第2702号 2006年10月9日


【インタビュー】

アレルギー疾患診療の魅力と課題

岡田正人氏(聖路加国際病院アレルギー・膠原病科)


 2006年10月,医学書院より『レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル』が刊行された。アトピー,花粉症などのアレルギー性疾患や薬物アレルギーは日常診療でも数多く出会う疾患だが,その病態・診断・治療についてはあまり標準化されていない。Yale,パリ・アメリカンホスピタルなどでアレルギー診療の専門家としての研鑽を積んだ著者・岡田正人氏(聖路加国際病院)が,アレルギー診療の現状と,その魅力について語った。


全身疾患としてのアレルギー

――ご経歴を拝見すると,終始一貫してアレルギー・膠原病を専門に選ばれてきたという印象を受けます。きっかけは何だったのでしょうか?

岡田 学生時代に免疫学に興味を持ったのがきっかけです。初めて通読した英語の医学書がロワットという有名な免疫学の教科書だったのですが,そこで臨床的な話題としてアレルギー疾患が紹介されていました。

 アレルギー疾患というのは臓器特異的ではなく,全身にまたがる疾患ということがありますし,慢性疾患なので,患者さんと医師とのつながりが強い分野でもあります。そういった点を魅力に感じました。

 しかし,日本での卒後研修の中では,アレルギーを専門にした医師に出会う機会はほとんどなく,その時点では将来の専門分野として身近なものとは感じていませんでした。

 実際には,ニューヨークのベスイスラエルメディカルセンターでの内科研修中にアレルギー専門医の先生の診療に触れたことが大きかったですね。それで,内科研修修了後,Yale大でアレルギー診療の専門教育を受けることになりました。

米国のアレルギー専門医教育

――Yale大での研修はどのようなものだったのでしょうか?

岡田 米国のアレルギー専門医制度は,少し特殊です。普通,アメリカの専門医制度では,内科での3年間の研修修了後に,各専門分野に行くのですが,アレルギーだけは,小児科を終わった先生も,内科を終わった先生も,同じプログラムに入ることになっています。そして,アレルギーの専門教育を終えた人は,いずれの診療科出身であっても,内科,小児科を診ることができるようになります。

 こういったシステムがとられている背景には,アレルギーというのは全身疾患であると同時に,全年齢にまたがる疾患である,という考え方があると思います。

研修医にはアレルギーへの基本的な対応を学んでほしい

――日本では今のところ,アレルギーを専門とする医師は非常に少ないと言われています。レジデントがアレルギー疾患診療を学ぶ意義については,どのようにお考えでしょうか。

岡田 2つの意義があると思います。まず,どの科にいてもアレルギー疾患についての最低限の知識が必要となってくると思いますので,すべての医師がベーシックなアレルギー疾患の知識を身につけるということ。もう1つは,日本でももっと,アレルギーの専門家を増やしたほうがよいということです。

 ベーシックな知識ということでは,新しい臨床研修制度では,各科をローテーションすることになっていますが,どの科にいても,アレルギー疾患に触れることになります。例えば,どの科の入院患者でも,薬物アレルギーという問題には必ず突き当たります。

 実は,薬物アレルギーというのは,ちゃんと勉強すればそれほど難しくはありません。ところが,薬物アレルギーを専門としている先生はあまりいらっしゃらず,解説本もそれほど出ていないため,なんとなくそれなりの対応をしている,ということも多いようです。

 しかし,きちんとしたアレルギーについての知識を身につけていれば,ずいぶん診断・対処は変わってきます。薬物アレルギーというのは基本的に予防も可能な疾患ですから,外来の先生がしっかり対応するということは非常に大切です。

 また,内科や小児科の外来では,食物アレルギーやアナフィラキシーの患者さんに出会うことも少なくないでしょう。花粉症,蕁麻疹,喘息なども,アレルギー疾患の基本的な知識があると,ずいぶん対応が変わってきます。そうした典型的なアレルギー疾患については,ある程度一般的な知識を持っていたほうがよいと思います。今のところ,日本では系統だった勉強をする機会はないのですが,本書を参考に,ある程度の知識を身につけていただければと思います。

アレルギー疾患診療のすべてがここに

――本書では,そうしたアレルギー疾患の内容について,どの程度掘り下げて書かれているのでしょうか?

