高橋優三(モデル&シミュレーション医学教育研究会長/岐阜大学大学院教授)
「モデル&シミュレーション医学教育研究会」は,モデル(シミュレーター)を用いたシミュレーション関連分野を研究開発し,成果を切磋琢磨し,教育の現場で共用する形にすることを目的としている。本年8月26日に岐阜大学医学部にて発足総会が開かれた。会員は約50名,医学,歯学,看護,薬学,企業など幅広い分野にわたっている。第1回の研究発表会は当日と翌日,2日間にわたり行われた。研究会の顧問の神津忠彦氏による記念講演「シミュレーション医学教育の役割とありかた」があり,引き続き10題の発表演題に十分な時間をかけ,深い議論を尽くした。今後,会報の発行,年に2回ほどの研究発表会の開催を予定している。
このシミュレーション医学は医療系の学部教育のみならず,研修医や看護師の初期教育,チーム医療の円滑化の訓練など多岐にわたって応用が可能で,波及効果が大きい。報告にあたり,なぜ今シミュレーション医学教育なのか,その背景も含めて考えたい。
実は今この瞬間にもシミュレーション関連の技術は,急激に進歩しつつある。そのため乖離は,狭まりつつあるかのように見えるが,人間の夢の膨張にも限界はなく,乖離は永久に解消しそうにない。もし乖離を埋める手段があるとすれば,それは教育ソフトである。教育ソフトこそ,現在のシミュレーション技術を,現在の教育に使える形にする。
現代医療はきわめて高度化しており,ただ単なる医療技術者が医師の職をまっとうできるほど簡単ではない。「科学者が医師をする」というスタンスが必要である。すなわち,科学者としての基本能力(観察力,分析力,判断力,統合力)を持った人材が,一定水準以上の医療技術を会得し,医師として患者の治療をすべき,の考えである。
医師という職業は人格円満,思考も常識の範囲内であるべきだが,もう一方の科学者には,常識に囚われない破天荒な考えが必要であり,しばしば日常生活もそのようになりがちである。この両立しがたい特徴を兼ね備えた人材を育成するのは,容易ではない。
病院にあっては,個別の技能の他に,ヒヤリハット対策,安心安全医療など日常業務の熟練者の育成が必要である。また円滑なチーム医療に向けて,医師や看護師,薬剤師,理学療法士など,異職種間でのコミュニケーションができる社会性も要求される。
講義は有効であるが,講義だけでは前出の要求に応えられない。実習も有効であるが,臨床実習は,「失敗したら患者は死ぬぞ」式のプレッシャーがかかり,成功体験のみをめざす。基礎医学の実習は,カリキュラムが過密で,教員の後追い体験的な実習内容を量的にこなしがちである。
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高橋優三氏
1974年奈良医大卒。大手前病院(内科),奈良医大(解剖学),カリフォルニア大,ジョンズホプキンス大,ウイスコンシン医大を経て,92年より岐阜大教授。専門は寄生虫学,細胞生物学,医学教育。2001-05年まで全国共同利用施設医学教育開発研究センター長。 |