医学界新聞

 

医療者・患者への禁煙支援を推進

-第14回日本禁煙医師歯科医師連盟総会・第1回日本禁煙学会開催


 さる2月26-27日,第14回日本禁煙医師歯科医師連盟総会ならびに第1回日本禁煙学会が,作田学会長(杏林大教授)のもと,三鷹市の杏林大学において開催された。2月27日よりFCTC(タバコ規制枠組み条約:2003年にWHO総会において採択)が発効となり,これを受けてわが国の喫煙対策は大きく推進されることが予想される。同連盟会長の大島明氏(大阪府立成人病センター)はあいさつの中で,「FCTCはあくまで枠組み。海外の先行事例を参考にしながら,国内法および対策を構築していきたい」と語った。


 特別講演では,院内における禁煙対策について,院内全面禁煙に成功した2病院の演者が口演を行った。

 杏林大学では昨年4月に病院評価機構の審査に合格し,敷地内が禁煙となった。呉屋朝幸氏(杏林大)はその際職員への意識調査を実施。その結果,院内全面禁煙については肯定的評価が多かったものの,患者・医療者の喫煙を「個人の自由」とする考え方が少なくないことがわかったという。氏は今後患者への禁煙指導を進めていくうえでも,職員に対する根本的な禁煙教育が必要であると述べた。

 内原正勝氏(武蔵野赤十字病院)は,禁煙外来での取り組みを発表。専用のクリニカルパスを作成し,総合内科の医師や看護師が指導にあたっていることを説明した。また,院内全面禁煙になった際に「院内禁煙推進チーム」を結成,患者だけでなく,職員に対しても禁煙外来の受診を積極的に勧めた。

 氏は院内全面禁煙のメリットとして「喫煙患者にとって入院は禁煙のよい機会。医師だけでなくチーム医療で取り組む必要がある」と述べた。

動脈硬化・血栓の原因に

 26日に行われたシンポジウム「喫煙問題 up to date」(座長=作田氏,杏林大・古賀良彦氏)では,各領域の医師によって喫煙のさまざまな健康への影響が述べられた。

 最初に登壇した坂田好美氏(杏林大)は,循環器系に影響を及ぼすタバコの成分としてニコチンと一酸化炭素をあげた。ニコチンには血管収縮や血圧上昇,心筋酸素消費量の増加といった作用があり,また血小板の凝集能を亢進させることから,動脈硬化や血栓形成を促進する。さらに一酸化炭素によってLDLコレステロールの増加や,心収縮力の低下が起こり冠血管障害,末梢血管障害の原因になるという。

 こうしたことを踏まえ,氏は「喫煙は虚血性心疾患,冠動脈疾患発症のリスクを高めるが,禁煙によって冠動脈疾患の予後は改善する」と述べ,禁煙指導の重要性を強調した。

 千葉厚郎氏(杏林大)も喫煙による血小板の凝集能亢進について触れ,脳梗塞発症因子の1つであると述べた。

 また,「脳血栓危険因子指数」を紹介し,コレステロール指数(TC/HDL-Cで計算),高血圧指数(収縮期血圧≧200または拡張期血圧≧110は2ポイント,収縮期血圧≧160または拡張期血圧≧95は1ポイント),糖尿病指数(糖尿病は2ポイント,耐糖能障害は1ポイント),喫煙指数(習慣性喫煙は1ポイント)の4指数を合計し,6ポイント以上であれば「脳血栓のリスクあり」となることを説明。「喫煙の有無が患者にとって運命の分かれ道になることもありうる」と注意を促した。

低ニコチンタバコは安全か?

 現在,2020年における日本人の死亡原因として,COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は第3位,肺がんは第6位になると予測されており,これらの呼吸器疾患は大きな問題となっている。

 武田英紀氏(杏林大)は,喫煙習慣のあるCOPD患者の診療において,最も有効かつ最優先されるべき治療は禁煙であると強調。喫煙は肺がんとも高い関連性があることから「患者の禁煙支援は臨床医の責務」と述べた。

 また,市販されている低ニコチンタバコについて,ブレンドの変更によるニトロサミン類の増加だけでなく,喫煙者が煙をより深く吸う傾向があるので,末梢の細胞が発癌物質にさらされやすくなるといった問題を指摘した。

 続いて登壇した埴岡隆氏(福岡歯大)は,歯科・口腔外科の立場から口演。昨年10月から試験販売がはじまっている「ガムタバコ」について,普通のタバコと違い,口腔粘膜が有害物質に直接高濃度でさらされる可能性があり,舌がんや口腔がん,咽頭がんの発症につながりかねないと指摘した。

 同製品については,これまで日本禁煙医師歯科医師連盟が緊急シンポジウムを開催するなど,その危険性を訴えている。氏は「ガムは食品衛生法の対象であり,成分にニコチンやタバコが含まれている以上,同法によって規制されるべき」と強調した。

 最後に登壇した座長の古賀氏は,喫煙が脳,精神に与える影響について発表。タバコの匂いによって,経時的にα波が減少していくことや,Flicker testの結果でも喫煙により注意力が低下していることが示唆されたという。

 氏は最後に「禁煙指導にはガイドラインやチーム医療でのアプローチが必要である」と述べ,今後の課題とした。