第2626号 2005年3月21日


先進医療と安全性を求めて

第32回日本集中治療医学会開催


 第32回日本集中治療医学会が,さる2月24-26日の3日間にわたり,一色淳会長(東医大麻酔科教授)のもと,京王プラザホテルほかで開催された。今回のテーマは「集中治療における先進医療と安全性を求めて」。本学会は医師部門,看護部門,臨床工学技士部門の3部門からなるが,合同部門も含め熱心な討論が繰り広げられた。本紙では,パネルディスカッション「ICUにおける末期医療のコンセンサス」とシンポジウム「集中治療とリスクマネージメント」について取り上げる。


■ICUにおける末期医療のコンセンサス

 昨年,北海道の病院で無呼吸状態に陥った患者の人工呼吸器を取り外した医師が殺人の疑いで事情聴取される,というショッキングな事件があった。その事件は人工呼吸患者の末期医療のあり方について,臨床的なコンセンサスが公に形成されていれば回避できたはずである。パネルディスカッション「ICUにおける末期医療のコンセンサス」(座長=兵庫医大 丸川征四郎氏,北大 丸藤哲氏)では,「集中治療における末期医療のあり方」に関する学会の指針策定を目標に,座長の試案が示され,それに基づいて議論が行われた。パネリストは木内道祥氏(弁護士),窪田達也氏(自治医大名誉教授),田村富美子氏(聖路加国際病院),土肥修司氏(岐阜大)の4氏。

 これまで学会内で脳死問題にかかわってきた窪田氏は,患者の尊厳(=自己決定権の確立)を前提として,家族への十分な説明と意思確認,患者の治療・介護・看取りへの家族の参加を含め,家族の納得を重視すべきと説いた。学会の倫理委員会委員長の土肥氏は,2月23日の同学会評議員会で承認された「集中治療に携わる医師の倫理綱領」について述べた。その中で,患者・家族の同意については,「集中治療に携わる医師は,自己の意思が治療には反映されにくい患者の状況を考慮し,その治療の継続・変更・中止に関しては,患者あるいはその家族の十分な理解と同意のもとに行う」となっている。土肥氏は倫理機関の創設が必要と述べた。木内氏は法律家の立場から,患者の意思の確認方法について,患者の意思が不明でも家族の同意があれば事実上問題とはなっていないが,法的には家族には代行する権限はなく,あくまでも自己決定権が優先されることを強調した。

具体例について議論

 ディスカッションでは具体的な場面を想定して議論がなされたが,「たとえノートの切れ端に書かれた一文であっても,特に疑わしい部分がない場合,医療者には証拠収集の義務はなく,本人の意思と受け取ってよい」,「家族の言っていることから本人の意思を推定することは可能で,家族の言っていることに不合理な点がなければ,家族を信用してよい」など木内氏はアドバイスした。

 フロアからは具体的な事例について法律家の見解を求める質問が多かったが,倫理綱領を英語にしてホームページで世界に発信すべき,との意見もあった。看護師の立場から,家族の悲嘆ケアをチームで行う必要があるのでは,との意見もあった。

 看護師の田村氏は看護師の役割として倫理委員会あるいは専門委員会などの第三者機関のメンバーに看護師が入ることの重要性を強調した。また,倫理観の育成をはじめとした医療者教育の重要性を指摘した。

 最後に座長の丸川氏は「健康な時に集中治療および終末期医療の現状を十分に理解したうえで,自分の終末期のあり方の意思表示をしておけば,今日のディスカッションの半分は解決済み」,「今後学会として,社会的なシステム作りを提案し,集中治療医が積極的に情報提供していくことで,意思表示の形を作っていければ」と述べ,パネルディスカッションを締めくくった。

■集中治療とリスクマネージメント

 シンポジウム「集中治療とリスクマネージメント」(座長=東医大 石丸新氏,東医大 中野八重美氏)では,安達秀雄氏(自治医大),白石義人氏(浜松医大),中野八重美氏,青木正康氏(埼玉医大),森文史郎氏(杏林大),栗本義彦氏(札幌医大),大江祥氏(札幌医大)が,それぞれの立場から各施設での取り組みについて述べた。

 その後のディスカッションでは,全般的な課題が明らかになった。安達氏はインシデント・アクシデントレポートはたくさん出るが,努力に見合ったフィードバックが難しいと述べた。また,医師部門からのレポートが少ない点についても言及した。白石氏は,医師の業務量は確かに多いが,事が一度起これば,大変な負担につながると述べ,認識を共有することの重要性を説いた。また,リスクマネージャーが固定化することの弊害について触れ,メンバーを入れ替えながら,医師,コメディカル,事務職までをも巻き込んで,認識の共有化を図ることの重要性を強調した。青木氏は強力なトップダウンが成功の鍵としたうえで,現在の問題点として,診療科間の格差が開いてきたことをあげた。また,医師が外科系で多忙な場合,看護師,薬剤師のサポートが不可欠と述べた。

 森氏は,インシデントレポートの分類の違いで,シリンジポンプにつながっている三方活栓の締め忘れが臨床工学室にフィードバックされなかった事例をあげ,まだまだコミュニケーションが不足していると述べた。栗本氏は,大学病院は統一的に動くのがなかなか難しく,井戸端会議的なリラックスした雰囲気を作ることが,インシデントレポートの提出につながると述べた。また,批評,チェックを受けることが改善につながるとした。大江氏は,問題点としてマンパワー不足をあげ,人員確保が急務とした。現場では小さな工夫の積み重ねが業務の省力化につながり,他の業務の見直し,再配分,ひいては危険回避になると述べた。また,知識の共有,コミュニケーションの重要性を強調した。中野氏は,看護師のできる範囲について,看護師の業務,チーム医療の観点からもう一度考えてほしい,と述べた。

 インシデント・アクシデントレポートのフィードバックと改善の評価・確認はいずれの施設でも難しい問題であった。施設内他部署,地域の他施設との相互チェック,第三者機関による評価など,評価の客観性を求める意見が多く聞かれた。マンパワー不足,適正な人員配置も話題に上ったが,人が足りない中で安全性をどう確保していくかは今後の重要な課題である。