場でできるこれだけの環境整備
 プレゼンテーションの実施Point(1) マナーを守って好感度アップ
 プレゼンテーションの実施Point(2) 4つの言語テクニック
 プレゼンテーションの実施Point(3) 3つの非言語テクニック
 もうこわくない質疑応答

STEP 5 Feedback
次なるプレゼンテーションに向けて
 フィードバックで“もっと”よくなる
 フィードバック用紙を活用しよう

おわりに
 理論はわかった! でもすぐできないのはなぜ?
 この本で最も伝えたかったこと

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授業や演習で学生に伝わるプレゼンテーションを実践しよう (雑誌『看護教育』より)
書評者: 朝倉 真弓 (横浜市病院協会看護専門学校)
 現在医療者は,さまざまな場面でプレゼンテーション能力が問われている。それは,入院患者のオリエンテーション,同僚・他職種への情報伝達や申し送り,他職種でのカンファレンスや症例検討などの“臨床現場”でプレゼンテーションする場面であったり,学会・研究会での研究発表,院内外での講演・勉強会での講師,看護学生への授業などの“臨床現場以外”でプレゼンテーションする場面などであったりとさまざまである。本書では,どのような場面においても,医療者のプレゼンテーションにおける価値とは,聞き手に最も伝えたかったことを伝えきれたかということであり,特に“臨床現場”でのプレゼンテーションは,患者をはじめとする「人」と接するため,「伝える力」が毎日必要だと書かれている。しかし,医療者のなかには聴くことはできても,伝えることに苦手意識を持っていることが少なくない。そのため,多くの医療者がプレゼンテーション能力を高めたいと考えているに違いない。特に,看護教員は,授業や演習自体がプレゼンテーションであり,学生に伝わるプレゼンテーションは重要である。

 本書では,「伝わるプレゼンテーションをするためには,ポイントを最小限に絞る」というメッセージを原則とし,5つのステップアプローチを確実に踏むことで,短時間で効率よくプレゼンテーションを学ぶことができる。まず,ステップ1:Pre-Designでは,プレゼンターの立場をふまえながら,聞き手のニーズを意識して伝えたい内容を最小限に絞った目的を設定できるように具体的に書かれている。そして,ステップ1のプレゼンテーションの目的を軸としてステップ2:Design(プレゼンテーションの設計図)を描くことで伝えたいことが一貫する。具体的にプレゼンテーションを作成するステップ3:Building Contentでは,さまざまなコンピュータに関するプレゼンテーション機能や伝わるための工夫がどのような場面でも実現可能となるように説明されている。そして,ステップ4:Delivery(本番)では,会場での口演発表やポスター発表,看護学生への授業などを声の大きさ,立ち位置,聞き手の友好度や関心度を踏まえて書かれていることから,その場のプレゼンターになったかのように読み続けることができる。最後に,ステップ5:Feedbackで次のプレゼンテーションに向けてポジティブに振り返ることができる。

 終始,よくある場面が設定されているため,実現可能で現実的なプレゼンテーションを学ぶことができる。また,筆者らが工夫を重ねて行っている方法が具体的に書かれているため理解しやすく,読み終わる頃にはプレゼンテーションへの苦手意識が薄れ,教員としては授業や演習でぜひ試してみたい一冊である。

(『看護教育』2011年3月号掲載)
伝える力は,信頼の礎 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 大西 晶子 (京都第二赤十字病院看護部)
◆職場の日常にあふれる「プレゼンテーション」

 「プレゼンテーション」というと大そうな言葉にみえますが,意外と日頃から行なっていることなのです。研究発表や学習会はもとより,患者教育,患者オリエンテーション,医師への報告・指示受け,先輩への報告もみんなプレゼンテーションです。そう思えば,少し身近なもののように思えてきませんか? というより,私たちの現場はプレゼンテーションの機会にあふれ,それなしでは仕事をしていけないと言っていいほどです。

 看護師を対象にしたある調査で,仕事で自分の考えを説明することに苦手意識をもっている人は実に7割以上おり,「非常に苦手」な人は「話がわかりにくいと言われることがある」との結果が出ています。新人看護師が,医師に報告を行なったところ,全く要領を得ず,適切な指示が出なかったり,医師が怒り出したりする場面などに遭遇したことはありませんか。これが,“達人”が報告すると,的を射た短い報告で納得のいく指示が受けられ,さらに医師との信頼関係も築くことができるようになります。いったい何が違うのでしょうか?

◆看護師としての能力を向上させよう

 それは,「伝える力」なのです。

 では,その「伝える力」は何で変わるのでしょうか? 新人看護師が「今のバイタルは……で,尿量が今回少なかったのですが,痛みを訴えられて,手術の前に“痛みが一番怖い”とおっしゃっていたのを思い出し,鎮痛剤の指示を○時に行なって,痛みはまだあるのですが,眠っていることも……家族の方が……でも呼吸が苦しそうで……」などと,物語調に報告しているのをよく聞きます。しかし,「鎮痛剤の追加」の指示がほしいのか,「呼吸困難」の指示なのか,「心不全」が疑われるのか,「脱水」なのか,「何を伝えたいのか」が分かりません。ここでは,伝える目的と方向性を定める必要があります。

 講義や研修会であれば,そのテーマが目的にあたります。テーマをもったら最後までそのテーマにこだわり,それを達成できたかどうかにこだわる。そうすることで,目的に到達する方法を考えやすく,散漫な印象に留まらず,確かな手応えも感じられます。講義や研修会では特に明確なテーマをもつことが重要です。

 本書では,現場以外(研究発表・講演・勉強会など)のプレゼンテーションについて書かれていますが,目的とすることに,目標をもって「伝えること」を軸に解説されています。「伝える」ためのゴールの決め方,コンテント(内容)やプロセス(進め方)のノウハウ・具体例,シミュレーションまで一貫して「伝える」ことにこだわっています。

 「伝える力」を磨くことは,看護師としての能力を磨くことでもあります。人前で話さなくてはならなくなった方,自分の講演をレベルアップさせたいと思っている方におススメの本です。

(『看護管理』2011年2月号掲載)

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