岡田 今回の本では,アレルギー疾患診療について必要なことはすべて盛り込んだつもりです。「レジデントのための」と銘打っていますが,開業医の先生を含め,外来をされる医師であればどんな方でも使っていただけるようにと思い,書きました。僕がアレルギー専門医として使っている情報は基礎から応用まですべて網羅しました。

 アレルギーは基本的に慢性疾患ですから,患者さんに疾患のメカニズムと治療法を納得していただくことが大事です。そうした説明に必要な図表を100以上入れましたし,詳しい勉強をしたい方のために,文献も豊富に挙げています。実際の症例も各章に入れ,理解しやすいように工夫しました。

 もちろん,アレルギー疾患ではわかっていないことも多いわけですが,わかっていないことについてはわかっていない,と書いています。また,アレルギー的なアプローチが有効でない病態についても触れています。アトピー性皮膚炎などで,臨床的にはあまり有効ではない,厳格な食事療法をしているケースがあります。そうした過度のアレルギー対策は患者さんのQOLを下げますので,「ここまではアレルギー対策が有効で,ここから先は有効性がはっきりしていません」ということも大事な情報だと考えています。

最新の免疫学的知見も

――章の終わりごとに「臨床医のための免疫学」というコーナーが設けられ,少し踏み込んだ免疫学の講義がありますね。

岡田 本書はマニュアルという形式ですから,実際に患者さんを目の前にした時に,使える情報をすぐに取り出せるように書いています。しかし,最近は患者さんも勉強してきていますので,少し踏み込んだ話をする必要もあり,時にはアレルギー疾患診療のベースとなる基礎的な免疫学の知識を持っていたほうがいいということもあり,各章の間にそうしたコーナーを設けました。免疫学で最近わかってきた知見の中で,臨床にある程度かかわりのあるものに関してまとめています。

 もちろん本文でも,臨床に直接関係する免疫学のメカニズムは解説しているのですが,ここでは,さらに基礎的な,どうしてこういう病態になるのかとか,どういう薬が今後開発される可能性があるかといった免疫学の知見に関してまとめています。

 例えば今,研修医の先生だと,学校で免疫学を学んでから4,5年たっていますよね。その間の進歩についてもまとめていますので,最新情報にキャッチアップしていただけると思います。

――この4,5年の間に出てきた大きな知見にはどんなものがありますか?

岡田 基礎的なことはたくさんあるのですが,臨床的なことでもいくつか大きな動きがあります。例えばアメリカでは今,抗IgEモノクローナル抗体を用いた治療が認可され,喘息治療で大きな効果をあげており,さらに食物アレルギーにも使えるのではないかという知見が出ています。

 また,減感作療法は,これまで皮下注射がスタンダードだったのですが,これは週に1回病院に来ていただく手間や,副作用などもあって,なかなか大変な治療でした。ところが最近,ヨーロッパでは,舌下投与による減感作療法が広まりつつあります。まだアメリカや日本には入っていませんが,フランスでは保険適用となっており,アナフィラキシーの報告がほとんどなく,副作用も皮下注射に比べ少ないため,日本で導入されると大きなインパクトのある治療法だと思います。

 日本での最近の流れとしては,食物アレルギーやハチ以外のアナフィラキシーでもエピペンが使えるようになったことは大きな変化だと思います。アナフィラキシーの際,病院に来る前に自分でエピペンを注射すると,死亡率が大きく下がるということがわかっています。

日本でももっとアレルギー専門医養成を呼びかけたい

――最後に,先ほど少し触れておられた,日本でももっとアレルギー専門医を増やしたほうがよいというお話について,お願いいたします。

岡田 日本にも,アレルギー専門医という制度がありますが,米国のものとは根本的に考え方が異なります。日本のアレルギー専門医というのは,各科の先生がアレルギーの知識を学んでご自分の専門分野に活かすという考え方に基づいており,実際,認定試験でも他の診療分野のアレルギーに関する知識はほとんど求められません。

 それに対して,米国のアレルギー専門医試験では,小児科,皮膚科,耳鼻科などすべての診療科から問題が出ます。One airway,one diseaseという考え方がありますが,例えば喘息の方で鼻炎を合併している方は8割を越えます。適切な鼻炎の治療を併用することにより,喘息も改善しますので,アレルギー疾患を総合して診るということは大事なのです。

 こうした考え方は,最近必要性が強調されるようになっている,感染症科や腫瘍科と共通しますね。肺炎だったら呼吸器,胃癌だったら消化器外科というのではなく,感染症なら感染症科,癌なら腫瘍科が診るというのと同じように,複雑なアレルギー疾患はアレルギー専門医が診るという形が理想的だと思います。

 日本でも近年は,そういった臓器別ではないアレルギー診療の研修を行っている施設も登場しはじめていますので,少しずつアレルギー診療にかかわる知識が広がっていくとよいと思います。


岡田正人氏
ニューヨークのベスイスラエルメディカルセンターにて内科研修後,Yale大学病院にて膠原病関節炎内科,アレルギー臨床免疫科研修。その後,フランスにて診療および教育に従事。2006年4月より聖路加国際病院アレルギー・膠原病科。Yale Physician-Scientist Award,ACR Senior Rheumatology Scientist Award受賞。米国内科,膠原病科,アレルギー臨床免疫科専門医。