第2694号 2006年8月7日


【投稿】

Clinical Case Simulationに参加して

佐野 正彦(高知大学医学部5年生)


 さる2006年3月20日から4日間,山形県の庄内余目病院で開催された,庄内余目病院・ハワイ大学医学部合同の医学生集中セミナーに参加する機会を得ました(日本人学生7名,アメリカ人学生1名参加)。このセミナーはハワイ大学方式のCCS(Clinical Case Simulation)が受けられること,そして本紙で連載されていた「英語で発信!臨床症例提示-今こそ世界の潮流に乗ろう-Oral Case Presentation」の齋藤中哉先生(ハワイ大学医学教育コンサルタント)のレクチャーが直接受けられるという点で非常に魅力的なセミナーです。

 CCSは日本でもPBL(Problem Based Learning)として多くの大学で採用されています。その目的は大きく分けて,(1)臨床推論の訓練,(2)効果的なプレゼンテーションとディスカッションの訓練,(3)疫学・治療法・予後等を知るための有効な情報リソースへのアクセス法,の3つだと思います。取り組み方次第で,今まさに自分が診療しているような臨場感を体験できます。また,患者さんのマネジメントを考えるためには広範な臨床医学の知識が必要なのだと実感できます。国家試験の枠にとらわれない学習をすることで,学んだ知識を知恵に変えていき,私たちの究極の目的である“患者さんの幸福の実現”がどのように達成されるのか疑似体験できると思います。

 CCSレクチャーでは頭痛にまつわる症例を取り扱いました。最初の少ない情報から病因,解剖学的な観点から漏れのない鑑別を行った後,病歴聴取,鑑別を再整理します。ここで重要なことは検査前確率をぎりぎりまで上げるべく効果的な病歴聴取を行うことです。日々病気の自然歴,clinical featuresを意識した学習を心がけないとこういった方法は身につかないものです。加えて患者・医師関係においても,適切なラポール形成を心がける必要もあります。臨床医は派手ではないが,高等な技術を駆使し診療にあたっていることがわかり,日常診療の奥深さを思い知らされました。学生時代は病気そのものに注目しがちですが,診療の疑似体験を通じて実地臨床は実にさまざまな要素で構成されていることを痛感しました。

 齋藤先生は,臨床推論の訓練について「比較的時間が取れる学生や研修医の時期に繰り返し行うことが肝要」,プレゼンテーション技能については「一定のルールの下で実践・訓練しないと身につかない」と強調されました。訓練の一環として,先生は学生から意見や推論に至る過程を上手に引き出します。他の人の思考過程に触れることができ大変参考になりました。また症例サマリーなどの発表を通じてプレゼンテーションのコツも掴むことができました。CCSレクチャーの間中,会場は活気に溢れ,楽しみながらも刺激的な学習ができました。

 このセミナーでの最も大きい収穫は,自分が取り組むべき課題が見つかったことです。それは数多くの問題の中から抽出すべきものを明確にし,問題解決のための情報リソースに如何にアクセスし,どう現実へフィードバックさせていくかに対し日常の中で意識的に取り組むきっかけとなったことです。臨床場面のみならず,生涯学習という観点からも非常に有用であると思われます。また,病歴と身体所見が自分を真の意味で助けてくれることを再認識しました。

 私は今まで医学教育を生業とされている先生には出会ったことがなかったため,教育で飯を食うとはこういうことを言うのだとの実感を抱き,ロールモデルとして非常に参考になりました。齋藤先生の学生への質問の投げかけ方,意見の引き出し方についても,ぜひ学び取りたいとの思いが募りました。国家試験の勉強も重要ですが,自身の臨床能力を研ぎ澄ますにはCCSは有力な方法の1つだと考えています。

 本セミナーは,非常に教育熱心な庄内余目病院・野末睦院長の御厚意で開催されているもので,齋藤先生のCCSレクチャー以外にも選択でさまざまな実習が経験でき,非常に濃密な時間を過ごすことができます。詳しい内容につきましては,庄内余目病院ホームページ上(http://www.amarume-hp.jp/301_Igakusei/02_Seminar/)に掲載されておりますのでぜひ一度ご覧ください。


佐野正彦さん
一橋大経済学部卒。大手石油開発会社で天然ガスパイプライン事業に従事後,出身地の高知医大(現高知大医学部)に入学。2年生時に参加した千葉大総合診療部外来カンファレンスにおいて,病歴と身体所見のみでALSの診断をつけたのを見て驚き,以後,臨床推論プロセスを意識して学習中。