看護師専用 お悩み外来

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「死にたい」と言う患者。クレームばかりの家族。聞く耳持たぬ医師。医療批判はたけなわ。嗚呼、できるナースになりたい! 尽きぬ“看護師ならではの悩み”。しかも、その悩みは簡単には答えを出せません。それでも、悩まずにいられないのがこの仕事。いったいその先には何があるのか? 実に悩みがいのあるお悩みばかりです。あなたも「お悩み外来」の扉を開けてみてください。
宮子 あずさ
発行 2008年07月判型:四六頁:164
ISBN 978-4-260-00652-1
定価 1,760円 (本体1,600円+税)

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  • 序文
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まえがき
「お悩み」は自分を知る窓

 この本は、『看護学雑誌』二〇〇六年一月号から二〇〇七年十二月号まで、二年にわたった連載を整理したものです。連載時のタイトルは「宮子あずさのお悩み外来──悩めることも才能だ!」。開始前に、あらかじめ編集部に寄せていただいたお悩みのなかから、私が答えたいと思ったお悩みを選び、毎号回答していきました。
 文脈は違っても類似するお悩みについてはまとめ、お悩みの文章を編集したものもあります。もしお悩みを寄せてくださった方が、「似て非なるお悩みになっている」とお感じになったなら、それはそうしたいきさつで加工したからだと思います。その結果、もし意を汲まない形になっていたら、申し訳ありません。今回一冊にまとまったところで全体を眺めていただき、何か参考になることがあればと祈っています。
 お悩みの当事者には申し訳ない話かもしれませんが、この原稿を書くのは、私にとって、とても楽しい時間でした。私自身の悩みまでが、整理される感覚があったから。二年間の連載を終えて、今回全部を読み返したときに、その理由がわかりました。私が選んだお悩みは、すべて私自身も一度は悩んだお悩みだったんですね。そしてその悩みは、いったん解決したと思っても、また時と場所を変えて蘇ってくる。その悩みへの回答を文章化する作業は、私にとっても貴重な作業だったのです。
 私の回答が最善かどうかはわかりません。受け入れていただくもよし、異を唱えるもよし。どれも看護師ならではの、悩みがいのあるお悩みがそろっています。看護師のお悩みの難しいところは、同業者同士でないとなぜそれを悩むか理解されがたいところでしょう。ほかのサービス業であれば、「そんなのは当たり前じゃん」と割り切ってしまうだろうことに、看護師はけっこういじいじ悩みます。たとえば、患者さんを心から好きになれない、みたいなことですよ。これに対して元スチュワーデスのおねえさんから「口の端っこが持ち上がるように、ニコッと笑いましょう」などとアドバイスをされても、「けっ!」と思いませんか?
 つまり、お悩みの本質は、それがお悩みになる思考や感情のありようにこそ、存在しているのです。お悩みは自分を知る窓だと思います。そこがわかったところで、解決策が見いだせる場合もあれば、見いだせない場合もある。でも多くの場合、解決策がなくとも、お悩みの本質がわかっただけで、安心できるのではないでしょうか。
 この本を眺めて、悩むことの価値を再発見していただければ幸いです。

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まえがき

お悩み 1 ナースは「遊び人」? それとも「白衣の天使」?
お悩み 2 「ルルドの水」を飲んでる患者さんを黙認していいの?
お悩み 3 「患者様」に違和感があるのはなぜ?
お悩み 4 患者さんの「死にたい」をどう受け止める?
お悩み 5 モルヒネを拒否する末期がん患者さんへの対応は?
お悩み 6 「食べて死ぬなら本望」な糖尿病患者さんへの看護とは?

お悩み 7 患者になった同僚医師を「~先生」と呼び続けてもいい?
お悩み 8 最近の医療批判報道、一方的すぎやしませんか!?
お悩み 9 死を受け入れられないご家族への対応は?
お悩み 10 心に「闇」を抱える私が、ナースであってもいいですか?
お悩み 11 医師に物言わぬ患者さん。思いを代弁したいのですが……
お悩み 12 聞く耳もたぬ医師、裁量権のないワタシ。

お悩み 13 「受容と共感」って、ホントにホントに可能なんでしょうか?
お悩み 14 どうすれば「できるナース」になれますか?
お悩み 15 補助的業務や事務ばかり。外来に「看護」はあるのか!?
お悩み 16 患者さんからセクハラ、告白、どうしよう……
お悩み 17 生理的に受けつけない。かかわりたくない患者さん
お悩み 18 VIP室の患者さんへの“サービス”どこまで?

