医学界新聞

 

《シリーズ全4回》
地域医療を守れ!医師確保に向けた取り組み
第 3 回( 寄稿 )
山形県における自治体病院の再編・ネットワーク化
草苅典美 氏
山形県健康福祉部健康福祉企画課長


2625号よりつづく

 医師不足が深刻な地域では,病院が個別に医師確保に取り組むだけでなく,地域の医療提供体制を再編し,効率化を図ることも重要となってくる。

 山形県置賜(おきたま)地域では,県も参加する一部事務組合方式により域内の病院・診療所を再編し,救急機能を強化した基幹病院を新設。さらに既存病院をサテライト化し,自治体病院間の連携を図った結果,病床利用率が大幅に上昇し,住民の満足度も高いという。今回は,その山形県置賜地域の事例を紹介する。


 2004年2月,地域医療に関する関係省庁連絡会議において「へき地を含む地域における医師の確保等の推進について」が取りまとめられました。その中で,自治体病院の再編統合,ネットワーク化などのあり方等についての検討会を設置することとされました。

 山形県においても過去に自治体病院の再編広域化の実績があったことから,「地域医療の確保と自治体病院のあり方等に関する検討会」のメンバーとして,私も参画する機会を与えていただきました。この検討会で報告した山形県での取り組みの状況を中心にご説明します。

地方財政の逼迫と医師不足

 この検討の前提となっている最大の課題は,地方財政の厳しい逼迫状況です。自治体病院は6割を超える団体で赤字に陥っており,その病院事業会計に多大な繰出しをしている地方公共団体本体の財政も,財政の硬直化の進展,借入金残高の増大など危機的状況に瀕しています。将来的な人口減少がこの状況にさらに拍車をかけるものと思われます。加えて,地域における医師不足は深刻の度を極めており,住民に対して満足できる医療の提供が非常に危うい状況となっています。

 小規模自治体が各々慢性的な医師不足を抱えながら同じような機能の病院を個々に赤字経営していくという非効率性は,住民サービスの低下以外の何ものでもないという認識が多くの委員の間にあったと思います。また,道路交通網の整備や医療面での情報化の進展など,各自治体病院が設置された時とは状況が大きく変化しています。

 このような現況を踏まえながら,住民に良質できめ細かな医療を継続的,安定的に提供し,住民サービスの向上を図っていくにはどのような方策をとればよいのかを考えるのが,この検討会の役割であったと認識しています。

自治体病院が再編されるまで

 山形県は4つの二次保健医療圏に分かれていますが,その中で最南部に位置し,3市5町から成るのが置賜二次保健医療圏です。その圏域内の2市2町で経営していた各病院および診療所を再編し,県も参加する一部事務組合方式により,2000年11月に基幹病院として公立置賜総合病院を新設しました。さらに,既存病院等をサテライト医療施設としてネットワーク化を実現しました。

 私もこの自治体病院再編整備の構想づくりに携わりましたが,当時を振り返ってみますと,前記のような自治体病院の経営悪化というよりも,むしろ高度な救急医療機能の整備に対する地元の強い期待が背景にありました。

 当圏域は神奈川県の面積を少し超えるほどの広大な地域で,豪雪地帯でもあるので,特に冬季間において重篤な救急患者を山形市の三次救急医療機関まで搬送するのには大きな困難を伴っていたところです。「山形市では助かる命も置賜地域では助からない」という悲痛の声があがっていました。また,1993年に日本海側の庄内二次保健医療圏に県立日本海病院が新設されたことにより,県立病院が設置されていないのは置賜二次保健医療圏だけという状況になったため,置賜地域にも高度な専門医療機能を備える県立病院を切望する声が高まっていました。

 再編対象の2市2町には3つの自治体病院がありましたが,いずれも老朽化が著しく,経営状況も悪化していました。また,設置母体である各市町自体の財政も非常に厳しい状況にあり,医学・医療技術の高度化や疾病構造の多様化等に対応できるような高度医療機器の導入もままならないという状態にありました。さらに,3病院とも医師が標準数に達しておらず,医師不足に悩まされていました。このような共通課題を抱えながらも,各病院の連携や機能分担など図られないままそれぞれの診療圏を対象とした医療提供が行われていました。

 このような状況を受けて,1993年10月,置賜地域における高度医療機能のあり方を検討するための懇話会を県の音頭で立ち上げ,翌年3月には報告書が取りまとめられました。そこでは,救命救急センターを併設した総合病院の新設と既存医療施設のサテライト化という,置賜地域の新しい高度医療機能の枠組みが提案されました。1994年度には,県と2市2町による財政負担の協議を行いましたが,これに約1年を要し,最終的には知事と各首長との政治的決断で決まりました。その後,1995年11月には一部事務組合が設立され,直ちに基本設計に着手し,2000年11月に新病院のオープン,サテライト方式のスタートとなりました。

