医学界新聞

 

「疲労の科学」確立をめざして

第1回日本疲労学会開催

 「慢性疲労症候群(CFS)研究会」「疲労研究会」「文部省疲労研究班」などが母体となり,疲労全般に関する研究発表,知識の交換の場として「日本疲労学会(Japanese Society of Fatigue Science)」が本年4月に発足し,その第1回総会が橋本信也会長(日本医師会常任理事)のもと,さる6月4-5日の両日,慈恵会医科大学(港区)において開催された。同学会は「生理的疲労,病的疲労,慢性疲労,産業疲労などの疲労全般を科学的に扱い,学術の発展や医療の質の向上に寄与する」ことをその設立趣旨に掲げており,本総会においても「疲労のメカニズム」「慢性疲労症候群」「小児の慢性疲労症候群」「過労と過労死」「抗疲労戦略」などのシンポジウムが企画され,多面的なアプローチが試みられた。


「疲労の科学」とは?

 ストレスの多い現代社会において,「疲労」は非常に身近な問題であり,仕事の能率を落とすだけでなく,過労死や生活習慣病などのさまざまな疾患につながることも大きな問題となっている。また,慢性疲労に悩む人が多いにもかかわらず,科学的・医学的研究はこれまで断片的であった。しかしここ数年,疾患の予防医療・予知医療の発展とともに,このような未病にいかに対処するかという気運が高まり,「疲労の科学」に目が向けられるようになった。

 このような状況を背景に,シンポジウム「疲労のメカニズム」(オーガナイザー=阪市大・渡辺恭良氏)では,「ヒト疲労の脳神経メカニズム」「睡眠と疲労」「自立神経異常と疲労」「中枢神経性疲労モデルラットの脳内分子神経システム」「疲労の動物モデルと分子神経メカニズム」「過労が脳下垂体におよぼす影響-過労モデルラットでの解析」「免疫学的疲労とセロトニン神経系」などの視点から最新の知見が発表された。

 渡辺氏はその中で,「感染性の疲労,精神ストレスによって起こる疲労,運動性の疲労に共通して働くメカニズムがあり,まったくすべてが同じメカニズムということではないにせよ,どこかで疲労を感じる神経回路があり,そこにさまざまな修飾がおよんでいるものと思われる」と指摘。そして,「この神経回路は意欲,達成感,報酬などの中枢とも密接に関連し,また,睡眠・日内リズムの中枢とも密接な交流がある。痛みの研究では,痛みを忘れるぐらいに物事に熱中している時の脳内の活動を調べて,このような修飾系の入力についても判明しつつある。このような考えに立てば,近い将来,疲労感の神経回路についてもさらに理解が進むものと考えられる」と今後の研究の方向性を示唆した。

慢性疲労症候群の病因・病態

 慢性疲労症候群は,それまで健康に生活していた人に原因不明の強い全身倦怠感,微熱,頭痛,筋肉痛,精神神経症状などが起こり,長期にわたり,健全な社会生活が送れなくなるという病気であり,CDC(米国疾病対策センター)によって1988年に提唱された比較的新しい疾病概念である。

 シンポジウム「慢性疲労症候群」(オーガナイザー=関西福祉科学大・倉恒弘彦氏)で倉恒氏は,1999年に厚生労働省研究班が一般地域住民4000名を対象に行った「59.1%の人が疲労を感じ,その半数の人では半年以上続くか繰り返しており,自覚的な作業能力が低下している」という結果を紹介するとともに,「慢性的な疲労の診療はプライマリケアを担っている医療機関のみならず,経済的損失という観点からも大きな社会問題となってきている」と警告した。

 また病因に関する研究については,これまでのウイルス感染症説,内分泌異常説,免疫異常説,代謝異常説,自律神経失調説に対して,「このような異常の多くは独立して存在しているのではなく,お互いに密接に関連して神経系・内分泌系・免疫系の異常につながっている可能性が考えられる」として,「慢性疲労症候群の本体はサイトカインの異常によって引き起こされた脳・神経系の機能障害である」という仮説を紹介した。

「慢性疲労症候群診断基準」の変遷と問題点