医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第11回]上司との付き合い方
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 7Aで10年勤めた冨田副師長が,異動することになりました。スタッフにとって,母親,時に父親のような存在でした。


今回の登場人物
冨田美津枝(7A副看護師長),大塚和恵(4年目),川崎久恵(7年目)。

9/29 ●サヨウナラメッセージ・冨田
 心配したくなるほどまじめで笑顔のかわいい大久保さん。一生懸命仕事している姿はホントーに好感持てます。しっかり大久保さん独持の雰囲気,かもしだしているよ。辛いこともあると思うけど,このまま素直な気持ちを持ったまま頑張ってね。

 今日の深夜で,寺田さんがTさんに採血させてもらえなかったそうですが,先輩の監視つきならOKとやっと採血させてもらえたそうです。寺田さんは2年目。一生懸命頑張っているけど時として患者さんとの関係で辛いこともあるわけです。

 日勤でTさんと話しました。「僕だって皆に面倒みてもらうわけだし,意地悪するつもりはないんだよ。でもネ,最初の時失敗していたし,今回もか……という思いがあって不安に思ったんだよ。でも緊張しながらうまくできたよ。ダメと言った時,どんな対応してくるかと思っていたらもう一度来て採血させてくださいって言ったもん。あの子は根性あるし大丈夫だ。皆こうして成長していくんだよ」とおっしゃっていました。失敗したり,気まずいことがあった時のその後の対応の仕方をしっかり教えていただいた事例です。寺田さんが今度Tさんの所に行ったら,オー来たか,頑張れよ! くらいの気持ちで接してくれると思います(だから寺田さん,自信持って笑顔で接してあげてね)。

 ……ということを大久保さんにもわかってもらいたくこんな話を書きました。末松というりっぱな私の自慢のプリセプターがついているので安心ですが,見ているとまだまだ不安なんだなーと思うことがあるので,みんな声をかけてあげてね。大久保さんはBチームの末っ子です。各々のお姉さんたちがしっかり見守り,育ててあげてください。不良にでもなっていたら「許せねー」と寝技なんかかけたりするかもしれないよ。

 それから健康第一。女は美しく,輝けるよう日々努力が必要です。時々,異動先の5Aより転入患者を連れて申し送りにきます。ビシバシダメ出しするから要注意人物だよ。Bチームの皆さん,楽しくおもしろく真剣に仕事できたと思っています。今のところ人生に悔いなし。これからも頑張るよ。ありがとう。

10/1 ●大塚
 冨田副師長さんのメッセージ,泣けました。10月からいないと思うと,すごく淋しい……けど,これからが正念場・ みんなで力を合わせて,7Aのよさを7Aらしく持ち続けていきましょう。

 この前の飲み会で,大久保さんにこっそり聞きました。「末松さん怖い?」って。その答えは「厳しいこともあるけど,怖くはない」でした。「末松さんは3年目と思えないくらいすごいです」だって(大久保さん,許可なく書いてごめんね)。しっかりプリセプター,プリセプティしているなぁって思いました。末松さんが全力で大久保さんにぶつかって,大久保さんがそれを返して初めていい関係ができるんだと思います。2人とも頑張れ!!

10/8 ●川崎
 久しぶりに記入します。冨田副師長さんが7Aから旅立ってしまい,あの副師長さんにしかできなかった役割を誰がどうやって受け継いでいくんだろう~って,いろいろ考えていました。

 先日,師長さんと面談しました。初めてでした。大久保さんをはじめ,師長さんの役割って知っていますか? 知らなくても,考えたことありますか? スタッフが働きやすいように物品の管理をすることもあるけれど,スタッフのことも,把握している人です。……でもね,こんな一行じゃ書き切れないんだわ。

 仕事観を深めていくために,Nsの先輩として相談することも可能です。行き詰まった時に頼るのも1つの選択肢です。そのために,面談という場が利用できるんだと思います。今回は,私から「スタッフと面談するように。面談も進路のことだけじゃなく,他のことも話して充実感が味わえるように」ってお願いしました。師長さんもとても忙しいので,すぐには始まりませんが,皆さんも面談の順番がくると思っていてください。そして,師長さんに刺激されるだけじゃなくて,スタッフとして,師長さんの仕事観・看護観も刺激してください。

