第2611号 2004年11月29日


高齢者・合併症患者の降圧目標をより厳しく

高血圧治療ガイドライン4年ぶりの改訂


 高血圧は世界的にみても最も頻度の高い疾患で,心血管に合併症を起こしやすく,その社会的,経済的影響は大きな問題となっている。高齢化社会を迎え,高血圧の予防・早期発見・早期治療はさらに重要性を増しているが,実際には高血圧患者の血圧管理もままならない状況である。

 そんな折,日本高血圧学会は,新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2004:Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension 2004)を発表した。このガイドラインは,同学会が2000年に発表した日本初の高血圧治療ガイドライン(JSH2000)を改訂したもの。本紙では改訂のポイントを解説する。


ガイドライン改訂の背景

 2000年の高血圧治療ガイドライン(JSH2000)発表以降,欧米でALLHAT1)のような大規模臨床試験の結果が報告され,また米国のガイドライン(JNC2)7),ヨーロッパのガイドライン(ESH/ESC3)2003),さらにはWHO/ISH4)のステートメントといった世界の代表的ガイドラインの改訂・発表が相次いだ。また,日本でも新しい治療薬の開発や多くの研究結果が報告されている。

 今回改訂されたJSH2004では,特に日本人を対象とした高血圧関連の論文を重視し,日本人特有の心血管合併症の予防や治療に配慮している。また,血圧の日内変動を考慮し,家庭血圧の臨床的応用,実用的な降圧薬の選択もめざしている。

JSH2004の特徴と改訂ポイント

 今回発表されたJSH2004の特徴と主な改訂ポイントは,以下のとおり。

1)より厳重な降圧を治療目標に
初診時の治療計画がより厳重になり,初診時に正常高値血圧(収縮期130-139mmHgまたは拡張期85-89mmHg)でも糖尿病や腎疾患がある場合は適応となる降圧薬の投与が推奨され,またリスク別に定められていた生活習慣の修正による観察期間が短縮された(低リスク群:6か月後に140/90mmHg以上なら降圧薬投与⇒3か月後に変更。中等リスク群:3か月後に140/90mmHg以上なら降圧薬投与⇒1か月後に変更)。
糖尿病あるいは慢性腎疾患を合併する場合の降圧目標値が,収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg(130/80mmHg)に引き下げられた(JSH2000では130/85mmHg)。
高齢者に対しては年齢別降圧目標値を廃止し,65歳以上は最終的に140/90mmHg未満を目指すよう,降圧目標値が設定された。ただし,慎重な降圧が求められている(JSH2000では,60歳代:140/90mmHg 70歳代:150-160/90mmHg 80歳代:160-170mmHg)。
若年・中年者に対する降圧目標は130/85mmHgと変更なし。

2)24時間にわたる降圧の重要性を強調
外来で発見が難しい逆白衣高血圧(仮面高血圧)と早朝高血圧は,脳心血管イベントを増大させるリスクが高いことが明らかとなり,その対策として24時間にわたる降圧の重要性が強調された。治療上の対策として,長時間作用薬や朝と就寝前の分割服用,α遮断薬,交感神経抑制薬の使用が推奨されている。
家庭血圧の測定値が135/85mmHg以上の場合高血圧とする(JSH2000では135/80mmHg)。

3)カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬),レニン・アンジオテンシン系抑制薬を中心にした併用療法を推奨
合併症がない場合に第一次薬として処方する薬剤である「主要降圧薬」を,Ca拮抗薬,AII受容体拮抗薬(ARB),ACE阻害薬,利尿薬,β遮断薬,α遮断薬の6剤とし,患者の病態に最も適した薬剤を選ぶことを推奨(JSH2000と変更なし)。厳重な降圧を達成するため,Ca拮抗薬,レニン・アンジオテンシン系抑制薬(ARB,ACE阻害薬)などを中心とした併用療法が推奨された。

4)利尿薬の適切な使用を記載
利尿薬を含まない2剤の併用で降圧が不十分な場合には,利尿薬を追加することが明記された。

5)生活習慣修正の重要性を強調
生活習慣の修正項目のうち,食塩制限が6g/日未満と,制限がより強化された(JSH2000では7g/日以下)。また,修正項目として野菜・果物の積極的摂取を追加,適正体重の算出方法の変更など,生活習慣の修正の重要性が強調された。

 なお,今回のガイドラインでは成人における血圧の分類はJSH2000と同様に設定され,変更はなかった(表)。

 成人における血圧の分類
分類 収縮期血圧 拡張期血圧
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ <85
正常高値血圧 130-139 または 85-89
軽症高血圧 140-159 または 90-99
中等症高血圧 160-179 または 100-109
重症高血圧 ≧180 または ≧110
収縮期高血圧 ≧140 かつ <90


(資料:大規模スタディとガイドライン)
1)ALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial):NIH(米国国立衛生研究所)主催で行われた高血圧の大規模臨床試験。冠動脈疾患のリスクを持つ55歳以上の高血圧の患者約4万2000人を対象にし,利尿薬を基準とし,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,α遮断薬の脳心血管イベント抑制効果を検討した。
2)JNC:米国合同委員会(Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure)。2003年に高血圧治療ガイドラインの第7次報告書を発表。
3)ESH/ESC:ESH(ヨーロッパ高血圧学会)とESC(ヨーロッパ心臓病学会)。2003年に合同で高血圧管理ガイドラインを初めて発表。
4)WHO/ISH:WHO(世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)。共同で血圧管理のガイドラインを提唱している。最新版は1999年に発表された。