医学界新聞

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第13回〉
看護の実力

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

“しかるべき”ナースの紹介

 外部の方から医療・看護や介護について相談を受けることがある。筆者が看護部長・副院長として勤務していた病院に受診したいがどうしたらよいかという依頼もある。そんな時,私は“しかるべき”ナースを紹介することにしている。

 友人A(彼女もナースである)は,会議のため上京してきたが,あいているわずかの時間に泌尿器科を受診したいという。それならば泌尿器科外来にいるBナースを尋ねていくとよいと伝え,あらかじめ彼女に電話をしておいた。Bは,「あなたの病状にはC医師がよいが,今,彼は手術に入っている。いくつか検査を先にすませておいて,あなたの会議の都合のつく午後2時ごろに診察ができるように手配をしておくので来院するように」と説明した。友人Aは,ナースの対応がとても感じがよくほっとしたと言う。ナースが相手のニーズを聴き,自分の判断を伝え,医師の動きも調整していると。

 知人Dは父親を在宅で介護をしたいがどうしたらよいかと訪ねてきた。父親は入院中であり疼痛コントロールが必要であった。私は訪問看護科に連絡して担当の訪問看護師Eに退院調整を依頼し,疼痛コントロールの専門看護師Fにも協力を依頼した。知人Dは,EやFと何回か面談し,父親の在宅での生活を整えることができた。

 知人Gはキャリアウーマンであるが,少々マタニティブルーであった。2人目の妊娠であったが大学病院の産科をやめて転院したいと言ってきた。私は産科外来のナースHに連絡し,しかるべき医師を紹介してもらった。本学の研究センターで開催している「赤ちゃんがやってきた」クラスにも知人Gは長女をつれて参加した。外来通院の際,ナースHといろいろ話をすることができ,メンタルヘルスは回復した。そして12月半ば,無事に男児を出産した。

 知人Iは銀座でレストランを営んでいる。手の爪が変形しているのでお客の前に手を出すのがはばかれるという。私は皮膚科外来ナースJを紹介した。知人IはさっそくJを訪ねて適切なアドバイスをもらい,しかるべき医師の診察を受けることとなった。

 彼ら相談者に共通なことは,ナースをきちんと名前で呼ぶことであった。

実力あるナースを育てる2つの経験則

 『ナースマネジャー第2版』(JB.Pugh, M. Woodward-Smith著,井部俊子訳,日本看護協会出版会,2001年)第12章は,「必要なことは,あなた自身が何を知っているかではなく,あなたが知る必要のあることを誰が知っているかを,あなたが知っていることである」と述べている。

 ナースは現場で“本当のこと”を知っている。本当のこととは,その人にとっての病気の検査や治療のことであり,医師の実力であり,ひとびとの気持ちであり,毎日の暮らしの中でどうやっていけばよいかであり,病院の中で誰を動かすと患者のためになるかである。いわば人間的知識とも言うべきものである。

 ここで大切なのは,こうした実力を持ったナースを看護管理者はどのように育成するかである。私の経験則は2つある。

 ひとつは,適切で十分な権限の委譲である。最前線で医療・看護サービスを提供しているナースは知識労働者であるとの認識を持ち,自らの判断を伝え実践することを奨励すべきである。ナレッジ・マネジメントは日常業務の中にある。

 ふたつ目は,むやみに配置換えをしないということである。ある領域のエキスパートになるにはそれ相当の年月が必要である。実力のあるナースはその領域で,医師にも影響を及ぼし現場を変えている。本当のチーム医療を実践するために,患者をもチームメンバーとするナースリーダーシップがある。

 新年度を迎え,看護師長やスタッフの配置構想を練っている看護管理者の成功を祈りたい。

次回につづく