第2669号 2006年2月6日


医療紛争ゼロをめざし,研究会が発足


 医療事故はゼロにできないが,紛争はゼロにできる――。さる12月4日に札幌で開催された「医療事故・紛争対応研究会」主催のセミナーで,講師の前田正一氏(東大)は医療事故の解決に向けた取り組みの重要性をこう強調した。

 前田氏は,2002年から九大大学院にて,医療事故対応の人材養成に着手。その修了生らが中心となって2005年10月に発足したのが,「医療事故・紛争対応研究会」だ。定員の倍近くとなる268人(内訳:医師27,看護師153,コメディカル41,事務47)が参加した同セミナーのもようを報告する。


 セミナーの冒頭では,医療事故の法律問題と事故への対応について前田氏が解説した。医療事故が起きた場合,最大20年後まで法律上の責任が問われる可能性がある(民法709条に基づく場合,不法行為時より20年)。「言った(説明した)・言わない(聞いてない)」の争いとなった場合,過去の判例では「記録に何が書いてあるか」が問われており,適切な記録等の記載と保存が重要であると指摘した。

事故報告は15分以内に,説明後の同意は時間をかける

 また,不毛な紛争や訴訟は,被害者である患者を苦しませるばかりではなく,医療者の臨床意欲さえ喪失させることから,事故後の適切な対応の必要性を強調した。前田氏らが九大病院で医療事故対応を担っていたころは,「事故を起こしたことは責めないが,報告を遅らせるのは故意なので処分(事故報告は15分以内が原則)」とし,現場へ早期報告を求め,それに基づき(1)真相の究明,(2)説明,(3)謝罪,(4)再発防止の取り組み,の4点を徹底的に進めたという。その経験に基づき,氏は「医療事故はゼロにできないが,紛争はゼロにできる」と強調した。

 病院のリスクマネジャー2名による事故防止策や発生時の対応に関する報告を挟み,後半では再び前田氏が,インフォームド・コンセント(IC)の法的要件と説明・同意書の具体的書式を説明した。テレビドラマ『白い巨塔』を例に,“医療行為に誤りがなくても,十分な説明をしなかったことで敗訴になる”可能性に言及した(これは説明の適否を問う「IC訴訟」と呼ばれる)。

 現状では,「リスクは説明されていても,その発生率が記載されていない」「代替可能な医療と,そのリスクが記載されていない」など不十分な説明書が多く見受けられる。東大病院では,1年半かけてすべての説明文書を見直し,発生率1.0%以上のリスクは文書に盛り込んだという(氏の考える理想は「0.1%以上」とのこと)。

 しかし,医師からの説明があっても,患者がそれを理解していなければ真の同意とは言えない。患者の理解を深めるための努力として特に強調したのは,「説明から同意までに可能なかぎり時間を取ること」。前田氏らが実施した調査によると,説明直後に同意のサインを求める病院が約6割にのぼったという(N=854)。では,高齢者など理解力の有無の判断が難しい場合はどうするか。その場合,「患者の同意能力について,複数の医師で判断し,その過程を記録しておくことが重要」と助言した。

 最後は,実際の裁判事例を改変した題材をもとに,グループディスカッションを行った。北海道立羽幌病院で起きた事例などを引き合いに出し,治療の中止と代諾の問題にも触れ,「どこの医療機関でも起こり得る切実な問題。リスクマネジャーらが必要な知識を学んでほしい」と訴えた。

 

 今後,「医療事故・紛争対応研究会」では,こうした地方セミナー(次回は3月25日広島で開催)のほか,オンラインジャーナルの発行や人材養成のための講座を開催。医療事故・紛争の解決に向けた活動に取り組む予定だ。
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