第2687号 2006年6月19日


【連載】(全3回)

HSPH Japan Trip 2006
ハーバードが見た日本

[第1回 Japan Tripの背景]

小野崎 耕平(前ハーバード公衆衛生大学院)


 Once again, I would like to say “domo arigiato". I'd also like to offer my opinion on the result: it was a total, resounding, 1000% success.

Jeremy

 The trip was such a remarkable experience, and I fell in love with Japan!

Maria

日本に学べ

 2006年3月,日本研修旅行「HSPH Japan Trip 2006」(http://hsph.jp/JT/index-j.htm)が行われた。パブリックへルスを中心とするハーバード大の学生ら48名が1週間あまりにわたって日本を訪れ,わが国の医療や公衆衛生,さらにその背後にあるライフスタイルや文化などについて学んだ。

 参加者の多くがアメリカ人,いずれもリーダー候補だ。日本を訪れ,厚生労働省,日本医師会,聖路加国際病院,医療関連企業のほか,老人施設やトヨタ自動車,原爆記念館なども訪問,日本の現状や課題について幅広く討議を重ねた。

 訪日に前後して,キャンパスでは日本関連の各種セミナーが計6回開催された。日本の保健・医療システムの概要から日本人のライフスタイルや文化に至るまで,パブリックヘルスに関する幅広い領域がカバーされた。

 「日本に学ぶ」といっても,必ずしも,日本のよいところだけに目を向けることを意味しない。少子高齢化への対応,喫煙率の高さ,生活習慣病の拡がりなどわが国に突きつけられた課題に対しても,参加者が頭を捻った。

 そして,旅が終わって2か月が経とうとした今も,キャンパスではいまだその余韻が漂っている。学内で日本関連の情報やニュースを流して紹介するアメリカ人学生,自主的に報告会を開いた各国の参加者。学内の新聞もツアーの様子を大きく取り上げた。また,国内でもNHK「おはよう日本」での特集をはじめ,メディアの注目を集めた。

 いったい何が起きたのか? 3回に分けて振り返りたい。

少ない日本の情報

 意外に感じるかもしれないが,ハーバード学内では日本に対する評価も関心も驚くほど高い。日本人在校生の活動が活発であり,かつ組織的に国を売り込んできたことも大きく寄与しているだろう。また,わが国が,エレクトロニクス,自動車,ハイテク,建築,アニメなどの各分野においてグローバルで圧倒的な存在感を誇っている点も大きい。

 しかしながら,医療や公衆衛生の現状については必ずしもよく知られていない。教室でも,日本の長寿,国民皆保険,喫煙率の高さなどがしばしば話題に上がるものの,医療やパブリックヘルスの全般的な情報は少ないばかりか,残念ながら正しく伝わっていないことも多い。

ある教授の一言にショック

 「日本の事例は取り上げたくてもできない。英語の情報があまりに少ないからだ」-医療政策分野の世界的権威であるウィリアム・シャオ教授の授業中のコメントである。

 このコメントにショックを受けた数人の日本人学生らは直ちに行動を開始,2005年4月には「Health Policy in Japan」と題した日本の医療システムに関するセミナーを学内で開催。大きな反響があった。プレゼンターは,当時の在校生だった山内和志氏,日下部哲也氏,林修一郎氏の3名。この3人のプレゼンテーションに加え,イチロー・カワチ教授(社会疫学の世界的権威,日本出身),マイケル・ライシュ教授(日本にも詳しい国際保健の権威)らがコメンテーターとして参加,白熱した討議が繰り広げられた。そして盛り上がってきたのが「日本に行こう」という声である。

プロジェクト発足

 同年9月にはプロジェクトチームを発足,具体的な作業に入った。日程調整,学内外との交渉などの準備作業が授業の合間を縫って行われた。

 プロジェクトの準備には,日本人在校生や研究者はもちろん,アメリカ人学生らも参加。医師,研究者,政府官僚,企業出身者など日本人在校生のバックグラウンドは多様だ。厳しい学業の合間を縫って行われる活動を支えたのは,「日本をよくしたい」「日本を学び,世界から学ぶ」という日本人学生らの想いだ。活動はすべてボランティアだ。

 そんな姿が参加者を惹き付けたのか,1人当たり約30万円という費用にも関わらず多くの学生がツアーに参加した。彼らの多くも学生ローンや奨学金で学費を賄う「苦学生」だ。それでも日本に学びたい,彼らの目的意識は驚くほど高い。

 また,日本や日米関係に詳しいエズラ・ボーゲル教授(『ジャパン・アズ・ナンバーワン』著者),前出のシャオ教授,ライシュ教授,カワチ教授など数名の専門家が名を連ね活動を支えた。

2つのゴール

 プロジェクトチームでは,大きく2つのゴールを設定した。

 1つ目は「世界に日本を売り込む」というゴールである。ハーバードで学ぶ世界のリーダー候補に,日本のカルチャーや日本の保健医療について学んでもらうこと,そして今後も日本に対して,時には励まし,時には苦言を呈してくれるような,真のサポーターを1人でも増やす,という民間外交の架け橋とするというものだった。

 2つ目は「日本にパブリックヘルスを売り込む」というものである。日本におけるHarvard School of Public Healthやパブリックヘルス全般に関する認知や理解を高め,この分野を志し,あるいは応援してくれる日本人を少しでも増やすというものだった。このため,日本語ウェブサイト(http://hsph.jp)開設や日本人の出願者向けの説明会なども同時進行で進めることが決定した。

 こうして,7か月にわたるプロジェクトは着々と進行していった。プロジェクトには諸外国の学生もいつしかボランティアで参加,国境を越えたプロジェクトとして育っていった。

つづく

長谷川敬洋氏(ハーバード公衆衛生大学院 Environmental Health専攻)のコメント

 このJapan Tripは,日本語での情報がほとんどない「公衆衛生学」を売り込む絶好の機会でした。少しでも多くの方に公衆衛生学を知ってもらい,同じ志を持つ方々を一人でも増やしたい。そのような思いからWeb pageの作成や学校説明会の開催,京大生との交流会など,「対日本」のプロモーションを行ったのです。


小野崎耕平氏
1969年三重県生まれ。法大法学部卒業後,ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)などを経て,ロータリー財団国際奨学生としてハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health:HSPH)留学,修士課程修了(医療政策専攻)。この間,医療過誤・医療安全の専門機関であるハーバード・リスクマネジメントファンデーションにおけるインターンなどハーバード関連病院を中心とする各種プロジェクトに参画。HSPH Japan Trip 2006のプロジェクト・リーダー。