医学界新聞

 

【座談会】

手術看護の専門性を考える
長期的視野でのマンパワー不足解消をめざして
<司会> 久保田由美子氏(東京女子医科大学看護部副部長)
門間典子氏(東北大学病院手術部師長)
中村良子氏(山田赤十字病院手術看護認定看護師)


 医療事故・訴訟などに関する報道が過熱する中,周手術期の患者の安全を守る看護師の役割がクローズアップされる一方,医療費抑制の中で,深刻な人員不足の状況も出始めている。そんな中,患者安全をはじめとした手術看護の専門性を確立すべく設立された手術看護分野での認定看護師一期生が現場での活動を始めている。本紙では,日本手術看護学会理事長・第20回大会長である久保田由美子氏の司会のもと,あるべき手術看護の将来像を語っていただいた。


■手術看護を取り巻く状況

久保田 手術時の患者安全確保については,患者確認や機器の管理など,多くの場面で看護が重要な役割を担っています。一方,昨今の医療費抑制傾向の中で,手術部の人員削減の動きが見られる施設も少なくありません。

 患者の安全を守り,支えていくために,これからの手術看護に求められることは何か。今日は手術室師長である門間さんと,手術看護分野認定看護師一期生である中村さんのお話を伺いたいと思います。

深刻なマンパワー不足の背景

門間 手術室の師長として,いちばん問題に感じるのは,やはりマンパワーの問題です。例えば当院では,旧国立大学から独立法人化された2年前まで,手術室の看護師の配置数が決まっておらず,夜間ではしばしば医師が器械出しを行っていました。

 「医師が器械出しをやる」というと驚かれる人も多いのですが,研修医や若い医師が多い国立病院では,かなり多くの施設で行われているようです。全国国立大学病院手術部会議の統計資料では,医師による器械出しが行われたことがないという病院はほとんどありませんでした。

 手術看護は,器械出しと外回りというペアではじめて1つの仕事ができると私は考えています。例えばガーゼ等の医療用具のカウントは,患者さんの身体の中に異物を残さないためにも重要な安全管理業務ですが,これを完璧にこなすためには器械出しと外回りの看護師がチームとして,密に連携を取っていくことが必要です。

 医師は医師本来の業務に集中してもらったほうが効率的だということ,器械出し・外回りを,手術室の看護師がチームを組んで行ったほうが望ましいということをきちんとデータとして出し,病院長を説得した結果,手術室の看護師を増員することができ,この春から医師による器械出しをなくすことができました。

中村 認定看護師取得の際,他施設の手術看護の現況を聞いて,施設による状況の違いに驚きましたが,その中でも「医師による器械出し」という問題も話題になりました。当院ではまったく考えられないのですが,初めてそういった病院があるということを耳にして,改めて看護師が器械出しを担うことの意義を考えさせられました。

 手術中の患者さんの安全確保において,看護師が果たす役割は本当に大きいと思います。医療費抑制の流れの中,あちこちの病院で手術室の人員削減が検討されていると思いますが,それに対してしっかりと手術看護の専門性を主張し,適正な人員配置を考えていく必要がありますね。

数合わせではなく,適正配置を

門間 手術看護はチームで行いますから,どうしても数の力が必要です。いくら優秀な人でも1人で器械出しと外回りの両方はできませんからね。ただ,一方で数がそろえばいい,というものでもない。極端な例ですが,現状だと「病棟で不適応だったから手術室へ」という異動がないわけではなく,問題だと感じています。

中村 医師が必ずおり,チームだから1人で判断することが少ないという印象から,病棟でひとり立ちできない方の異動先,という傾向はありますよね。

久保田 手術室の看護師適正配置という問題については,病院規模などさまざまな要素が絡んできますが,大きな問題の1つに,手術というものがそもそも事前に件数を予測することが難しく,したがって適正な人員数を割り出すことが難しいということがあります。

 学会としても,個人の力量を加味した適切な人員算定の基準を作っていかなければならないと考え,いくつかの施設に調査を依頼しているところです。こうした取り組みは今後,学会として大きな柱になるでしょう。

■手術看護の専門性とは

「器械出し」で手術が変わる

久保田 「個人の力量を加味した適切な人員算定」ということを申しましたが,実際には,看護師同士でも他科の専門性がどのようなものかということを正確には認識できていませんよね。キャリアラダーも含め,皆さんの考える手術室看護の専門性について教えてください。

