第2645号 2005年8月8日


《シリーズ》
腫瘍内科
-がんをトータルに診る時代
監修  勝俣範之
( 国立がんセンター中央病院第二通院治療センター医長 )

第 4 回
〈 インタビュー 〉

一般病院における腫瘍内科の取り組み

有岡仁 ( 横浜労災病院・腫瘍内科部長 )


2628号よりつづく

 腫瘍内科の普及に伴い,今後,一般病院においても腫瘍内科が新設されることが予想されます。横浜労災病院では5年前に腫瘍内科を開設,以来,一般病院の腫瘍内科としてがん診療に取り組んでいます。そこで今回は,同院腫瘍内科部長の有岡仁氏に,腫瘍内科運営のポイントについて伺いました。


――まず,腫瘍内科開設の経緯からお話しください。

有岡 当院腫瘍内科は今年の3月まで院長をお務めになった阿部薫先生(元国立がんセンター総長)の考えで開設されました。

 多くの病院と同様,当院でもがん診療は臓器別に行われていました。しかし阿部先生は,一般病院にもがん診療を臓器横断的に行う腫瘍内科医が必要とお考えになり,候補を探されたようです。私にも人づてにお話があり,かなり悩みましたが2000年7月に当院に赴任しました。赴任当初阿部先生には,まずは乳がんの診療から始めてほしいと言われました。

 私は元来呼吸器内科医で,特に肺がんを主体に診療していましたので,乳がんはまったく診たことがありませんでした。ですから赴任当初の1か月間は,国立がんセンター中央病院乳腺・腫瘍内科に当院から派遣という形で研修を受け,実質的には8月からこちらで仕事をしています。

外科とのスムーズな連携

――では次に,がん診療の流れについてお願いします。

有岡 乳がん診療に関してお話ししますと,私の仕事は腫瘍内科医としての治療が主体であり,診断には携わっていません。診断は主として当院の外科が行っています。外科には乳がんに力を入れている医師がおり,彼が中心になって欧米で使用されているガイドラインに基づき,外科としての治療方針を決めています。

 ですから,外科では乳がん治療の大まかな方針は各医師に共有されています。術前・術後に化学療法を必要とする方,再発がんや進行がんの方は,当科に紹介されることになります。

 外科が担当するのはまず患者さんの診断から手術までです。化学療法の際は一時的に患者さんの治療の主体が内科に移り,終わったらまた外科医が術後のフォローをします。再発がなければそのまま外科でフォローされ,再発すればその時点で当科に紹介されます。術後の補助療法の必要のない方やホルモン療法のみ行われる場合は当科には紹介されず,外科で継続診療となります。ですから,外科医は診断から手術,術後のフォローを行い,それ以外は腫瘍内科という分業体制になっています。術前・術後治療の臨床試験に参加された患者さんのフォローは外科と当科の両方で行います。

――術前化学療法の場合,診断がついて早い段階で紹介がくるわけですか。

有岡 温存術希望で術前に化学療法を,という方の場合は,診断がなされたところで紹介されます。その時点で画像診断や生検結果など必要な情報はすべて得られています。その後,当科で術前化学療法を行い,治療終了後効果判定のための画像検査を申し込んだところで,また外科に戻っていただき手術の計画を立てることになります。

――患者さんのご希望も反映させたうえでの,最初の治療方針の決定は外科と腫瘍内科合同で行われるのですか。

有岡 少なくとも乳がんに関しては集学的なカンファレンスがやはり必要だと考えています。乳がんは患者さんも多いですし,術前治療の適応の有無,患者さんのご希望はどうか,などを話し合う場は必要だと思います。しかし現在,当科と外科のカンファレンス日が重なっており,互いに参加できません。ですから今は外科のドクターから私に直接,「こういう患者さんがいるのでよろしく」という形で紹介されますが,何らかの形で合同のカンファレンスを持つための相談はしています。

 公的な検討会はありませんが,双方の風通しはよく,何かあったら互いにすぐに相談したり,院内ですれ違った時に「こういう人がいるのだけれど,紹介していいか」と話したりします。

――風通しのよさは大事ですね。

有岡 そうですね。こちらも気兼ねなく相談でき,助かっています。例えば本来は手術適応ではないけれど,姑息的な手術の必要はないかとか,特殊な手技で内科ではできないからと,外科の先生に診察の依頼をすることもあり,そういう場合も電話1本で受けてくれます。お互いに頼んだり,頼まれたりしやすい関係です。私が考えていたイメージとは,ずいぶん違いました。

――考えていらしたイメージとは?