お悩み 19 ほめようがない後輩、どうほめたらいいのでしょうか?
お悩み 20 定時にあがりたい!のに、あがれない。
お悩み 21 キレる医師に、もうキレそうです……
お悩み 22 障害児の治療を拒否する親御さんの選択に反対です。
お悩み 23 治らない患者さんに「大丈夫」と言ってもいいの?
お悩み 24 “どうでもいいナースコール”にやさしくなれません。

あとがき

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悩むのは自分である。
書評者: 名郷 直樹 (東京北社会保険病院臨床研修センター長)
 いきなり表紙に「看護師専用」とある。これは看護師以外こそ読め,という意味だと理解して,読むことにする。

 すると,前書きからして,びっくりである。部分だけを取り出すので,誤解があるかもしれないが,あえてそうしてみる。

 「看護師はけっこういじいじ悩みます。例えば患者さんを心から好きになれない,みたいなことですよ。これに対して元スチュワーデスのおねえさんから『口の端っこが持ち上がるように,ニコッと笑いましょう』などとアドバイスをされても,『けっ!』と思いませんか?」

 これはこの先を読むしかない。すると,以下のような記述に出くわす。

 「患者さんの言うことがいつも正しいとは絶対にかぎらないのです」

 そうすると,もうあとは私の琴線に触れる言葉のオンパレードだ。

 「『思考停止の技術』とも言うべき操作が,命ぎりぎりの現場で働く私たちには,どうしても必要になってくるのです」

 「患者さんとのかかわりは,時にそれが終わったあとも続くということ」

 「酒飲みのQOLは,しょせん酒が飲めてこそなのだ」

 「看護には『する』看護もあれば,『あえて,しない』看護もあると思います」

 「反省はあっても後悔はなし」

 「闇もあなたの一部」

 「医師としてダメなのではなく,人間としてダメなのだ!」

 「母の言う『わかってもらおうは乞食の心なのよ!』という言葉を,実践して生きている」

 「人間はいつか死ぬ。でも,だから医療はいらんという話にはならないでしょう?」

 「その人の嫌なところを事細かに話すのではなく,あなた自身の感情について話すのです」

 「私たちの仕事は患者やその家族の選択について,善し悪しを云々するのは範囲外なのです。仲間内で嘆いてもいいし,議論は大いにしたほうがいいと思います。けれどもその選択に対しては直接何もいえない。これが私たちの定めなのです」

 どうです。もはや書評として私が追加することはないと思う。

 ただ本書のお悩みは,著者が前書きで述べているように,「私が答えたいと思ったお悩み」ということらしい。そうなると,私自身が一番知りたいのは,著者の選から漏れたお悩みに,どんなものがあったのだろうか,というところである。外来診療の中で,自分自身の答えたいと思った問題についてのみ答えている自分に対して,ちょっと後ろめたさがあるからだ。この私の悩みに対して,本書はどのように答えてくれるのだろうか。と書いて,はたと思い当たる。なんだ,私もお悩み外来の患者の1人なのだ。悩むのは自分である。他人の悩みを云々することはできない。しかし,自分の悩みを云々することはできる。それについては大いに議論したほうがいい。そんなとき,その人の嫌なところを事細かに話すのではなく,あなた自身の感情について話す。ぜひ見習いたいものだ。
スタッフナースの悩みの相談にとまどう管理者のために (雑誌『看護管理』より)
書評者: 中根 薫 (近畿中央病院副看護部長)
◆スタッフナースの悩みに耳を傾けていますか

 看護管理者の立場にある人なら誰でも日々,いろいろな人から悩みを相談される機会は多いだろう。先日もあるスタッフナースから今の病棟でやりがいを見出せないと相談され,自分のアドバイスはどうだったのかなと考えているときに手にしたのが本書だった。

 本書は『看護学雑誌』に2年間連載された内容をまとめ直したものであり,24の異なる悩みを紹介し,それに対して著者がコメントするという形式になっている。24の悩みは,例えば「患者さんの死にたいをどう受け止める?」「患者さんからセクハラ」「聞く耳もたぬ医師やキレる医師」など,ナースなら一度は経験したことのある話ばかりであり,クスッと笑いながら一気に読んでしまった。

