医学界新聞

 

リスク管理の徹底を

第12回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会開催


 さる9月8-9日の両日,第12回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が熊倉勇美大会長(川崎医療福祉大)のもと,川崎医療福祉大学(倉敷市)にて開催された。大会テーマは「摂食・嚥下リハビリテーションの実践――安全に飲む・食べる」。本会では,リスク管理を中心に「脳血管障害,神経・筋疾患」や「頭頸部癌」のシンポジウムなど多くのプログラムが採択された。本紙では,招聘講演「Issues in Treatment-摂食・嚥下治療の課題」や,摂食・嚥下リハビリテーション教育のシンポジウムを取り上げる。


 大会長講演では,熊倉氏自身の経験を振り返りながら言語聴覚士の領域が「構音障害などのコミュニケーション障害から摂食・嚥下障害,そして患者の生活全体を見ること」へと変遷していったと語り講演をはじめた。

 摂食・嚥下リハビリテーション(以下,リハ)の課題として,(1)専門性の確立(評価法や治療法の開発),(2)チームアプローチの成熟,(3)サービスシステムの整備,などを挙げ,社会のコンセンサスを得る努力を続けていくことが重要と語った。そして治療法などの基盤となる基礎・臨床研究を学会を中心に積み重ねていくこと,日々の医療の中においては嚥下や構音機能ばかりに目を向けるのではなく,「患者さんの生活全体をサポートをしていくことを考えながら取り組むことがこれからますます必要」と強調した。

現状に満足してしまっていないか

 招聘講演「Issues in Treatment-摂食・嚥下治療の課題」と題し,フロリダ大のJohn C. Resenbek氏が登壇。はじめに今回の講演はあくまで米国の視点からと断りを入れ,「多くの臨床家が姿勢調整やとろみ材で満足しているのではないか」と懸念していることに言及。患者の状態に合わせて行うとろみ材などの代償法は,「機能の“温存”には効果的かもしれないが,機能の“改善”にはつながりにくい」と指摘。機能の改善にはリハを治療計画に加えていくべきと強調した。その理由として,「ヒトの神経系,筋肉系には可塑性があること」,そして「ヒトの機能は使わなければ失われていく」ことを挙げ,食事内容によっては状態を悪化させ,食欲を減退させる可能性があることを心に留めておくべきと指摘した。

 代償法の1つである経管栄養については,「時には絶対的急務な処置」と支持するも,「経管栄養を行っても経口栄養と同様に誤嚥リスクは伴う」ことに言及し,「経管栄養だから安全というわけではないことを再認識してほしい」と述べた。そのうえで,非経口栄養の決断を下す際の基準として,(1)誤嚥の危険性があるか(保守的),(2)実際に確認できた誤嚥があるのか(標準的),(3)誤嚥性の疾患にかかる危険性があるのか(将来の最新基準),(4)誤嚥性と判断された疾患にかかっているのか(積極的),を挙げた。

 最後に摂食・嚥下分野の成長に必要なこととして,(1)訓練と学習理論に基づいた治療法の考案と実践,(2)より適切な負荷測定法の追求,(3)嚥下動態ではなく機能と社会参加面での成果計測法の追求,について研究を行っていかなければならないと述べ壇を降りた。

■後進の目標とされる指導者に

 シンポジウム「摂食・嚥下リハの教育をめぐって――現状とこれから」(座長=才藤栄一氏・藤田保衛大)では,摂食・嚥下障害に関わる医師・コメディカルの卒前・卒後教育の現状と今後について議論された。

 はじめに医学教育の立場から馬場尊氏(藤田保衛大)が登壇。医学部において摂食・嚥下は主にリハ医学講座で指導されているが,「リハ医学講座がある大学でも1コマ程度」と,摂食・嚥下障害が取り上げられることが非常に少ないと指摘。このような卒前教育の現状では,後進の技能強化が卒後の課題であり,指導者の技術をいかに伝えていくかが重要となる。そのためにも指導者自らが手本となり得る高い技術,明確な目標を短期・長期で示すことが必要ではないかと言及した。また,摂食・嚥下障害の治療は,チーム医療であり,関連職種を有機的に作用させるため,コミュニケーション能力が必須であると強調。チーム内における医師の役割をきちんと教えることも重要と付け加えた。

 津田豪太氏(福井県立済生会病院)は,「嚥下障害」は病態であって病名ではないと指摘。そのため症例ごとに細やかな対応が重要であり,いまだ不明な部分が多い中でも,医学的根拠に基づいた治療を行っていく必要があると述べた。

 鎌倉やよい氏(愛知県立看護大)は,看護教育の中で摂食・嚥下障害の重要性が認識されてきている反面,概要を理解するに留まり,「アセスメントする能力の育成,実践能力の育成にはほど遠い」と現状を報告。看護基礎教育が終了した段階で求められる実践力が生活援助技術を中心にされているとも指摘した。また,いままで看護師はジェネラリストとしての能力を求められてきたが,近年は専門性も求められるようになり,認定看護師制度・専門看護師制度など特定領域の専門家を養成する取り組みがなされている。7月に「摂食・嚥下障害看護」認定看護師が誕生し,今後の活躍を期待していると述べた。

 苅安誠氏(九州保健福祉大)は,言語聴覚士養成時の臨床実習で「嚥下障害に接する機会は多くなったが,卒後に即実践できるという段階ではない」と発言。経験豊富な先輩言語聴覚士や医師が在籍する病院においては,経験を積むことができるが,現実には手探り状態の病院が多く,「言語聴覚士だからできるはず」という周囲の期待に応えるのは容易ではないと周囲の期待と現実の溝を指摘した。今後,溝を埋めていくためにも卒前・卒後教育を充実させ,最新の知識や技術を習得する場が必要と言及した。

 大越ひろ氏(日本女子大)は,栄養管理士が専門性を高めるために関連学会での講習会,研修会などの必要性を提示。そして日本静脈経腸栄養学会のNST専門療法士など,学会認定の資格制度が導入されていることを踏まえ,本学会でも管理栄養士を対象とした認定制度の立ち上げが望まれると述べた。