「多くの医師が考えているよりも,はるかに多くの亜鉛欠乏症患者が存在する」――倉澤隆平氏(長野県東御市立みまき温泉診療所顧問)は2002年秋にそのことに気づき,患者の治療と実態調査に取り組んできた。亜鉛欠乏の症状は味覚障害をはじめ,褥瘡の発症・治癒遅延,食欲不振・拒食,舌痛・口腔咽頭症状,皮膚症状,貧血,慢性下痢など多様であり,その多くは亜鉛補充療法で比較的容易に改善・治癒するという。
本紙では,さる9月17日,東京プリンスホテルパークタワー(東京都港区)で行われた第2回(通算20回)日本臨床内科医学会ランチョンセミナー「亜鉛欠乏症について――亜鉛欠乏症の臨床および住民の血清亜鉛濃度の実態」(座長=東京内科医会理事・石綿宏敏氏,共催:ゼリア新薬工業株式会社)の模様を報告する。
倉澤氏が最初に亜鉛欠乏を疑ったのは,精神発達遅滞の73歳の男性患者。食欲不振から経鼻経管栄養となり,さらに拒食となって,胃瘻を造設されていた。全介助状態で,意思疎通はほとんど不可能,食事の介助にも頑として口を開かず,難治の仙骨部褥瘡があり,体位変換をはじめ種々の軟膏療法でも変化がなかった。
倉澤氏は拒食の原因に味覚障害を疑い,血清亜鉛濃度を測定。SRLの基準値65-110μg/dlに対して42μg/dlであり,明らかに亜鉛欠乏による味覚障害と考え,ポラプレジンクによる亜鉛補充療法を開始した。ほどなく難治の褥瘡が治癒し,食事も進むようになり胃瘻を抜去,元気に会話も可能となった。
一般に味覚障害がこれほど短期に治癒することは少なく,原因は味覚障害ではなく,食欲不振が原因の拒食で,食欲不振,褥瘡,精神状態が亜鉛欠乏と関係していることを示す衝撃的な症例であったと倉澤氏は述懐した。
亜鉛の不足傾向を証明するのに,午後採血群を除いた午前採血群(小中学生347名,全成人518名)で比較したところ,成人は基準値の低値に分布する傾向があり,超高齢群はより低値に分布する傾向があった(図1)。調査した村民の成人の約20%が基準値の最低値65μg/dlを下回っており,臨床の亜鉛欠乏症患者の発見と合致した。
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| 図1 北御牧村民の血清亜鉛濃度分布図(2003)
対象は1431名中午前採血群の865名。 |
食欲不振
食欲不振は,亜鉛補充療法により数日から1週間程度で回復し,著効例では翌日回復するなど,かなり劇的である。一方,味覚障害の改善には数週から1か月程度のこともあるが,難治の傾向があり,なかには治癒不可能なこともある。
そこで,食欲不振と味覚障害は,発症機序が異なると倉澤氏は考えている。内視鏡の発達で,食欲不振ですぐに胃瘻を造設する傾向にあるが,その前に,ぜひ亜鉛欠乏による食欲不振を思い浮かべてほしいと強調した。
褥瘡
倉澤氏はほとんどの褥瘡は亜鉛欠乏が原因と考えている。早期の褥瘡は,亜鉛補充療法で1-数週間で治癒するが,重症の褥瘡の治癒には3か月前後の月日を要するという。
褥瘡は,これまで局所的な循環障害が重視され,体位変換,局所療法に重点が置かれてきた。倉澤氏は,局所の要因はもちろん否定できないが,亜鉛欠乏が主な原因であり,その改善で多くの褥瘡は治癒するとした。一方,亜鉛欠乏が主因でない褥瘡の条件の追究については,今後の課題と述べた。
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| 図2 東御市民の血清亜鉛濃度分布図(2005)
対象は1773名中旧東部町地区の午前採血群の819名。 |
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| 図3 通院患者(長野県7国保診療所)の血清亜鉛濃度分布図(2005-2006)
対象は午前採血群の851名。 |
倉澤氏は3つの調査をもとに,「長野県民は亜鉛不足の傾向にある」とし,さらに調査を拡大すれば,日本国民全体も同様の傾向にあることが証明されるのではないかと述べた。
また,亜鉛とカルノシンの関係,火山の影響についての質問もあった。
最後に座長の石綿氏が「非常に多彩,広範囲でわからないことが多いと思うが,他の施設でも追試して,ぜひこの学会で発表していただきたい」と述べ,セミナーを閉じた。