有岡 各科の敷居がもっと高いのではないかと思っていました。「自分たちで薬物治療もできるから,十分間に合っているよ」という感じかなと思っていたのですが,まったくそれはありませんでした。

――それはやはり,腫瘍内科を立ち上げる際に,トップダウンで始まっていることの影響が大きいのでしょうか。

有岡 それもありますが,外科は外科医ならではの仕事を最優先するという考えが,当院外科にはあるようです。乳がんに限らず,胃がん,大腸がんも,再発された患者さんについて当科に相談があります。

急性期病院の腫瘍内科として

――腫瘍内科医として赴任され,診療していく中で困難や,やりにくかったことはありましたか?

有岡 いろいろありました。1つには,当院は――一般病院はどこもそうでしょうけれども――特にがんに主眼をおいた,がん中心の病院ではないのです。救急車の受け入れが横浜市でトップクラスの急性期病院です。急性疾患の患者さんを診断・治療し,短期間で退院していただくことを大きな目標としている病院です。がん患者さんが多く入院している,地域の中核病院とはいえやはり急性期志向の病院なのです。

 ですから,私の希望がすんなり通ることはありません。例えばがん患者さんが多いから緩和医療を充実させて,なんとかホスピスを開設できないかと働きかけているのですが,なかなか実現しそうにありません。

 腫瘍内科医として私はがん診療を第一に考えますが,病院総体として考えれば,やはりがんは主力の中の1つでしかないわけですから,そこの考え方の違いはあります。

――なるほど。人員の面でも,そういったことはあるのでしょうか。

有岡 いちばん悩ましいのはそこですね。私は肩書きこそ部長ですが,ただ1人の腫瘍内科医です。ですから,腫瘍内科の守備範囲にも限りがあり,今は乳がんと胃がん,大腸がんの診療から外には出ていけません。今後,患者さんは増えることはあっても,減ることはないでしょうし,なかなか手を広げていけないというのが悩みです。

 ただ,1人でできる範囲でも,できることはやっていこうと思います。例えば,今は外来化学療法がごく当たり前の治療になりつつありますが,当院で薬剤部が抗がん剤を調製して外来化学療法が普及したのはこの数年です。点滴治療をする外来の場所も工事をして徐々に充実してきました。

 赴任した時に外来化学療法をもっと増やしたいと言っていたのですが,新しいことは医師だけがやろうと言っても無理です。外来の看護師や薬剤部に支えられ,他科の理解を得なければ進まないことですから。その1つひとつを段階を踏みながらやってきて,やっと今,ほとんどの科で外来化学療法ができる体制になりました。

――外来化学療法での,薬剤の変更の判断は,どなたがされるのですか。

有岡 それぞれの担当医がします。当科では私がしています。乳がんでも治療内容の変更に関して外科医に相談することは,まずありません。患者さんからも,化学療法の専門医が治療を担当することを喜んでもらえることがあります。最近,テレビにそういう話題が出たりしますからね。

スタッフのモチベーションを大切に

――腫瘍内科を新設された時,看護師や薬剤師などコメディカルスタッフの方々に,腫瘍内科やがん診療についての教育はされたのですか?