再編で病床減少・患者増加

 再編前後の枠組み等は図をご覧いただくこととして,再編の成果について説明させていただきます。

 まず,総病床数は812床から680床へと,16%減少したものの,のべ入院患者数は反対に4.9%増加(1999年度と2002年度の比較,以下同じ)しています。その結果,病床利用率も,再編前は3病院いずれも80%に達していませんでしたが,再編後は,総合病院が93%,サテライト病院が90%前後と大幅に伸びています。のべ外来患者数も7.9%,1日平均外来患者数も5.7%,それぞれ増加しています。経営状況については,総合病院の医業収支比率は年々改善しているものの,同規模の病院と比べて入院・外来とも診療単価が低いように思われます。なお,サテライト病院の医業収支比率も再編前後で改善が図られています。

 常勤医師数に関しては,3病院とも再編前は医療法の標準数を下回っており合計で57名だったのが,29名増加して86名になっています。総合病院に中核的医療機能を集中することにより医師の効果的な配置が可能になったので,一定の医師数を確保することができたのではないかと考えられます。

 また,医師の交流については,サテライト医療施設の常勤医師が担当しない診療科について総合病院から担当医師を派遣する,宿日直医師や出張等の際の代診医を総合病院から派遣する,逆に,技術的支援等のためサテライト医療施設の常勤医師を総合病院に派遣するなどといった交流が行われています。なお,共通診察カードを発行し,患者の利便性を図っています。

アンケートでみる住民満足度

 総合病院は開院後4年を経過しましたが,今回の検討会を機に患者や,総合病院を受診したことのない方を含む地域住民の皆様にアンケート調査を行い,総合病院に対する評価等を検証してみました。

 総合病院が整備されて良かった点としては,大半の患者・地域住民が,快適な療養環境,救命救急センター設置により救急患者にいつでも対応してもらえること,高度医療機器が充実していることをあげています。また,7-8割の患者が,総合病院が整備されたことによって地域の医療水準が向上したと答えています。総合病院が地域の期待に応えているかどうかについては,「応えている」と回答した者は,地域住民については59%に過ぎないものの,外来患者では74%,入院患者では87%と高い割合を示しています。

 「総合病院が整備されて良かった」と回答した者は,外来患者で87%,入院患者で93%,地域住民で74%と,いずれも高い割合となっています。入院・外来とも4分の3が2市2町からの患者となっていますが,その他の地域からの患者を含めて高い評価を受けていることが窺えます。

地域医療のビジョンを 住民と共に考える

 以上のとおり,経営効率が向上したこと,高度救急医療の実現や医師確保が図られたことなど,再編による具体的なメリットは多数あります。また,アンケート調査結果からも明らかなとおり,何よりもこれらを通して住民サービスの向上が実現できたことが最大の成果だと思っています。

 しかし,急性期・高度医療は総合病院で,初期・慢性期医療はサテライト医療施設でという機能分担および連携の構想でありましたが,多様な診療機能を有する総合病院に外来患者が集中し,総合病院が初期医療も担うという現象が生じています。その結果,医師の増加は図られたものの,サテライト医療施設への派遣なども重なり,医師の負担も大きくなっているように感じられます。組合全体として医師確保に引き続き努めるとともに,初期の構想に従い機能分担を一層進めていく必要があると考えています。

 また,当初の計画では,総合病院とサテライト医療施設とを専用の光ファイバーケーブルで結び,電子カルテを導入して医療情報を共有化する構想でしたが,地元の経費負担との兼ね合いもあり,総合病院には電子カルテを導入したものの,サテライト医療施設では依然として紙カルテを使用しています。サテライト医療施設では総合病院の電子カルテを閲覧できるだけという不十分な共有化の現状になっているので,電子カルテシステムの更新時期に合わせて組合全体としての医療情報の共有化をどのように図るべきかを検討する必要があります。

 全病床数に占める自治体病院病床数の比率が全国一高い本県にとって,自治体病院の果たす役割はきわめて大きくなっています。地方財政の厳しい現状,医師確保の困難さなどを考えれば,自治体病院の再編・ネットワーク化の検討は多くの自治体にとって避けて通ることのできない課題でありますが,再編は何よりも住民に対して良質で適切な医療を継続して提供するため,すなわち住民サービスの向上が目的であることを念頭に進める必要があります。

 本県の場合は,県が一部事務組合の構成団体に参画したことにより建設整備費や管理運営費に対して応分の負担をしていることが再編の成功の一因であったとも考えられますが,それにも増して地元の熱い期待と支持がこの事業を成功に導いたのではないかと思っています。これからの自治体病院の再編にあたっては,都道府県の強いリーダーシップと,住民への情報開示を徹底して地域医療のビジョンを共に考えていくという姿勢が肝要ではないかと考えています。本県の事例が皆さまの参考になれば幸いです。

次回につづく


草苅典美氏
1973年山形県庁入庁。山形県環境保健部医薬務課課長補佐,公立置賜総合病院等整備推進室副主幹などを経て,2003年より現職。