中村 当院では,器械出しを一通り覚えてから外回りということになっています。新人のうちは器械出しといっても器械の名前を覚えるので精一杯で,なかなか術式の流れをつかむところまでいきません。しかし,経験を積むにしたがって,患者さんの容態を含めた状況の変化に即座に対応できるようになります。器械出しの担当者が変わるだけで手術が変わる,ということを実感しています。

 器械出しは,施設や担当医が変わっても通用する,手術看護の独立したスキルだと思います。もちろん慣れた担当医との阿吽の呼吸も重要ですが,外科医が施設を移っても手術ができるのと同じように,熟練した看護師の器械出しスキルも普遍的に通用するものだと考えています。実際,認定を取る際の実習で器械出しをやらせてもらったのですが,実習先の外科医や看護師からも一定の評価をいただくことができました。

久保田 器械出しの一般的なキャリアラダーとしては,まず基本的な手術の中で器具・器材を覚えること,そして,一連の術式に合わせて,医師から指示のあった器材を出せるということが,1年目のゴールといえるでしょう。続いて「なぜそうしないといけないか」という根拠を考えられるようになり,3年目くらいからは,ハイリスク患者の手術や,新人の指導が求められるようになるでしょう。

 中村さんのように,施設が変わっても同じように器械出しができるようになるには,術式や病態をよく理解し,医師の手技を見ながら「次はこれ」と予測を立て,準備を整えられるようになっていなければいけませんね。

「外回り」は手術チームの要

久保田 中村さんのところは器械出しをやってから外回り,という順に学ぶようですが,門間さんのところはいかがですか?

門間 当院では,まんべんなく回ってもらっています。ただ,やはりまずは器械出しを通して術式を覚えてもらうことが優先だと思います。

久保田 実際の手術では,外科医は術野に集中しなければなりませんし,麻酔科医は麻酔に集中しています。ですから,手術全体のマネジメントは外回りの看護師がコントロールしなければいけない。そういう意味では,外回りの役割は非常に大きいといえるでしょう。実際,米国では外回り専門の看護師は非常に高いポジションです。

 例えば出血量と各種バイタル,手術全体の経過を踏まえたうえでの,タイミングを見た輸血のコールといったことが求められますから,豊富な知識と経験を持ち,手術室全体を見通せていなければできません。

門間 今あがったような手術看護独特の専門性って,本当に知られていませんよね。慢性期と急性期ぐらいの違いだったら,長くやっているとある程度推し量ることができる。でも,手術看護というのはほとんど目にする機会がありません。それこそ,「医師に器械を渡す役」といったイメージを持っている方も少なくないと思います。

専門性をいかに伸ばすか

久保田 そうした専門性を伸ばしていくにあたって,どのような教育が求められるでしょうか。

中村 たとえ豊富な病棟経験を持っていても,手術室に異動してきたら一から覚えなければいけない知識や技術がたくさんあります。また,その中でも,個人の努力で何とかなるものと,そうでないものがあります。そうした,手術看護に必要な知識・技術とは何なのかを明らかにしていくことは,認定看護師として大きなテーマですね。

 現在取り組んでいることでは,手術部に配属になった人を対象に,麻酔科医に帯同してもらうプログラムがあります。手術室ではほとんどの患者が全身麻酔管理下に置かれますので,看護師が麻酔に関する専門的知識を持つことは患者の安全につながるのではないかと考え,今年度から2週間ローテートで麻酔科医に付き添って直接指導を受ける体制を組んだのです。

 そのローテートを終えた3人が今,外回りをはじめているのですが,非常にスムーズに外回りに入っていけているようです。そうした医師を巻き込んでの教育プログラムも,1つのカギではないでしょうか。

久保田 あくまで研修のために麻酔科医に帯同するということですね。

中村 看護を行ううえで必要な麻酔の知識を持つことを目的としてやっていますので,麻酔の専門家になろうという意図はまったくありません。ただ,現実問題としては,すべての手術の麻酔を麻酔科医が担当している施設と,診療科の先生が麻酔を行っておられる施設では,看護師の役割も大きく変わってくると思います。

