医学界新聞

 

初期研修修了一期生が語る

後輩へのアドバイス

下山祐人氏


 民間病院の研修の特徴は「習うより,慣れろ」。教えてもらうことを待つことは許されず,一人の医師として“仕事”をし続けることを要求されます。研修医が一人で診療せざるを得ない場面も少なくなく,このことにストレスを感じた同僚もいました。

 しかし時間がないぶんサラリーは比較的多かったため,書籍代,学会費など多くの出費が可能でした。そして何より,コメディカル・スタッフに恵まれました。過酷な労働環境でも努力を惜しまない,質の高いコメディカル・スタッフに助けられたことは枚挙に暇がありません。

 2年間の研修はとても充実しており,実に多くの症例を体験しました。内科8か月で入院300症例。土曜日の外来も担当しました(午前中だけで40人くらい担当します)。外科では静脈瘤や痔の手術など35例ほど。麻酔科では全身麻酔50例。お産を50例。小児科は外来を含めると数え切れません。忘れられないのが救急車当番で,24時間で30台近く担当した日もありました。

 当直回数に関しては,ERとローテーションしている科の当直を併せて月10回ほど。産婦人科では15回,離島では12回でした。まったく寝られない当直も多く,それでも翌日はそのまま平常どおりの勤務でした。 症例数は病院選択基準として重要か?  では,症例数の多さは研修病院の選択基準として重要でしょうか。私が3年前にこの病院を見学しに来た時には,経験できる症例数の多さと,先輩方の手捌きの早さに目をキラキラさせたものです。しかしこのことほど,学生の視点と,実際に働いている研修医のそれが乖離している点はないと思います。

 他の民間病院や大学病院の友人たちは自分たちよりも経験症例数は少ないのですが,自分たちと比べて遜色あるように思えません。経験すべき症例はどこにいても遭遇します。患者様一人ひとりに対して,真摯な態度で問診,理学所見をとり,鑑別診断をしっかり立てれば,極論ですが1日1人だけの外来であっても,ただ処方箋を出すだけの100人の外来より学ぶことができるでしょう。

 ですから,症例数の多さであるとか,当直が多い(のが嬉しいのは最初だけでした!)とかを,研修病院の選択基準として考慮する場合は,数が単純に能力に反映するわけではないと知っておいたほうがいいでしょう。また,「足りないものは補える」ことも強調したいと思います。外部の勉強会を利用すれば,高名な先生のご意見を聞けたり,活発なdiscussionに参加できたりします。

 (処遇も含め)研修内容に完璧な条件を備えた病院を探す必要はないのではないかと思います。与えられた環境の中で存分に力を発揮できるよう,professionalたろうとすることこそ重要です。

 最後にこの2年を振り返ると,思う存分勉強させてもらったし,この病院でなければやれなかったこともありました。この場を借りて湘南鎌倉総合病院で指導してくださった先生方,ならびに支えてくださったコメディカル・スタッフの皆さんに心からの感謝を申し上げます。


下山祐人氏
2004年東京医大卒。湘南鎌倉総合病院・初期研修医を経て,06年5月より都内大学病院にて後期研修予定。