医学界新聞

 

連載全4回

USMLE最近の動向
Step2CSを中心に

第1回 様変わりするUSMLE

松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)


 時代とともにUSMLEは大きく様変わりしている。1998年のCSA導入や試験のコンピュータ化に加え,2004年からはStep2CSという臨床実技試験がCSAに取って代わった。CSAが外国人医師のみを対象とした試験であったのに対し,Step2CSは米国人医学生もその対象となる。採点基準は大幅に変更され,米国人を含んだ相対評価になるため,私たち日本人にとってはより困難なハードルとなったように思われるが,実際はどうであろうか? 本連載では4回にわたって,USMLE,特にStep2CSの特徴と対策について解説する。


米国医師事情と様変わりするUSMLE

 近年,政策上の理由により米国では外国人医師に対しその門戸を狭める傾向にあるようです。世界貿易センターテロ事件以降は,外国人に対するビザの発行が困難になり,また各国の政治・経済事情を反映して最近の外国人医師の渡米数は著しいものがあります。それらを理由に私たちの父の代と比べると,米国でレジデントになるのはかなり難しくなった,と一般的に言われていますが果たしてそうでしょうか。NRMP(National Residents Matching Program)の発表するレジデント動向に関する統計上の数字をみる限り,そのようなことはないように感じます。「困難になった」とはいうものの,各科による違いはありますが,多い科では毎年20%が外国人医師で占められています。内科,小児科,そして家庭医学は,われわれには広き門のようですし,近年の医師保険料の上昇や訴訟の増加を反映して,以前は外科同様に狭き門であった産婦人科も,敷居が低くなりつつあるようです。確かに米国医学生に人気を博す外科,放射線科,救命救急,麻酔科,そして近年その傾向の病理学等は,外国人医師にとっては狭き門のようですが,必ずしも米国行きは困難になったとは言い切れないと思います。

 私は1年以上にわたる準備の末,ようやく米国医師免許証(ECFMG-certificate)を取得しました。私の父が同じように取得してからはおおよそ30年以上も経ちます。父の話によりますと,当時は米国の医師不足を背景に,数多くの先生が米国医師免許証を手に海を渡ったと聞いています。それから四半世紀以上も時が経ち,その当時筆記のみであったUSMLEの内容も大きく様変わりしました。第一に,筆記試験はコンピュータ試験に取って代わられました。コンピュータ試験の大きな特徴は,受験者の理解レベルに合わせてコンピュータが問題の難度を上げ下げするというものです。出題される問題が回を重ねるごとに難しくなっていくと,思わずそれが自分の理解不足によるものではないか,といったマイナスの印象を持ってしまいますが,実際は自分のパフォーマンスがよいために,コンピュータがより難しい問題を用意している,といったプラス思考も十分考えられることです。

 また,Step1では最新の分子生物学の知識,医療訴訟を背景に行動医学での患者医師関係,免疫に関する基礎的知識は最近の新傾向と思いますし,Step2CKでは米国の疾患背景を反映する肥満,高血圧,糖尿病,エイズ等に関する問題が,ありとあらゆる角度から数多く出題されているようです。例えばHIV(Human Immunodeficiency Virus)に関してはその粒子構造から生活史に至るまでを,極細レベルつまりは核酸構造や転写因子レベルでその調節を理解し,それをまた他人へ諳んじるほどに精通する必要があります。治療薬剤,合併症に関しても同様です。このようにいわゆる「ヤマ」といわれる出題分野に関しては,米国風に表現すると「Ph.D.をとるがごとく」に最新の知識を含めて細心に勉強しておく必要があります。逆に「ヤマ」でない分野に関しては広く浅い知識で十分に対応できるのも対策の1つです。

 一方,最近のUSMLEの最も大きな変化といえば,臨床実技試験Step2CSの登場ではないでしょうか。1998年から外国人医師を対象に導入されたCSA(Clinical Skills Assessment)は2004年6月からはStep2CSとして様変わりし,合格基準などCSAといくつか異なる点があるようです。周知のように私たち日本人にとって,米国医師免許証を取得するうえで,この臨床実技試験であるStep2CSが最も頭を悩ます点ではないでしょうか。私は導入後早々にこの試験を受験し,無事合格することができましたので,速やかにフィードバックを行い,皆様の準備の役に立つことができればと思います。新試験Step2CSの特徴と対策を私なり紹介するのがこのシリーズでの主な目的です。