有岡 赴任当初は,腫瘍内科での化学療法は病棟だけでしたので,「これから,こういう患者さんを対象にこういう治療をやるから,こういった副作用に気をつけてほしい」というようなことを最初に病棟で説明しました。

 それから,やはりup-to-dateな治療の情報は必要ですので,外来では不定期に私が講義をしています。新しい治療のレジメンを始めると,「これ何?なんでやるの?」と聞かれますから,「こういう治療でこういう報告があったので,やります」という話をしています。わからないままやるのと,「なるほど」とわかったうえでやるのではサポート体制がまったく違いますから。依頼があれば薬剤部でも,最新治療の講義をすることもあります。本当は依頼がなくてもしたいのですが。

 看護師さんや薬剤師さんの中にも,がんの治療やペインコントロールに興味を持っている人がいます。がんやがん患者さんに関心を持っているコメディカルの人たちはどこの病院にも,必ずいると思うのです。そういう人たちを見つけて,協力してもらいながら,体制の充実を図っています。不定期に緩和医療の勉強会もやっていますが,そこにも看護師さんや薬剤師さんが参加してくれます。興味を持っている人のモチベーションを維持していきたいですね。

――そういった人たちの協力は心強いですね。

有岡 はい。私1人で何かを始めようと思っても限界がありますし,日常の診療の片手間では十分にできないことがたくさんあります。

 今まで勤務した施設では,すでにできあがった環境に自分が入っていくだけでしたが,ここで腫瘍内科を自分1人で始めることになって,周囲の協力がいかに力強い大切なものか初めてわかりました。

変えられるところから,少しずつ

――現在,他の病院でも腫瘍内科を創ろうという試みがなされているかと思いますが,腫瘍内科を新設するうえで,大事なこととはなんでしょうか。

有岡 一般病院で新設するのであれば,当院の例のように,病院長がトップダウンで「このポストと設備を用意して腫瘍内科を創る」と,リーダーシップを発揮して始めていただきたいと思います。いくら世のニーズがあって,下から「必要だ,必要だ」と叫んだとしても,なかなか実現はしません。病院トップの先生方に「こういう仕事は重要だ」という認識をしていただかないと実現は難しいと思います。わが国ではあまり前例のない診療科ですが,始めることに意義があるのではなく,いかにスムーズに軌道に乗せて和風の,あるいはその施設に合った腫瘍内科とするかまでサポートしていただきたいですね。

――では最後に,これから新設される腫瘍内科で奮闘される先生へのメッセージをお願いします。

有岡 「初めから周囲とぶつからないこと」ですね。私がここへ来た時も,外科をはじめとして周囲が,本当にすんなりと受け容れてくれたわけではないと思います。今まで自分たちがやってきた仕事の一部分を奪われるとか,批判されるかもしれないなどの懸念があったかもしれません。

 私は自分の求めるがん医療像を持って当院に来たわけですが,それをそのまま,すぐに実践はできないわけです。だからといって自分の考えていることが正しいとか,このほうが理に適っているからこうすべきだ,ということを声高に主張しても,受け容れられないでしょう。自分にはベストでも,施設には不適切かもしれません。「郷に入れば郷に従え」ではないですが,そこでのやり方にまず自分から入っていき,それから少しずつ自分の考え方を提案していって,受け容れられれば,それを取り上げてもらう。受け容れられなければ,またしばらく待つしかない。そうするうちに堂々とぶつかることもできるようになるでしょう。

 そうやって変えられるところから,だんだん変えていくしかないと思ってやってきました。ぶつからないというより,尊重し合うということですね。時間はかかるかな,という気がします。

 一部分であっても病院のシステムを変えるということは,かなり大きなものを動かすわけですから,相当の時間がかかります。いちばん大事なのは,システムをどうやってうまく変えて,よりよく動けるようにし,それを患者さんに還元するかだと思います。それをどの方向に向けるか,リーダーシップをとるのは腫瘍内科医であるべきだと思います。

――非常に重要なご指摘だと思います。ありがとうございました。

次回につづく


有岡仁氏
1985年札幌医大卒。国立病院医療センター(現・国立国際医療センター)での研修を経て,92年国立がんセンター中央病院がん専門修練医,94年国立がんセンター研究所リサーチレジデント。97年から帝京大助手を務め,2000年横浜労災病院腫瘍内科副部長,04年より現職。