 いずれにしても,麻酔の知識を十分に持ったうえで,看護師がバイタルの1つひとつをアセスメントすることは非常に大切だと思います。

門間 おもしろいですね。当院でも,麻酔は麻酔科医,看護は看護といった,業務をまったく分離して捉えているようなところがお互いにあります。その交流を作る意味で,よい試みではないかと思いました。

 ただ,こうした試みは麻酔科医不足の問題とはまったく別次元だということは強調しておきたいですね。米国には麻酔専門看護師制度がありますが,彼我の制度の違いもあり,現行の教育に多少上乗せするような形で育成しようというのであれば,私は反対です。

久保田 麻酔科医の不足については施設格差があります。現在でも,挿管・抜管まで看護師が「医師の指示のもと」にやっているところがあり,それが医療事故に結びついた例もあります。

 麻酔科医不足を背景に,新たに麻酔看護師を制度化する話があり,麻酔科学会では「麻酔周辺業務を担うナースがほしい」という意見が上がっているようですが,「周辺業務」の中身が具体的になっておらず,現行の外回り看護師の業務との違いが見えません。もし「麻酔看護師」の専門職を養成するのであれば,大学の修士課程で麻酔学や薬理学などを深く学んだ専門看護師が必要となります。また,「麻酔専門看護師」の制度や権限,責任範囲などについて,議論や検討が必要だと思います。患者に安全な手術医療を提供していくためにも,こうした問題を社会的にアピールするべきですね。

門間 麻酔を受ける側の患者さんにしても,そうした現状についての情報がきちんと伝われば,「それは嫌だ。麻酔科医をもっと増やしてくれ」とおっしゃるでしょうね。

久保田 今年は手術看護学会の20周年記念ということで,学会のテーマとしても「手術看護師の役割とチーム医療のコラボレーション」を掲げています。手術にかかわる多職種が協力しあって,こうした問題を社会に問いかけていきたいですね。

■もっと手術看護を知ってもらうために

学生のうちに,手術看護の魅力に触れてもらう

久保田 さて,手術看護をもっとアピールしていくために必要なことは何か,ということをお聞きしたいと思います。現状では,学生たちが,実際の手術看護を知る場面はほとんどありませんよね。

門間 私どもの大学のカリキュラムでは,急性期看護の中に1日だけ手術室の見学実習がありますが,他の学校から当院に来られた新卒の方では,見学を含めて,手術室の実習経験者はほとんどいませんね。

 学生時代の実習には,ぜひ手術看護を入れて,体験,見学をしていただければと思います。やっている人から話を聞くとぜんぜん違うんですよね。1日だけの見学実習でも,学生さんから「手術中,患者さんが意識のない間に,看護師がどれだけのことをやっているかを知って驚いた」と感動してくれることがあります。そういう学生は,けっこう手術室を希望してくれるんですよね。

中村 保助看法でいうところの「療養上の世話」だけをイメージして現場に来た学生は,手術室に配属になると,ものすごくギャップを感じるということがあると思います。でも,少しがんばって,外回りができるようになってくると,自分たちの看護が,いかに患者さんの術後や生活そのものを左右しているかということを肌で感じられるようになれます。短い実習期間では難しいと思いますが,そういったことを感じてもらえるといいですね。

もっと積極的なアピールを

門間 『救命病棟21』や『ナースあおい』といったテレビやマンガの影響か,ここ数年,救急をやりたいという子が多いんですよ。誰か手術看護をテーマに本やマンガを書いてくれないかなと思います(笑)。

中村 メディアの力は強いですよね。認定看護師仲間でよく,「私たちに密着取材でもしてくれないかな」という話をしています。

門間 手術室の看護師がもっと外へ出ていくことも大切ですね。今までは手術室,つまりは「内」を一生懸命守っていればいいという風潮があった。けれど,ICUや病棟との連携において,手術室の看護師が担うべき役割はもっとあるはずです。そうした地道な貢献を通じて,他科の看護師さんに,手術室看護を知ってもらうことができると思います。

久保田 手術目的の入院の場合,しばしば術前と術後がクローズアップされてしまい,手術場面における看護の重要性が見落とされがちです。でも,手術室といういわば「密室」の中で,どこが切除され,どう吻合され,どこにドレーンが入ったということを知っていることは,術前術後ケアでも非常に重要なはずです。もっと互いの交流が必要ですね。

