第2679号 2006年4月17日


MEDICAL LIBRARY 書評特集


患者の声を医療に生かす

大熊 由紀子,開原 成允,服部 洋一 編著

《評 者》高久 史麿(日本医学会長/自治医大学長)

初めての講座,初めての本
ぜひ一読を

患者が講師,医療者が聴講生
 このたび大熊由紀子,開原成允,服部洋一3氏の編著による『患者の声を医療に生かす』が医学書院から刊行された。この本は開原氏が大学院長,大熊氏が教授として勤務されている国際医療福祉大学大学院が企画した乃木坂スクール「患者の声を医療に生かす」での13回にわたる公開講座の記録をまとめたものである。

 この公開講座の特徴は,さまざまな患者会の人たちが「講師」となり,医師,看護師,医学生,看護学生など医療側の人たちが「聴講生」となっていることである。この講師と聴講生との組み合わせは講座名からして当然と考えられるが,実際にこのような試みがなされたのは,私が知っている限りではわが国で初めてである。この公開講座の開設を考えられた開原氏に深甚の敬意を表する次第である。

 本書はこの公開講座の内容を,各講師の講演,さらに各セッション後の討論も含めてまとめたものである。各講師の講演内容の多くは見開き2頁に入るよう要領よく収載されており,編集でのご苦労を伺い知ることができた。公開講座の開設と同様に,このような本の刊行も,わが国としては初めての試みではないかと推定している。

ガイドライン作成に関与する患者会も
 講師の中には私が以前から存じ上げている方々が何人かおられたが,書評を書くために本書を通読することによって,私自身多くのことを学ばさせていただいた。特に印象に残ったのは,患者会の方々が特定の疾患のガイドラインの作成に直接関与されたことや,医学生や看護学生にご自身の経験や考えを講義された時の感想を述べられていたことである。

 最近,「患者の声を直接聞く」ことが学生にとってきわめて意義のあることであるとの考えが医療系大学の教員のあいだで一般的になっているが,この本ではまさにその講義の一端が紹介されている。おそらく本書の刊行によって,このようなカリキュラムを組む医療系大学がさらに増加するものと思われる。

 ただ本書のなかに記されている講師の方々のお話では,医科大学では低学年の学生に講義しているようであったが,私は臨床実習のカリキュラムが始まる高学年の医学生,さらに卒後臨床研修のカリキュラムのなかで,患者会の方々の生の声を聞く必要があるのではないかと考えている。

まずは患者側の声を聞こう
 わが国の病院をとりまく医療の環境にはきわめて厳しいものがあり,地域によっては崩壊に近い状態にあるといっても過言ではない。このような状況下にある病院の医療を立て直すためには,医療者と患者とが共同して諸問題の解決に当たることが必要である。

 そのためには,まず医療者側に,患者側の声を聞き,それを真摯に受け止めることが要求される。その患者側の声が直接語られている本書の刊行は,上述の観点からもきわめて有意義なことだと考える。

 1人でも多くの医療者にぜひ読んでいただきたいというのが,本書を読んだ後の率直な感想である。

B5・頁200 定価1,890円(税5%込)医学書院


ヒトの分子遺伝学 第3版

村松 正實,木南 凌 監修

《評 者》新川 詔夫(長崎大大学院教授・変異遺伝子解析)

基礎から機能ゲノム学までゲノム医学の成果を総括

 Human Molecular Genetics,Third Editionが2004年に出版されて以来,待望の日本語版「ヒトの分子遺伝学 第3版」が出版された。初版からの編集方針と思われるが,本書はヒト疾患への理解を深めさせるため,可能な限りヒトあるいは哺乳類からの最新データやヒトゲノムプロジェクトの知見を基盤にして解説している。これこそが他の類書とは著しく異なる特長である。他書では微生物や哺乳類以外の動植物の分子生物学的知見に多くの紙面を割いており,医学関係者が敬遠しがちな原因になっているように思われる。

 旧版との違いはまず,全体を「DNAと細胞の基礎」,「ヒトゲノムと他の生物のゲノム」,「疾患遺伝子と突然変異のマッピングと同定」,および「新しい地平-21世紀に向けて」の4部にまとめたことである。第1部はヒト分子遺伝学のビギナーを意識したもので,第2,第3部が本書の本体であり,最後の第4部ではポストシークエンシング期の研究課題と展望,および医療への応用である個体の遺伝子操作や遺伝子治療を解説している。さらに,この改訂版では2つの章が追加された。第3章の「細胞と発生」では種々の分子が関与する初期発生の仕組みがよく理解できるように配慮されており,第19章では,遺伝子の機能を知るために多数の(すべての)遺伝子産物を同時に解析する「機能ゲノム学」を扱っている。いずれも最新の知見を導入しているが,特に後者は今後の機能ゲノム学的リサーチに対する示唆的内容に富んでいる。

 筆者の大学では初版から医学部2年次学生のサブテキストとして採用しているが,彼らにとってはやや難解かもしれない。むしろ生物系大学院以上の学生やリサーチ指向の医師の教科書としてふさわしいと思われる。ちなみに,本書の内容が筆者の研究室の研究内容・方向性とほぼ一致することから,博士課程1,2年次の院生が週1回の輪読会の資料として用いているが,多くの図表が掲載され且つ将来展望が明確な本書第3版への彼らの支持は絶大である。初心者にとって分子遺伝学はややもすると食わず嫌いの傾向がある。その理由の1つは専門用語であるため,巻頭の略語集および巻末の用語解説は分子遺伝学の理解に非常に役立つであろう。

 本書はゲノム医学の成果をふまえたうえで将来の方向性を示したすばらしい教科書である。全体像を眺めてほしい生命科学専攻の大学院生や医師,そして研究者にもぜひ薦めたいヒト分子遺伝学の最良の一書である。

A4変・頁812 定価11,550円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/