医学界新聞

 

メタボリックシンドロームの診断基準発表

第102回日本内科学会開催


 第102回日本内科学会が4月7-9日の3日間,松澤佑次会頭(住友病院)のもと,大阪市の大阪国際会議場において開催された。今回のテーマは『医療の源流――「もの」と「こころ」が融合する内科学』とされ,高度の専門分化が進みつつある内科学と,全人的な医療の源流としての内科学の接点を模索する試みがなされた。なお,研修医には無料で参加する機会が与えられた。


 糖尿病や高血圧,高脂血症などの生活習慣病の発症には肥満が大きく関与しており,欧米ではBMI(Body Mass Index)30以上を肥満と判定している。しかし,日本ではBMI基準による高度肥満者が少ないにも関わらず,糖尿病などの発症は欧米に匹敵する。

 このことから,日本人は軽度の肥満に対しても抵抗力が弱いと推定され,最近の研究からは肥満の質,特に内臓脂肪蓄積の程度が重要であることが明らかになってきた。しかも,内臓脂肪蓄積を基盤とした生活習慣病はマルチプルリスクファクター(糖尿病,高脂血症などが一個人に複数併存)としての病態を示し,心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の発症要因となる。

 会頭演説「生活習慣病の分子メカニズム」では,松澤氏が上記のような背景を説明。こうした病態は,日本で「内臓脂肪症候群」として提唱され,世界的には「メタボリックシンドローム」の名称でその診断基準を議論。2004年5月には,英国においてIDH(国際糖尿病連合)などのコンセンサス・カンファレンスが開催され,基準が決定されたと説明した。

内臓脂肪の蓄積に着目 診断にはウエスト周径を採用

 会頭演説の翌日には,「メタボリックシンドローム診断基準検討委員会」(委員長=松澤佑次氏)による記者会見が行われ,日本独自の診断基準が公表された。同委員会は,日本動脈硬化学会,日本糖尿病学会,日本高血圧学会,日本循環器学会,日本腎臓病学会,日本血栓止血学会,日本肥満学会,そして日本内科学会の計8学会からの委員で構成。原則は欧米の診断概念に沿いつつ,日本独自の基準値を設定した。

 診断基準は表のとおり。内臓脂肪蓄積を必須項目とするマーカーとしてウエスト周径が用いられた(「CTスキャンなどで内臓脂肪測定を行うことが望ましい」と注釈が付けられている)。これに加えて,(1)リポ蛋白異常,(2)血圧高値,(3)高血糖の3項目のうち2項目以上に当てはまると,メタボリックシンドロームと診断される。

 メタボリックシンドロームの診断基準
●ウエスト周径
男性85cm以上
女性90cm以上
(これらの値はCTスキャンでも内臓脂肪面積100cm2に相当する)
●上記に加え,以下のうち2項目以上のリスクを有する場合をメタボリックシンドロームと診断。
(1)リポ蛋白異常
高TG血症 150mg/dl以上
低HDL-C血症 40mg/dl未満
のいずれか,または両方
(2)血圧高値
収縮期血圧 130mmHg以上
拡張期血圧 85mmHg以上
のいずれか,または両方
(3)高血糖 
空腹時血糖 110mg/dl以上

新たな疾患概念確立の意義

 これまでの動脈硬化性疾患の予防対策は高コレステロール血症の管理に重点がおかれ,他のリスクファクターに関しても個々に対応されてきた。今回,メタボリックシンドロームという疾患概念を確立することで,キープレーヤーである内臓脂肪蓄積を減少させる意義が明確になるという。血糖や血圧が少し高いだけと放置していた患者に対しては,ウエスト周径を測り,運動を推奨するなどして,効果的な予防対策が期待される。

 また将来は,現状のように糖尿病や高脂血症などの個々の治療薬だけでなく,総合的にマルチプルリスクを軽減させて動脈硬化を防ぐ薬剤の開発も期待される。診断基準の詳細は,日本内科学会雑誌4月号に掲載されている。

■新臨床研修医の進路選択は?

 新臨床研修医の志向は学位よりも専門医資格取得を優先,一方で初期研修終了後は医局に戻る人もかなりいるのでは――。認定内科専門医講演会でのパネルディスカッション「新臨床研修制度により日本の医療制度はどう変わるか」では,司会の天野利男氏(天野内科循環器科)と木原康樹氏(神戸市立中央病院)から新臨床研修医アンケートの結果が発表された。

 アンケートは,内科専門医在籍の臨床研修指定病院589病院(大学附属病院を含む)に対し本年2月に行われ,119病院(研修医総数820名)から回収。学位および専門医取得について聞いたところ,「専門医資格取得を優先」との回答が7割に対し,「学位取得優先」が1割にとどまった。また,初期研修終了後の進路では,入局希望が45%と,大学病院以外の一般市中病院での後期研修を希望する34%を上回った(残り2割は未定と回答)。

初期研修後の内科医育成に言及

 続いて,竹内和男氏(虎の門病院)が登壇。指導医の役割として,受け持ち患者数の調整やカルテ記載の指導をあげ,研修医評価に関しては,部長と指導医のほか,看護師長からの評価も実施していると説明した。市村公一氏(東大先端研)は,医局を離れてキャリアを積むことに不安を感じる研修医が多い事実を説明し,大学病院が後期研修で挽回するには,診療・教育の重視と卒前教育(特に実習)の改革が不可欠であると強調した。盛宮喜氏(日経メディカル)は,開業医の増加傾向,特に大学医局からストレートで開業するケースをあげ,医局員が疲弊しているのではないかと指摘した。

 永井良三氏(東大病院)は,昨年から始めた内科の病棟体制改革(異なる診療科に所属する専門医が混合チームを構成して入院患者をケア)や初期内科研修を紹介。さらに内科専修医制度では,内科の中で専門診療科を決めかねている人も対象にする「内科総合コース」を準備中であると語った。最後は,小林祥泰氏(島根大)が登壇。へき地医療危機の中で始まった島根大医学部の地域枠推薦入試の概略やプライマリケア教育の課題をまとめた。

 その後のディスカッションでは,内科専門医制度のあり方や研究との兼ね合いに関して議論が交わされた。新臨床研修制度の中で,内科医をどう育成するか,今後議論が深まりそうだ。