 一方で「心に闇を抱える私が,ナースであってもいいですか?」「どうでもいいナースコールにやさしくなれません」など,ナースとは本当にまじめな人種だと再認識する話も多い。そうした私たちが抱え込みがちな「ナースとはこうあらねばならぬ」「こうするはずだ」という呪縛を著者は実に客観的に整理し,解きほぐしてくれる。しかし,突き放され理解されないという感じもせず,かつ理想論でも終わっていないのは,著者自身も同じようなことで悩み,1つひとつの悩みについて20年を超える経験を語りながら進んでいるからであろう。

 先に述べたスタッフナースの悩みでは,職場にその悩みを話せる人がいないという。その人に限らず,休職や離職につながるケースでは,そのプロセスで悩みを相談する人がいなかったり,誰に話すこともなく,いきなり心療内科にかかるというパターンが増えているように思う。そしてぐだぐだ悩む間もなく,結論を出すのが早くなっているように感じられる。新人研修では新人同士で悩みを話し合う交流会の場を設定する病院が増えているが,これも職場で悩みを話せない人が増えていることの表われだろう。

◆自分の経験をいかに織り交ぜアドバイスするか

 本書を読み,職場の上司や先輩,同期仲間が著者のように自分の経験,なかでも自分の失敗や反省を素直に語りながら,悩みを聞き一緒に悩むことが必要だと感じた。自分の経験を語ってアドバイスをすることは,相手にたいへん大きなエネルギーを注ぎ込むものである。

 本書は同じようなことで悩んでいるナースの頭を整理してくれるだけでなく,悩みを相談された上司や先輩,あるいは予想もできないほど純粋な質問を実習生から投げかけられ,とまどう実習指導者にとっても自分の経験を織り交ぜながら悩みにどう対応していくかという点でたいへん役に立つ一冊である。

(『看護管理』2008年11月号掲載)
著者とともに悩み,迷い,そして楽になれる本 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 和田 恵美子 (大阪府立大学看護学部講師)
 私は,学生時代に弁論大会の壇上で,本書の著者から講評を受けたことがある。現役ナースでありながら,著者はすでに広く執筆活動をされており,学生の拙い思いにも真摯に耳を傾けてくれたことを覚えている。

 Q&A形式で書かれたナースの『お悩み』は,そこにある問題の根幹を見つめ,丁寧に読み解かれる。「ほめようがない後輩をどうほめたらいいのか?」には,従来の「厳しくて当然」だった看護教育に触れ,「『指導』『教育』の名のもとに,力のある者が,弱い立場にある人をいたずらにおとしめたり,好みに合わない人を排斥したりする。こうした事態は,どこでも起こりうる」と答える。先の弁論大会で私が投げかけた訴え「なぜ学生は実習であんなに厳しくされるのか」の時と,著者は変わらない答えをくれた。

 読後,本書に抱く楽さは何か,と考えた。イラストにあるように,カウンセリングルームのドアを開けた読み手は,こじれた問題を解かれる感じがするからだろうか。これまで,「まんじゅうを食べ続ける糖尿病の患者さんのQOLと看護師の抱くやるせなさ」について,どの書が教えてくれただろう。くよくよする自分を,悩み続けてよいのだと誰が励ましてくれただろう。著者は,決して『お悩み』を否定しない,言い切ることもしない。「わからないから一緒に考え続けよう」と言う。「患者への受容と共感」という改めて言うには気恥ずかしい『お悩み』についても,「私にとっても,かなり本質に触れる問題」と返される。障害児の治療を拒否する親に対しては,著者も「重い悩みで取り上げるかどうか」迷う。また,四肢麻痺で死を希望する患者さんや,モルヒネを拒否する終末期の患者さんのケアに明快な答えはない。しかし,読んでいて違和感がないのは,著者自身が紛れもない当事者であり,今も悩み続けるナースとして存在しているからだろう。

 登場する『お悩み』は,個人のレベルから医療全体にまつわる大局を往き来する。頻回に鳴るナースコールに対応する苦しさから,暴力,医療格差,フェミニズム,医療倫理にまでわたる謎説きは,看護ケアが広く社会化される感じがした。問題の深層には,ナース自身の「自己評価の低さ」があるとしながらも,その「子どもっぽく」かつ「難儀」な仕事を好きだと述べる。著者は厳しく,温かい。

 著者は,対面したナースに語りかけるように質問に答える。現在,教育現場に身を置く私は,看護の根源に触れているような印象をもちながら読んだ。一方,ナースの私個人としては,自ら迷い考えるこんな師長のもとで働くことができたら,あと3年は現場にいられたかもしれない,そう思い,今のナースをうらやましく思った。

(『看護教育』2008年10月号掲載)

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