 EBMの普及もあってでしょうか,近年は明治維新時よろしく「米国臨床留学」の気運が高まっているように肌で感じます。たくさんの先生が渡米され,立派な経験を積み,ご活躍されています。「米国臨床留学」と題し,数多くの書物やインターネット情報が巷に紹介されています。どれも内容的に素晴らしく,私も幾度となく啓発されました。それらはUSMLE,ERAS(Electric Residency Application Service),NRMP,ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)等の概要,マッチングまでの時間軸などに関し詳細に説明しておりますので,基本確認事項に関してはこれら書物に譲ることとし,本稿では,即物的になるかもしれませんが,網膜上によりリアルなイメージが浮かび上がるよう,できる限り具体的な内容とし,Step2CS対策のtipsをふんだんに盛り込むことができればと思います。

点数はなぜ大事か?

 米国には毎年ほぼ世界中の国々からレジデントを希望して志願者がやってきます。2003年度ではUSMLEの最初の一歩であるStep1の外国人受験者総数が3万人を超えました。彼らの受けた医学教育には実に種々雑多で,臨床実習を受けたことのない者もいれば,英語でのトレーニングを受けたことのない者まで実にさまざまです。そのような多様な志願者の医学教育のレベルを客観的に測るのがこのUSMLEという試験です。日本には「試験の点数で人を評価するなんて」とおっしゃる先生もいましたが,特にコネクションを使わずにレジデントを希望する場合は,前記のような理由によりUSMLEの素点はきわめて重要であると言えます。

 「外国人医師のUSMLE合格率や点数は低い」とはよく言われたことで,私も無言のプレッシャーを受けましたが,それも最近の私たちには当てはまらないように思います。東京海上の西元慶治先生によりますと,2005年度にN Progrmを通じて米国留学をした合格者の平均点はStep1で92percentile,Step2CKでも88percentileということです。日々の研修業務に追われつつも,これだけの点数をとることができるということを示しています。90percentile以上の高得点を取ることは決して困難なことではないのです。私は幸いにもStep1,Step2CKともに上位1-2percentの成績を取ることができ,新規試験のStep2CSも無事一度で合格することができました。コネクションを使わず一般応募し,ハーバード大学,ワシントン大学,ニューヨーク医科大等を含む20以上ものプログラムから面接のオファーがあり,面接後はいくつものプログラムから「内定」の誘いを受けるに至りました。しかし,実際にはそれに至るまでには数々の困難があり,膨大な時間とエネルギーを浪費してしまいました。また,希望してもコネクションがないため,他の米国医学生に混じって一般応募をする必要があり,そのためにはよりよい点数が求められる,いわゆる「とらなければ」という必要に迫られたうえの点数でもありました。ただこのように,外国人医師であってもきちんとした点数をとることができれば,より多くのプログラムからオファーを受けることができ,ひいては自分の選択肢,可能性を広げることができるということを証明するよい機会でもあり,今後に続く先生の励みになればとも思います。

 ただし,試験の点数でその医師としての臨床能力が評価されるとは,プログラムディレクターも決して思ってはいないようで,レジデント選考では「面接」が最も重要な割合を占めています。試験の点数は足きりをパスするだけに過ぎない,としか見なされないプログラムもあるようですが,よい点数は面接に際しその応募者に「後光」を差すのは間違いありません。名刺代わりの「顔」になるのです。時に下手な英語によるマイナス部分を十二分に補います。自分の話す内容に客観的な花を添えます。しかし,われわれ外国人医師は面接時に他者とは違う「+α」の何かを強烈にアピールすることがまたきわめて重要であり,よい点数であっても決して油断をしてはならないことを申し添えます。

卒後研修の1つの選択肢として

 日本でもいよいよマッチングで卒後研修先の決定をする時代になった,と聞きます。米国の研修プログラムも本当にピンからキリまでさまざまで,一概に米国研修が日本のそれと比べてよいとは言えないと思います。よいか悪いかは別として米国研修を希望した際に,それが今までに諸先生がなさった試験準備の苦労と同じ轍をなるべく踏まぬよう,進んでいけたらと思います。皆様が卒後研修の1つの選択肢として国内のプログラムと肩を並べて同格に国外のプログラムを列挙するようになれば,とも思います。皆様がUSMLE Step2CSの最近の傾向を知ることで,的を絞った準備をすることができれば幸いです。

つづく


松尾高司
1999年宮崎医大卒,同年阪大産婦人科入局。
2004年セントルイス大産婦人科研究員を経て,05年より現職。