中村 他科の看護師が参加できる形での研修会を行うなど,私たちから外へ出てアピールしていかないと,一向に交流はないですよね。他科の看護師さんにとって,手術室というのはすごく敷居が高いようです。もっと,身近に触れてもらう機会を増やしていくことが大切ですね。

認定看護師に寄せられる期待

久保田 外部へのアピールということでは,一期生である中村さんをはじめとした,認定看護師30名の活躍にも期待したいところです。

中村 認定看護師としての大きな役割はスタッフとして日々の実践,指導,コンサルテーションの3つだと私は考えています。特に当院ではスタッフ32名中15名が3年未満ですから,そうした経験の少ない人に対して自分自身がロールモデルとなって業務を行うことを大切にしています。

 院外での活動としては,三重県ではさまざまな分野の認定看護師がネットワークを作り研修会を企画していますので,そこでのアピールは重要な仕事ですね。そうした講演や執筆を通して,手術看護を広める活動を担えればと考えています。

 また,認定を取るまでは「自分の看護を語る」という機会がなかったのですが,大切なことだと思うようになりました。体位ひとつ,感染防御ひとつが「あなたの看護」なのだということについて,手術室勤務の皆さん一人ひとりが自信を持てるように,自分の看護を振り返り,語ってもらうことを大切にするように呼びかけています。

門間 スタッフの半分が3年目というお話がありましたが,当院も同じ状況ですね。その場合,入ったばかりの人は希望に燃えているから問題ないんですよね。大変なのは教える側で,毎年新人を指導しているとどうしても疲弊してしまいます。

 手術領域の認定看護師ができたことは,そうして疲弊してきた中堅・ベテランの看護師に勇気を与えたと思います。やっと看護協会も手術看護の専門性を認めてくれたか! と感じているのではないでしょうか。

 看護の醍醐味のひとつって,患者さんから「ありがとう」と言われること。けれど,手術室の場合は患者さんの記憶はありません(笑)。そのため,自分たちの看護行為の専門性について,頭ではわかっていても承認・充実感がどうしても沸いてきにくかった。

 認定看護師制度ができて,医師や看護部から認めてもらえる。後は一般の人に対しても「手術看護って大事なんですよ」と胸を張れるようになることでしょうね。

 ですから,認定看護師にかかる期待は大きくて大変かもしれないのですが,どんどん外へ出ていってもらいたいですね。それが,一緒に手術看護をやっているスタッフたちの励みにもなるし,結果的には質も上がっていき,患者さんに多くのものを還元できることになると思います。

久保田 認定看護師のこれからの課題としては,その活動によって何が変わったのかを目に見える形でアピールしていくこともあるでしょうね。例えば医療事故が去年よりも減ったとか,数字で見える成果を出していくことも大切でしょう。

 本日は幅広くお話しいただき,ありがとうございました。


久保田由美子氏
1973年浄風園高等看護学院卒後,東女医大病院に入職し,手術部,心臓病ICU,CCU,心臓病病棟勤務を経て,92年手術部師長に。98年USLアジア科学院アメリカンワールド大管理学士修得,現在は看護副部長・手術室副室長を兼務。また手術看護学会においては,92年から役員として,手術看護分野認定制度に向けての活動を中心に,教育・啓発活動に取り組んできた。2006年10月27-28日開催の日本手術看護学会20周年の学術集会では大会長を務める。

門間典子氏
1978年東北大医療技術短大卒,東北大病院耳鼻咽喉科病棟勤務後,手術部,病棟,外来勤務を経て,現在は3度目の手術部勤務中であり,足かけ30年弱,手術看護に携わってきた。2000年より手術部師長となり,昨年,認定看護管理者研修サードレベルを修了し,管理的視点から地域に貢献できる手術看護のあり方を検討中。手術看護は院内外に認知度が低いと感じ,住民の病院見学ツアーに手術部を組み入れるなどの啓蒙活動にも力を入れている。

中村良子氏
1996年山田赤十字看護専門学校卒後,山田赤十字病院手術部に配属。2004年10月より半年間,東女医大看護学部認定看護師教育課程を受講し,05年の認定審査を経て手術看護認定看護師一期生となった。現在は専門性の高い看護師育成への教育システムの構築に力を入れている。また,手術チーム医療における看護師が果たす役割の重要性を理解してもらうため,院内外への講演,執筆活動を精力的に行っている。