第2699号 2006年9月18日


【寄稿】

禁煙治療のこれから
「ニコチン依存症」保険適応の背景と今後の課題

山本 蒔子(日本禁煙推進医師歯科医師連盟宮城支部・支部長/日本禁煙学会理事)


ニコチン依存症の保険適応

 ニコチン依存症管理料が2006年4月に保険適応(表)になったのに続いて,6月からはニコチンパッチ製剤も保険適応になった。今までも日本禁煙推進医師歯科医師連盟の会員を中心に禁煙治療が行われていたが,従来の禁煙外来ではニコチンパッチは私費のため2万円から3万円の費用がかかり,気軽に禁煙治療を受けられなかった。

 ニコチン依存症管理料点数
初回(1週目)  230点
2回目,3回目および4回目(2週目,4週目,及び8週目)  184点
5回目(最終回)(12週目)  180点

入院中の患者以外の患者に対し,「禁煙治療のための標準手順書(日本循環器学会,日本肺癌学会および日本癌学会の承認を得たものに限る)」に沿って,初回の当該管理料を算定した日から起算して12週間にわたり計5回の禁煙治療を行った場合に算定する。
2006年度診療報酬改定で新設
2006年6月からはニコチンパッチ製剤も保険適応

 今回の保険適応によって,“たばこをやめられない”ことを病気として日本が初めて認めることになった。世界的には,すでに1980年に米国精神医学会が精神障害の診断分類(DSM-III)に「たばこ依存症」として分類し,さらに1987年には正確に「ニコチン依存症」とされている。日本が1995年に採用したWHOの国際疾病分類第10版には,「ニコチン依存症」の病名がある。2006年4月にして,ようやく日本は国際レベルにたどり着いたといえる。

保険適応の背景

 2005年2月27日に発効した「WHOたばこ規制枠組み条約(Framework Convention on Tobacco Control)」は,保健分野初の国際条約である。その目的は,現在および将来の世代を,たばこの消費およびたばこの暴露によって起こる大きな被害から守るための具体的な方法を示すことである。第14条には,「たばこの使用の中止,およびたばこへの依存の適切な治療を促進すること」が書かれており,締結国である日本はこの条約を守って,禁煙治療をすすめなければならない。

 2005年6月に,禁煙に取り組む9学会(日本口腔衛生学会,日本口腔外科学会,日本公衆衛生学会,日本呼吸器学会,日本産婦人科学会,日本循環器学会,日本小児科学会,日本心臓病学会,日本肺癌学会)が,禁煙治療に対する保険適応のための医療技術評価希望書を厚生労働省保険医療課に提出したことが保険適応に取り組むきっかけになった。さらに9学会合同「禁煙ガイドライン」を10月発表したことが,中央社会保険医療協議会における保険医療導入の決定に大きな影響を及ぼした。

 喫煙ほど多くの疾患に関わるものは他になく,したがって,多くの学会がそのことを認識して,対策に乗り出した意義は大きい。

禁煙治療ができる施設

 保険適応を機に,全国で爆発的にニコチン依存症を治療する医療機関は増えてきている。ただし,保険適応の医療機関の施設基準には,構内が禁煙であることが掲げられている。たばこが吸える状況で,禁煙治療をすることはありえないことを意味し,評価できる。この施設基準は,病院におけるたばこ対策の推進に大いに役立つ。

 これを根拠として,すべての病院が敷地内禁煙を実施すべきである。せっかくのニコチン依存症の保険適応による治療が,病院のたばこ対策の遅れのため実施できないのであれば,患者を治療する立場からは許されないと思われる。

禁煙治療プログラム

 ニコチン依存症の治療には日本循環器学会,日本肺癌学会および日本癌学会が作成した「禁煙治療のための標準手順書」に添って行うことが定められている。対象者は,以下の4つの条件によりスクリーニングされる。

1)ただちに禁煙しようと考えている
2)TDS(Tobacco Dependence Screener)が5点以上で,ニコチン依存症と診断
3)ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上
4)禁煙治療を受けることを文書で同意している

 この条件を満足しない喫煙者や若年者の治療には問題が残されている。しかし,社会保険庁は治療効果を今後検証することにしており,治療を行った医師からの多くの報告がなされることが,禁煙治療の保険適応の継続および拡大に結びつくと思われる。

今後の課題

 禁煙治療が保険適応になったことで,まずは現在の手順に添って,治療が広く行われることが大切である。そのためには多くの医師が,適正な禁煙治療を開始できる必要がある。地域の医師会などが,講習会を積極的に開催し,禁煙治療の方法を普及しなければならない。また,すべての医療従事者が禁煙治療について知ることが,禁煙治療の拡大に結びつくと思われる。多くの職種が関わることで,禁煙治療はよりやりやすく,よりよい指導が患者にできて,成果も上がる。

 2006年2月に設立された日本禁煙学会は,医師歯科医師だけでなく,薬剤師,看護師,歯科衛生士などの医療スタッフが広く加入して,禁煙指導を学ぶことをめざしている。各職種の禁煙指導師の認定なども行う予定である。禁煙治療をされる医師は周りのスタッフの教育にも心がけてほしい。

これから禁煙治療を始める医師の方々へ

 禁煙治療をするために,外来で時間が取れないと心配される医師もおられると思うが,スタッフを教育し,ニコチン置換療法の意味を理解させたうえで,スタッフに呼気中CO濃度測定および問診表の記入やニコチンパッチ使用時の注意の説明などを担当してもらうことが薦められる。患者の指導で最も大切な点は,以下の3点である。

1)たばこはぴったりやめてパッチを貼る
2)パッチを貼っていても離脱症状は出現するが,水を飲む,深呼吸,ストレッチ,歯磨き,ガムや干昆布をかむなどの簡単な行動で,3分間で対処できると伝える
3)禁煙ができるかどうかあまり不安がらず,プログラムに添って治療と思ってパッチをまず貼るように話す

 禁煙治療にはパッチの処方とカウンセリングの両方が必要である。主治医である医師が治療することは,成功率を大いに高めると期待される。ぜひとも多くの医師が禁煙治療を始めて,たばこの害に悩む患者を救ってほしいものである。


山本蒔子氏
1965年東北大医学部卒。69年同大大学院修了,医学博士。東北大第二内科にて内分泌学専攻,講師を経て,88年JR仙台病院保健管理部,94年日本禁煙推進医師歯科医師連盟・宮城支部設立,JR仙台病院に禁煙外来開設。2002年より東北大大学院非常勤講師,東北大病院禁煙外来担当。