医学界新聞

 

インタビュー
「3つの言語」に通暁した医療者に

高階經和氏(臨床心臓病学教育研究会理事長)に聞く


 看護師,研修医を中心に,長年にわたって絶大な信頼を寄せられてきた心電図の臨床的教科書『心電図を学ぶ人のために』が今年4月,改版(第4版)された。また,6月には看護師のための心電図トレーニングブックである『心電図道場』が刊行。著者である高階經和氏に,両書の特徴と心電図を学ぶ際の心構え,さらには9-10月に予定されているセミナーへの抱負を伺った。


「日常語」が一番大切

――臨床では,心電図に自信がなく,不安を持ちつつ業務を行っている看護師も少なくないと思います。初めに,心電図を学ぶ際の心構えについてお聞かせください。

高階 本の中にも書きましたが,臨床には「3つの言語」がある,というのが私の長年の持論です。患者さんと話をする時に使う「日常語」,顔色,熱,身体症状などから読み取る「身体語」,そして最後が,検査などで読み取る「臓器語」です。心電図というのは,この「臓器語」の1つに過ぎない,ということを忘れてはいけません。

 臨床にかかわる人間は,医師,看護師といった職種にかかわらず,この3つの言語に通じていなければいけません。特に「日常語」によって患者さんから得た情報を大切にしてほしいと思います。単に心電図だけを学ぶのではなく,その患者さんの診療における一連の流れの中で,「なぜこうした心電図の変化が生じるのか」を考えながら理解することをめざしてください。

心電図の“トレーニングブック”

――『心電図を学ぶ人のために』は,すでに20年以上の支持のあるロングセラーであり,その内容についてご存じの方も多いと思います。一方,今回刊行された『心電図道場』は,どのような位置づけなのでしょうか?

高階 臨床で日々心電図を読んでいるとはいえ,看護師の皆さんが何もかも理解されているわけではありません。

 そこで,雑誌上で「心電図道場」と題した特集(特集『博士と5ナースの「心電図道場」』,看護学雑誌,Vol.68 No.5)を組んでみようということになったのです。これは現場の看護師の皆さんに実際に心電図を読んでもらい,それに対して私が解説,コメントを加えるというものでした,これが非常に好評だったらしく,今回,その内容に加筆を行い書籍として刊行することになったのです。

 心電図には簡単なものから難しいものまであるわけですが,実際に臨床の看護師さんが簡単な心電図,日常よく目にする心電図をどの程度読めるのかというと,完全に読みこなす人というのはそれほど多くありません。

 しかし,看護師は患者さんと接している時間も一番長いし,モニターを眺めている時間も長い。心電図を読み,患者さんの観察から得た情報と合わせて判断するチャンスも多い。そういう意味では,心電図を読むトレーニングを重ねる意義はむしろ医師の場合よりも大きいと思っています。

 『心電図道場』は,臨床の現場におられる方々にお答えいただいたおかげで,教科書的ではない,臨床ならではの切り口で心電図を読む練習ができる本になったと思います。単なる知識ではなく,「臨床での心電図の読み方を身につける内容」となりました。

心電図の「意味」を理解する

――9月にはその「心電図道場」に関するセミナーを,また10月には医学書院看護学セミナーにご登場いただく予定となっています。この2つのセミナーについてもご紹介ください。

高階 心電図を読むというのは,先にお話ししたように3つの臨床言語をベースにしたうえで求められる技術です。そのように位置づけると初めて,心電図が「意味」を持つようになるのです。ただ単に形を覚えるといったパターン認識ではなく,1つの所見には意味があり,その意味を考えていくプロセスが大事だということですね。

 9月のセミナー「心電図道場」では,本の中で行われているような看護師の皆さんとのやりとりの内容を実際にその場で再現するような形式で,講義をしたいと思っています。いくつかのケースを出し,それを実際に参加者の皆さんに読み解いてもらうことになると思います。そうした中で,参加者の皆さんには所見の意味を見いだすプロセスを共有してもらえるとうれしいですね。

――10月のセミナーはどのような内容でしょうか?

高階 こちらは,9月の「心電図道場」と比べると時間も短いですから,臨床でよく見落とされる不整脈に焦点を絞ってお話をしようと思います。ここでも症例を出し,具体的なケアにつなげていくような話にしたいと思います。

 また,不整脈では,重大なものかそうでないかの見極めが大切です。上室性か,心室性か,その中間か。やはり心室性のものは一般に予後がよくないと言われていますから注意しなければいけないポイントですね。

 いずれにしても,最初に述べた3つの臨床言語をきちんと学び,そのうえで心電図を学んでいくことが大切です。このことはどちらの本でも強調していますし,セミナーでもそのことを強調していきたいと思います。

 私も臨床医として51年になりました。そのキャリアのなかで学んだことを皆さんにお伝えできればと思います。ともすれば「臓器語」ばかりに通暁するのが専門職だと言わんばかりですが,日常語,身体語,臓器語のすべてに通じ,シャーロックホームズのような柔軟な思考で医療を行うことをめざしてほしいと思います。

 そして,そうした多面的なものの考え方ができると同時に,心の中に優しさがなければならない。これは,医師であれ看護師であれ,同じことです。

――9月以降のセミナーが楽しみです。ありがとうございました。


高階經和氏
(社)臨床心臓病学教育研究会理事長。神戸医大(現・神戸大医学部)卒業後,米国陸軍病院インターン研修を経て1958年からチューレン大学医学部で臨床心臓病学を学ぶ。62年の帰国後,淀川キリスト教病院,神戸大などを経て85年より現職。心臓病患者シミュレータ「イチロー」を開発し,臨床心臓病学教育に新しい分野を開いた。2004年には念願の国際医療教育センター「アジア・ハート・ハウス」を大阪に設立。後進の指導に取り組んでいる。主著『心電図を学ぶ人のために』『心電図道場』(ともに医学書院),『もう一人の「イチロー」物語』(東洋出版)ほか多数。