 上司も先輩も,完璧を求めてはダメです。相手を辛くさせます。でも,方法によっては,その人の向上心などを刺激する力にもなり得るんです。今まで師長とコミュニケーションが不足していたけれども,「私は1年目だから……」なんて,尻ごみすることなく,上司を,先輩を,コミュニケーションで刺激していきましょう。上→下じゃなく,上⇔下のやりとりが滞りなく続いていくように,私たち1人ひとりが意識しなくちゃ,7Aはダメダメになっちゃう。

 長々となりましたが,冨田副師長さんは確かに永遠に私たちの上司です。でも,これから先は,そばでみていてくれるわけではありません。間接的にしか7Aを応援できないわけです。新しくきた山本副師長さんは,お母さん的雰囲気&力を持っているけれど,いきなり今まで通り冨田副師長さんの役割を求めるのはスジ違いです。違う人間ですから。

 ……何を言いたいかというと,みんなで7Aをもりあげる,師長・副師長を助けていって,言うべき時に言う・ コミュニケーションをとっていく,1年目でも尻ごみしないってことです。

 あー,1ページ使ちゃったよ,大久保さんのノートなのに。でもね,上司との付き合い方,「使い方」っていうのは,知っておかないと,後々困っちゃうからね。それから,私が上司だったら……って考え方も,しておくべきだね,誰でも。いつでも。師長さんの肩を持つわけではなく,これまで師長さんに言わないできちゃったことが,あんまりよくなかったと思うんです。みんなに自分たちの弱点を知ってもらいたくて,記入しました。みんな読んでね,考えてね,感想聞かせてね,よろしくね。おわり。

冨田 大久保さんは入職から6か月が経ち,独り立ちしていますが,一生懸命さがひしひしと伝わってくる時期でした。そんな大久保さんから2年目の寺田さんを見れば,安定しているなぁと思えたかもしれませんが,2年目になってもこんな思いで頑張っているんだよということをわかってもらいたかった。そして,寺田さんには“拒否された時は辛かったでしょうけど,あなたのとった行動はよかったんだよ。頑張っているね”というメッセージでした。10月から異動が決まり,病棟での関わりが途絶えることは残念でしたが,後は皆で育ててね,という思いでした。

 新人の時から関わってきた川崎さん,四方田さん,大塚さん,末松さん……各々が1年毎に成長し自分の役割をしっかり認識して動けるようになりました。本当によい病棟,よいチームが築けたと思います。長年勤めた病棟を去る時はどんなに寂しいだろうと想像していましたが,やりたいことはやった,もう私がいなくても大丈夫,と意外に晴れ晴れとした気持ちになりました。

 看護に対する私の思いは日々,様々な形で伝えてきました。その分,皆からどれだけたくさんのことを学ばせてもらったことか……それが私の財産であり自信です。感謝の気持ちを込めて,がんばれノート最後の記載でした。

大塚 病棟の要である冨田副師長が異動となり,7Aに激震が走りました。副師長はスタッフに大いなる愛情と厳しさを持っていましたので,みんながこの先どうなるのかと思っていました。7Aのよさを失くしてしまわないように奮起しようとしていました。

 そんな中,7Aのよさを1つ見つけた気がしました。後輩への愛情と厳しさ,そして一方的ではなく相手もしっかりと返す相互関係です。2人のことを取り上げたけれど,このノートを読むスタッフみんなにも何かしら伝わればいいなと思っていたと思います。

川崎 私も冨田副師長のもとで育ってきました。自分の役割が大きくなる中,参考にしていたのは副師長の態度でした。

 9月の師長との面談で,仕事をするのに看護観だけではなく,仕事観も管理観もお互いに理解しようとする姿勢が必要だと思いました。誰でも誰かに引っ張ってもらえるほうが楽です。でも自分たちのことを誰かだけに任せていては活気が出ません。大黒柱がいなくなってしまった時だからこそ,どうやっていい方向に持っていくかの意思表示が必要だと思いました。がんばれノートはスタッフ全員が目を通すし,残るものだから,大久保さん宛てというより,スタッフ宛てのメッセージとして記入しました。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。